ロリ爆乳(虚乳)系魔法少女 パイ☆ズリーシャ!日曜朝七時より放送予定! 見てね~! 作:性の悦び
薄暗い大広間。
そこには、四十七人もの人影が、床のタイル目地に狂いなく整然と並んでいた。
アクメンダーが長い年月をかけ、その場のノリと勢いだけで無計画に増築し続けてきた幹部集団の面々である。
本来なら四十八人。
そのうち一人──十二神将が一角、アクメン・ラーはつい先日、不名誉の殉職をした。
理由については、あまり詳しく触れない方が彼の名誉のためだろう。
ドラム缶と生コンの記憶は、墓場まで持っていくべきなのだ。
やがて、大広間の最奥にある重厚な両開き扉が、一切の軋み音を立てずに開く。
現れたのは、一人の女だった。
床を擦るほどの艶やかな長い黒髪を揺らし、厳かな法衣に身を包んだ女。
禁欲の象徴であるはずの衣の上からでもありありと窺える、暴力的なまでに豊満で禍々しい肉体の曲線が、その場にいる者たちの視線を否応なしに引き寄せる。
彼女が姿を見せた瞬間、四十七人全員の背筋が、まるでピアノ線で吊り上げられたかのように直立する。
そして、一分の狂いもなく申し合わせたように一斉に頭を垂れた。床に額が激突する鈍い音が、儀式めいて響き渡る。
「「「「「「お久しぶりでございます。アクメル様」」」」」」
アクメル。
悪の組織アクメンダーにおいて、その名を知らぬ者は一人としていない。絶対の頂点にして、組織最大の災害。
女は壇上から集まった面々をゆっくりと見渡すと、淑やかに、春の陽だまりのように穏やかな笑みを浮かべる。
「本日、皆様をお呼びしたのは他でもありません」
鈴を転がすような、耳に心地よい柔らかな声。
柔らかいのだが。
何故だろう。四十七人のうち何人かの毛穴が開き、その一言だけで全身を小刻みに震わせた。本能が、生存限界アラートをけたたましく鳴らし始めている。
「アクメンダー十二神将が一人、アクメン・ラーが敗れました」
ざわ、と僅かに空気が揺れる。
当然、全員が把握している事実だった。だが、こうして彼女自身の口から改めて告げられると、不思議と嫌な予感しか湧いてこない。死刑台の階段を一段ずつ登らされている感覚に近い。
「これを受けて、
沈黙。
一瞬、誰もその言葉の意味を脳内で処理できなかった。
いや、理解した瞬間に己の存在意義が蒸発してしまうため、防衛本能が理解を拒絶した、と言った方が正しい。
「今思えば、十二神将だの十傑だの八部衆だの七武神だの六仙歌だの五虎将だのは必要ありませんでした」
必要ありませんでした。
まるで部屋の隅に溜まった埃を掃き出すかのような、随分と軽やかな宣告である。
なお、その可憐な一言で十数年分の功績と存在価値を全否定された者、総勢四十七名。人員整理にしては、あまりにも豪快すぎるコストカットであった。
「しっ、しかし我々を解体すれば、あの頭のおかしい連中に対抗する事は……」
張り詰めた静寂を破り、勇気ある一人が、震える声で異議を唱えた。
周囲の者たちが、息を呑んで一斉に彼を見る。
尊敬ではない。憐憫である。
ああ、こいつ死んだな。
視線だけで全員の辞世の句が揃っていた。
案の定、アクメルの笑みが、僅かに──三日月のように深くなる。
「今、
「そ、そんな事は」
男の顔から、文字通りサーッと血の気が引いていく。
そんなつもりはなかった。事実を口にしたまでで、決してトップを侮辱する意図などなかったのだ。
だが、この絶対君主の前において、発言者の意図など塵芥ほどの価値もない。解釈する者が偉ければ、その被害妄想めいた曲解こそが唯一絶対の真実となるのである。
「…………感度3000倍の後、イキ地獄へ叩き落としなさい」
「ひ、ど、どうか、どうか、お慈悲を!」
男が勢いよくその場に膝をつき、額を床に叩きつける。
必死だった。生まれてからこの方、これほどまでに生への執着を燃やした瞬間はないというほど必死だった。
アクメルは、床の染みを見るような瞳でそんな男をしばらく見下ろし──。
「ならば……」
ほんの僅かに、哀れむように目を細めた。
男の顔に、暗闇の底で掴んだ蜘蛛の糸のような、一瞬の希望が差す。
「感度300000000倍にして、イキ地獄へ」
桁が増え、希望は潰えた。
「連れてゆきなさい」
「イーッ!」
「お、お慈悲〜」
機械仕掛けのように左右から現れた戦闘員たちに両脇を抱えられ、男はずるずると引きずられていく。床に残る爪痕。大広間の重い扉が完全に閉ざされるまで、耳を塞ぎたくなるような悲痛な命乞いが響き続けていた。
残された四十六人は、もはや呼吸の音すら立てない。
笑ってはいけない。
喋ってもいけない。
目立ってはいけない。
存在感を消せ。気配を断ち、今だけは大理石の床と同化しろ。
誰もが心の中で、必死に無機物になりきろうと念じていた。
だが、独裁者は退屈を許さない。
「笑えますね。あなた達も笑いなさいな」
理不尽の極致のような無理難題が、頭上から降ってきた。
「「「「「「はっ、はははは」」」」」」
引き攣り、裏返り、喉の奥から絞り出された乾いた笑い声が、大広間を異様に満たす。
誰一人として楽しくない。面白くもない。むしろ今すぐ母親の胎内に帰りたい。
それでも笑う。顔筋が痙攣しようが、瞳に涙が滲もうが、笑顔の形を維持し続ける。命が掛かっているのだから当然である。
アクメルは、そんな彼らの必死の醜態を、どこか値踏みするようにしばらく眺め──。
すっと、氷が張るように一切の笑みを消した。
「なにを笑っているのですか?」
終わった。
正解ルートなど、最初からこの世のどこにも用意されていなかった。
「連れてゆきなさい」
「イーッ!」
「「「「「「お、お慈悲〜」」」」」」
阿鼻叫喚の悲鳴と共に、今度はまとめて何人もの重鎮たちが、ベルトコンベアのように手際よく連行されていく。
笑わなくても駄目。
笑っても駄目。
恐らく無表情を貫いても、泣き喚いても駄目だっただろう。
扉がバタンと無慈悲に閉ざされ、広大すぎる部屋に、アクメルただ一人だけが残される。
「はぁ~⋯⋯どうして、
額に優美な指を添え、アクメルは心底うんざりしたように深い溜息を吐き出すのであった。
「は、は、は、はっ」
走る、走る、走る、走る。
荒い息を吐き、どこか鉄の味がする唾液を呑み込みながら、薄暗い路地を全速力で走る。
路地を右に左に曲がり、時折脇に置いてあるゴミ箱を引き倒して、気休め程度の妨害をする。
それでもなお、追っ手を撒くことは出来ない。
「待チナサーイ! アナタハ、アクメンダーノ戦闘怪人ニナルトイウ栄誉ニ与レルノデース! ナゼ逃ゲルデース!!」
「逃げるに、決まってるでしょッ!」
追っ手の身勝手極まりない主張に、荒い息の合間から思わず叫び返す。
「アナタホド性癖ガネジ曲ッテイソウナ逸材ナラ、必ズ最強ノ怪人ニ成レマース! コノ私ガ保証スルデース!」
「バッカじゃないの!?」
角を曲がる。
再び角を曲がる。
もう一度曲がる。
曲がる、曲がる、曲がって──
「…………」
行き止まり。
「うっそでしょ……」
女は呆然と、眼前にそびえるコンクリートの壁を見上げる。
高さ、およそ三メートル。
越えられなくはない。
そう、運動神経が良く、身軽で日頃から身体を鍛えている人間ならば。
「…………」
⋯⋯⋯⋯⋯腹を見る。
「クソが」
現実は非情であった。
背後からざっざっざっと、複数の足音が近づいてくる。
「追イ詰メマシタデース!」
「イーッ!」
「イッ!」
「イーッ!!」
振り返れば、路地の入口を塞ぐように黒ずくめの戦闘員たちが並んでいた。
その中央には、白衣と丸眼鏡をかけた、今時こんな格好の博士いる? という出で立ちの、コッテコテの博士スタイルの姿をした男。
「サァ、大人シク来テクダサーイ!」
「嫌よ」
「ダイジョーブ! 手術ノ成功率は約30%デース!」
「失敗率7割!?」
「成功スルカ失敗スルカノ二分一ナノデ、実質50%デース!」
「バカの算数止めてくれない!?」
「トニカク!」
「鬼頭サオリ! 三十九歳! 独身! 恋人歴ナシ! 性行経験ナシ!」
「個人情報を路上で大声開示するんじゃないわよ訴訟すんぞオラァ!!!」
サオリの喉から、三十代最後の意地をかけた怒号が炸裂した。
行き止まりのコンクリート壁に響き渡る己の無残なプロフィール。三十九歳、独身、恋人歴ナシ、性行経験ナシ。一つとして嘘はないが、だからこそ致死量の精神的ダメージが肺腑を抉る。
「デモ事実デース! 三十年経ッテモ尚、性行経験ノ無イ人間ハ、強大ナ魔力ヲ持チマース! ソシテソレハ、我ガ組織ノ誇ル生体兵器ノ、極上ノ素材ニナルノデース!」
「バカにしてんの!?」
「往生際ガ悪イデース! 連レテ行クシマース!」
「「「「イーッ!」」」」
戦闘員たちがじりじりと距離を詰めてくる。
背後は三メートルの壁、目の前には黒タイツの集団とエセ外国人口調のマッドサイエンティスト。
終わった。
私には、まだ高身長パツキンイケメンに転生して、JKJDを食い散らかすという夢があったのに⋯⋯。
「お困りのようだね」
唐突に、上空から声が降ってきた。
声のした場所を見上げると、そこには、光り輝く丸い玉が浮かんでいた。
「やぁ、鬼頭サオリ。僕は、異界に存在する魔法の国、プロクリヴィティ・アイランドからやって来た、癖の妖精さ。個体識別名は、Q0t1np0というんだ。よろしくね」
「今度はなによ!?」
促されるまま、恐る恐る周囲へ視線を巡らせる。
先ほどまで血気盛んに間合いを詰めてきていたアクメンダーの戦闘員たちも、白衣を翻していた博士も、足を振り上げたその姿勢のまま完全に静止していた。
飛び散った唾液の一粒すら虚空に縫い止められ、風の音も、街のざわめきすらも消え失せている。
まるで、世界そのものが一時停止ボタンを押されたかのようだった。
「これ、は……」
「僕達の技術さ。一定範囲内の、特定の分子の動きを完全に停止させる。名付けて、営業時間というんだ」
「営業時間て! 完全に客引き側のネーミングでしょそれ!!」
サオリは叫んだ。
時間が止まっているというSF的な大奇跡よりも、ネーミングセンスの生々しさが先に胃へ来た。
「細かいことは気にしないでおくれよ。契約交渉には静かな環境が必要だからね」
光る玉──Q0t1np0は、ふよふよとサオリの目の高さまで降りてくる。
無機質で神聖な輝きを放っているはずなのに、距離感の詰め方が完全に深夜の歓楽街で声をかけてくるスカウトマンのそれであった。
「単刀直入に言おう。君には、素晴らしい魔法少女の素質がある。だから僕と契約して、魔法少女になってよ!」
「断るに決まってんでしょ!!!」
サオリは激怒した。
必ず、この邪智暴虐のマスコットを除かなければならぬと決意した。
サオリは政治がわからぬ。サオリは、39歳の喪女である。スロを打ち、馬に賭けて暮して来た。けれども怪しい勧誘に対しては、人一倍に敏感であった。
「そもそも、魔法少女ってあれでしょ? ニチアサにやってる、やたら種類の多い謎番組。あんた、私にあんなキチガイになれっていうの?」
「心外だな。彼女達は、この星を守るために懸命に戦っているんだよ」
「どこがよ! 先週の放送なんか、怪人を海に沈めてたじゃない! どこの極道映画よあれ!」
「何を言っているんだい? 鬼頭サオリ。あれは料理だよ」
「騙されるかぁっ!」
サオリの血管がブチ切れそうになる。
毎週パチンコ屋の開店待ちの暇つぶしにワンセグでチラ見していたあの番組。
ピンク色の狂人が腸を振り回したり、巨大な乳が質量兵器と化す様を見て、「世も末だな」と鼻で笑っていたのに、まさか自分がその枠にスカウトされるなど冗談ではない。
「というか、君に選択肢があると思っているのかい? 君がここからどうなるかは、僕の掌の上何だよ」
「クッ、殺せ」
「殺さないよ。鬼頭サオリ。義勇さんも言っていただろう? 生殺与奪の権を他人に握らせるな!! と」
「義勇って誰よ!!」
「水柱さ」
「話が通じねぇ!」
サオリの喉が引き裂けんばかりの絶叫を上げる。
会話のキャッチボールをする気ゼロの白い球体。都合のいい時だけ某メガヒット鬼狩り漫画の台詞を引用して論破した気になっているあたり、ネット掲示板のレスバ狂いそのものである。
「だいたい、私は三十九よ! 四捨五入したら四十! 『少女』の賞味期限なんてとっくに切れて発酵してんの! 魔法ババアの間違いでしょ!」
「女性が輝くのは30後半からさ。鬼頭サオリ。君は、まだまだ輝ける。だから、そんなに自分を卑下してはいけないよ」
「急に意識高い系アカウントみたいなこと言い出すんじゃないわよ!!」
サオリの血管が今度こそ限界を迎えて悲鳴を上げる。
三十九歳喪女の心に突き刺さる、雑な全肯定と薄っぺらい自己啓発セミナーぽい言葉。精神攻撃としてはもはや一級品であった。
「だいたい、輝けるって何よ」
「君の深層心理から漂う『熱量』さ。それが素晴らしいのさ」
Q0t1np0はふよふよと揺れながら、さらにサオリの顔面スレスレまで距離を詰めてくる。無機質な光球のくせに、醸し出す圧が完全にマルチの特攻隊長だ。
「ボクには視えるよ。君が最高の魔法少女となって、アクメンダーを血祭りに上げる姿が。そして、そのドス黒い欲望を叶える姿が」
「⋯⋯⋯⋯」
「39年もの間貞操を守り続け、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない欲望だろうと叶えられるだろう」
「本当ね?」
「さあ、鬼頭サオリ。魔法少女になって、君は何を願う?」
「⋯⋯私は⋯⋯」
1歩踏み出し、真っ直ぐQ0t1np0を見つめ、深呼吸をする。
「……全てのJKやJDの処女を貰いたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての処女を、この手で」
「⋯⋯君は、神にでもなるつもりかい?」
「神でも何でもいい。私は、パツキン長身イケメンに転生して、この世の瑞々しい若葉共を片っ端から食い散らかす存在になりたいのよ!!!」
魂の咆哮であった。
三十九年間、薄暗いワンルームの万年床で、スマホ画面に映る二次元美少女や街ゆく若い娘たちをねっとりとした視線で見つめ続けてきた喪女の、ドロドロに煮詰まり発酵したエゴの結晶。
世界平和? 愛と正義? そんなものは知ったことではない。己の下半身の妄想のために因果律すら捻じ曲げようとする、あまりにも身勝手で直球な邪悪。
「……いいね。素晴らしいよ、鬼頭サオリ」
Q0t1np0の光が、歓喜に震えるように激しく明滅した。
「そんな身勝手な祈りで宇宙の理を改変しようだなんて、君の業の深さはボクの計算を遥かに超えている。よし、契約成立だ!」
「ちょっと待って、心の準備が──」
「じゃ、ちょっと失礼して」
ぶすりと、問答無用で下腹部へ突き刺さる突起。
「ぎゃあああああああああああああっ!?」
激痛──かと思えば、次の瞬間。
「あ……ぁ……?」
ふわりと、全身の力が抜けた。
痛みが遠ざかり、代わりに頭の芯から理由のない多幸感がじわじわと溢れ出し、身体の輪郭が曖昧になり、時間までやけにゆっくりと流れているようだった。
「なに、これ……気持ちい……」
視界が滲む。どうでもいいことまで、なんだか妙に面白い。
そして、世界が白色に包まれた。
「これで契約完了だね。君の活躍、期待して見ているよ、鬼頭サオリ」
光が弾け、停止していた『営業時間』が唐突に解除された。
「──連レテ行クシマー……スッ!?」
突進の勢いそのままに腕を伸ばした白衣の博士が、その場で盛大につんのめった。
落ちかけた丸眼鏡を慌てて掛け直す。その視線の先、立ち込める白煙の向こう側から現れた光景に、博士も戦闘員たちも揃って硬直した。
煙が引いていく。
現れたのは、くたびれた喪女のジャージ姿ではなかった。
スラリと伸びた手脚に、風に揺れる金糸のような頭髪、引き締まった細マッチョの肉体。
どこをどう切り取っても、少女漫画から抜け出してきたかのような、完璧な高身長パツキンイケメン優男であった。
だが──身に纏う衣装が、あまりにも致命的な大問題を抱えていた。
黒革で仕立てられた、露出度限界突破の逆バニー。
しなやかな網タイツに包まれた長い脚。頭上にはピンと誇らしげにそそり立つ黒いウサギ耳。
そして、布の役目を完全に放棄した、ほぼ丸出しの胴体。
それだけでも公然わいせつ罪の現行犯逮捕待ったなしだというのに、何より最悪だったのは、その下腹部であった。
天を衝くようにそそり立つ、巨大なナニカ。
全年齢対象のレーティングを死守するための神々しい謎の光によって、辛うじてその全貌は隠されていた。だが、激しくスパークする光芒のシルエットを見るだけで、そこに『ナニ』が存在しているのかは、誰もが嫌でも一瞬で想像できてしまった。
「ナ、何デースかアレはァ!?」
博士の丸眼鏡が、物理的な衝撃波すら受けていないのにピキリとヒビ割れた。
路地裏を埋める戦闘員たちも、誰一人として動けない。武器を構えることすら忘れ、ただただその異形──否、あまりにも属性が渋滞しすぎた「ナニカ」を凝視している。
誰もが振り返るような超絶美形。
彫刻のように整った鼻梁、涼やかな切れ長の目元、夜風に揺れる黄金の髪。少女マンガの王子様がそのまま三次元に受肉したようなパーフェクトフェイス。
それなのに、胴体は黒革の逆バニー。布地面積はほぼゼロ。
そして下半身には、天を衝くようにそそり立つ、モザイクめいた謎の極光。
「あぁ⋯⋯イイね。Happy Birthday、僕。Happy Birthday、チン♪ ポーカー」
イケメン優男──チン♪ ポーカーは、自身の細く引き締まった指先を見つめ、陶酔したように呟いた。
喉から零れ落ちたのは、耳が妊娠しそうなほどの甘く低い極上のバリトンボイス。
しかし、その視線はおもむろに下へと向けられる。
「ハッハァ生まれ変わった気分だ。いや、実際にそうなのかな? これが、本当の僕。これこそが、僕の理想の姿!」
股間の発光体を両手でそっと包み込み、感極まったようにプルプルと震わせる金髪美青年。絵面があまりにも凶悪すぎる。警察とBPOが手を取り合って飛んでくるレベルの公然わいせつである。
「ア、アナタ……本当に先程ノ女性デースか!? イエ、ソレ以前ニソノ格好ハ何デースか!? 前貼りすら仕事ヲ放棄シテマースよ!?」
耐えかねた博士が悲鳴のようなツッコミを投げつける。
チン♪ ポーカーはゆっくりと顔を上げた。端正な顔立ちに、獰猛で粘着質な笑みが浮かぶ。
「あぁ、挨拶がまだだったね。愛と欲望のオールイン。魔法少女チン♪ ポーカー只今参上さ。さあ、僕の熱いリビドーを、受け取っておくれ♪」
「ファーック!!!! マタ、アナタ達デースカ!!!! プロクリヴィティ・アイランドォ!!!!!!!!!!」
静寂が、路地裏を支配している。
転がる黒タイツの屍山血河の中、金髪の美青年は股間の光を誇らしげに揺らしながら、ふぅと満足げな吐息を漏らした。
「終わったみたいだね、鬼頭サオリ⋯⋯いや、チン♪ ポーカー」
「おや君、姿が変わったね」
声をかけられたチン♪ ポーカーが振り返る。
するとそこには、信じがたい変貌を遂げたQ0t1np0が佇んでいた。
先ほどまでの無機質で神聖な光の玉ではない。
一見すれば、白猫や狐を思わせる愛らしい小動物のようである。しかし、通常の獣とは決定的に異なり、両耳の付け根からは長い房毛がしなやかに伸び、先端になるにつれてピンク色へと変わって行く。そして白色がピンク色へと変わる境目には、燦然と輝く金色のリングが嵌められていた。
その姿の中で何より異様であったのは、その尻尾であった。
小ぶりな身体を丸ごと取り囲んでしまえるほどに巨大で、根元は極上の綿毛のようにふさふさとしている。だが、先端へ向かうにつれて毛量は急速に失われていき、露わになった尾の先は完全に無毛──艶やかな赤みを帯びた、どう見ても亀の頭そのようにしか見えない謎の器官と化しており、時折脈打つようにピクピクと蠢いている。
「あぁ僕達、癖の妖精の機能みたいなものさ。そんなに気にしなくて良いよ。それと、姿の変更に伴って、僕の名前も変わってね。これからは、チンQベーター⋯⋯そうだね、略してチンベェと読んで欲しいな」
「分かったよ、チンベェ」
「話が早くて助かるよ、チン♪ ポーカー。さて、新しい魔法少女の誕生にあたってまずは⋯⋯TV局に行って、番組の申請をしないとね」
「 番組の申請?」
あまりにも生々しく世俗的な単語に、思わずチン♪ ポーカーの眉がピクリと跳ね上がる。
「そうさ。電波法と放送法に基づいた正規の手続きを踏まないと、日曜の朝に君の雄姿を全国のお茶の間にお届けできないからね。まずは企画書と絵コンテの提出、それから枠の買い取り交渉からかな」
愛らしい顔をした淫獣は、亀の頭の尻尾をゆらりと揺らしながら、平然と実務フローを口にするのであった。
彼らの戦いは、始まったばかり。戦え、チン♪ ポーカー! 負けるな、チン♪ ポーカー!
世界の平和を守るために!!
「「次回予告のコーナー
「あれ? 今日はパイ☆ズリーシャじゃないハメ?」
「えぇ、彼女は今日はお休み。ですので今回は
「別に良いけど、悪の親玉とタイマンとか玉が冷えるハメな」
「
「止めとくハメ」
「残念です。ところで
「※番組の内容は予告なく変更される可能性があります。この注書きを忘れたハメか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「健忘症ハメか? 癖の大妖精でも、歳には勝てないハメね」
「あまり、調子に乗らないほうがよろしいですわよ?」
「すまんハメ」
「「次回、『予定は未定』次回も、
※番組の内容は予告なく変更される可能性があります。