ロリ爆乳(虚乳)系魔法少女 パイ☆ズリーシャ!日曜朝七時より放送予定! 見てね~! 作:性の悦び
「貧弱! 貧弱! 貧弱ゥ!」
アクメンダーの集団、そのど真ん中で桃色の影が踊る。
右から迫る戦闘員の顔面へ拳を叩き込み、その反動のまま身体を回転。背後から襲いかかってきた一人の顎を蹴り上げる。
さらに倒れ込んできた戦闘員の腕を掴むと、そのまま勢いよく振り回した。
「イィィィィィィッ!?」
哀れな戦闘員。つい数秒前まで正義の魔法少女を取り囲む悪の尖兵だった彼は、今や仲間を薙ぎ払う人間鈍器へと早変わりである。
拳で、脚で、頭で。
そして時にはアクメンダーそのものを武器として。
桃色のツインテールを華麗になびかせながら、パイ☆ズリーシャはとても可憐な魔法少女とは思えない残虐ファイトを繰り広げていた。
魔法? そんなものは必要ない。
人は、殴れば死ぬ。それは例え、アクメンダーの戦闘員であっても関係ないのだ。
「イッ……」
やがて最後に残った一人が、震えながら後退する。
周囲には、背骨を引き抜かれた者、頭蓋を握り潰された者、頭が180°回転している者、頭から地面に突き刺さっている者、武器として散々振り回され、人としての原型を最早留めていない者。そういった仲間たちだった者が、累々と転がっていた。
逃げなければ。本能がそう告げている。
しかし、もう遅い。
パイ☆ズリーシャは満面の笑みを浮かべ、その肩へぽん、と優しく手を置いた。
「はい、私の勝ち! 何で負けたか、明日までに考えておきなさい!! まあ、あんたらに明日は来ないけど!」
「イッ──」
轟音。
何が起きたのかは、あえて語るまい。
ともかく、これにて本日のアクメンダー討伐は無事終了。
正義の完全勝利である。
そうして、パイ☆ズリーシャが今日も今日とてアクメンダーと
一陣の風が吹く。
先ほどまで漂っていた粉塵が、一方向へ流されていく。
「……ん?」
不意に、パイ☆ズリーシャが空を見上げる。
何かが落ちてくる。
いや、違う。降りてくるのだ。
白雪のような純白を纏った、一つの影が。
それは空中で一度身を翻すと、瓦礫の頂へ軽やかに着地する。
衝撃で砂埃が舞い上がり、その向こうに人ならざる輪郭が浮かぶ。
「あんたが、パイ☆ズリーシャね」
女の声だった。
砂埃が晴れ、その姿が鮮明に映し出される。
頭に生えた一対の犬耳。
前方へ伸びた細長いマズル。
全身を覆う毛皮。
背後で悠然と揺れる、ふさふさの尻尾。
そして──五対の包容力。
それはまさに圧倒的で、暴力的でさえあった。そびえ立つ10のそれは、まるで日本の象徴たる富士山のように堂々と凛々しく、この母なる星のごとき美しい曲線を描いている。
人と獣、その両方の特徴を併せ持つ異形の魔法少女。
パイ☆ズリーシャは、その姿を頭の先から足元までじっくり眺めた。
そして。
「誰かしら。もしかして貴女、私のファン? サインは一筆一億で承ってあげるけど」
何の疑いもなく、そう結論づける。
「誰が乳が二つしかないあんたなんかのファンになるのよ。アタシの名前は、ケモ♡ナード」
白い魔法少女は、腰へ手を当てて胸を張る。
「副乳系魔法少女、ケモ♡ナードよ」
堂々たる名乗りだった。
少なくとも本人はそう思っている。
「最近、やたら調子に乗ってる新入りが居ると聞いて見てきてみれば……あんた、生意気ね」
パイ☆ズリーシャのこめかみが、ぴくりと動いた。
「はん、生意気なのはどっちかしら。おっぱいってのはね、数が多けりゃ良いってもんじゃないのよ。そんなみっともなく十個もくっつけて、恥ずかしくないの? まるで痴女そのものじゃない。慎ましさを覚えなさいよ変態」
自分のことを棚どころか天高く放り投げた発言である。だがパイ☆ズリーシャの表情は真剣そのものだった。
彼女にとってこれは煽りではない。
思想である。
「あら、今は量の時代よ。あんたのその下品な風船みたいな、デカければそれで良いなんて時代は終わったの。そもそも、それ魔法でデカくしてるだけでしょ? なら、虚乳じゃない」
ケモ♡ナードも一歩も引かない。
大きさか、数か。
二人の間に、目には見えない火花が散る。
「バカね。それが良いんじゃないの。最初から大きいなんてのはね、邪道なのよ。持たざる者が、あらゆる手段を講じて、持つ者へと至る。それが良いんじゃあないの。それが例えハリボテでしかない、ただの虚構だったとしても、その惨めさがよりおっぱいを彩るスパイスとなるのよ」
パイ☆ズリーシャは滔々と語る。
その眼には一片の迷いもない。おそらく本人の中では、長年思索を重ねて辿り着いた哲学にも等しいのだろう。
「…………」
「…………」
二人の間を風が吹き抜ける。
相手の主張を理解しようとはした。
理解した上で。
「平行線ね」
「ええ、平行線ね」
二人は同時に結論へ辿り着いた。
価値観が違う。
思想が違う。
どちらも譲る気はない。
ならば。
「「……殺すか」」
何故かそうなる。
「「ちょっと待つ
ほぼ同時に二つの小さな影が飛び出してきた。
一方はパイ☆ズリーシャの傍らへ。
もう一方はケモ♡ナードの肩口へ。
それぞれの魔法少女に付き従う『マスコット』たちであった。
「ちょっと、ハメ鶏くん。今からあのいけ好かない駄犬糞女をミンチにしてカラスの餌にするところだったのに、止めないでくれない?」
爽やかな笑顔で吐く台詞では断じてない。
「そうよペェモン。あんたら『マスコット』普段変身中は無言貫いてんだから、黙ってなさいよ」
ケモ♡ナードの傍らに浮かぶのは、ペェモンと呼ばれた犬のような『マスコット』だった。
白い体毛に覆われた小さな身体。頭上には輪のようなものが浮かび、首元には星空を切り取ったかのような黒いマフラーを巻いている。
どうやらケモ♡ナード側も、殺し合いを中断させられたことが不満らしい。
「そういう訳にはいかないハメ」
ハメ鶏くんが、珍しく真面目な顔をする。
「同じ魔法少女同士で殺り合うのは不毛すぎるモン。これは流石のオイラも止めるモン」
ペェモンも同意する。
二匹の間には、少なくともこの件に関して意見の相違はないようだった。
「しょうがないでしょ。分かり合えないなら、もう殺すしかないのよ。暴力は、人類が問題解決を図る上で最も多用されてきた立派な手段なのよ!」
パイ☆ズリーシャが胸を張る。
その顔は、まるで人類史の真理を説く賢人のようであった。
「お前本当に文明人かモン?」
「ちょっとハイになれる成分が出すぎちゃったハメね。アドレナリン、ドバドバハメ」
ハメ鶏くんは冷静に分析した。
どうやらパイ☆ズリーシャの現在の状態は、本人の思想というよりも、変身プロセスによる影響も大きいらしい。
だからといって、普段の彼女がまともかと言われれば、それはまた別の話であるのだが⋯⋯。
「たかだか脳内物質に支配されて簡単にコントロールされる人類は不便モンね」
「同感ハメ」
魔法少女二人を差し置いて、マスコット同士の間に妙な共感が生まれていた。
「アタシとしても、不満なんだけど? この振り上げた拳は誰に振り下ろせば良いのよ?」
ケモ♡ナードは既に拳を構えたまま。
素直に下ろせば良いのだが、そうは問屋が卸さない。一度振り上げた拳は、血を見ないと下ろすことは出来ないのだ。難儀な性質である。
「間違ってもオイラたちに振り下ろすのは止めて欲しいモンね」
「なんで魔法少女ってヤツはどいつもこいつもこうなんだハメ? ちょっと血の気が多すぎるハメ」
「変身プロセスが悪さしてるモン。ちょっと技術部に進言してみるモン?」
「でも、ハイにして理性麻痺させないとコイツらまともに戦わないハメ。やっぱ倫理観がダメハメ。契約段階で倫理観ぶっ壊す処置するしかないハメね」
「それ結局同じ展開にならないモン?」
二匹は真剣だった。
会話の内容は、人間が聞けば到底看過できないものであったが。
「人類は難しいハメ……」
ハメ鶏くんが遠い目をしたその時、背後から轟音が響いた。
「あっ殺り始めたハメ」
見れば、つい数秒前まで会話に参加していたはずのパイ☆ズリーシャとケモ♡ナードが、既に互いへ殴りかかっていた。
待つという概念がない。
「これで片方が死んだりでもしたら色々面倒臭いハメ。止めるハメ」
「どうやって? オイラはあそこに入り込みたくないモン」
二匹は戦場へ目を向けた。
吹き飛ぶ瓦礫、響き渡る罵声。
明らかに洒落では済まなそうな威力で交錯する拳。
再び互いを見る。
「…………」
「…………」
そして、ほぼ同時に結論を出した。
「「……好きなだけ殺らせる
責任放棄である。
もっとも、あの中へ飛び込めと言われれば、誰だって躊躇はするだろう。
ハメ鶏くんはしばらく二人の殺し合いを眺めていたが、やがて何かを思い出したように小さく手を叩いた。
「とりあえず、実況スイッチはオンにしとくハメ。熱いナレーションは魔法少女の花ハメからね」
そしてぽちりと、何かのスイッチが押された。
次の瞬間。
どこからともなく、無駄に熱く、無駄に暑苦しく、そして恐ろしくテンションの高い声が響き渡った。
「ヒャアッ! もう我慢できねぇ!! 野郎、ぶっ殺してやるァ!!!」
とうとう我慢の限界を迎えたパイ☆ズリーシャ!
辛うじて残っていた清純派美魔法少女の面影をかなぐり捨て、満面の笑みでケモ♡ナードへと襲いかかる! キャットファイトの始まりだァ!!
「あんた人格変わりすぎ。なんかヤバいブツでもやってんのっ!?」
「虐殺を少々嗜んでおりますの!! 食らいなさい! 必殺の『
突然お上品な口調へ戻ったパイ☆ズリーシャの胸部が、凄まじい勢いで膨張を開始する!!
膨らむ! 膨らむ!! まだ膨らむ!!!
デカァァァァァいッ!! 必殺の『
ねぇパパ、あのおっきなお山はなぁに? (裏声)
ハァイ、マイスィートドーターあれはね、男の夢だよ。
そんな会話が幻視される光景だァ!!
「うおっデッカ……じゃなかった。はん、そんなの、狙ってくれと言ってるようなもんよね!! 『
しかしケモ♡ナードも負けていない!
『
情報によると、一つ一つが核爆発61発分のエネルギーを秘めているとの事です。
「我が爆乳にそのような猪口才な攻撃が効くと思うてか!!」
進む進む進む! 僕らの夢乗せて、おっぱいミサイル突き進むゥゥゥ!!
パイ☆ズリーシャ、それを見ても一歩も退かない! 媚びない! 省みない!!
巨大化した胸を盾として、真正面から迎撃する構え!
これぞおっぱいファランクス! いよォお! のこった、のこった!
だがしかァし!!
「ヴァカめ! このあたしがそんなあからさまな囮、狙うわけないでしょうが!! 狙うは本体!!! それと、あんたいい加減口調安定させなさい! TVの前のちびっ子が困惑するでしょうが!!!」
軌道変更!
ミサイルは巨大な標的を目前にして急旋回!
その脇を抜け、無防備となったパイ☆ズリーシャ本体へ一直線に突っ込み、大☆爆☆発!!
た~まや~!!! 見事な花火が打ち上がりました!!!
「ぐっ、正論とミサイルでダブルにダメージ!! 貴女、なかなかやるわね!!!」
物理攻撃だけではない!
先ほどから迷子になっていたキャラクター性まで的確に攻撃され、パイ☆ズリーシャに二重のダメージ!
これは効いたァ! 大ダメ〜ジ!!! 痛恨の一撃!
「なら……本当ならシーズン2辺りにお披露目予定だった、新必殺技を見せるしかないわね!!」
なに!?
ここでまさかの新必殺技! まだシーズン1だというのに、早くも強化技を前倒しで投入するというのか!?
そんな情報、私のデータには無ァい!!
「食らいなさい! 乳房山に山籠りして編み出したという設定にする予定だった、パイ☆ズリーシャの奥義(予定)!!!」
修行すらまだしていない!
そもそも、乳房山にも行っていない!
設定も予定! 奥義も予定!
しかし技だけは既に完成している!!
何故って? 最初にある程度どんな事するのか考えるのは楽しいだろ!? つまりはそういう事だ!!
「『
炸裂する奥義!
瞬間、パイ☆ズリーシャを中心として凄まじい魔力が膨れ上がる!
膨張! さらなる膨張!!!
それはもはや一人の魔法少女が放つ魔法という規模を超え、周囲の空間そのものを呑み込まんばかりの勢い!!
乳房とは宇宙!
膨張とは創世!
ならば乳房の膨張とは、すなわちビッグバン!
理屈はよく分からない!
だが勢いだけは開闢級!!
おっぱい爆弾炸裂だァ!!!
「クソッ! 『
対するケモ♡ナードも迎撃!
乳首ーム発射ァ!!!
十条の超高圧流が一斉に放たれ、迫りくる膨張魔法を切り裂かんと交錯する!
膨張と切断!
爆乳と多乳!
二つの相容れぬ乳思想が、今ここに真正面から激突した!! 勝手に戦え!
轟音! そして閃光!
吹き荒れる衝撃ィィ!!
そして──
「ク、ソッ……」
砂煙の中から聞こえてきたのは、ケモ♡ナードの声!
勝負ありッ!
激闘を制したのは、パイ☆ズリーシャ!
堂々とした立ち姿!! その姿を讃えるため、どこからかファンファーレが聞こえてくる気がします!
「ふん。貴女の敗因はただ1つ。主役は勝つのよ。それが世界の理、つまりはおっぱい!!! おっぱい最高! おっぱい最高! あなた達もおっぱい最高と叫びなさい!!」
おっぱい最高! おっぱい最高!! おっぱい最高!!! おっぱい最高ゥ!!!!
「気は済んだハメ? ブッ飛んでないでもう行くハメ。もう尺ねぇハメ」
ここでハメ鶏くんから無情の進行指示!
水を差すなよクソ鶏が、何様のつもりじゃワレェ?
「うげぇ、腕取れてるモン。リョナは趣味じゃねーモン」
そして敗者側では、ペェモンが露骨に顔をしかめています。
どうやら先ほどの激突で、ケモ♡ナードはなかなか派手な負傷をしてしまったようですね。
専門家として、どう見ますか? 私さん。
えぇはい。復帰は絶望的かと思いますね、はい。
だそうです。
「そんなん唾付けときゃ次週には治ってるハメ。基本、魔法少女はギャグ時空の住人だからだいたいどうにかなるハメ」
見事に見立てがハズレました! やはり素人の見立ては信用できませんな!!
そして、なんと頼もしい世界法則!
負傷は次週まで持ち越さない! 連続性など何のその! 多少の矛盾は勢いで誤魔化せ!!
それこそがギャグ時空に生きる者の特権なのです!!
「それはそれとしてリョナは無理モン。NTRと同じくらい無理モン」
「めんどくせぇハメねぇ……カァッ、ペッ」
ハメ鶏くん、応急処置!
ぺっ、と痰唾吐きつけたァ!
「よし、これで良いハメ」
良いらしい。
医学的根拠など一切ないが、本人がそう言うのでたぶん良いのでしょう!
「ところでハメ鶏くん、そろそろこの実況切るモン。いい加減うっせぇモンよ、これ」
「忘れてたハメ。というかキミ、注文多すぎるハメ。料理店ハメか?」
なるほど。
どうやら先ほどから戦場の状況を逐一、熱く、激しく、お伝e
「ハメ鶏くん、いつまでそんなボロ雑巾に構ってるの? いい加減、行くわよ。そろそろエンディングの時間なんだから」
「う、腕が……腕が、と、取れて……おっ、俺、なんてことを……」
変身が解けた瞬間、さっきまでどうでもよかったはずの現実が、まとめて脳味噌へ押し寄せてきた。
ケモ♡ナードの腕。正確には、俺が吹き飛ばしたケモ♡ナードの腕。
いや、俺じゃない。パイ☆ズリーシャがやったんだ……パイ☆ズリーシャも俺なんだけど。
駄目だ。考えれば考えるほど気持ち悪くなってくる。
ついさっきまでの俺は、他人の腕を吹き飛ばしておきながら、「主役は勝つのよ。それが世界の理、つまりはおっぱい!」などと高らかに勝利宣言していたのである。
何やってんだ俺。
「あ~あ、完全にバッド入ってるハメ。やっぱ変身プロセスに問題ありハメね。記憶処置でどうにかなるハメか?」
俺の横で、ハメ鶏くんが妙に冷静な声を出した。
人が他人の腕を吹き飛ばした罪悪感で吐きそうになっているというのに、こいつの反応はまるで機械の不具合でも見つけたかのようだった。
「おい、ハメ鶏くん……あれ、おっ、俺のせいじゃないよな? アイツが喧嘩売ってきたせいだよな? 俺は悪くないよな?」
俺は縋るようにハメ鶏くんを見る。
別に、正しい答えが欲しいわけじゃない。ただ「アキラは悪くないハメ」と言ってほしいだけなのだ。それだけで、それだけで今夜は眠れる気がした。
「ハーメ……諸説あるハメが、今回は判定勝ちハメ。勝者の特権ハメね」
「つ、つまり?」
助かった。
『勝者の特権』なんて素晴らしい言葉なんだ。
勝った者が正義。歴史は勝者が作る。
そういう話だろう。
だから、俺は悪くない。
「記憶飛ばして無かったことにするハメ」
「……は?」
思っていた勝者の特権と違った。
そう言ったハメ鶏くんの身体から、棒がにゅるりと伸び始める。
いや、それは棒と言うにはあまりにもご立派すぎた。大きく、分厚く、長く、そしてグロテスクすぎた。
それはまさに、御立派様だった。
見た瞬間、身体の奥底に眠っていた危機管理本能が一斉に警鐘を鳴らす。
逃げろ、あれは駄目だ。記憶とか罪悪感とか、そういう問題じゃない。人として守るべき何かが危ない。
そのそそり勃つ御立派様を携えて、ハメ鶏くんは俺ににじり寄る。
「……おい」
ハメ鶏くんが、一歩。
いや、一匹分だけ俺へ近づいてくる。
俺は一歩下がった。
ハメ鶏くんが一歩近づく。
また下がる。
また近づく。
近づく度に、御立派様がブルンと雄々しく揺れ動く。
ハメ鶏くんは、笑っていた。
なんで笑ってんだこいつ。
「やっ、やめ……やめろ! 俺の側に近寄るなああ────ッ!」
アーッ
──数分後。
どうにか人間として最後の一線だけは守り抜いた俺は、壁際で膝を抱えていた。
何があったのかは語りたくない。
いや、何もなかったんだけどね? でも気持ちの問題。
「本当に記憶処置しなくて良いハメ? 天井のシミを数えてる内に終わる簡単な作業ハメよ? 痛いのは最初だけハメ。慣れれば気持ちよくなってくるハメよ」
やめろ。
説明を重ねるたびに胡散臭さが増していく。
なんで記憶処置の説明がそんな言い回しになる? 語彙が終わってる。こいつの脳はチ○ポに付いてんのか?
「二度と俺にあんな不浄を見せるな。俺の貞操に比べたら、アイツの腕なんてクソ食らえだ」
さっきまであれほど悩んでいた罪悪感が、綺麗さっぱり吹き飛んでいた。
人間というものは不思議だ。
より大きな危機に直面すると、それまで悩んでいたことなんて急にどうでもよくなるらしい。
ケモ♡ナードには悪いが、たかだか他人の腕一本より、自分の貞操の方が大事である。
恐らく、世の総意だろう。
「そうハメか。我慢出来なくなったら何時でも言うハメ。ホ別5でやってあげるハメ」
「……金取んのな」
色々言いたいことはあったが、それをなんとか飲み下す。
「記憶処置薬も安くないハメ。世知辛いハメね」
金取る側が言うな。
とある裏路地で、一人の青年が蹲っていた。目も覚めるような、中性的な美青年だった。
もっとも、その美貌を堪能するには、いささか状況が悪い。
服は土埃と血にまみれ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。そして何より、片腕が今にも取れそうな有様である。
いや、逆に考えれば、美青年という言葉から連想される「儚さ」というものを、これ以上ないほど物理的に体現していると言えなくもない。
「う、うぅ〜痛いよ〜血が出てるよ〜腕取れかけてるよ〜」
そこには、つい先ほどまで威勢よくパイ☆ズリーシャと殺し合っていた面影など、もはやどこにもない。
アスファルトの上にへたり込んだ青年は、取れかけた腕を押さえながら情けない声を上げていた。
変身中は気にも留めていなかった痛みが、正気に戻った途端、一斉に押し寄せてきたらしい。
対するペェモンは、そんな契約者の姿を見ても心配する様子ひとつ見せない。
むしろ、先ほどから延々と続く泣き言にうんざりした様子で耳を塞いでいた。
「ミズキ、いい加減うっせーモン。応急処置は済んでんだから、もうやれることなんてモル……不思議な薬打つくらいしかないモン」
何かを言いかけたが、すぐに言い直した。
世の中には、知らない方が幸せなこともある。
「それ、打つとどうなる……?」
ミズキが涙目のまま尋ねる。
「鎮痛作用があるモン」
「欲しい!」
即答。
目が、早くそのお薬頂戴と爛々と輝いている。
「あと、便秘と悪心、嘔吐。それと眠気に、過剰摂取したら呼吸抑制が起こるモン」
「うん?」
ミズキの表情が、わずかに曇る。
「そんで依存性と離脱症状もあるモンな」
「それ、モルヒ「不思議な薬モン」⋯⋯」
食い気味な否定である。
「余計なこと言うなモン。下手したらしょっ引かれるモン」
ペェモンは周囲を警戒するように、きょろきょろと辺りを見回した。
いったい、何を恐れているのだろうか。
恐らく、黒と白の車に乗った国家公務員辺りだろう。
少なくとも、つい先ほどまで血が飛び散る殺し合いを眺めていた時よりも真剣である事だけは確かだ。
「契約者になんてもん……イタタッ……」
文句を言おうと身体を起こした瞬間、傷口に鋭い痛みが走ったのだろうミズキが、僅かに蹲る。
「あんま興奮すんなモン。傷開くモン」
「興奮させるようなこと言ったペェモンが悪いんじゃないか……」
「オイラは悪くないモン。お前が勝手に興奮しただけモン。発情期の猫じゃあるまいし、少し大人しくしてるモン」
ペェモンは呆れたように言った。
「ボク、犬派なんだけどなぁ」
「知ってるモン。実家の飼い犬に欲情してるヤベーやつモン」
「なっ、ボク達の関係をそんな下賤な言葉にするのはやめてくれないかなぁ!? ボク達の愛は、そう! プラトニック! プラトニックな愛なんだ!!」
腕の痛みも忘れたかのように、ミズキは声を荒らげた。
本人にとっては、どうやら非常に重要な問題らしい。しかし、ペェモンにとっては心底どうでもいい問題であるようだった。
「オメーのケモ趣味と複乳趣味、どっちが先だったのか分かんねーモン……卵が先か、鶏が先かモン……」
ペェモンは遠い目をした。
契約者の趣味嗜好について考察することが、果たして『マスコット』として正しい仕事なのかは分からない。
だが彼ら『マスコット』は、契約者の願望や趣味嗜好と密接に関わる存在である。考えたくなくとも、考えざるを得ない時があるのだ。多分。
「愛とは、そういうものさ……痛い……ポチに会いたい……」
ミズキはうっとりと遠くを見つめた直後、傷口を押さえて再び呻いた。
ペェモンは数秒ほど、無言でその姿を見つめる。
そして、心の底から理解できないものを見るような顔で一言。
「マジでキショいモン」
ミズキの返事はなかった。
ただ痛みに耐える情けない呻き声だけが、薄暗い裏路地に虚しく響いていた。
「「唐突な、次回予告のコーナー
「ちょっと、なんで二話目から次回予告始めんのよ。そういうの、普通は一話目からやるもんでしょ」
「仕事中に唐突に思いついたからしゃーねーハメ」
「そう、ならしょうがないわね!」
「もういいハメね? では、ごほん⋯⋯⋯大変ハメ大変ハメ!!」
「わーどうしたのーハメ鶏くん。そんなに慌ててー」
「棒読み止めるハメ。じゃなくて、先週、満を持して新OP出したハメな?」
「そうね。派手に燃える国会議事堂をバックに、私がダンスを踊る感動的なオープニングよね」
「あれ、ドチャクソ炎上してるハメ」
「ぬわぁーんですってー!!!!」
「というわけで、打ち切りにならないように日和った
「任せなさい!! どっちも木っ端微塵にしてあげる!!!」
「「次回、『マッチポンプは幸せの調べ』次回も
※番組の内容は予告なく変更される可能性があります。