数日後、私と先生がいつもの教室に入るとホシノがノノミに膝枕をされながら横になっていた。
「おはよー、先生とサトミちゃん。」
「おはようございます。今日は早いですね?」
「おはようございます。」
「"おはよう、2人とも。リラックスしてるね。"」
いつも通り眠そうな目を少し開いてこちらを見るホシノに先生が話しかけた。
「んー?うへ〜、ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよー。私だけの特等席だもんねー。」
「先生もいかがですか?はい、どうぞ〜☆」
そういってノノミがホシノをどかそうとしたが、ホシノは断固として動くつもりはないらしく、姿勢をそのままに抵抗していた。
「ダメだよー。ここは私の場所なんだから、先生はあっちの座り心地悪そうな椅子にでも座ってねー。」
「私の膝は先輩専用じゃないですよう...」
ホシノにそう言われ、少し残念そうな顔を見せた先生だったが、私はこれ幸いと椅子に座って膝をポンポンと叩きながら先生に言う。
「せんせ、私の膝が空いてますよ♡」
「"う、うーん...遠慮しておくね。"」
なんで!!ノノミだけずるい!!
私の膝だって柔らかくてサイコーだぞ!!
私が抗議の意を込めて頬を膨らませていると、ホシノがノノミの膝から起き上がってきた。まだ眠そうに大きく欠伸をしてはいるが。
「ふあぁ〜、みんな朝早くから元気だなぁ。」
「のんびりできるのは久しぶりですから...今はみんな、やりたいことをやってるんでしょうね。
シロコちゃんはトレーニングでしょうし、アヤネちゃんは多分勉強しに図書館でしょうか...」
「ノノミちゃんは学校の掃除と教室の整頓をしてくれたよねー。うへ〜、みんな真面目だなー。」
「"ホシノは?"」
「ん〜、私?うへ〜、私は当然ここでダラダラしてただけだよー。」
当然なんだ...まあ予想通りではあるけどさ...
「先輩もなにか始めてみてはどうでしょう?アルバイトとか、筋トレとか...」
「むりむりー、おじさんは年齢的に無理のきかない体になっちゃったもんでねー。」
「歳は私とほぼ変わらないですよ?」
そういうおじさん自称は前世の私くらい本当に無理のきかない身体になってから言ってもらおうか!
なにかしようとしゃがんだら腰は痛いし、肩はバキバキだし、油っこいものはきついし、だんだん体力の無さを実感してくるんだ...20代後半からガクッとくるぞ。
今世でそう言うのに無縁の身体になった時には感動したものだ。連邦生徒会に入ってデスクワークをするようになった今でも正しい姿勢と適度な運動を欠かさずにして健康な身体を維持しようと必死になるくらい。
...辛くなってきた。やめていい?
「うへ〜。とにかく先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない?そんじゃ、私はこの辺でドロン。」
「あら先輩、どちらへ?」
「うへ〜今日はおじさんはオフなんでね。適当にサボってるから、何かあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん。」
そう言ってホシノはフラフラとした足取りで教室を出ていった。そうやって腰を曲げてると今後が辛くなるぞ!みんなも猫背はやめようね!
「ホシノ先輩...またお昼寝しに行くみたいですね?」
「えっ、また?」
さっきまで寝てたんじゃないの?もはや病気の域じゃん。確かそういう病気も存在したはずだ。今度受診をおすすめしよう。
「うーん、まあいいんじゃないでしょうか。会議はアヤネちゃんがしっかり進めてくれますから。
あはは...それにしてもホシノ先輩も、以前と比べてだいぶ変わりました。」
「変わった?以前はどんな感じだったんですか?」
そういえば、私の記憶にあるホシノはもっとキリッとした感じだったはずだ。あんなおじさんエミュしてる謎の生徒じゃなくて、かっこいい感じで前線に立ってタンク役を全うしてたはずだ。いわゆる覇権キャラとして、みんなこぞって使っていた記憶がある。私はガチャ石不足で引けなかったけど。
もしかしてあれはおじさんエミュをやめた素の姿なのだろうか?
「今はいつも寝ぼけているような感じですが...初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした。何に追われていたかと言うと...んと、ありとあらゆることに、と言いましょうか。聞いた話ですが、以前とある先輩がいたそうで...アビドス最後の生徒会長だったらしいんですがとても頼りない人で、その人がここを去ってからは全てをホシノ先輩が引き受けることになった、と...当時のホシノ先輩は1年生だったとか。詳しくは、私も知らないのですが。」
まあ確かに、一年生の身で一高校の全てを引き受けるとなると必死にもなるか。ということは私の記憶にあるのは真面目ホシノなのか?水着とかそういう分類の。確か私服とか幼女とかいたし、真面目verがあっても違和感はない。
「でも今は、先生もいますし、他の学園の生徒たちとも交流できてますし...それに連邦生徒会の生徒であるサトミちゃんとも仲良くできてますからね!かなり丸くなった証拠です!」
「私ですか?」
私の名前が出てくるとは思ってなくてびっくりした。
「はい。アビドス高校は...その、以前から何度も連邦生徒会に支援の要請を出していたのですが...一度も受理されたことはなく...どうしても連邦生徒会への印象は悪くなってしまっていましたから。」
「その件ですか...それについては......いえ、言い訳はしません。連邦生徒会が危機にある学園を見捨てたというのは事実ですから。
...本当にすみませんでした。」
「いっ、いえ!謝って欲しいわけじゃなかったんです!ただ、その、ホシノ先輩もサトミちゃんと仲良くできてよかったなって...それにサトミちゃんは今、私たちと一緒に頑張ってくれているじゃないですか!」
慌てて弁明をするノノミだったが、多くの学園からの支援要請を連邦生徒会が認識しておきながら無視したというのはその通りだ。糾弾されても仕方ないと思う。むしろアビドス高校のみんなは優しすぎるくらいだ。
糾弾されたい訳では無いけど、されたとしても甘んじて受け入れるくらいの覚悟はしているのだけど。
それからアヤネとシロコとセリカがやってきて、教室内でそれぞれの作業をしていた。アヤネは端末を操作しながら調べ物をしていて、セリカは電卓片手にうんうん唸っている。シロコはまあ...多分銀行強盗の計画を立てている。見取り図の様なものに一生懸命線を引き続けていた。
ちなみに私と先生は相も変わらずシャーレの仕事である。出張中だって言うのにご丁寧にアビドス高校宛に書類が送付されてきたのだ。
私がリン行政官の容赦なさに若干の懐かしさを覚えていると、端末をいじっていたアヤネが唐突に立ち上がった。
「前方、半径10km以内にて爆発を検知!近いです!」
「10kmってことは...市街地?まさか襲撃!?」
「衝撃波の形状からすると...C4爆弾の連鎖反応と思われます。砲撃や爆撃ではないですね...もう少し確認してみます!
...爆発地点確認。市街地です!正確な位置は...
...柴関ラーメン!?」
アヤネの言葉にみんなが立ち上がって驚きの声を上げた。
柴関ラーメンってことは...もしかして便利屋かな?この後来るとしたら...ゲヘナの風紀委員会だっけ?
確かそんな流れだったはず...
「柴関ラーメン!?どういうこと!?なんであの店が狙われるのよ!」
「戦略拠点でもなく、重要な交通網でもないのに。一体誰が...」
「ま、まさか私を狙って...?」
「憶測はあとでも遅くはない。まずはなにか手を打たないと!」
「そうですね!今はそれどころじゃありません!向かいましょう!!」
それからみんなは慌ててガンラックから愛銃を取り出して大急ぎで出撃をした。私は特に準備もないから弾薬の確認をしながら待っていた。戦えない私が出来ることはこのくらいしかないからね...
...さすがに訓練でもするべきなんだろうか...
私たちが柴関ラーメンのあった場所に向かっていると大量の砂煙が舞っていた。
そんな良好ではない視界の中から話し声が聞こえてくる。
「上に絆されるからって、あんなに優しくしてくれたラーメン屋さんを吹っ飛ばしたの?やるじゃーん!!
これぞまさに、血も涙もない大悪党!そんじょそこらのザコには到底できない鬼畜の所業!悪人中の悪人じゃん!!
これがハードボイルドなアウトローってやつだね!すごいよアルちゃん!見直したよ!!」
「......あ、あはははは!と、当然でしょう!冷酷無比!情け無用!金さえ貰えればなんでもオッケー!それがうちのモットーよ!!」
聞こえてきたアルちゃんとムツキの会話にみんながワナワナと震えていた。大好きなお店かつアルバイト先である柴関ラーメンを吹き飛ばされたセリカなんて今にも飛び出しそうな勢いだ。
あんまり流れは覚えてないけど、さすがにアルちゃんがやった訳じゃないよね?普通にアルちゃんがそんなことをするような悪い子()には思えないし、メタ的に考えて便利屋68がそんなヘイトを買うようなことをするようには思えない。普通に人気集団だったはずだしね、便利屋68。
「そういうことだったのね!!あんたたち...!!よくもこんな酷いことを!!」
セリカの言葉と一緒にみんなが前に出ていった。
みんな銃を握り締めて押し黙っている。
『大将の無事を確認できました!幸い軽傷だったので、近くのシェルターに案内済みです!』
アヤネから通信に、私は安堵の息を吐いた。辺りの被害をみるに普通に相当やばい爆発があったはずなんだけど...軽傷って、大将相当頑丈だな?
「...ってことは、大暴れしてもいいって事ね?あんたたち許さない...ぜーったいに許さないから...!!」
「!?!?」
ほら、アルちゃん白目剥いて驚いてるし、やっぱ故意じゃないってこれ。
「...ちょっとタイミングはズレちゃったけど、どうせいつか白黒つけないといけない相手だし...こっちも確保しておいた傭兵を呼ぶよ。」
「...っそ、そうよ!これでわかったでしょう、アビドス!!私がどんなに悪党なのかを!
さあ、いざ勝負!かかってきなさい!!」
「覚悟はいい!?」
「ん、ここで決着をつける。」
「お仕置ですよー!」
「それはこっちのセリフよ!真のアウトローがどういうものか、見せてあげるわ!!」
向かい合ったアビドスのみんなと便利屋68の人達が戦闘をはじめてしまった。あーあ、アルちゃんこれ後に引けなくなってるだけだよ...
こうして始まった戦闘だったが、以前はそこそこ圧倒していただったから大丈夫だろう、と油断しているとどうやらなかなかに苦戦している様子だった。
よくよく考えてみれば、今はホシノという外から見ても分かりやすい強力なタンク役が抜けているのだからまあ当たり前だった。
遅れてやってきた傭兵たちは平地を歩いてきたということもあり、先生の完璧なタイミングの指示を受けたノノミがあっという間に一掃してしまったのだが、それでも残った便利屋68がしぶとく残ってきた。
前線を走り回りながら大暴れするハルカ。
大量の爆発物でこちらに痛手を負わせてくるムツキ。
的確に嫌なタイミングでサポートを入れてくるカヨコ。
思わぬ所から完璧な狙撃を決めるアルちゃん。
改めて戦っているところを見ると、ホシノのありがたさと便利屋68の強さを認識するな。
ホシノという敵の攻撃を受け止めてくれるタンク役のいない私たちは攻めあぐね、それでも先生の指示で的確に相手の起点を止めてしまうため、便利屋68の方も攻めきれない。...これはジリ貧だな?
「うーん...どうしましょうか...」
「ん、私が行こうか?」
「シロコ先輩が飛び込んじゃうとあの紫の子を止める人が居なくなるよ!」
『ですが...このままだとジリ貧ですよ。どうしましょうか?』
それはアビドスのみんなも感じているようで、そんな事を話していた。
そんな中、便利屋68の周りで大きな爆発が起きる。
主に便利屋の周りだったのだが、その範囲はかなり広くアビドスのみんなの方でも爆発は起きていた。
...私の近くでも爆発は起きていたのだが、私がいるのは先生の近くだったので、爆発には呑まれずに済んだ。
おー、これがアロナバリアかぁ。
「"サトミ、大丈夫?"」
「えへへ...大丈夫です♡」
「何...?」
「この音は...」
『砲撃です!3kmの距離に多数の擲弾兵を確認!50mm迫撃砲です!標的は私たちではなく便利屋の方みたいなのですが...もう少し確認を...』
「迫撃砲ですか?」
「50mmといえば...」
『兵力の所属、確認できました!!ゲヘナの風紀委員会!1個中隊の規模です!』
アヤネの言葉の通り、どうやら風紀委員会がやってきたみたいだ。
「社長!ムツキ!ハルカ!早く隠れよう!奴らが来た!」
「奴らって?」
「うちの風紀の連中だよ!ここまで追ってくるなんて...それもこのタイミングで...!いや、こんなタイミングだからこそ!?」
カヨコがそう叫んで逃げ出そうとしていたのだが、それを狙ったようにその場に迫撃砲の弾が飛んできた。
巻き上がった煙が晴れたとき、その場には倒れ伏した便利屋の姿が見えてきたのだった。
「なっ、何!?風紀委員会が便利屋を捕まえに来たってこと!?」
『まだ分かりません...しかし、私たちの友好的とは判断しかねます。』
「たしかに。砲撃範囲内には私たちもいた。あからさまにこっちを狙った訳じゃなさそうだけど。」
「冗談じゃないっての!便利屋は私たちの獲物なんだから!なんなの一体!」
「でもゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武力集団や便利屋のような部活とは性質が異なります!1歩間違えれば、政治的な紛争の火種になるかもしれません...!」
たしかにその通りだ。下手にゲヘナの風紀委員会を相手にすればただじゃすまないかもしれない。それに一度だけ連邦生徒会に顔を出していたゲヘナの生徒会長を見るに、簡単には済まなそうだ。
私の記憶だとネタキャラだったんだけど、普通にカリスマ性の溢れる切れ者に見えた。
「アヤネちゃん、ホシノ先輩とはまだ連絡がつきませんか?」
『はい...普段ならここまで連絡がつかないことはないはずなのに...』
「この状況...私たちはどうすればいいのでしょうか?」
委員長であるホシノの判断を仰げない状況になってしまい、みんな迷っているようだ。
「"じゃあこのまま便利屋を風紀委員会に引き渡しちゃう?"」
「それは、で、ですが...それにしても彼女たちと戦う訳には...」
「じゃあどうしろって言うの?」
「...他に選択肢は無い。風紀委員会を阻止する。」
「シロコちゃん!?」
『...はい、その通りです。風紀委員会が私たちの自治区で既に戦術行動をしたということは、政治的紛争が生じるということ。
きっと便利屋の皆さんが問題を起こしたのは事実です。しかし、だからといって、ほかの学園の風紀委員会が私たちの許可もなく、こんな暴挙を敢行していいという意味ではありません!』
「その通りだわ!良くもこんなことを!これは私たちの学校を、権利を無視するような真似よ!
便利屋を罰するのは私たち!柴関ラーメンを壊した代償を払ってもらわないと!!」
そう言って各々銃を構え出した。
私はストーリーを知ってるから勝てるってわかってるけど、みんなあんな大勢に対して、しかも便利屋との連戦でよくやるなぁ...
とりあえず何か問題になったとしても、私は連邦生徒会の一員としてアビドス高校の味方に立ってあげよう。と思いながらため息を吐いたのだった。
サトミが戦えないという設定が想像以上に描写を難しくしてる!?
先生の隣に立っての客観的視点で書くの普通に難しいなこれ。かと言って急に戦えるようにするのも...
サトミには先生の隣で補佐だけをやっていて欲しいのです。