ジュー・ジツを構えるフジキドの脳裏には、刑務所の人々……リンドウの面々……慰問のフィルム……クチュリエールからの情報……様々な情景が去来した。
皆、死んだ。囚人達を虫けらのように爆弾に変えたイグゾーションも、死んだ。そして今。生き残ったゼンダはランペイジとなり、市民を虫けらのように虐殺する側に立つ。殺すべきニンジャとして。
(((デスドレインとランペイジはザイバツ関係無いニンジャだけど、かなりタチが悪くて厄介だから気を付けるでヤンス。
デスドレインはカラテはサッパリだけどヤバそうなヘドロを生み出して操るジツの使い手で、ランペイジは両腕にサイバネした重機の機構で物凄い勢いで突っ込んで来て、威力だけが洒落にならないカラテを振り回して来るでヤンス)))
「殺す。か」
クチュリエールから聞いたランペイジの様子と目の前のランペイジにモータル時代の面影は破壊衝動以外見られない。巨大な拳を打ち合わせるランペイジの表情は鉄仮面に覆い隠されている。
「俺はソバシェフ・ランペイジ事件だ。事象は殺せない」
(((なるほどこれはアカラ・ニンジャ。キンボシだ、フジキド……)))
ナラクの邪悪な含み笑いがニューロンを汚す。フジキドは過去の白昼夢を一瞬で棄てた。
(ナラク)
(((かつてのアカラ・ニンジャは背丈が他のニンジャの二倍もあるオニであった。青銅で身を鎧い、修行から帰ると、鎧は既に皮膚と化しておったという。名残はあの腕か。よいぞ。必ずや首級をあげ、そのみじめなソウル、喰らい尽くして糧とせい! グググググ……)))
殺戮衝動と抑えがたいイクサの喜びが血流に乗って全身を走る。フジキドは抗う。怒りが、様々なものに対する怒りが、ナラクの悦びを殺す。
(昔話など要らぬ)
(((まあよい。あの小娘が言っていたようにアカラ・ニンジャのカラテをまともに受けるは愚の骨頂。最悪カラダチを使え。驕るでないぞ)))
(オヌシが驕りを語るか)
(((グググ……)))
嘲るようなナラクの笑いがフェードアウトしてゆく。ニンジャスレイヤーの目は赤い光を帯びる。ナラクとフジキドの殺意が共振し、溶け合った。 応えるように、ランペイジの両肘からは白い蒸気が吐き出され、強い金属音と共に機構が稼働する。
「イヤーッ!」
「!」
ハヤイ! ニンジャスレイヤーは咄嗟に跳んだ。それはニンジャ第六感の報せだ。この突撃をガードすれば、一撃で全身を砕かれ、叩き潰されて死ぬであろう。
跳躍中、両手にスリケンを生成したニンジャスレイヤーの肩の筋肉が縄のように盛り上がり、スリケンを持つ手に力を込める。暗黒カラテ、ツヨイ・スリケン……否、ダブル・ツヨイ・スリケンの構えだ!
跳び越されたランペイジは背後の不動産業者事務所に突っ込んで身体ごと貫き、更に五棟の建物を貫通して砕き、倒壊させる!砂塵が舞い、姿は見えずとも、ニンジャスレイヤーはランペイジのニンジャソウルを捉えている!
「イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーの両手からツヨイ・スリケンが放たれる!片方は直撃コース!もう片方は頭上を飛び越すコース!
ランペイジは両腕でガード!重い金属音と共に直撃弾を受け切る!しかし、頭上のスリケンが軌道を変えてランペイジの頭を狙う!クチュリエール直伝のホーミングスリケンだ!
ガードし損ねたスリケンはランペイジの脳天を射抜き、胴体を縦に貫いて地面に刺さる!爆発四散!遠距離ゆえ声は届かないが、ニンジャスレイヤーは感知できるニンジャソウルが一つ減った事を感じ取った。……後には主を失ったサイバネ重機腕だけが残った。
(((えっ?アッシならどう仕留めるか?えーっと……デスドレインは勘が鋭くて面倒だから……一旦逃げて、どこかを襲ってるタイミングで超長距離から切り札を使って仕留めるでヤンス。切り札だから、何をやるのかは秘密でヤンス。
あっ、そうそう……アッシのワザマエではカラテであのジツを突破できる気はしないけど、ニンジャスレイヤー=サンやダークニンジャ=サンならカラテ撃破も十分可能なはずでヤンス。
ランペイジは……開けた場所なら突撃を避けながら両手でツヨイ・スリケンを投げて仕留めるでヤンスね。片方は普通に直撃コースで投げて、もう片方はホーミングさせて上から頭に刺さるように投げるでヤンス。
……そうでヤンス。ニンジャスレイヤー=サンの考えてる通り、ガードを誘って頭上への注意を逸らして直撃させるつもりでヤンス)))
ニンジャスレイヤーのニューロンにクチュリエールから共有された情報が想起される。クチュリエールの読みに狂いは無かったようだ。
ニンジャスレイヤーはマグロアンドドラゴン社屋ビルへと走り出した。
━━━
「ハヤイ・ツカイテ団。構成員は約十五名。進歩的アナキストを標榜してはいるが、実際のところは企業を脅迫して小金を稼ぐ集団」
エレベータでマコと向かい合い、フジオは淡々と言った。マコは唾を飲んだ。
「調べてあるのか?」
「君の事と紐づけて。その程度の基本情報ならば」
フジオは頷くと、沈黙を挟んで続けた。
「首領のドイツ系移民はニンジャで、ヴァンキッシュと名乗っている」
「あ……ああそうだ、なんだって?」
マコは瞬きした。
「そうだよ。ニンジャなんだ。なぜ知ってる、フジオ。ニンジャは実在する。しかし、まさかそこまで……」
「おれもニンジャだからな」
フジオは言った。
「災難だな、マコ=サン。サンシタ・ニンジャの手駒とは」
「ア……そう……なのか」
マコは言葉を失った。やがて苦笑した。
「ヘヘ……お前もニンジャ……いやはや。ああ、ままならねえンだ……運の尽きさ。サンシタの手駒よ」
「ニンジャは来るな?」
「ああ。来る。あいつは誰も信頼してねえ……フジオ、お前の話はアタリさ。屋上に部隊がヘリで降下して、役員を拘束する」
「当然それを殺す。そろそろ始まっている頃だな?」
「ああ」
「十階ドスエ」
マイコ音声が告げる。建物の高度規制が徹底されたアッパーガイオンにおいて、この区域のビル群だけが例外めいている。行政機関にカネを積んだのだ。中心となってロビー活動を行ったのがこのマグロアンドドラゴン社であり、それがザイバツの怒りを買う遠因ともなった。
金箔塗りの廊下の壁にはマグロとドラゴンの奥ゆかしい水彩画が交互に飾られている。このフロアには一面を強化ガラス窓にしてガイオンを睥睨する巨大な社長室と、専用厨房、専用茶室、専用オイラン檜風呂しか無い。
銃声が聞こえてくるという事は、つまりは社長室だ。二人はしめやかに歩みを進める。 連射する無数の銃声、ヤクザスラング、悲鳴が遠くに聞こえる。
フジオはマコを手で制し、立ち止まらせた。前方にガードマンらしき黒服が二人、体中に銃弾を受けて血の海に沈んでいる。
「君はとにかく死なないように気をつける事だ」
「ああ、ああ」
マコは頷き、ショットガンをかき抱くようにする。
「邪魔にならんようにするさ」
ニンジャのイクサを知るものならではの謙虚さであった。二人は大仰なカーボンフスマの前に立った。マグロとドラゴンが銀で描かれている。フジオはフスマに手をかけ、開け放った。
━━━
アラクサマ市街区、五重塔前。駆け付けたパープルタコ、シャドウウィーヴ、ドローカットは墜落したアイボリーイーグルが道路に出来たクレーターの中に倒れている様を目撃した。下手人はもう居ない。既に逃げ出した後のようだ。
「アイボリーイーグル!?」
パープルタコは慌ててアイボリーイーグルを抱き起こす。
(パープルタコ……ディテクティブの撤退支援は完了した……一応、俺達は疑われない筈だ……)
「アイボリーイーグル……」
アイボリーイーグルはパープルタコに耳打ちすると意識を失った。
「シャドウウィーヴはアタシと一緒にアイボリーイーグルをキョート城へ搬送!ドローカットはそのまま五重塔周辺から周囲を警戒!」
「「ヨロコンデー!」」
事情を理解したパープルタコはアイボリーイーグルを抱えると、シャドウウィーヴと共に足早に撤退した。
ドローカットはマグロアンドドラゴン社屋ビルの方角を見る。砂塵が上がり、遠く悲鳴が響いていた。
━━━
「イヤーッ!」
「サヨナラ!」
フジオは刃を打ち下ろし、一撃でカイシャクする。ハヤイ・ツカイテ団の首領、ヴァンキッシュは爆発四散した。
「や……やった、やっちまったな」
マコがショットガンを構えたまま、警戒しながら歩いてくる。フジオは彼の肩を叩き、そのまますれ違って、デスクの陰のCEO達を見下ろした。
「ドーモ、トナシミ=サン。ご機嫌麗しう」
「ア……ア……ザイバツ……なのか」
トナシミCEOは震えながら見上げた。
「貴方をどうしたものか、考えていなかった」
「なにしろ、場の成り行きに任せているのでな」
「アイ……エ」
フジオが腕を組むとCEOは息を吞んだ。
「フジオ」
マコが何か言おうとしてフジオは顔を上げた。
「全フロア踏破だぞォー」
馬鹿にしたような声が届いた。フジオは己が入ってきた入口……開け放たれたカーボンフスマを見やった。 そこに、まがまがしきものが現れた。切断された人体の部位を無数に付着させた、人型の黒ヘドロの塊が。
人型ヘドロの頭のあたりが不意に開き、中から、黒髪を逆立てた男の顔が現れた。拘束具めいたメンポ、眠たげな眼。血の海となったこの社長室を見渡す。
「何してンの、これ?」
「アイ、アイエエエエ!?」
マグロアンドドラゴンCEOは、引きちぎられた人体で飾られた非現実的なエントリー者を目にし、ついに理性を失った。護衛の黒服の反応も同様だったろうか? 知る由も無い。
その時には伸びた黒いヘドロが社長デスクを飛び越え、まずその黒服二人を餌食にしたからだ。 その瞬間フジオは反射的にバックフリップし、無雑作なアンブッシュから逃れ、マコのすぐそばに着地した。護衛二人を圧殺したヘドロ塊はそのままマグロアンドドラゴンCEOを吞み込んだ。助かりはしないだろう。
「アッ……ゴボッ」
「アー……オゲーッ」
黒いヘドロがドロドロと滑り落ち、拘束具めいたニンジャ装束を着た男が、黒い吐瀉物を吐き出した。さらに一人。なぜか少女が入室してきた。いかにも場違いで、異様なありさまだった。男は頭を搔き、フジオを見た。
「なァおい。なンで俺らの楽しみを断りもなしに勝手によォ……勝手に、アアッ?」
男が目を見開いた。
「ア? ア? てめェダークニンジャだろ? おい、俺だよ、デスドレインだよォ。おいこらァ!」
「……」
フジオはニンジャソードを構え、身を低くした。デスドレインはバリバリと頭を搔いた。
「なんだ、その、アア? アアッ! アアアアッ!」
血が流れ出す。腕先を黒いヘドロが這い、垂れ落ちる血液を吸う。 その足元では少女が膝をつき、床に拡がるヘドロを、ぼんやりと指でいじり始めた。誰の事も目に入らないかのようだ。少女は指先で格子模様を描いている。
「しかしよォ」
「今、スゲェ、ムカついたけどよォ、これ、ツイてるなァ……」
「フジオ? 何だ?」
デスドレインが一歩踏み出すと、マコが震え声で呟いた。
「知らぬ相手ではない。サンシタの屑だ……だが、ヴァンキッシュのようには行かない」
フジオはデスドレインの出方を警戒し、同時に、マコの逃走経路を測った。後ろにあるショウジ戸から別室に逃れるか。
「……私がくれてやった卑しい命をここで返すか? 下郎」
「おう、見ろ、見てくれよ、なァおい」
デスドレインは拘束具めいた装束を摑み、裂くように開いた。瘦せた上半身が露出した。巨大な傷跡が顔の傷につながっている。「咎」のカンジだ。
「これだ! 迷惑してンだよ……ナメた真似しやがって」
「フン」
フジオは鼻を鳴らした。無感情な口元が微かに動いた。押し殺した不敵な笑みである。
「呪いの調子はどうだ」
「俺に何しやがった……」
「使えると思ってな」
「アァ?」
「お前にはどうでもいい話だ」
デスドレインの足元で、少女は格子模様を拡げて行く。いくつかの格子の中にはまぶたのない目が描かれている。フジオはマコに目配せした。マコが後ろへ走り出す。黒いヘドロがすかさず襲いかかる!
「イヤーッ!」
フジオがインターラプトした。飛び来たった暗黒物質の舌めがけ、カタナを持たぬほうの素手で裏拳を叩き込んだのだ。
「ウォッ?」
デスドレインはたたらを踏んだ。暗黒物質はフジオの手を取り込む事がかなわず、弾け飛んだ。萎縮したヘドロは床に落ち、主のもとへ這い戻る。
「何だ? この野郎!」
「カラテだ」
フジオは低く言った。左様、カラテの衝撃力がジツを跳ね散らしたのだ。強力なニンジャは時にこれをやってのける。幸運に恵まれ、この種の反撃方法を味わわずにきたデスドレインにとって、これは屈辱の体験であった。
「何がカラテだクソがァ!」
「行け!」
フジオはマコの背中に叫んだ。
━━━
「申し上げます」
黄金茶室の廊下に跪いたアデプトのニンジャ、ボロゴーヴが厳かに告げた。茶室に向かい合うのはパーガトリー、そしてニーズヘグだ。
「アラクサマ市街区のニンジャ被害が拡散中と」
「ほう?」
ニーズヘグが眉を上げる。パーガトリーは茶菓子を手にとった。
「マグロアンドドラゴン・エンタープライズ社屋のみならず、その周辺で破壊行為、市庁舎にも被害が及んだと……」
「よいぞ。下がれ」
「ハハーッ!」
ボロゴーヴはドゲザし、しめやかに走り去って行った。
「社屋外?」
「ふむ」
パーガトリーは茶菓子を口にする。
「マグロアンドドラゴン……スローハンド=サンが何か言っておったな、そこについては」
「さて、犯罪組織の撹乱行動の支援だったか……」
パーガトリーは欠伸を一つした。
「しかし市庁舎に累が及ぶとは、スローハンド=サンも何を考えておるやら。ロードのキョジツテンカンホーに頼るなど、僭越の誹りも免れまいに」
「……」
ニーズヘグはパーガトリーを見た。 チチチ。ニーズヘグのIRCノーティスが鳴った。彼はやや表情を動かした。アイボリーイーグルからの短いメッセージだ。
「奴らか」
「はて?」
「続報じゃ。覚えておるか? 例のオミヤゲ・ストリート、コフーン遺跡……要警戒の無軌道なニンジャどもよ」
「いたな、そんな輩も。またぞろ騒ぎ出したか」
「……」
「何だね、さっきから? 茶菓子でもついておるかね?」
とパーガトリー。ニーズヘグは床几に肘を置き、扇子で己を扇いだ。
「いや、貴公。既にもう少し詳しい状況を得ておるじゃろう。正直に言うてみよ」
「ハ! ハ! ハ! 何を買いかぶりを」
パーガトリーは笑った。ニーズヘグはふと思い立ち、尋ねた。
「そういえばダークニンジャ=サンはどこにおるかね?」
「……ン? 懲罰騎士殿か? 休暇中の? ああ、発信器か! そうだ、そうだな」
パーガトリーは己のブレーサーに内蔵されたUNIX端末を操作した。
「おや、これは!」
パーガトリーは驚きの声を上げた。
「アラクサマ市街区ではないか! おや、いかんなあ! 詳細座標は把握しきれんが、これは休暇中のところを巻き込まれでもしたら……いや、待て! むしろ好都合ではないかね? なにしろ彼のカラテは素晴らしい……」
「そうじゃな」
ニーズヘグは頷いた。そしてチャを飲んだ。パーガトリーは目を細めた。
「これは大変だ。アラクサマのニンジャ治安は今や、休暇中の懲罰騎士殿にかかっているのか!……だが、強制休暇のルールは絶対神聖の掟! 我々と言えど蔑ろにできぬ! ましてや、サンシタの狼藉ごときが為に神器や得物を届けに行くなどと……彼への侮辱になってもいけない」
パーガトリーの視線がある種の殺気を帯びた。
「……で、あろう? ニーズヘグ=サン。特に貴公、彼のカラテを買っておった事だ」
「いかにも」
ニーズヘグは寛いだ視線でそれを受け止めた。パーガトリーは言った。
「ほう! 信頼もひとかどよな! 万全の装備でなくとも、彼は必ずや困難を切り抜けよう……?」
「問題無かろ……一度切り結んだ相手に後れを取る奴ではあるまい。もしも得物無しで敗れるのなら……」
パーガトリーは粘っこい視線でニーズヘグを凝視している。ニーズヘグは続けた。
「……敗れるのなら、そこまでの男よ」
「左様、左様!」
パーガトリーは大きく頷いた。
「では、このままチャを頂きながら、彼の輝かしき忠誠行為の結果を共に見届けるとしよう! シテンノどもは……ほれ、あれよ。別件の……先程の五重塔UNIX施設の調査だの、あとはまあ、色々と他でこう、重点しないといかんミッションも出てこようからな! 行かれぬから!」
「……うむ」
「このあと、特に予定は無いな、ニーズヘグ=サン?」
「うむ」
「このままここでチャを楽しもうではないか。ゆるりと」
「よかろう」
「オイランを呼んでもよい」
「いや、結構」
「ダークニンジャ=サンに直接、音声IRCで事態収拾を命令したまえ」
パーガトリーの目が光った。
「さ、今すぐに。ここで」
「うむ」
ニーズヘグは淡々と端末を展開した。
━━━
「イヤーッ!」
飛びかかった暗黒物質を、ダークニンジャの精密な回し蹴りが弾き飛ばす!
「アアア畜生!」
ヘドロ腕がもう一つ地面すれすれを滑り、傷ついた全裸のオイランを取り込んだ。
「ッたくよォ……まだ生きてっから、取っとこうと思ったのによォ」
「アイエエエ」
「アズール! アズール見てろォ!」
格子模様を拡げ続けていたアズールはデスドレインに呼ばれて顔をあげた。生きたオイランを吊り上げて捉えた暗黒物質は鎌首をもたげ、鞭のようにしなり、強化ガラスにベシャリと叩きつけた。
「ガラス。硬ぇなあ。ヘヘヘヘ」
剝がして、また叩きつけた。ガラスが割れ、死んだオイランが外へ放り出された。
「へへへはははは、へへへへへはははは」
デスドレインは肩を揺すって笑い、横目でダークニンジャを見た。ダークニンジャはウカツに踏み込みはしない。デスドレインが攻撃を仕掛けて来た瞬間が糸口だ。
「社長ってさァ、いいとこ住んでンのな」
「……」
「俺、生まれてこの方、親の顔知らなくてさァ、ずっと知らない男に殴られて育ってさァ、社会に復讐しようッて思ったのよ。それがこのチカラだよ。な? 社会に反逆するチカラ……」
「……」
ダークニンジャは無感情な目を向けた。デスドレインは首を傾げた。
「あれ? 全部噓だってわかる? ダメか! ヘヘハハハハ」
デスドレインの足元の暗黒物質が沸騰した。そして噴き出す! 八つの間欠泉が跳ね上がり、複雑な軌道を描いて襲いかかる!
「イヤーッ!」
ダークニンジャが駆ける!
「じゃあさ、変えるわ。俺はこの会社の跡取りだったんだよ。なのに、陰謀でよォ、監禁されてたンだ、ずっと。こうやッて復讐……」
「イヤーッ!」
ダークニンジャは回転! 斜め後ろから襲いかかった暗黒物質をニンジャソードで切り払い、回し蹴りで破壊! そのままデスドレインにサイドキックを繰り出す!
「イヤーッ!」
暗黒物質が足元から噴き出し、壁となってこれを受ける!
「へへへへ!」
「イヤーッ!」
ダークニンジャは跳躍!
「信じてくれよォ! 俺はヤクザクランに仲間を全員殺されたんだ! そンで、デッカーがヤクザとグルでよォ、俺が全部の罪を被せられちまったんだ! だから復讐すンだ、社会に! ……だめか? なァ? これもダメ?」
ヒュンヒュンとアンコクトンが渦巻き、ダークニンジャを追う!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
ダークニンジャは振り向きざまにコンパクトな突きを三度繰り出す。残像が残るほどの速度の突きが、到達したアンコクトンをすべて弾き壊した。新たなアンコクトンがデスドレインの足元から湧き出し続ける。
「次の話を考えねえとなァ……」
それらが壁を伝い、強化ガラスめがけて複数飛んだ。さらに天井から床、床から天井! そこに立ち現れたのは縦横に檻めいて張り巡らされたアンコクトンの檻である。
「アー、俺ってあンまり才能ねェかなあ? エート……あと、あれだ。俺はソバ職人! ヘヘヘヘハハ……ソバだとよ……それが、この会社に店を潰されて! 家族も商売も無くしちまってさあ! そンで暴れたら逮捕されちまったのさ! で、復讐ッてわけさ……」
チチチ。胸元のハンズフリーIRCのノーティス。
『ダークニンジャ=サン。ニーズヘグだ』
ダークニンジャの眉が微かに動く。
「デスドレインと交戦中だ」
『了解した。一味を排除せよ。……救援は無い』
「ああ。承知した」
コンマ数秒、ニーズヘグは沈黙した。
『生き残れよ』
「当然だ」
「なァ、上か? 下か?」
黒い檻を隔て、壁を背にしたデスドレインが訊いた。ダークニンジャは檻の性質を検討し、どのようにデスドレインまで到達してこれを殺すか高速思考する。
「上か? 下か? 教えてくれよ。屋上にヘリでもあンのかな? それとも地上から? お前の友達、どっちから逃げンの?」
ダークニンジャは床を蹴った。デスドレインは少女の腕を摑んで引き寄せる。
「アズール! ボサッとしてンじゃねえよ。殺すぞ! もっと近くだ!」
少女は抵抗しない。デスドレインが叫ぶ。
「来るな! 来るなよ! 来たらこのガキの命ねェぞォー。へへへはははは! ダメか。まあいいや」
「イヤーッ!」
ダークニンジャは目の前の檻をニンジャソードで切り払う。切断面からツタめいた細いアンコクトンがめちゃくちゃに伸び、ダークニンジャを捉えようとする。
「イヤーッ!」
斬撃の速度を利用し、そのままダークニンジャは高速回転! 伸びてくる触手を切断しながら迫る!
「教えてくれよ? 上か? 下か? ここはひとつカンで決めるぜ! 俺の神様に聞いてみるぜ……」
「イヤーッ! イヤーッ!」
竜巻めいた斬撃の塊と化したダークニンジャが迫る!
「へへへへ、上だァー」
デスドレインは口からアンコクトンを吐き出し、真横、強化ガラスの自分のすぐ近くに叩きつけた。強化ガラスは飴めいて外側に膨らみ、潰れ、砕けた。
「イヤーッ! イヤーッ!」
黒い檻を次々に切り払い、触手を振り払い、ダークニンジャが到達する!
「イヤーッ!」
デスドレインは横に飛ぶ! アンコクトンが壁となり斬撃を防御!
「時間足りなかったなァー!」
アズールをかき抱いたデスドレインはビルの外へ飛び出す! デスドレインが空中で上めがけ両腕を突き出すと、アズールはデスドレインにしがみついた。デスドレインの爪の間から黒い奔流が逬る! 二人は垂れ下がる粘質のアンコクトンに抱かれ、引きずり上げられてゆく。
「ヒョーッ! シャオッ!」
(((カラテとはニンジャのエゴ。物理法則の一つや二つは捻じ曲げられるでヤンス)))
ダークニンジャは納刀し、同じく外に飛び出す!彼のニューロンにハクチョウ・カラテのインストラクションが響き、溢れるインスピレーションのままにダークニンジャは空中を蹴り、デスドレインを飛び越した!
「なっ!?嘘だろ!?」
「シャウゥッ!」
ダークニンジャが五指を軽く広げ、流麗な動きでアンコクトンに右手を一閃すると斬撃が飛び、デスドレインとアズールを引き上げていたアンコクトンをスライスして切断!
「クソッ!……アバーッ!?」
再びアンコクトンを伸ばそうとするデスドレインの尻にすくい上げるような軌道でスリケンが命中!肛門を通過して股間を吹き飛ばし、社長室の壁にスリケンが突き刺さる!
「フッ」
「……!アァァァア!?」
悶絶し、気絶しかけたデスドレインは、自分を鼻で笑うダークニンジャを見た怒りで意識を取り戻し、アズールを抱えたまま地上へと堕ちて行った。
「救援は来ないと聞いていたのだがな……」
ダークニンジャは再び空を蹴って社長室に戻ると、マコの後を追って走り出した。
チチチ。胸元のハンズフリーIRCのノーティスが鳴る。
『ドーモ。ニーズヘグ=サン。ダークニンジャ=サン。ドローカットです』
「今の狙撃はお前だな?よくやった、ドローカット」
『思った以上に上手く行きました。シャーテックのガントレットを買った甲斐がありましたね』
「そのままデスドレインを追撃しろ」
『ヨロコンデー!』
ダークニンジャ……フジオは軽やかに非常階段を駆け上がった。
Q.ランペイジ=サンってそんなあっさり殺せるニンジャでしたか?
A.大体のニンジャはツヨイ・スリケンを頭に食らったら死にます。
Q.なんでダークニンジャ=サンはハクチョウ・カラテで空を跳んでいるのですか?
A.ドローカットのハクチョウ・カラテから「彼女にこれだけ出来るって事は、俺なら空中でジャンプ出来るのでは?」と気付きを得たので、カラテ尽くで物理法則をねじ曲げました。かなり大変なので、三段ジャンプ的な使い方が現状の限界です。
Q.アイボリーイーグル=サンの身に何が起きたのですか?
A.アラバマ落とし中にディテクティブことガンドー=サンが頑張って跳弾で妨害した事で、アラバマ落としを自爆しました。
元々逃がすつもりだったのですが、打ち合わせのしようも無いので即興で頑張った結果、ヤムチャみたいな絵面になりました。