「せんせ、おはようございます♡」
ここは学園都市キヴォトスの一角、連邦捜査部S.C.H.A.L.E。その一室である執務室の中で私は、これまで徹夜で業務をし続けていたらしい先生に声をかけていた。
なるべく可愛く、男心を刺激するような猫撫で声や姿勢を意識しながらだ。
「"おはようサトミ...わ、もうこんな時間!?"」
そんな私を見てなんでもないように声をかけてきた先生に若干拗ねながら、それを表情に出さないように努めて先生に近づいていく。
顔を上げた先生は大きな隈をこさえた目を擦っていた。
「また徹夜して...せんせが頑張ってる姿を見るのはカッコいいし好きですけど、あんまり度が過ぎると心配なんですからね!」
「"ごめんね、気を付けるよ。"」
申し訳なさそうに先生はそう言ったが、まあ先生は懲りることなく徹夜を繰り返すのだろう。まあ私はそんな先生に世話を焼いて寝かしつけることでそれなりに役得を感じられるから良いといえば良いのだけれど。
「ほらせんせ、後片付けやっておきますから仮眠室で寝てください!」
「"いや、でもまだ業務が..."」
「せんせが寝てくれないと私が心配ですから、ね?」
先生の前でしゃがみこみ鏡の前で散々研究した角度で首を傾げながら先生の顔を見上げると先生は諦めたように頷いた。
むむむ...ときめいたような様子は無いな...
そのことを残念に思いながらふらふらと仮眠室に歩いていく先生を見送りながら私は机の上に散らばった書類を慣れた手つきで整理していく。
速攻で書類の整理を終わらせた私は、物音を立てないように気を付けながら仮眠室の扉を開ける。その先にはベッドに横になって布団を被る先生の姿。
しめしめ...無防備に寝てるな...!
「ふふふ...お邪魔しますね、せんせ♡」
先生が寝ているベッドに忍び込み、一緒に布団を被ると先生に抱きついてまぶたを閉じる。
うーむ、先生のかほり。
すぅー、はぁー。
すぅーーーーーーー、はぁー。
すぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
そんなことをしているうちに私も眠気を感じ、それに身を任せて眠りについてしまうのだった。
【数日前のこと】
初めまして!私の名前は小比類巻 サトミ!(まだ会ったことは無いけど)今後やって来る先生のことが大好きな連邦生徒会所属の2年生です♡
...え?お前は誰だって?そんな生徒知らない?
そりゃあそうでしょう!だって私、転生者ですから!(`・ω・´)キリッ!
あ、ちなみに前世は男です。
.........違うんです。同性愛者って訳じゃないんです!
前世でゲームをやっていた時はあれですよ。普通に女の子が好きだったんです。
先生に対しては...そう、推しっていう感じ!
ほら、自分と同性のキャラクターでもかっこいいなぁとかエロいなぁとか、そういう感情を持つことあるじゃないですか。そんな感じです。
...え?ない?まさかぁ。
まあそんなこんなで、最初は推しの1人っていうくらいだったんですよね。
この世界に転生したと自覚した当初は、私も最推しだったミカと...だなんて思ってたんですけどね。
年月が経つにつれて心が女子に向かっていったというか...恋愛対象が男に向かっていってですね。そうなったあとに先生のことを考えると...もうダメだったんですよ。
だってあんなに自分を犠牲にして、私たち生徒のことを第1に考えてくれる相手なんて、好きになるじゃないですか!!
みんなだって献身的な女の子とか好きでしょ!!それと同じですよ!!
それを自覚してからは、私は先生にアプローチをすることに全てを捧げてきた。
沢山勉強して、連邦生徒会に進学して、
連邦生徒会長が何故か急遽設立したシャーレにみんなが疑問を持つ中で、私だけが熱烈にその管理を希望するものだから連邦生徒会のみんなや、連邦生徒会長からは変な目で見られたけど、それも先生の近くにいられるのであれば問題なしだ。
そんなこんなで、シャーレの管理を任されることになって少し経った頃。
連邦生徒会長が消息を絶った。治安の悪化、インフラの停止、様々なトラブルが日夜舞い込んでくることになり、そのせいで私はものすごい激務を負わされることになった。連邦生徒会長許すまじ。
まあそれは置いておいて、連邦生徒会長の失踪。つまるところ、そう。ゲーム、ブルーアーカイブの始まりの合図である。
こんなことを言いつつ、私ゲームの内容大雑把にしか覚えてないんだけどね!!
「サトミ、少しいいですか?」
「はい、どうしましたか?リン行政官。」
「連邦生徒会長の紹介により、外の世界から先生がやって来られます。...先生の所属としてはシャーレの顧問ということになりますので、貴方の直属の上司。ずっと用途の不明だった連邦捜査部の初めての仕事です。くれぐれも粗相のないようにお願いします。」
リンちゃ...リン行政官に連れられてやってきたのはサンクトゥムタワーの1階の受付横にある応接室の一室だった。
リン行政官が部屋を開け、部屋のソファーに目を向けるとそこにはうつらうつらと船を漕ぐ男の大人。
言わずともわかるだろう。先生だ。
「...少し待っていて下さいと言ったばかりなのに...」
呆れたようにため息を吐いて先生に近づいたリン行政官と一緒に私も先生に近づいた。
先生を起こそうと肩を揺らすリン行政官を他所に、私は先生の顔を覗き込んだ。
わあイケメン、これはモテるわ。まあ私は顔とか関係なしに好きだけどね!
ちなみにハゲてはいない。散々ネットで見たあの絵はやっぱり連邦生徒会長が立派な画伯(笑)だっただけなようだ。
「先生...先生、起きてください!先生!!」
リン行政官の声に反応した先生が薄らと目を開ける。そしてその視線は、先生の前でしゃがみこんで顔を覗き込んでいた私に注がれる。
「......?」
どうやら先生は状況が理解できないらしく、私とリン行政官を見たあとに誰が見てもわかるほどにハテナマークを浮かべていた。
そんな先生へ、リン行政官がため息とともに声をかける。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは。」
先生はその言葉を受けても相変わらずハテナマークを浮かべている。
何も頭に入って無さそうな呆けた表情、とてもカワイイと思います。私はそっと心のフォルダに先生の表情を保存した。
まあでも状況が理解できないのも無理はないんじゃないだろうか?この状況は確か、夢の中で連邦生徒会長と話して、気がついたらここにいたみたいな場面だったはずだ。...まあゲームの都合上の描写なだけかもしれないけど。
「夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。もう一度、改めて今の状況をお伝えします。
私は七神 リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です。」
「私は小比類巻 サトミ!同じく連邦生徒会所属の生徒です。よろしくお願いしますね?せんせ♡」
リン行政官に続いて私も自己紹介をする。
もちろん先生に好かれるための可愛い仕草も忘れずにだ。
唐突な私の変わり様にリン行政官が凄い顔でこっちを見ている気がするが気にしない。だってライバルは今後沢山現れるのだ。なりふり構わず全力で媚びを売ってやる。ヒロインレースは私が優勝するのだ。
「...コホン。先生、あなたはおそらく私たちがここに呼び出した先生...のようですが...
あぁ、推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです。」
え?もしかしてリン行政官もなんで先生がここにいるのか分かってないの?いやまあ、確かに先生が来るだとか、外の世界から人が来るみたいな事前通達とかは一切無かったんだけどさ。
ちなみに先生は未だにハテナマーク顔だ。カワイイ。
「混乱されていますよね、分かります。こんな状況になってしまったこと、誠に遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください。どうしても、先生にやって頂かなくてはいけないことがあります。」
それから部屋を後にしたリン行政官の後ろを先生が着いていく。リン行政官が出て行ってすぐ、先生が困ったように私の方を見たので、私は微笑んでおいた。
先生を落とすために研究した可愛い仕草だ。前世の私ならコロッと落ちてるね。
「大丈夫ですよせんせ。リン行政官について行きましょう?」
「"う、うん。"」
戸惑った先生は若干おぼつかない足でリン行政官に追いつこうと早足で歩いていく。
私はそんな先生の後ろを上機嫌にゆっくりと歩いていくのだった。
「キヴォトスへようこそ、先生。キヴォトスは数千の学園が集まってできている───」
上階へと上っていくエレベーターの中、リン行政官の説明を受けながら先生は外の景色を見て目を見開いていた。
まあ確かに、すごい景色だよね。数え切れないほどのビルが立ち並び、遠くに見えるのは豊かな自然と青空に浮かぶ巨大な輪っか。(私もあれがなんなのかは知らん。ヘイロー?)
そんなこんなで先生が景色に見惚れているうちに(私は先生に見惚れているうちに)エレベーターは目的の階層へと到着した。
私たちがエレベーターをおりて辺りを見渡すと...
あぁ、やっぱりいた。リン行政官に気がついたミレニアムオオフトモモ、もといユウカがどすどすと不機嫌さをアピールしながらこちらに向かってきていた。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!
...うん?隣の大人の方は?」
大声で捲し立てるユウカに先生は目を丸くしていた。
よし、第一印象は勝ったな(確信)
そんなことを考えているうちに他の3人もこちらへ向かって歩いてきた。それを見たリン行政官はわざとらしく大きなため息を着いて周りに聞こえるように悪態をつく。
「はぁ...面倒な人たちに捕まってしまいましたね。
...こんにちは。各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会長、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。
こんな暇そ...大事な方々がここを尋ねてきた理由は、よく分かっています。」
...で、でたー!リン行政官の超ベリーバッドコミュニケーション。これさえ無ければリン行政官ってものすごく優秀な人なのに...
ユウカ達の顔を見て即生徒会、風紀委員会、時間を持て余している人、っていう言葉が出てきたあたり、リン行政官は少なくとも彼女達の学園と所属委員会を把握しているということ。スズミも認識している辺り、生徒会と治安組織に絞ってるって訳でも無さそう...
...キヴォトスにどれだけの学園と委員会、部活があると思っているんだ。主要学園だけに絞っても多すぎるし、私は絶対無理だね。この人十分超人では?
「今、学園都市に起きてる混乱の責任を問うために、でしょう?」
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!
数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました。」
「スケバンのような不良たちが、登校中の生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」
「戦車やヘリコプターなど、出処の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
4人は現在世間で起きている問題点を次々にあげていく。
...のだが、残念ながら私たち連邦生徒会にもすぐにどうこうなんて出来ないのだ。できるならとっくにやってる。
「...連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました。
結論から言うと、サンクトゥムタワーの最終管理者が居なくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」
つまりこういうこと。要は連邦生徒会も管理をすることが出来ないということだ。連邦生徒会長、引き継ぎはちゃんとやってよね...
「認証を迂回できる方法を探していましたが......"先程まで"そのような方法は見つかっていませんでした。」
「...それでは、今は方法があるということですか?首席行政官?」
「はい、この先生こそが..."フィクサー"になってくれるはずです。」
そう言ってリン行政官は先生に手を向けた。
それを受けた先生は驚いたように目を丸くする。
「"私が?"」
思わずと言ったふうに1番近くにいた私の方を見た先生に、私は微笑みと頷きを返す。
ほら、今の私可愛いくない?惚れていいんですよ!先生!!
「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが...先生だったのですね。」
「はい、こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名?...ますますこんがらがってきたじゃないの...」
困惑するユウカを他所に先生はみんなに顔を向けて自己紹介をした。
「"こんにちは。私は先生だよ、よろしくね。"」
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの...い、いや、今は挨拶なんてどうでもよくて...」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと...」
「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬 ユウカ!覚えておいてください、先生!」
「"よろしくね。"」
「...先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、とある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。
連邦捜査部"シャーレ"。...単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすら可能で、各学園の自治区において制約なしの戦闘活動を行うことも可能です。
何故これだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが...サトミ、あなたは何か聞いていませんか?」
「うーん...私の業務はあくまでシャーレの部室管理ですから...詳しい内容までは聞いていないんです。」
シッテムの箱とか、クラフトチェンバーとか、絶対に触っては行けないオーパーツの説明くらいはされたけど。正直オーバーテクノロジーすぎてよくわからなかった。緊急時の止め方くらいしか知らないレベルだ。
「そうですか...シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。
今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に、とある物を持ち込んでいます。先生をそこに、お連れしなければなりません。
...モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど...」
『シャーレの部室?...あぁ、外郭地区の?そこ今大騒ぎだけど?
なんでも矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?
それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?
まあ別にただの外郭地区の一角だし、別に大したことな...あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
......モモカ、後でしばく。"大事なもの"は確かに存在しているし、シャーレの部室は私がずっと丁寧に管理していた場所なんだよ!それを「ただの外郭地区の一角、大したことない」なんて言われると流石に頭に来る。ほんとなんでモモカは連邦生徒会に入れたのか...
私が呆れながらリン行政官の方を見ると、リン行政官は額に青筋を浮かべてぷるぷると震えていた。
もちろん、これから向かう予定だった場所が戦場になっているという恐怖心からではなく、今のモモカの態度に対する怒りからである。
モモカ、南無。私も容赦しないけど。
「"...深呼吸でもする?"」
「...だ、大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」
そう言ったリン行政官はユウカ達の方をじーっと見ながらにっこりと笑顔(暗黒微笑)を浮かべている。その視線に気づいたユウカたちは思わずたじろいでいた。
「...ちょうどここに、各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。
キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が、切実に必要です。行きましょう。」
そう言ったリン行政官は驚いているユウカたちを置いて歩き出して行った。
「ちょ、ちょっと待って!どこに行くのよ!?」
超メタいことを言うと、これから始まるのは戦闘チュートリアル。つまりゲーム上における戦闘の基礎を理解するための戦闘だ。先生が初めて(多分)の戦闘指揮だとしても、シッテムの箱が手元になかったとしても、特に問題ないはずですね。
...え?私?もちろん戦えますよ。こんな物騒な世界で、ヘイローも持ってるんですから当たり前じゃないですか。
......問題はめちゃくちゃ弱いってことなんですけどね。ハハッ。
イオリとかサキへの対応とか、ヒナ吸いとか諸々で薄れてると思うけど、あそこまで他人のためを思って自己犠牲に走れる人間がいたらやっぱみんな脳を焼かれると思うんですよ。
キヴォトスには唯一の人間の男性の大人っていう特別感もあって先生があそこまでモテるのもまあ納得できたり...かといって数々の変態行動が許される訳でもないんですけどね。大人しくお縄につけ。