「おう、おう、おう」
アラクサマ市街区、マグロアンドドラゴン社屋ビル前。デスドレインが猫背になり、前方の人だかりに手をかざした。
「なンか、おっぱじまってンの?」
「そのようだな」
「そのようだな、じゃねェーッての!」
デスドレインは首を曲げてランペイジを見た。
「つまンねぇじゃねえかよ、これじゃあよ」
「……やる、だけだ」
「やる、か」
デスドレインが恍惚じみて笑った。
「いいじゃねえか、いいじゃねえか。それでこそランペイジよ。そンなら、イイ。お前はどうするアズール!」
少女は無感情な目でデスドレインを見返す。この娘は決して逃げない。暮らす中で徐々にそれがはっきりした。今はもう首輪はつけていない。
「お前、留守番か? 来るかァ?」
「行く」
「へへへ!」
アッパーガイオンの街並みに、この三人は異様に過ぎる。鉄輪と革のベルトが縦横に交差する拘束着めいた服、フードを目深に被った瘦せの男。隣に立つのは金属の覆面で顔全面を覆い、筋肉質の上半身をさらけ出した男。腕はサイバネティクス……狂ったサイズの。そして少女。袖を毟り取ったドレス。
「オゲェーッ」
デスドレインが汚らしくゲップした。人だかりの先にあるのは目的のマグロアンドドラゴン社屋ビルだ。三人は排水施設を遡るようにしてアッパーガイオンへ出た。ランペイジはこの地域には土地勘がある。到着に時間はかからなかった。
「タリィなァー、あれ」
銃声。そして窓ガラスが割れる音。
「アイエエエエ!」
「アイエエエエ!」
人だかりがてんでに悲鳴をあげた。
「御用! 御用!」
三人の前方の脇道からケビーシ・ワゴンが現れ、ハッチバックを開いてケビーシ達を吐き出した。彼らは手に手に武器を構え、人だかりを押しのけるようにマグロアンドドラゴン社屋ビルへ向かって行く。デスドレインは欠伸した。
「御用! 御用!」
「イヤーッ!」
KRAAAASH! デスドレインの背後、カラテ・シャウト、そして破砕音。 デスドレインは振り返り、腹を抱えて爆笑した。
「バハハハハハ!」
ランペイジが後方から走ってきた別のケビーシ・ワゴンに、いきなり振り向きざまのパンチを叩き込んだのだ。圧縮されたスクラップが軋みながら滑って行く! 乗り手は悲鳴をあげる間もなく全員死亡! 人だかりの何人かがたまたま振り向いてそれを目撃し、悲鳴を上げて失禁した。
「アイエエエエエ!?」
「……やるかァ」
デスドレインが両手を前に突き出した。人だかりが空へ跳ね飛んだ。黒い液体が間欠泉めいて市民の足元から噴き上がったのだ。
「アバーッ! アババーッ!?」
宙へ飛ばされた十人弱はそのまま触手めいて地面から生えた暗黒物質に絡め取られ、もがき苦しんだ。最前列で社屋側に盾を構えていたケビーシ・ガード達が悲鳴に後方を振り返り、呆然とした。
「……ナンデ?」
「何だ……?」
「上だ、上」
ナムサン……ケビーシ達が上を向いた先で、それは暗黒の植物めいて、身動きの取れぬ市民の口をこじ開け、体内へ潜り込み、次々に内部から破裂させた!
「「「アバーッ!」」」
ケビーシ達の頭上から血と肉が降り注ぐ!
「イヤーッ!」
KRAAAASHHH! ランペイジが飛び出し、前方にあったもう一台のワゴンを殴る! 圧縮粉砕! ワゴンは潰れながらケビーシ達のもとへ吹き飛び、質量によって彼らを圧殺した。
「「「アバーッ!?」」」
ナムアミダブツ! 状況を理解できぬまま散り散りに逃げようとする人々めがけ、頭上の暗黒物質群が重々しい殺戮のフートンと化して覆いかぶさる!
「「「アバーッ!?」」」
「たまんねえ! たまんなくなってきたぜ! ヘヘヘハハハハ!」
デスドレインが哄笑する。
「女ァ! 女いねえの? 女を犯して殺して犯してェよ! 生きてる女いねェの?」
彼は死体を蹴飛ばし、フラフラとカフェテリアの中へ入っていく。ランペイジをふと見た。
「なァ、最初からこうすりゃよかったンだ! これでイイじゃねえか! やっぱりよォ?」
鉄仮面がデスドレインを向いた。このストリートには彼ら以外、生きている者が無い。一瞬の静寂。
「行っていろ。先に」
ランペイジがくぐもった声で答え、隣の建物に向き直る。
「ヘッ! 壊したがりかァ? つれねえンだ! へへへ! 来いアズール!」
少女が血と泥に汚れたスニーカーで死体を踏み分け、駆けてくる。
「イヤーッ!」
二人が入ってゆくマグロアンドドラゴン社屋を横目に、ランペイジは赤レンガ造りの銀行建物の角を殴りつけた。KRAAAASH! さらに一撃。KRAAAASH! 三階の窓のブラインドが開き、震動に慌てた市民が下を見下ろし、目を剝いて、どうやらガラス越しに悲鳴を上げた様子だ。
「イヤーッ!」
KRAAAAAASH! 決定的な崩壊! 衝撃が建物を這い登り、土煙と共に沈み始める!
「ア、アイエエエエ!?」
出口近くにいたとおぼしき中年夫婦が路上へ飛び出そうとする。
「イヤーッ!」
ランペイジは立ちはだかり、拳を叩き込んだ。悲鳴すら無く、二人は消し飛んだ。
「イヤーッ!」
隣接するセピア色の建築物に巨腕を叩きつけ、殴りつけ、さらに殴りつける。
「イヤーッ!」
踏み込み、さらに殴る。
「イヤーッ!」
「アイエエエエ!」
更に殴る! 建物の中から声が漏れ聞こえるが、逃げられはしない。
「イヤーッ!」
KRAAAAAAASH! この建物もやはり粉塵に飲まれ、崩れ落ちてゆく。
「アイエエエエ!」
向かいの建物から、更にその隣の建物から、潜み隠れていた人々が溢れるように現れ、逃げ出そうとする。隠れていれば建物ごと殺されると知ったからだ。
「イヤーッ!」
ランペイジは逃げ遅れてうつ伏せに倒れた男に巨腕を振り下ろし、染みに変えると、手近の建物めがけ両腕の機構を稼働させて跳んだ。
「イヤーッ!」
KRAAAASH! 跳躍の勢いを乗せて叩きつけられた両拳は一撃で建物を身体ごと貫通させて通り抜け、これもまた崩壊させて粉塵に変えた。
BOOOOOM! 消火栓が破砕し、四方八方に水が噴き出して、埃と血を吹き飛ばす。KABOOOOOM! 崩落の中でガスに引火したスキヤキ・レストランの建物が爆発炎上する。やがてランペイジは向き直った。市役所の方角だ。当然、その途中には遮る建物群が……
「イヤーッ!」
KRAAAASH!KRAAAASH!KRAAAASH!邪悪なる巨腕ニンジャは障害物となる建物を機構を全力稼働させ、拳で建物を纏めてなぎ倒しながら砲弾のように突き進んだ。
上空からアラクサマを俯瞰する者がいれば、轟音と共に直線上の建物が崩壊し、入道雲めいた粉塵が何本も立ち昇る破壊の直線路が市役所に向かって伸びてゆく惨状に慄いたことだろう。
やがて、建物群を斜めに破壊貫通して新たな交差点に抜け出たランペイジは、仰天して散り散りになってゆく市民たちに混ざらずに立つ男……交差点の中央で仁王立ちとなったトレンチコートの男を見た。
男はその場でコートを脱ぎ捨て、ハンチング帽を捨てた。そこには赤黒の装束に身を包んだ禍々しいニンジャが立っていた。
「ドーモ。ランペイジ=サン。ニンジャスレイヤーです」
赤黒のニンジャのメンポのレリーフ「忍」「殺」が鈍く光った。
「止めに来たか」
「そうだ。殺して止める」
ランペイジの呟きにニンジャスレイヤーは即答した。彼の目には静かに澄んだ憤怒が、殺意があった。ナラクの怒り、そしてフジキドの激しい怒りが瞳に満ちていた。
━━━
「なあ、他の奴らと連絡をとっていたりするのか?」
「いや」
マコの問いにフジオは首を振った。
「誰が生き延びたかも知らん。もとより、おれ以外の全員が死んだものと考えるようにしていた」
「そうか……そうだよな……そりゃ色々あったよな? あれから」
「色々な」
フジオは無機質な笑みを浮かべた。
「お待たせしました」
ウエイターの声。マッチャと、オーゾニ。オーゾニの椀は二つ。
「今朝なにも食べていないんでな」
「随分食べるじゃないか……」
「ひとつは君のぶんだ、マコ=サン……ひどい顔をしている」
「どこまで知っている。おれの事。畜生」
マコは震えた。
「フジオ……こんな時にまさかお前が生きて現れるなんてさァ……」
「気持ちはわかるさ。驚いたのは、おれも同じだよ」
フジオは無感情に言い、オーゾニを一口食べた。
「思い出というのは、普段、自分が考えているより重いものだな」
「はぐらかさないでくれよ、俺は……」
「組織に使い捨てられる、のだろ」
フジオが遮った。
「既に調べてある。とにかく。君がここで銃を乱射する騒ぎに乗じて、実行部隊が空から屋上へ降下するのだろう? 今説明した通り、君は万にひとつも生き残れはしない」
フジオの目が輝く。
「……ニンジャでもなければ。だから、やめておけ」
「ニンジャ? ……正直、どうすりゃいいかわからなくなって……まだ実行まで一時間もあるんだ。失敗したらいけないからさ……余裕を持とうと考えて」
「とにかくオーゾニを食べればいい」
フジオの言葉を受けてマコは溜息を吐き、箸を取った。二人の会話はすぐに、気のおけない仲間同士のそれになった。
「君ができる事といえば、オーゾニを食べて、静かにここを出る事だ。そしてガイオンを出て、どこへなりと消える」
「できやしないさ、俺が組織から逃げおおせたとしても……それじゃ俺の大切な人達はおしまいさ。……お互い、捨てられないものが色々出来ちまってるだろ……長い間にさ……」
フジオはマコをじっと見た。
「……成る程な」
「そうさ……どこで間違っちまったんだか」
マコがオーゾニの汁を飲む。
「列車に忍び込んでキョートに来てから、あっという間だな……あっという間に、こんなだ。それこそ色々やってみたが、うまくいかねえんだ。お前は、やっぱり違うよ。フジオ」
マコはフジオの身なりを見、寂しそうに、だが心から笑った。
「あの忌々しい『宮殿』でも、お前は一番頭が良かったからな。信じてたところはあるよ、お世辞じゃないさ……俺は嬉しいぜ。うまくやっているやつがいてよ」
「うまくやっている、か」
フジオはぎこちなく笑い返した。
「そうだな」
フジオは天井を仰いだ。
「このビルの三階から上は全て、マグロアンドドラゴン社の本社社屋だ。君の組織は社長の誘拐でもやらかす気か?」
「まあ、そんなところだよ……カネさ。今までにも色々やってきた」
「くだらん事を考えたものだ」
「ああ」
とても、チャを飲みながら世間話めいて話す内容ではない。
「もう一度言う。君の人生には先が無い」
フジオは言い切った。マコは無言だ。フジオは続ける。
「だが、運命に石を投げてみる事はできるかも知れん」
━━━
アラクサマ市街区にある、とあるビルの中程にある喫茶店。窓からはアッパーガイオンの建造物規制を免れたマグロアンドドラゴン社の社屋である高層ビルが上から下まで一望できる。
テーブル席ではシャドウウィーヴはコーヒーを、ドローカットはケモソーダを飲んでいた。
「なぁ、ドローカット=サン……身体は本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。あの後メディカルチェックも受けたし、健康だってドクターのお墨付きも貰ったからね」
シャドウウィーヴが神妙な顔で問いかけると、ドローカットは笑って答えた。
「なぁ……なんで、あんな死にかねない事をやったんだ?」
「……?ドラゴン・ニンジャ=サンのお墨付きだよ?大丈夫、大丈夫」
シャドウウィーヴは頭を抱えた。ドローカットことクチュリエール……彼女がザイバツから指名手配されている所以の一端はこういう謎に思い切りが良すぎる所にもあるのだろう。笑う彼女の姿に頭が痛くなった。
ドローカットは再びケモソーダを飲み始める。
BEEP!BEEP!BEEP!
唐突に二人の懐のIRC通信機から救援信号の受信音だ!ドローカットは驚き、咽て咳き込んだ。シャドウウィーヴはそんな彼女の背中を叩いて落ち着かせた。
━━━
アラクサマ市街区。等間隔に設置された五重塔の一つに銃声が響く。
「サヨナラ!」
ニンジャは爆発四散した。なお、その名をフロッガーという。この出口なきサーバ施設に奴隷エンジニア達を拘束、違法栄養点滴によって酷使していたサディストの最期であった。
「アイエエエ……」
奴隷エンジニアの一人が恐る恐る声をかけた。
「帰っていいですか」
「ああ、いいよ」
「お前らに用は無……いや、待て。その前に解除キー、もらえるか」
「ヨ、ヨロコンデー!」
奴隷エンジニアは自分のデッキから解除キーを引き抜き、ガンドーに手渡した。解除キーには八桁のダイヤルが埋め込まれており、リアルタイムでその数字を変え続けている。
ガンドーは解除キーを挿し込み、キーボードをヒットした。
キャバァーン! キー解除音が薄暗いUNIX施設内に鳴り響いた。他にも数人の奴隷エンジニアがおり、光と音に身じろぎした。
「死ねば次」「罪がある」「働き次第」といった禍々しい文言のショドーが壁や天井に貼られており、ガンドーの顔をしかめさせる。 ガイオン地表に等間隔で建つ五重塔は、単なる景観目的の飾りではない。
それらの中には、ドージョー、データセンター、ダンゴ工場、織物工場といった産業施設テナントがあり、中には、こうして表面を奥ゆかしく偽装された違法施設すらも紛れている。
幽閉エンジニアの解放は実際善行であるが、残念ながら、それは今回の主目的ではなかった。ガンドーはキーをタイプし、UNIXモニタに流れる文字列を見守る。
確かに、他のザイバツ施設と比べてセキュリティがおざなりだ。内通者の一人、ディプロマットから信用の証として提供された情報は正確だった。それが罠であるとすれば余りにも回りくどく、ギルドの不利益も大きい。ディプロマットは信頼に足る存在と言えよう。
ピピカカ。UNIXが音を立てた。「階層下る」の表示。
「重点!」
モーターチイサイが飛び出し、UNIXデッキの周囲を飛行する。ガンドーはデッキとモーターチイサイを手際よくLAN直結した。
「ヌンヌンヌンヌン……」
モーターチイサイがシーク音を鳴らし、赤いライトを点滅させ始めた。
ガンドーはガイオン地表の街並みを見下ろす。壮麗な建築物の数々、地域ごとに厳しく高度を制限されたビルディング。ただ一つの例外はマグロアンドドラゴン社屋ビルとその周辺区域だ。
暗黒メガコーポはなんらかのデタラメを通し、規制を逃れた。今回、ニンジャスレイヤーは聞き捨てならぬ殺戮行為の兆しを知り、今まさにあの摩天楼を目指している。 うまくない時に、うまくない出来事が起こる。
現在、ザイバツ・シャドーギルドの根城であるキョート城攻略計画の仕込みは大詰めを迎えている。ここへ来ての無駄な騒ぎは避けたいところだが、もしあの電子記録に残された通りの事がこれから起こるとすれば。
ガンドーは窓から視線を外し、UNIX進捗を確認しかけた。それからまた窓を振り返った。彼は眉をしかめ、覆面マフラーを目のすぐ下まで引き上げた。
カラス・ニンジャ由来の極めて鋭いニンジャ視力は、大通りをゆく人の流れに生じた乱れを、砂塵らしきものを、そして、黒くのたうつ粘質の波を見分けた。虐殺を。
「始まったのか……!」
キャバァーン! UNIXが再びジングルを鳴らした。
「記録データ取得な!」
モーターチイサイが告げた。ガンドーのニンジャ第六感は今すぐにでもこの場を離れるよう警告していた。彼はモーターチイサイをUNIXからむしり取ると、懐にしまい、奴隷部屋から飛び出して階段へ向かおうとした。
そして思い直し、踵を返し、窓ガラスを破壊、窓枠から身を乗り出した。ままよ!
「イヤーッ!」
その瞬間、五重塔は爆発した。KABOOOOM!
「グワーッ!」
ガンドーは爆発の衝撃によって吹き飛ばされ、下の建物の瓦屋根に受け身を取りそこねた。
「ゲホーッ!」
苦悶する彼は上空を旋回する黒い影を見上げた。大きな鳥?否、有翼のニンジャ存在が大空を横切り、ガンドーを見下ろしていた。その手には不穏なボウガンがある。 ガンドーは理解する。あのボウガンで五重の塔に炸裂グレネード弾を撃ち込んだのだ!
「オイオイオイ、救援に応えるのが早すぎるだろ」
ガンドーは身を起こした。
「一服する時間ぐらい、くれてもいいんだぜ」
BLAM! BLAMBLAM! 両手の49マグナムが上空で円を描く有翼のニンジャを狙うが、トリッキーな飛行によって平然と回避されてしまう。ガンドーは五重塔の四角錐の屋根のカワラを踏みしめ、襲撃ニンジャを牽制する。
有翼のニンジャはボウガンを腰に納める。少し戸惑ったように見えた。 カーン! 独特の射出音が唸り、あやうく身を翻したガンドーの目と鼻の先を、奇怪なスリケンが行き過ぎる。数十メートル離れた別の五重塔から別のニンジャが放つスリケンだ。ガンドーの視界に光る輪が焼きつき、遠方のニンジャを示した。ガンドーは撃ち返す。BLAM!
「グワーッ!?」
彼のニンジャ聴力は苦悶の呻きを確かに拾った。
「ブルズアイ!俺をナメ過ぎたんじゃないかね……」
ガンドーが頭上を見上げると有翼のニンジャが急降下!
「おっと、こっちもジゴクか! イヤーッ!」
急降下してくる有翼のニンジャめがけ、回し蹴りを繰り出す。蹴りと蹴りがカチ合う! 有翼のニンジャは二度蹴りを打ち、その反動で再び空へ飛び上がった。ホバリングめいて羽ばたきながら、ニンジャはオジギを繰り出した。
「ドーモ。アイボリーイーグルです。タカギ・ガンドー……いや、ディテクティブ=サン……お前の事はドローカットから聞いている。こういう事をやるなら、もっとスマートにやってくれ」
「ドーモ。ディテクティヴです。……その、なんだ……すまなかったな」
ガンドーは気まずそうにオジギを返す。
「強く当たったら後は流れでいく。死んでくれるなよ」
「お手柔らかに頼むぜ」
アイボリーイーグルの発言にガンドーは二丁拳銃を構えた。
━━━
「俺は、おっぱじめるぜ。最後に思いがけない人間と会えた。ブッダに感謝だ。行け」
だが、フジオは首を振った。
「断る」
「お前ッ……いい加減にしろよ!」
「手伝ってやると言うのさ」
フジオは無雑作に言った。そして彼はマコの目をじっと見、微笑した。
「さっき『ニンジャでもなければ』と言ったが……幸い、おれはニンジャだ」
彼はフォークを手に取った。
「始めるか?」
「え……何て言った」
「おれは保身の男だ」
フジオはフォークを弄びながら言った。
「保身……?」
マコはおうむ返しに言ったが、フジオは頷いただけだ。マグロアンドドラゴン社は現在、ギルドの庇護下に無い。この会社は成長に驕り、色々とやらかしたのだ。ゆえにザイバツ・ニンジャの出動はすぐには無い……すぐには。
だが、遅かれ早かれ、ガイオン治安維持の名目で、ザイバツからニンジャが放たれる可能性は十分にある。それをわからぬダークニンジャではない。……もし、そうなれば、どうする? どう切り抜ける? 今の彼に確かな考えなど無かった。だが彼は笑っていた。
「マコ=サン。思い出さないか、あの時を」
「ああ……ああ、思い出すぜ、畜生」
「だろ」
「あの脱走も、へへへ、後先考えなかったンだもんな」
マコはフジオを見返し、汗を拭った。強いて笑い、紙袋に手を突っ込んだ。中の銃を握った。
「お前には参ったよ、急に現れやがってさ……」
「おれも同感だよ」
フジオは頷いた。そして立ち上がった。 マコが紙袋から拳銃を取り出し、天井へ向ける。
「ウオオオーッ!」
BLAM! BLAM! BLAM!
「アイエエエエ狂人!?」
「アイエエエエ!」
「ナンデ!? 銃撃ナンデ!?」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
巡回白服の鎖骨のあたりにフォークが深々と突き刺さった。フジオが投げたフォークだ。 苦悶する巡回白服の手には、見立て通りサブマシンガンがある!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
稲妻めいて飛びかかったフジオの蹴りが白服のアゴを割る! 白服が取り落としたサブマシンガンをフジオはそのまま摑み、カウンターでショットガンを構えたバーテンダーの肩と腕を銃撃した。TATATAT!
「グワーッ!」
「ウ、ウオオオー! ウオオオー!」
BLAMBLAMBLAM! マコがむやみやたらに引き金を引きまくる。花瓶や陶製マネキネコが爆ぜ、「接待」とショドーされた額縁が傾く。
ビュッフェ横の店員が、隠し持っていたオートマチック拳銃を構えようとしたが、フジオがその腕を捻じりあげ、さらに首筋に一撃入れて昏倒させた。 店内に警報音が鳴り響き、客はテーブルや椅子を倒しながら逃げ惑う。
フジオも天井めがけサブマシンガンを撃ち、「容赦せんぞ!」と叫んだ。
「アイエエエ!」
「アイエエエ! モウダメダー!」
何人かが叫んで気を失い、あるいは床に座り込み失禁した。
「畜生、よしッ、畜生」
「使えるか」
フジオは駆け寄ってくるマコにショットガンを投げ渡した。
「お前、本当にやりやがって……それにしてもお前……お前本当に……」
ブルブルと首を振り、フジオを見た。
「次は「『どうしよう?』か」
「あいや、まあ、後は適当に逃げろって事にはなってる……んだが……」
悲鳴と喧騒の向こうから、御用! 御用! というケビーシ・ガードのサイレン音が近づいてくる。窓ガラスの向こうでは野次馬めいた市民が店内の様子を窺おうとする。KRAASH! フジオは威嚇的に窓ガラスを銃撃し、割り砕いた。
「アイエエエ!」
逃げ惑う野次馬! 入れ替わるようにガード達が現れ、盾を構え展開!
「アッパーガイオンの治安とはああいうものだ。マコ=サン」
フジオは厨房の奥へマコを促し、言った。
「何かの幸運で乱射を成功させても、ケビーシ・ガードがすぐに到着し、君を殺す。その覚悟はあったか」
「……しょうがねえよ」
マコは苦く言った。フジオは先導して奥へ踏み込む。
「アイエエエ……殺さないでェ……」
逃げ遅れた厨房のスタッフが数人、自発的にドゲザし、頭の上で手を組んで震えている。
「なぁ、どうするんだ」
マコは再度訊いた。フジオは振り返らず答える。
「階上だ。君の組織とやらに合流する。詳細は道すがら聞こう」
「合流?」
「そうだ。そして、それらを全て殺す」
「殺す!?」
マコは立ち止まった。
「一体何を言ってるんだ!」
「それしかなかろう」
フジオは淡々と答えた。
「地上から逃げる事が無理なら、空だ。屋上から逃走する。そして、君を捨て石にした組織が君を今後どう扱うか、可能性を検討する事自体が面倒だ。殺せば話は早い」
「だけど……」
「君の大切な人間の安全を確保するには、ある意味それしかない。君程度の末端の人間への報復を思いつかぬ程に潰してやればいい。それから逃げろ」
二人は業務用エレベータを待つ。
「なあ。何でここまでしてくれる?おかしいだろ」
「おかしい?」
フジオは首を傾げた。
「何が。おれ達は無敵のギャングで、ゲリラで、怒り狂った騎士、その絆は血縁よりも分かち難く、」
「……一人の恥は残る全ての報復によって雪ぐ、か」
マコは苦笑した。
「やっぱりおかしいぜ、そんな……昔のさ……」
「そういう君も、そうやって暗誦できるじゃないか」
二人はエレベーターに乗り込む。
「そりゃ当たり前だろ……だけど」
「おれには、どうという事は無い。おれは保身の男だ……思い出とリスクを秤にかけて、よしとした」
液晶パネルの階数表示カンジ数字が変化し続ける。フジオはマコを見た。
「まだ理由が欲しいか」
「だってよォ……納得し切れねえさ……」
「納得できない行いだから。理不尽だから、やるのさ」
「え?」
「こちらの話さ」
フジオは目を閉じた。
救援要請を受けて駆けつけたら尻拭いが確定したアイボリーイーグル=サン可哀想……