タイガー・ダンジョン・クエスト 1/?
日光が部屋に差し込み、目が覚める。ブロッサムは顔を埋めている柔らかい感触から名残惜しそうに身体を離した。フートンの中には小柄で豊満な同じ顔の少女が二人。クチュリエールとメイルシュトロムだ。
アマクダリからの疑いを晴らす為、単身キョートに潜入した親友にしてメンターであるクチュリエールの帰還を祝ったのは昨日の事であった。
ネオサイタマ空港でクチュリエールとシャドウウィーヴを出迎え、祝う為に予約した高級レストランの個室で何があったかを詳細に至るまで報告されたブロッサム、ソニックブーム、インターラプターの三人はとりあえず帰還を祝う事にした。
ニンジャソウルを抜く、二人に増える等、突っ込みたいアレコレはそれなりにあったが、ラオモト=カンが死んだ日のヤバイ級の勘働きを思うと、やらなければ死んでいたのではないかと思わずには居られなかった為に責められなかったのだ。
レストランでの食事の後はキョートで世話になったというシャドウウィーヴもそのまま巻き込んで一緒にニチョームへ向かい、〝絵馴染〟で二次会を行った後、そのままシャドウウィーヴと別れて家に帰り、その後はブロッサムがクチュリエールとメイルシュトロムを抱き枕にして眠り、今に至る。
クチュリエールとソニックブームが不仲になったなどという事ではない。家で同じフートンに入ると自制出来なくなるからと元々フートンを分けているのだ。
ブロッサムに遅れてクチュリエールとメイルシュトロムが目を覚まして起き上がると、朝食の支度を始めた。今日はクチュリエールとメイルシュトロムとソニックブームがデートする予定だ。三日は帰らないと聞いている。
ブロッサムのニューロンにソニックブームが数日前から精力剤を買い込み、ジャラジャラと大量に飲んでいる姿が想起された。
「オハヨ。クチュリエール=サン、メイルシュトロム=サン」
「「オハヨ。ブロッサム=サン」」
「デートするに当たって頼みたい事があるんだけど」
「どうしたでヤンスか?」
「何かあったでヤンス?」
「ソニックブーム=サンの体力にも限界があるから、程々にして帰って来て」
「「アッハイ」」
二人揃って頷いた。
━━━
「ねえソニックブーム=サン」
「どうした?」
退廃ホテルの一室。フートンの中でクチュリエールがソニックブームに声をかけた。メイルシュトロムは同じくフートンの中でソニックブームにくっついている。
「ザイバツが無くなってアマクダリ一強になったから、ネオサイタマがまた荒れそうな気がするでヤンス」
「食料品の買い占めとか変な物を混ぜられたりもしそうでヤンス」
「おいおい、怖い事を言うなよ……メガコーポに好き勝手やられたら俺達にはどうする事も出来ねェぞ?お前らが言うとシャレにならねえよ」
二人の予想にソニックブームは嫌そうな顔をした。
「そんな訳で、チバ=サンとアガメムノン=サンへの報告はアッシのワザマエの上達だけ伏せて、やった事だけ報告するつもりでヤンス。契約にもアッシのワザマエについて報告する旨は無いでヤンス」
「具体的に言うと、アッシが増えた事は伏せるでヤンス。アッシの身体はブロッサム=サンとクチュリエールのジツで維持出来るから、基本的にブロッサム=サンの影の中に潜む事にするでヤンス」
「奥の手を持つ事は大事だからな。契約違反でも無いから別に良いんじゃないか?」
裏社会の常識的に何もおかしくないが、前後の繋がりを感じられない事を言われてソニックブームは怪訝に思った。クチュリエールの思考回路なら何かトンチキな事をしでかす筈だ。ましてや二人に増えたのなら予想できる気がしない。
「〝ザイバツ潰しに大きく関わりました〟と正直に話すだけでチバ=サンとアガメムノン=サンはアッシに支払う首輪を着けたいと思う筈でヤンスから、それを利用して子会社を貰うつもりでヤンス」
「前々から家庭菜園の延長でアクアポニックスをやりたいと思ってたでヤンスから、それと雑用の為にオイランドロイド、ついでにニンジャ向けのトレーニング設備をおねだりしてそれらを取り扱うオナタカミの子会社を貰うつもりでヤンス」
「そう来たか……アクアポニックスってのはよくわからねェが、ザイバツ潰しの報酬なんざ面子との兼ね合いもあって確かに支払いに困るな。お前が設備を買おうとしてみせるだけで、首輪を着けつつ支払いを済ませる為に子会社一つくらいポンとくれそうだ」
二人の尻を揉みながらソニックブームは思案する。しかし、自分から鎖で繋がれに行ってどうしようというのだろうか?
「あッ……おねだりしたトレーニング設備も使ってニンジャ向けジムを運営して、アマクダリのニンジャをこちら側に引き込むつもりでヤンス。新鮮なスシを食べられるニンジャ向けジムとか強いニンジャ程来たがる筈でヤンス」
「シャーテックは大体来るだろうし、オイランドロイドのテストと称してハニトラも仕掛けられるから、ん……末端の切り崩しも仕掛けられるでヤンスね」
「今度はアマクダリか?今からそこまで考えるって事は、直接話したお前達から見てチバ=サン……いや、あのアガメムノン=サンは相当にヤバそうだな」
ソニックブームの手が二人を抱きしめ、そのまま胸に伸びる。無抵抗に受け入れられ、そのまま揉みしだいた。
「ん……まだアッシの勘の範囲だけど、絶対ろくでもない事を考えてるでヤンス。それに……これまでソウカイヤやザイバツの崩壊に深く関わって来たから、〝身内にしたくないけど手元に置いておきたいニンジャ〟とは絶対思われてるでヤンス」
「ふぅ……少なくともザイバツと協定結んでたニチョームは見せしめの為に狙われるし、アッシを始末しようとする時は必ず来ると思うから、想定外の手札で思いっきり殴る準備は絶対必要でヤンス」
「そうだな。それにしても、やる前にしっかり報告できて偉いじゃねェか。俺様からも追加のご褒美をやらないとな。……お前達がインストラクションしてくれたチャドー呼吸があるとはいえ、加減はしてくれよ?」
二人はソニックブームの首筋にキスマークを着けて答えた。
━━━
「オムラの養殖設備はオナタカミで作られました。オムラの製品じゃありません。我らがオナタカミのオリジナルです。下請けとして良いように使われてきましたが、今や巻き返しの時です」
「この手の設備は頑丈なのが欲しいでヤンス」
オナタカミ社の実機確認用の展示プラントを歩く少女と男が一人ずつ。男はオナタカミ社の社員で、少女はクチュリエール本人だ。二人はプラントに面した窓が並ぶ見学用廊下を歩いている。
「頑丈なのがお好き? 結構。ではますます好きになりますよ。さあさ、どうぞ我が社のニューモデルです」
「ワオ……」
廊下から目的のアクアポニックス装置を眺める。魚の養殖設備と水耕栽培設備を組み合わせたアクアポニックスは魚の排せつ物を肥料としてそのまま再利用出来る為、別々に設備を用意して動かすよりもランニングコストが安く上がるのだ。
「シンプルで効率的でしょう? ん、ああ仰らないで。コンソールがタッチパネル、でも今時キーボードやボタンなんて服が引っかかって誤作動しやすいし、特注品で高いわ、わかりにくいわ、ろくな事はない。水槽の深さもたっぷりありますよ、どんなサイズの魚でも大丈夫。どうぞポンプの音も聞いてみて下さい、静かでしょう。余裕の音だ、トルクが違いますよ」
矢継ぎ早に放たれる営業トークにクチュリエールは謎の既視感を覚えながらも圧倒された。どこかで聞いたような言い回しが妙に耳に残る。
「一番気に入ってるのは…」
「何です?」
「信頼性でヤンス」
クチュリエールの発言に気を良くしたオナタカミ社員の口角が上がる。株で儲けて金だけ持った小娘だと思っていたが、見る目は中々あるようだ。
BEEP!BEEP!BEEP!
「すいません、少しの間失礼します」
オナタカミ社員がIRC通信で呼び出される。クチュリエールに一言告げてから応答した。
「はい、オートモです。はい、はい、わかりました……」
オートモが少し話すと通信が切られ、クチュリエールの方を向いた。
「あの……ワタナベ様。特別顧問がお呼びです」
業務報告しながらの前後ってかなりエロい気がします。