親愛なる隣人のさらに隣人   作:九曜の翁

14 / 23
ザ・カミングアウト・ファンタズムⅥ

 僕の名前はマックス・ジョンソン。

 

 ニューヨーク在住の一般市民として振る舞っていた男だ。

 

 妹と家から離れ、ニューヨークへ逃げ込んだ僕はなんでも屋として平和な日々を過ごしていた。

 

 でも、それは偽りの平和だった。

 

 逃げ出した先に平穏なんてなかったんだよ。

 

 妹の来訪が僕にそれを教えてくれたんだ。

 

 だから、僕はもう一度だけ立ち向かう事にした。

 


 

 目の前の光景が信じられない。

 

 死んだ筈の己の父親がそこにはいる。

 

『頑張ったなマックス、お前の側にいてやれなくてすまなかった』

 

 その手に握られる古びた拳銃は、父さんが僕にオールド・メアを受け継がせると決めるまでずっと使い続けていたものだ。

 

『今まで多くの一族の者たちがあの影に飲まれてきた。お前にも聞こえ続けていたんだろう?あの影たちの暗い悪夢へと誘う囁きが。

 ずっと後悔していた…優しいお前にこの重荷を背負わせてしまった事を。だからこそこの時を待ち望んでいたよ。

 

 だから、今度こそお前だけに背負わせはしない!』

 

 全く、本当に驚かせてくれる。

 

 おかげで、ついさっきまで折れかけていた心に再び火が灯った。

 

 僕は何を諦めていたのだろうか?僕がこの影たちを受け入れればより多くの人々に害が及ぶというのに。

 

『父さん、どうやってあの世から飛び出してきたのかわかんないけど。このムカつく老害どもをぶっ飛ばすのに協力してくれるって事で間違いないよね?』

 

『全く、口調が崩れてるぞマックス?よほどこの亡霊どもの行為はお前の逆鱗に触れたらしい。

 とはいえ久しぶりの息子との再会だ!父さん頑張っちゃうぞ!』

 

 あんたの方がよっぽど崩れてるだろ、雰囲気台無しだよもう。

 

 それでも、本当に頼もしい援軍だ。

 

『ダリオ・ジョンソン、一族きっての臆病者…愚かなる裏切り者めが』

 

『マックス、こいつらの相手は私が引き受ける』

 

『父さん?僕も一緒に!』

 

「ねぇ、私の事を忘れていないかしら兄さん?」

 

 なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。

 

「駄目じゃない兄さん、ちょっと耳元で囁かれたくらいで私から目を離しちゃ」

 

『うわっ!?』

 

 慌てて避けると眼前を凄まじい速度で刃が通り過ぎる。

 

 メリアだった。

 

 死なない程度とはいえ、わりと全力で殴ったのになんでそんなピンピンしてるの?

 

『メリア、いい加減大人しくしててくれても良いと思うんだけど』

 

「駄目よ、絶対に駄目、兄さんは私が殺すの、それが無理でも兄さんが私を殺すの、それ以外絶対に認めない!」

 

『マックス、兄妹喧嘩を終わらせてこい』

 

『はぁ…メリア、ちょっと痛いかもしれないけど我慢しろよ!』

 

 殴って駄目ならもうあれしかない!1歩間違えると相手を殺しちゃうから今まで絶対使わなかったけど。

 

「嬉しいなぁ…父さんまで見に来てくれるなんて。これ以上ないくらい最高の瞬間にしましょう?」

 

『悪いけどねメリア、僕にそのつもりはないよ!』

 

 懐から取り出したるは、まるで銃の如き装いの注射器。

 

 所謂『ジェットインジェクター』である。

 

 ちなみに日本だと使いまわしによる感染症が怖いからってあんまり使われていないぞ!

 

『お前注射大嫌いだったよな?お仕置きの時間だ!!!』

 

「えっ?」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけで良かった。

 

 メリアを羽交い締めにし、ジェットインジェクターの引き金を引く。

 

『暫く寝てろ!』

 

「なんだ…やれば出来るじゃない」

 

 メリアは一瞬で気を失った。

 

『マックス!メリア!大丈夫か?』

 

 今度こそ完全に倒れ込むメリアとそんなメリアを支えて膝をつく僕を見て、慌てた父さんが影たちの1人に風穴を開けながら駆け寄ってきた。

 

『うまく行ったよ父さん』

 

 メリアは僕の腕の中ですやすやと寝息をたてて眠っていた。

 

『このジェットインジェクターの中身は僕の血液が変じた幻覚剤を更に濃縮還元した薬液。

 メリアは僕の幻覚剤に強い耐性があるからね、普通の人間ならとっくの昔に気を失ってる量を吸い込んでなお初期症状こそ出たけど倒れはしなかった。  

 

 ただし、それはあくまでただ吸い込んだらの話だ。

 

 今回はこのインジェクターを使って、血管に直接幻覚剤を注入した。

 これ危ないから本当は医者でもない僕がやっちゃいけないタイプのやり方なんだけどね』

 

 経口摂取の場合、薬は内蔵などを通って効果が弱まるが血管に直接注入するやり方ではその段階をすっ飛ばす。

 

 要するにめちゃくちゃ薬が効きやすくなるのだ。

 

 使う予定はなかった。

 

 ニューヨークに向かうまでの道のりで襲ってきたチンピラやギャング相手に散々試してどの程度の量なら人が死なないか試したおかげで普通の人間が大丈夫な量は把握した。

 

 だが、メリアのように強い耐性を持った相手の場合は話が別だ。

 

 耐性の度合いにもよるが個人差が強過ぎてどの程度の量なら気絶させる程度の適量になるのか確信を持てなかったから。

 

『お前が散々長引かせてくれたおかげで、大体の量が割り出せた。

 薬に曝された時間と既に体へ取り込まれた薬の量も計算に入れたから調整もバッチリ』

 

 頑張って良かったぁ!!!

 

『さてと…待たせたなクソッタレの亡霊ども、過去の遺物風情が僕の家族に随分とまぁ粉をかけてくれたみたいじゃないか?

 

 だからさ、オールド・メアの正義をただ他者を傷つけるだけの呪いにまで貶めたその薄汚い面を剥いで、この状況を地獄で大笑いしながら見てるであろうメフィストの所に着払いで送りつけてやる』

 

『うわっ、うちの息子怖っわ』

 

『我々の計画が最早水の泡か。だがマックスよ…お前が生きている限り我らは何度でもお前の元に現れる』

 

 影たちは負けを悟ったのか暗がりの中へ消えようとしていた。

 

『何いい風に終わらせて帰ろうとしてるんだ?逃がすわけないだろ』

 

『なっ!?何故我らを掴める!』

 

『君たち、オールド・メアの紡ぐ幻覚の世界に焼きついた亡霊なんだろう?ならその幻覚自体を操ってる僕自身が君たちを捕まえられないわけがないじゃないか』

 

『何故だ…我らはお前に最上の栄光を!』

 

『僕は最初からそんなもの求めちゃいないんだ。さぁ…私の目を見ろ』

 

 皮肉なものだ。

 

 かつて誰よりも正義に傾倒した者たちが辿る末路が、自分たち自身の信じてやまなかった同じ正義によって罰される事とは誰も思うまい。

 

 おそらく彼ら自体が幻のようなものだからか、本人たちが見ているであろう幻覚がそのまま現実になっている。

 

『オールド・メアの力は罪人を裁くと同時に、今とは違う道を示してやる為の力だ。

 だが、既に死してただただありもしない栄光にしがみついているだけのお前たちに最早道など存在しないのだよ。

 

 ほら、お前たちに迎えが来たぞ?』

 

『やぁマックス、君から呼んでくれるとは嬉しいよ…この者たちは貰っていっても構わないのかね?』

 

 やっぱスタンバってたのかよお前。

 

『構わないよメフィスト。そいつらはあくまで歴代のオールド・メア本人じゃなくて、彼らの正義への執着と残留思念が大元…つまりはそもそも人ですらない』

 

『なる程…では頂いて行くとしよう』

 

 恐らく幻覚の中で何度も顔の皮を剥がされたのであろうオールド・メアの亡霊たち。

 

 そんな亡霊たちにメフィストの冷徹な視線が降り注ぐ。

 

『なんとまぁ哀れな姿だ。私としては諸君を引き取るのはあまり旨味はないのだがね。

 まぁ彼と私の仲だ…年代物ではあるが燃料くらいにはなるだろう』

 

『あり得ない、何故悪魔が此処に』

 

『僕は何故かそいつに気に入られててね?名前をちょっと呼ぶとノリノリでやって来るんだ。

 

 …それではさようなら、過去の亡霊哀れなる遺物たちよ』

 

『やめろぉ!!!』

 

 オールド・メアの亡霊たちは、苦悶の叫びをあげながらメフィストに地獄へと引きずられていった。

 

 これで、漸くオールド・メアという役割に絡みついた因縁全てが漸く終わったのだ。

 

『父さん、もう出てきて良いよ』

 

『びっくりしたぞマックス、お前あんな凄いのと友達なのか?』

 

『あれを友達と呼ぶのは無理があると思うよ父さん、あっちが一方的に気に入ってるんだ。

 問題はメリアをどうするかだね…起きたらまた僕を殺しに来るだろうし』

 

 そう、そこが問題だ。

 

 僕にメリアを殺すつもりはないが、メリアは僕を殺す気満々。

 

 どうしたものか。

 

「あら、別にもう心配する必要はないわよ?」

 

『父さん、僕は今物凄く嫌な予感がする』

 

『奇遇だなマックス、私もだ』

 

 首からギギギと音がしそうなほどゆっくりと振り返ると、そこには物凄く良い笑顔のメリアが立っていた。

 

 いや回復早っ!!!

 

「兄さんも結構容赦無くやれるんじゃない?満足したから暫くは殺さないであげる。

 でもね、あんまり甘い事ばかりしてるとまた殺しに行っちゃうよ?だからもっともっと私を満足させてね兄さん。

 

 それじゃ、また会いましょう?殺したいくらい愛しい…私の兄さん」

 

 慌ててメリアを掴もうとしたが、その手は空を切った。

 

 何て事だ…妹を殺さずに済んだけど今度はめちゃくちゃ面倒なストーカーになられちゃったよ。

 

『マックス、私もそろそろ限界らしい』

 

 父さんの体は足元から少しずつ消え始めていた。

 

『最後まで情けない父親ですまないマックス、私がもう少しメリアの教育を頑張っていれば』

 

『あぁ…気にしなくて良いよ父さん。これは僕の甘さが招いた事だから。

 それより、完全に消えちゃう前に何か言いたい事はある?』

 

『マックス…その、なんだ。ちゃんとご飯を食べて友達と仲良くするんだぞ?』

 

『なんだよそれ、でも父さんらしい』

 

 なんて懐かしいのだろう。

 

 久しぶりに家族が元に戻ったみたいだ。

 

 でも、結局はそれも一瞬なんだね。

 

『マックス、最後に1つだけ』

 

『なんだい父さん』

 

『もし今度お前が何か悩んだり困ったりした時はな、迷わず自分の心に従え。

 お前はちゃんと判断が出来るし、何をしちゃいけないかもわかる子だが、致命的に自分への信頼がなさ過ぎる。

 

 偶にはもっと自分を信じてやりなさい。

 

 …じゃあなマックス。あまり私が必要な時が来ないと良いのだが、メリアがお前に迷惑をかけそうな時は迷わず私を呼ぶんだぞ』

 

 父さんは手を振りながらまた幻の中へ帰っていった。

 

『はははっ、やっぱり父さんは立派だなぁ』

 

 まだまだあの背中には追いつけそうにないや。

 

『でもわかったよ父さん。僕は僕なりに頑張らせて貰う』

 

 んじゃまずは…

 

『ニューヨークに帰って、ピーターやマイルズに心配かけたの謝んないとな』




【登場人物紹介】

『メフィスト』

・多分ポップコーン食いながら今回の件の成り行きをずっと見てた人。
・マックスの言う通りいつ呼ばれても良いようにスタンバってが期待してたシチュエーションじゃないので若干がっかりしている。
 それはそれとして悪霊もどきはちゃんと持って帰った。

『メリア・ジョンソン』

・多分一番良い空気吸ってるヤバい女、お父さんと一緒にお兄ちゃんの容赦ない所を見れたのでご満悦。
・暫くは大人しくしてるが退屈になったらまたちょっかいをかけに来るストーカーと化した(お前はマックス版グリーンゴブリンかよ)

『ダリオ・ジョンソン』

・息子と会えて嬉しかったが、重いもの全部背負わせて死んじゃったのをずっと後悔していたので全力でマックスをサポートした。
・ちなみに今回は使っていなかったが生前は変形する仕込みガントレットブレードとかも使ってスタイリッシュアクションしてた。
 息子に自分のはっちゃけてる姿見せたくなくて今回は使わなかった(なお使う際は悪人の持ってる武器だけを破壊していた)

『影たち』

・今回一番酷い目にあったが、今までやって来た事がカスの所業なので致し方なし。
・漫画とかでよくある『死なない敵を倒す時は封印したりする』をMARVELの文脈でやったら『悪魔に引き渡す』となった。

『マックス・ジョンソン』

・圧 倒 的 被 害 者 ! ! !

どうもオリキャラメインの話が一部読者から不評らしいので該当エピソードの大幅修正(または削除)アンケートを実施します。下記のアンケートの結果によっては該当エピソードの削除及び関連するエピソードの大幅見直しもあり得ます(主にザ・カミングアウト・ファンタズム編)

  • ザ・カミングアウト・ファンタズムⅢ〜Ⅵ
  • ザ・カミングアウト・ファンタズム全話
  • 変更無し
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。