キョート城内大広間。カラテ勉強会の為に特別に貸し切られた室内では大勢のニンジャがアグラ・メディテーション姿勢を取って瞑想しながら深呼吸している。
大勢のニンジャのニンジャ肺活量をフルに使った深呼吸による酸欠事故を防止する為、ファンやエアコンをフル稼働させて換気する音がインストラクションを邪魔しない程度の音量で大広間に響いていた。
「はーい、吸ってー吐いてー……全身の血管を流れるカラテを感じてー……血中カラテの感覚がわからない人は……もういないみたいですね、次に移りまーす……」
大広間のスピーカーからはドローカットの声が響く。インストラクションを受けるニンジャ達は皆、全身を血液と共に流れるカラテをしっかり認識出来ているようだ。
「利き腕を目の前に持っていったら、人差し指を立ててくださーい……できましたねー……全身を流れるカラテを人差し指に留めてくださーい……血液は留めずにカラテだけを留めるんですよー……」
ドローカットが人差し指を立てる。ニンジャ達も指示に従って一斉に人差し指を立てた。皆、一様にコツを掴んだか既に知っているらしく、カラテの集束に手間取っているニンジャは一人もいない。
「良いですねー……では、立てた指の先に配布したお手元の白紙を載せてくださーい……」
ドローカットが立てた人差し指に紙を載せると、自重で穴が空き、スルリと指の付け根まで落ちた。会場内がどよめく。ニンジャ達も真似をすると、乗せた紙に穴が空き、スルリと指の付け根まで落ちる。会場のニンジャ達はあっさりと出来た事に驚いた。
「このように、カラテを高めたり、集めたりして出来ると確信すれば全身のどこでも刃物にできます。これがハクチョウ・カラテの基礎となります」
「では、あの動きは一体何だったのですか!?」
ドローカットの言葉に受講者の一人が思わず叫ぶ。彼らからすれば盲点だった技術をインストラクションされたのはありがたいが、これは望んでいた雅なカラテモーションではない。
「あれは、全身を刃物にするという事でイアイドーの術理をカラテに組み込もうとして試行錯誤した結果です。色々試して斬撃メインで考えた結果、バレエの動きが混ざりました。突きや蹴りメインだったり、体格の都合が加わればまた別の型になるでしょうね」
場内が「おお」とどよめく。白鳥を思わせる動きを活かす為の技術かと思ったら、刃物と化した全身を活かし切ろうとした末に行き着いた形がこれだったのだ。
彼らからすれば、塗り絵を想定していたら真っ白なキャンバスを渡されたような心持ちである。自身が型に囚われていた事を突き付けられたかのように感じていた。
「どのように活かすかは各々変わってくる筈です。皆様のカラテに是非とも活かして下さい」
一時間にも満たないインストラクションだったが、誰一人脱落者を出さず、勉強会は拍手の中終了した。
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「と、いう事が接待役に戻る前にありましてね。私、アプレンティスなのにセンセイと呼ばれるようになっちゃったでヤンス」
「それは当然でしょう。要訣を短期間でわかりやすくインストラクションできる時点でメンター扱いされるのは当たり前です」
ホウリュウ・テンプルの地下。囚われのユカノ……ドラゴン・ニンジャは接待役にして協力者のドローカットことクチュリエールと世間話に興じている。
クチュリエールからインストラクションされたチャドー呼吸と、彼女がうっかり出してしまったサクラ・エンハンスメント・ジツを見てドラゴン・ニンジャとしての記憶を取り戻したユカノはその経緯もあってクチュリエールと談笑する程の仲になっていた。
「しかし……惜しいですね」
「どうしたでヤンスか?」
「ニンジャソウル憑依者でなければ、貴方は既にリアルニンジャになっていてもおかしくないのです。ニンジャソウルが憑依してなければ、メンキョ等の必要な条件を満たしていないとわかっていても惜しい物を感じてしまいますね」
ユカノはガチガチに固まったシンカンセン・ヤバイ・カタイアイスに熱々のコーヒーを少し注ぎ、アフォガートにしてコーヒーとアイスが溶けて混ざった後、再び固まった部分をスプーンで掬って食べた。
シンカンセン・ヤバイカタイアイスとコーヒーはクチュリエールがこっそり持ち込んだ物!この行いはソウカイヤ系列のチョッコビンだけで売られているアイスをザイバツ本拠地でコーヒーと共に食べる挑発的行為!スゴイ・シツレイ!しかし、それを咎めるザイバツニンジャはここにいない!
「それなら、ニンジャソウルを抜けばアッシはリアルニンジャになるって事でヤンスか?」
「そうですね」
クチュリエールもシンカンセン・ヤバイカタイアイスをアフォガートにして一口掬って食べた。
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鬼瓦や金のドラゴンをあしらった瓦屋根が特徴的なそのビルディングだけが、まるで遠く離れたネオサイタマから切り取られてきたかのように、この奥ゆかしいキョートで強く主張している。あれがマグロアンドドラゴン社だ。
本当ならば、ニンジャスレイヤーは今すぐにでも赤黒のニンジャ装束をあらわにし、人々の行き交う道路上ではなく、建物の屋根から屋根を蹴り渡って目的地に急行したいところだった。
だがそれをすればすぐにザイバツ・シャドーギルドのニンジャに動きを捉えられ、余分なイクサを呼び込むことになる。このままこうして雑踏に紛れながら進むほかない。
発見したニンジャ惨殺体の遺留物の解析には時間を要した。得られた情報はクリティカルなものだった。デスドレイン、そして、ランペイジ。
ザイバツに属さぬ二人のニンジャが、このアラクサマ市街区に乗り込み、マグロアンドドラゴン社屋を破壊し、内外の市民を無差別に殺戮するのだという。
実際それは無軌道かつ残虐非道なテロ行為であり、キョートを私するザイバツにとっても看過しがたい行いと思われた。
しかし、死んだニンジャの奥歯ブラックボックスに残された交渉記録は、にわかに信じがたい内容を伝えてきた。ザイバツはこの破壊行為を敢えて見過ごすのだという。
ドラゴン・ニンジャとしての記憶を取り戻したユカノの知識とクチュリエールが収集した情報から推測されるザイバツの目的〝キョート・ヘル・オン・アース〟。ガイオン中のモータルを殺して生贄とし、ヌンジャであるカツ・ワンソーが潜むキンカクをこじ開ける儀式であるという。
これが正しければ、無差別テロで死ぬ数を考慮しても生贄には十分な数のモータルが集まったという事だろう。
胸騒ぎの原因はもうひとつあった。ニンジャスレイヤーはかつてのランペイジを知っている。刑務所「ザシキ・ダンジョン」で同室となったゼンダという男。
彼と次に相まみえたのはガイオン最下層、地下遺跡の最奥であった。その時既に、ゼンダはニンジャとなっていた。ランペイジというニンジャに。
フジキドはゼンダの破壊意志を最初の邂逅時から見抜いていた。だが、咎めなかった。復讐者である彼にはゼンダを咎める資格がないと考えたのだ。
而して、ゼンダはニンジャとなった。市民を虐殺する存在になったのだ。早晩、マグロアンドドラゴン社がその破壊意志の向かう先となることは自明であった。
これはフジキドの責任であろうか? だが一体その責任とは何なのか? 今やゼンダはニンジャスレイヤーが殺すべきニンジャである。
殺すべきニンジャ……そうした存在が続々と生み出され続けるとすれば、ニンジャスレイヤーの復讐とは、そも、何であろう。彼は懊悩していた。しかし立ち止まるわけにはいかなかった。賽は投げられたのだ。
勉強会の後、受講したニンジャ達の間で「何本目に死ぬかな」とモータルや敵ニンジャの身体を指でプスプス刺し、ショウジ戸めいて穴を開ける拷問が流行りました。