部下からの「資料に間違いは一切無かった」という報告を聞いたパーガトリーは頭を抱えた。市役所で手に入る資料だった為、簡単だったらしく、さほど時間もかからずに裏取りが出来た。
この事をロードとパラゴン派閥を除くザイバツニンジャに伝えるべきかと思ったが、少し考えて実行に移さない事にした。派閥争いが祟り、自分が預かった事でこの資料の信用度は地に落ちている。ケイビインやスローハンドに信用される事は無いだろう。
パラゴン派閥を除外したのは生体LAN端子を持ちながらグランドマスターの座に就き、ロードとの距離が近い為である。色々と例外過ぎる為、パーガトリーは疑いを持っていた。
パーガトリーは悩んだ末にキョジツテンカンホーを破れた事を確認してから勝ち馬に乗る事に決めた。
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八つの水瓶を捧げ持つタコ噴水の水がにわかに途絶え、ゴリゴリという摩擦音とともに回転を始めた。噴水がまるごと地面の下へ落ち込んでゆくと、その十数秒後、かわりに迫り上がって来たのは謎めいた石の祠である。
祠の扉が内側から開き、中からニンジャスレイヤーとガンドーの二人が降り立った。
その様子を監視カメラで見ながらヴィジランスは仮想キーボードをタイプし、YCNANと共にニンジャスレイヤー達のサポートとヨロシサンへのハッキングの指揮を並行して行っていた。
(((アレがヨロシサンと前任者が作った隠し通路か……それらしい証拠を揃えればスローハンド=サンを密告して共倒れさせられそうだな)))
ヨロシサンとスローハンドの繋がりと隠し通路を利用してスローハンドをムーホン犯に仕立て上げ、共倒れを狙う為である。
ヴィジランスはスローハンドとケイビインそれぞれの派閥の様子から、パーガトリーが情報を一人で抱え込んだ事を悟っていた。状況が状況である。両派閥とも今からの説得を受け付ける事はないだろう。
ならば、ケイビインはどうしようもないのでニンジャスレイヤー達に倒して貰い、スローハンドはムーホンの証拠をでっち上げて共倒れして貰うしかない。パーガトリーなら喜んでスローハンドを蹴落としてくれる筈だ。
監視カメラの映像ではニンジャスレイヤーとガンドーがケイビイン派閥のニンジャ達を次々と爆発四散させ、ついにケイビインとイクサを始め……カラテゴーレムを撃破して、ケイビイン自身の攻撃もカラダチで受け、動けないケイビインをジキ・ツキと49マグナムで爆発四散させた。
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白砂に囲まれ、ゼンめいて佇むモデストなホウリュウ・テンプルの姿を、ニンジャスレイヤーとガンドーは数秒間立ち止まり、眺めた。真上から見れば正八角形をした建築物は大理石の土台と黒い瓦を持ち、屋根の上に鐘撞き塔を戴いている。
「ちょっとした史跡……ちょっとした、なんてもんじゃねェか。教科書にも載ってる文化財だ」
ガンドーは呟いた。だが既に彼らは知っている。その実、このテンプルの地下には、ギルドの不興を買った者たちを監禁する座敷牢が存在していることを。
「この下にまだユカノ=サンがいるかも知れねえ」
「それなら話は実際早い」
「……」
ニンジャスレイヤーはガンドーを見た。
「そう容易くは行くまい。だが、少なくともアラクニッドは繫がれていよう。ロードのキョジツテンカンホーを破らぬ限り、勝ち目はない」
……テンプル内は無人! 内部に祭祀の施設は無く、図書館めいた古文書集積施設としての偉容が彼らを出迎えた。ガンドーは微かな光を放つマグライトを点灯した。マキモノや書物の名が浮かび上がる。
『ヤギュー写本』『痛みの地』『シ・クランと神話伝承における死神について』『ブル・ヘイケ』『ウラシマ・タロ』『高校鉄拳伝タフ』『平安時代の葬儀』『アケチ・ウォリアーの禍』『江戸戦争』『物語構造からタペストリーめいて導き出すニンジャ実在』『失われた魚』『ズンドコベロンチョ』『流離したニンジャ』『知恵の実』『欺瞞に対す』『狂気から身を守る』『快癒』『ショドー・パターンに隠されたニンジャ』『カラテ政治』『シグルイ』『カラテノミコン』『海の民に関する新たな発見』『百人一首』『ワールシュタットの戦い、ある疑念』『真夏の夜の淫夢』『貝合わせの遊戯』『魔剣』『パンキドー』『ショーグン』『夢を歩く』『スシ化石』『歪んだ笑い』『疫病とニンジャ』『畏れについて』『蹴り技の源を辿りニンジャを見出した男』『TOUGH』『星座の真実』『竜退治の書』『東インド会社のとある秘匿』『南北戦争に関する覚え書き』『集団無意識』『ポンペイ』『サムライ8』『近代アメリカ史の再検討』『ヘレニズムの狭間に失われたそれ』『テンプル騎士団を再び読み解く』『TOUGH 龍を継ぐ男』『或る修道院の秘密』『鉄仮面について』『切り裂きジャック事件』『さまよえるオランダ人』……
「やめろ!」
ニンジャスレイヤーがガンドーの首根を摑み、書架から引き離した。
「ウ……ウープス。大丈夫だ。本当だよ」
ガンドーは力無く微笑んだ。ニンジャスレイヤーは指を三本立てる。
「何本だ」
「やめてくれよ、からかうのは」
「何本だ」
ガンドーは深呼吸した。
「……ZBRを……」
「もっと深く。深く息を吸え」
ニンジャスレイヤーはガンドーを睨んだまま言った。ガンドーは素直に従った。
「スゥー……ハァー…………三本だ。悪い。魅入られちまって」
「あまり意識せぬ方がいい。なにか……なにか良くない」
「ああ、オーケイだ」
「見ろ。地下への階段だ」
そこには手摺付きの螺旋階段。日本の伝統的テンプルにはおよそそぐわぬ様式の階段で、何らかの増築によるものと思わせたが、古びた木材はこのテンプルの外観同様の年月を経たようにも思わせる。
彼らは警戒しながら降りてゆく。 しばらくは、螺旋階段の壁はテンプル同様の書物棚であった。彼らは冒瀆的書物の題名や配列規則に、つとめて注意を払わぬようにした。
それら書物が、ある地点から先でぷっつりと途絶え、剝き出しの岩壁となる。螺旋を一周するたび、踊り場が彼らを出迎える。踊り場は常に座敷牢と隣接している。物音は無い。 ニンジャスレイヤーとガンドーは顔を見合わせる。
この螺旋階段はどこまで下るのか? この座敷牢のどこかに、ユカノがいるのか? そしてアラクニッド……彼は最深部に居るのだろうか? ニンジャスレイヤーは何か言おうとした……そこにガンドーはいなかった。
ニンジャスレイヤーは素早く踊り場を見渡した。これはいかなるジツか? ガンドーを呼ぼうとしたが、己のニンジャ第六感がそれを制した。
ずるり……ずるり……やがて、座敷牢へ通ずる洞穴から、何かが這い出てきた。
「アア……二人で十分……三人この場に立つは……心身を激しく害する……」
黒いヘドロめいて見えたのは、黒く長い乱れ髪が、這い寄る身体に被さっているからだ。瘦せ衰えたその男は難儀そうに腕で体をささえ、上体を起こした。
「ドーモ……ニンジャスレイヤー=サン……彼の名はアラクニッドという……」
「ドーモ。アラクニッド=サン。ニンジャスレイヤーです」
ニンジャスレイヤーは警戒しつつオジギを返した。
「アラクニッドはお前のコトダマに触れ易かった」
アラクニッドは嬉しそうに言った。
「お前は慣れている。アラクニッドは少し楽だ」
「慣れている?」
「お前はここにこうしてやって来たな」
「ではオヌシがユカノ=サンと接触したアラクニッドであると」
「彼女と話したのは私であり、彼ではない。アラクニッドはひどく傷つき、歪んだ」
アラクニッドのおかしな話し方にまず調子を合わせねばならない。ニンジャスレイヤーは察した。威嚇や恫喝はただそれだけでこの脆弱な相手を傷つけるであろう。
「ニンジャスレイヤーがここに来たのは実際正しい選択であった……ニンジャスレイヤーはザイバツの子だ。ザイバツがニンジャスレイヤーを生んだ。ゆえに……COFF! COFF!」
「今、何と言った」
「COFF! COFF! 知りたいであろう、ゆえにアラクニッドは伝える、なぜならニンジャスレイヤーがロード・オブ・ザイバツを滅ぼさねば、アラクニッドは永遠に利用され続ける。実際ニンジャスレイヤーがあのままホンマルを目指せば、希望は潰えた、アブナイだった」
「今はそれはいい。まず話せ」
ニンジャスレイヤーは遮った。
「ザイバツが私を生んだと言ったか」
「ああ! 占いだ、占い……アラクニッドは強いられた。ニンジャスレイヤー誕生の四十九日前。アラクニッドは探り当てた。ラオモト・カンを殺す者が誕生する、と。ロードと、パラゴンは、占いそのままに動こうとした」
「占いそのままに動こうとした?」
「ロードと、パラゴンと、アラクニッドだけが知る秘密だ、それは他の誰も知らない、勿論スローハンドもパーガトリーも知らない。抗争、死にゆく多くの人間の怨嗟が、COFF! COFF! マルノウチ、天を衝く地、ニンジャとニンジャが喰い合う時、多くの死と怨嗟がラオモト・カンの滅びを生ぜしめるだろう。アラクニッドはそう知らされた。占いがアラクニッドに知らせたのだ」
「ああ! まぶしい」
アラクニッドは身を捩り、震えながらニンジャスレイヤーに乞う。
「まぶしくしないでくれ。苦痛が増す。たすけておくれでないか」
「『その為に』『抗争を起こした』……『起こした』?」
ニンジャスレイヤーは押し殺した声で問うた。
「そうだ!」
「ラオモト・カンを殺す為に?」
「そうだ」
アラクニッドは震えた。
「『ラオモトを殺させる』……『そんな事の』『そんなくだらぬ事の』『為に』『抗争を』『起こさせた』?」
「そうだ!」
アラクニッドは地面に突っ伏した。
「占いが示した、ネオサイタマに存在するリアルニンジャ……それを探索する……その障害となるソウカイ・シンジケートを排除する為に……」
「話せ!」
「ああ! ああ……光が強すぎる! アラクニッドを殺してはならぬ! アラクニッドは話す……それはアラクニッドを殺させる為ではない!」
アラクニッドはのたうち回った。
「ロードとパラゴンは! 急いている! ニンジャスレイヤーを作り! ラオモトを! 殺させた! 早いからだ! ロードのジツはネオサイタマまで強く届かぬ! ゆえに! ニンジャスレイヤーならば! イクサよりも! 早い!」
「『ニンジャスレイヤーを』『作った』だと!」
「噓で固めた秘密結社! 紛い物のマッポーカリプス! 急ごしらえの最終戦争! キョジツテンカンホーがそれを可能にする! ロードはニンジャスレイヤーを問題にしていない。いかなニンジャスレイヤーであろうと、キョジツテンカンホーは破れぬ! そう認識している! ゆえに野に放ち! あ! あ! あ!」
アラクニッドが痙攣を始め、ニンジャスレイヤーの目が燃えた。
「便利な道具を調達したとでも!」
「そう! だ! ニンジャスレイヤー! ラオモトを殺し、リアルニンジャへの道を拓き、さらにそのカラテによって、ああ! アラクニッドは! まぶしい! 死んでしまう!」
(((チャドー。フーリンカザン。そしてチャドーだ。フジキド)))
「スゥーッ、ハァーッ」
ニンジャスレイヤーのニューロンに自らを諭す師父の声。ドラゴン・ゲンドーソーの声が響いた。彼は深く、深く息を吸い込み、そして吐き出した。
……チャドーの呼吸。全身から溢れかけた凶悪な霧が、再び体内に吸い込まれて行く。 アラクニッドは仰向けに転がり、ヒューヒューと呼吸した。
「アラクニッドを殺してはいけない。それは間違った怒りだ。アラクニッドを殺せばニンジャスレイヤーはロードのキョジツテンカンホーを破る事ができず、死ぬ。さすればアラクニッドは永遠に吊るされ、使役され続ける。それはいけない」
フジキドは、深く、深くチャドー呼吸を繰り返した。アラクニッドは続けた。
「これで、わかったな。紛いのマッポーカリプスを引き起こす。破滅へ至る私欲の為にニンジャスレイヤーを弄んだ。ロードを滅ぼすべき理由がわかったか。ニンジャスレイヤーは、知る必要があった」
いつしか彼らは屋根の無い茶室に差し向かいで座っていた。アラクニッドの黒髪が風に揺れた。フジキドを見る瞳。琵琶湖の暗い水めいて深いその瞳は、憔悴と悲しみと哀れみと恐怖で満たされた人間のそれだった。
「ニンジャスレイヤーはロードを倒せ。それが哀れなアラクニッドを救う事にもなる」
フジキドは懐から取り出したものを差し出す。
「銀の鍵だ。これがキョジ罪罰罪罰罪罰ツテンカ罪罰罪罰罪罰ンホーを破罪罰罪罰罪罰る手段た罪罰罪罰罪罰りうるの罪罰罪罰罪罰か」
「そうだ!」
アラク罪罰罪罰罪罰ニッドが叫罪罰罪罰罪罰んだ。
「急げ! 間に罪罰罪罰罪罰合え。走れ!」
「罪罰罪罰罪罰これ罪罰罪罰罪罰は!」
ニンジャスレイヤーは周囲に無限に発生する罪・罰の漢字を見渡した。
「構うな! 間に合え! アラクニ罪罰罪罰罪罰ッドを目指罪罰罪罰罪罰せ。最深部だ。走罪罰罪罰罪罰れ。狂ったアラクニッドか罪罰罪罰罪罰ら直接、答えを受け取る罪罰罪罰罪罰のだ!」
「ニンジャスレイヤー=サン!」
現世が戻った! 頭上から聞こえて来たのはガンドーの叫び声だ。
「どうしたッてんだ!」
「話は後だ!」
ニンジャスレイヤーは螺旋階段を全力で駆け下りる! 走る! 走る! 走る! 走る! 目指す! 最深部!
「イイイイヤアアアーッ!」
こうして、ニンジャスレイヤーは円柱状螺旋階段の底へ辿り着いた。彼のニンジャ洞察力は異常なまでの監視カメラ装置の存在を感じ取る。しかし今の電算機室は味方である。何も問題は無かった。
「アーッ! アーッ! アーッ! アーッ! アーッ!」
最深部に口を開けるアーチ門! その奥から声! 叫び声は当然アラクニッドのものだ。
「コワイ! コワイ! コワイ! コワイ! コワイ!」
ニンジャスレイヤーは走る! 古代鋼の格子の奥、不気味な影が揺らぐ! 肉鉤を身体に突き刺され、天井から吊り下げられたアラクニッドの痛々しい姿が!
「ハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハ! 肉体! 肉体が! 肉体が! 肉体が! 肉体が! 肉体が! 肉体が! 肉体が!」
狂い笑い叫ぶ! ナムサン! これが現世におけるアラクニッドの姿か!ニンジャスレイヤーは迷わず銀の鍵をかざす! アラクニッドは銀の鍵を格子越しに見ると涙を流し、叫んだ。
「アナヤ! 銀の鍵だ! ハイクを持ち帰るべし!」
そして意味不明な文言を叫んだ。
「赤い波/象牙の浜/黒い雪/紫の松」
ハイク? センテンスが一つ余分だ。なんたるイビツかつ無意味な言葉か? だがニンジャスレイヤーはニューロンにその言葉を刻み付けた!
「ハハハハハハ! 肉体だ! 肉体! 肉体! 肉体! ハハハハハハハハハ! 肉体肉体肉体肉体肉体」
吊られた身体が激しく揺れた。これ以上の言葉は得られない。ニンジャスレイヤーは銀の鍵を懐へしまった。そして踵を返した。 キョジツテンカンホーの秘密に迫るものあらば、容赦無くトリガーは引かれ、ジツに関する記憶が漂白される。
だが……。赤い波・象牙の浜・黒い雪・紫の松。意味不明であるが故、その何らかの手がかりは、残った。ニンジャスレイヤーは頭上の闇を睨み、駆け上がる。狂った叫びを発する哀れな虜囚を後ろへ残して。
━━━
「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」
ニンジャスレイヤーは無数のニンジャを蹴散らしながら駆け抜ける!
「イヤーッ!」
コワイ! 殺害されたザイバツ・ニンジャ、すでに九人! アプレンティスどもは震え上がり、無意識のうちに後ずさりする。
「イイイヤアアアアアーッ!」
ニンジャスレイヤーはチョップ姿勢の左手を前方に突き出し、ザンシンを決めた。その間も、右手は別の生き物のように巧みなヌンチャクさばきを見せる。ヌンチャクの先端部には炎の軌跡が見え隠れし、剣吞な夜の空気を焼き焦がし始めていた。
その両肩からは凄まじい湯気。「忍」「殺」メンポからはジゴクめいた蒸気。今宵のニンジャスレイヤーは猛り狂っていた。
(((愉快……愉快……! 所詮は、群れねば何もできぬ腰抜けどもよ! 儂らに向けられたる臆病者どもの眼差しを見てみよ! 恐怖! 畏怖! 戦慄! ……グググググ!)))
精神のチャノマでナラク・ニンジャが嗤う。
(((フジキドよ、何を悠長に睨み合っておる。どれ、儂にもやらせよ。奴めらを骨の髄まで震え上がらせ、手足を折り、叩きつけ、捩じり上げ、首級を刈り取ってくれようぞ……!)))
(((ナラクよ、まだだ)))
「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ!」
ニンジャスレイヤーは己の憤怒を正しく御するべく、チャドー呼吸を行い、戦況を見極める。すでに四十名以上のニンジャがホンマルから現れ、遠巻きに彼を包囲していた。
……だが、まだ不足している。もっとだ。もっと多くの敵の目を引きつけねばならぬ。ガンドーの潜入作戦を成功させるために。クチュリエールの手は借りられない。
移動中にナンシーから彼女は何やらダークニンジャに振り回されているらしいと報告を受けたのだ。また、ロードのジツを破れない場合は儀式の為に天守閣から離れられないタイミングで中庭から天守閣にスリケンを投げて仕留めるという。
ラオモト・カンの足首をスリケン狙撃で吹き飛ばした彼女ならばロードを仕留める事は十分可能だろう。しかし、儀式が行われれば大勢の死者が出る。それは最後の手段だ。
「次は誰だ……!」
ニンジャスレイヤーはヌンチャクを両手で摑むと、それを横一文字に構えて前方に突き出し、挑発的な姿勢を取る。
「未熟なサンシタから順に殺戮機械の中に蹴り込み、上の者どもはのうのうとアグラをかいているのがザイバツの流儀か。ソウカイヤのほうが、まだ骨があったぞ」
「……おうおうおう、ずいぶんと威勢のいい奴じゃ」
包囲網の後方から、豪快な笑い声が聞こえた。ザイバツ・ニンジャ達がどよめいた。ニンジャスレイヤーは強大なニンジャソウルの接近を感じ取る。ようやく大物が釣れたらしい。
遠巻きに死神を包囲していたサンシタたちが畏まってオジギし、その強者のために道を空ける。オーカー色のニンジャ装束に身を包んだ男が姿を現す。その腰にはセグメント状の風変わりな刀剣が吊られていた。
「フゥーム……」
その男はニンジャスレイヤーを睨み、周囲に漂う血の臭いを胸いっぱいに吸い込んだ。ヘビめいた瞳が、イクサの恍惚にぎらぎらと輝いた。
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ニーズヘグです」
「ドーモ、ニーズヘグ=サン、ニンジャスレイヤーです」
男は威風堂々たるアイサツを決め、死神もアイサツを返した。周囲のアトモスフィアが変わり、大気がびりびりと張り詰めた。 彼らはタタミ四枚の間合いで睨み合った。
クチュリエール曰く、ニーズヘグに疑いを向けられないように一度ぶつかる必要があるが、戦闘狂なのでそういった取り決めが戦闘中に頭から飛ぶ可能性があるという。死神の額に汗粒が浮かび、頭巾の隙間を流れ、険しく吊り上がった眉に吸い込まれた。
「フタツアタマヘビ……それが、わしとバジリスクの二人に付けられた渾名じゃ」
「バジリスク=サンか」
アイアンオトメを駆り、ウォーロックと組んでソウカイヤ転覆を企てた男。あの夜の死闘が、鮮烈にフラッシュバックする。
「オヌシもあれと同じ、頭のネジが外れた戦闘狂の類いか。臭いで解る。同じ場所に送ってやろう。ジゴクへな」
「あいつは血気盛んでのう、若気の至りで飛び出して行きよった」
ニーズヘグは眉根をぴくりと動かす。
「オヌシは何故一緒に飛び出さなかった。バジリスク=サンの死に様は見ものだったぞ」
死神が無表情に返し、会話で敵対関係を演出する。
「派手なイクサのほうが痛快じゃろが。でかいトノサマの下にいりゃあ、それがある。ヘル・オン・アース……すぐそこに近づいておる。大イクサじゃ。人が山ほど死ぬぞ。おお、胸が躍るわい」
「生まれる時代を間違えたな、オヌシ」
「ハッ! 褒め言葉よ!」
ニーズヘグは呵々と笑った。懐は深く、隙が無い。歳経た蛇。厄介な相手だ。 興奮でムーホン人として協力する取り決めを忘れているかもしれない。周囲のザイバツ・ニンジャらは、固唾を飲んで見守る。両者はじりじりと前進を続けた。
その間にも、彼らの脳内ではイマジナリー・カラテの応酬が続く。伝説的なショウギ・チャンピオンたちはしばしば、一切手駒に触れずして対局相手をセプクに追い込むことがあるという。この不気味なまでの沈黙こそが、真のカラテ強者たちの前哨戦なのだ。
SPLAAAASH! 不意に、張り詰めたアトモスフィアに耐え切れなくなったかのように、中庭の錦鯉が高く跳ねた。ゴウランガ! その水音を合図代わりに、二者は動いた!
「「イヤーッ!」」