アビドスのみんなが外で待機している中、私は先んじて銀行の中に入ってきていた。みんなが受付近くの発券機で整理券を取り順番待ちをしている中、私はそれをあえて無視し、受付へと向かっていた。
そんな私を見て近くにいたロボットの職員が近づいてくる。
「すみませんお客様、整理券を取って順番待ちを...」
そこまで言ったところで私の腕にある連邦生徒会の腕章に気付いたらしいロボットが焦った顔(・゚д゚`≡・゚д゚`)を表示させながら挙動不審になりだした。
やっぱりポーカーフェイスは下手くそなんだ...
「連邦生徒会です。この銀行の本日の集金・出金記録の一覧はありますか?」
「少々お待ちください...今責任者を呼びますので...」
責任者は別に要らないんだけど...と言う暇もなく、そそくさと裏に引いていったロボットを見送りながら辺りを見渡すと...そこにはソファの裏からこちらの様子を伺う便利屋68の面々がいた。
「あっ...」
「み、見つかっちゃったわ!」
「ひぃ、アル様ごめんなさい!」
揃ってソファの後ろに引っ込んだ便利屋に私は苦笑を浮かべながら近付いた。
そういえばここでかち合うんだったな。
「ご安心を。別にここで戦おうとか捕まえようという気はありませんので。それに私は戦えないですからね。」
「...やっぱりそうだったんだ。」
私の言葉を聞いたカヨコが出てきた。まだ後ろにいるものの、ムツキはいつものいたずら顔を浮かべている。
アルちゃんとハルカはまだ少し震えているものの、ほか2人の警戒は解けたらしい。
「どうして連邦生徒会の生徒がこんな所に?」
「とある用事でこの闇銀行を調べることになったんです。そちらは?」
「私達もまあ、野暮用だよ。」
まあ教えてくれるわけないか。
便利屋がここにいる理由は覚えてないけど、まあ多分銀行に融資を受けに来たとかそんなんだろう。指名手配犯である便利屋がお金を借りられるとすればブラックマーケットくらいだろうしね。
そんなことを考えていると、さっき引いていったロボットと、その隣に少し大柄なロボットが大急ぎでやってきた。
...もちろんその顔に焦りの表情を浮かべながら。
「お客様、お待たせいたしました!」
「本日の集金・出金記録一覧をご要望でしたね!お持ちしました!」
そう言ってロボットが差し出してきた一覧をペラペラとめくってみるが...その中にはカイザーローンとの取引の記録は入っていなかった。この中に入ってるなら入ってるで万々歳だったのだが...この速度で隠したい書類だけ抜き取って持ってくるとは...中々やるな。
私はそれを確認したところで、無造作にポケットに入れたスマホから電話をかける。その相手は先生だ。
「もしもし。」
『"もしもし、どうだった?"』
「目当ての書類は見つかりませんでした。どうやらここではないようですね。」
『"分かった、ありがとう。...よし、それじゃあみんな、行くよ。"』
私がそのまま電話を切ってロボットの方に向き直ってみると、ロボットたちは2人揃ってε-(´∀`;)ホッという表情を浮かべて佇んでいた。なんかちょっと面白くなってきたな...。
安心しているところで悪いが、残念ながらさっきの言葉は事前に決めていた準備完了の合図だ。
作戦はこうだった。
まず私が中に入り集金・出金記録を確認する。その中にカイザーローンとの取引記録があればその時点で証拠を掴んで終了。...なのだが、普通に考えて素直にその集金記録を持ってくるわけが無い。
だからこそ、こうしてカイザーローンとの取引の記録を抜き取ったあとの集金・出金記録を私が受け取り、その間にアビドスのみんなが銀行強盗を敢行。そこで集金記録を要求すれば、普段集金記録を保管している場所に置いてあるのは...抜き取られたカイザーローンとの取引の記録だということだ。
その時、私達の作戦開始の合図を告げるように銀行の照明が前触れもなく落ちる。
「な、何事ですか?停電!?」
「い、一体誰が!?」
周囲のロボットたちが混乱している声を聞きながら私は地面に伏せた。
その瞬間、ガラスの割れる大きな音と共にアビドスのみんなが銀行内に突入してきた。
「うわっ!ああああっ!」
「うわああ!!」
「なっ、何が起きて...うああ!」
辺りで警備用のロボットが発したであろう悲鳴が響き、それが止んだと同時に照明が点いた。
そしてそこに居たのは...
「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは...皆さん、怪我しちゃいけないので...伏せてくださいね...」
ご存知、覆面水着団の登場である。なおヒフミは乗り気ではなかった割には中央を陣取っているし、さながらリーダーの風格だ。さすがファウスト。
「非常事態発生!非常事態発生!」
「うへ〜無駄無駄ー。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー。」
「ひ、ひぃ...ぎゃあ!」
私の隣にいた2体のロボットはホシノに見つかるなり一瞬にして制圧されて床に倒れふす。
よし、これで私が集金記録一覧を持ってることを知ってるやつが居なくなった。
「ほらそこ!!伏せてってば!下手に動くとあの世行きだよ!」
「みなさん、お願いだからジッとしててください...」
銀行内の制圧はあっという間に済んだ。私が伏せながら辺りを見回していると、ふとソファの裏にいるカヨコと目が合った。
カヨコは顎をクイッとアビドスのみんなの方へ向けて私に聞きたいことがありそうな顔をしていた。カヨコはもう気づいてるってことか...とりあえず口の前に人差し指を立ててシーッっとしておく。それを見たカヨコは大きくため息をついていた。どうやら黙っていてくれるらしい。
それから少しして、パンパンになったバッグを担いだシロコが中身を確認し、全員で撤退をしていく。
あのバッグデカ過ぎない?中身が明らかに書類だけじゃないでしょ。
撤退して行ったみんなをものすごい数のロボットが追っていくが、まあアビドスのみんなと先生なら大丈夫だろう。
便利屋68もいつの間にやら居なくなっていたのを確認した私は、1人悠々とブラックマーケットを後にするのだった。
それからアビドス高校に戻ってきた私は、先に戻ってきたみんなと合流した。
「お疲れ様でした。見事な銀行強盗っぷりでしたよ。」
「あ、あんまり嬉しくないわね...」
「(`・ω・´)フンスッ!」
そこにものすごく嬉しそうな人いるけどね。
それはそうと、話を聞くにシロコが持っていたバッグの中身、およそ1億円はありそうな現金の束は、集金記録を抜き取った後でどこかに置いてきたらしい。なんでもアビドス高校がアビドス高校であるために、犯罪で手に入れたお金は使わないんだそうだ。真面目だなぁ。
私が合流したことで、今回手に入れた集金記録の書類をみんなで確認すると...
「ほ、本当に...」
「この集金記録にはアビドスで788万円集金したと記録されている。...でもその後すぐにカタカタヘルメット団に対して「任務補助金500万円提供」って記録がある。」
「つまり、それって...」
「決定だね。サトミちゃんの推測した通り、ヘルメット団の背後にはカイザーローンがいた。」
「そ、そんな...学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないのに...」
「そこは前に言った通り、奴らの目的がお金ではないということでしょう。それがなにかまでは分かりませんが。」
私の言葉にみんなが黙り込んでしまった。私の推測だけではどこか納得できなかったところに、確かな証拠が出てきてみんな飲み込みきれないのだろうか。
それから、これ以上アビドス高校の事情に付き合わせられないということで、ここまで同行してくれたヒフミとはお別れという流れになった。
「みなさん、色々とありがとうございました。」
「変なことに巻き込んでごめんなさい、ヒフミさん。」
「今度遊びに行くから、その時はよろしくー。」
「はいっ、もちろんです!
まだ詳しいことは明らかになっていませんが...これはカイザーコーポレーションが犯罪者や反社会勢力と何かしら関連があるという事実上の証拠になります。戻ったらこの事実をティーパーティーに報告しますね!それと...アビドスさんの現在の状況についても...」
ヒフミ、いい子だなぁ...きっと銀行強盗なんかしないし、ブラックマーケットなんかにも行かないんだろうなぁ...
「...まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどねー。」
「はいっ!?」
「あれほどの規模を持つ学園の首脳部なら、それぐらいはとっくに把握してると思うよー。みんな、遊んでばかりじゃないだろうしさ。」
「そ、そんな...知っているのに、皆さんのことを...」
「うん、ヒフミちゃんは純真で良い子だねー。でも世の中、そんなに甘くないからさ。
ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせたところで、これといった打開策が出るわけじゃないし、かえって私たちがパニくることになりそうな気がするんだよねー。」
「そ、そうですか?」
「ほら、今のアビドスって廃校寸前じゃん?トリニティとかゲヘナみたいなマンモス校からのアクションをコントロール出来る力がないんだよー。言ってる意味、わかるよね?」
「サポートする、という名目で悪さをされてもそれを阻止できない...ってことですよね。
...そうですね、その可能性はなくもありません。
あうう...政治って難しいです...」
達観したようにそういうホシノの言葉を聞いて私は心を痛めていた。
たしかにその通りだ。そういう理由で他校の援助を拒む学校は少なくない。連邦生徒会といえども、完全にそういう思惑なしで援助をできるかと言われると、簡単に頷ける話ではなかった。連邦生徒会内にも派閥争いのようなものはあるし、そういう理由で外交担当の役職は人気のあるものだった。
それにもうひとつ、連邦生徒会が簡単に学校を補助できない理由がある。
1度何処かの学校に補助を出してしまうと、それ以外の学校にも補助を行わなければ行けなくなるからだ。
一口に補助と言っても、果たしてその適応範囲は?補助の規模は?一体どこまでやれば贔屓ではないと言えるようになるのか。そもそも連邦生徒会自体にその余裕はあるのか?
数千もの学園を抱えるこのキヴォトスでどこかの高校に補助を行うなんてものはとても難しい話なのだ。
そういった理由でアビドス高校は、未だ連邦生徒会からの支援を受けられていない。これは私がこの状況を直接伝えたところで変わるようなものでもないだろう。それでやれるなら最初からやってる、と言われるのが関の山だろう。
「でも...ホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか?本当に助けてくれるかもしれませんし...」
「うへ〜私は他人の好意を素直に受け取れない、汚いおじさんになっちゃってねー。「万が一」ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよー。」
多少冗談めかして言っているが、これは紛れもなくホシノの本心だろう。
カイザーコーポレーションの違法なビジネスも。
一向に受けられない連邦生徒会からの支援も。
私一人がどうにかできた話ではない。
それでも私は、
「...ごめんなさい。」
胸の中に渦巻く罪悪感を拭い去ることは出来なかった。
「うへ〜、なんでサトミちゃんが謝るのさー。サトミちゃんは今、私たちのために色々動いてくれてるでしょー?」
「......」
ホシノが励ましてくれるが、私にはそれに返す言葉が見つからなかった。
シリアス?っぽいアビドスの借金事情の話が続いて先生LOVE要素あんま出せてない...シリアスが終わったあたりで暴れて貰いましょうかね。先生はまあ...頑張ってもろて。