ホシノを助けてから数日、私たちは久しぶりにシャーレへと帰ってきていた。
砂漠地域で暮らしていた期間は短いはずだが、風と共に砂が飛んでこない環境も、慣れ親しんだ気候も、随分と懐かしいものに感じられた。
私たちがホシノを助けてから、数日の間に様々なことがあった。
カイザーPMC理事は、あの場で身体が故障している所をヴァルキューレ警察学校に逮捕された。
なお、カイザーPMC兵力と一緒に戦っていた便利屋68については、戦闘終了と同時に姿を消したことで、捕縛に失敗したらしい。今ではアビドスから撤退し、どこか別の場所に拠点を移したらしいのだが、その所在まではわからなかった。まあゲヘナの風紀委員会に目をつけられているから簡単にわかるような場所に拠点を置く訳には行かないのだろう。
アビドス対策委員会は、連邦生徒会公認の委員会となったことで、正式にアビドス高校の生徒会として活動をしているらしい。
ホシノが生徒会長になるんだと思っていたが、どうやら本人が拒否したことで、未だアビドスの生徒会長の席には誰も座っていないようだった。
生徒会長不在の生徒会。またどこかで問題になりそうだが、その時には、また私もアビドスの味方になるとしよう。彼女たちが自分で考えた結果なのだ、私たちはそれを尊重してサポートするだけだ。
そういえばアビドスの借金問題についても、未だ解決したとは言えない。
連邦生徒会の捜査が入ったことで、カイザーローンが課していた膨大な月々の利子が問題となり、かなり緩和されることになったため、多少は楽になりはしたものの今までがヤバすぎただけで結局最終的な9億円という借金は変わらなかった。アビドスの土地についても、未だカイザーコーポレーションに所有権があるままだ。
それらは、正式な取引によるものだったため、連邦生徒会にもどうしようもないものだった。
アヤネからの連絡によると、アビドス対策委員会の雰囲気は相変わらずらしい。
セリカが詐欺に騙されて、シロコが犯罪の計画を立てる。ホシノがそれに悪ノリし、ノノミがそれらを制止する。
私はそれを聞いた時に、急いで連邦生徒会に連絡を入れて詐欺被害防止の講習を開くように言った。とはいえ連邦生徒会は未だ混乱のさ中なので、開かれるのはまだ先になりそうだ。セリカには電話で釘を刺しておいた。
それは置いておいて、アビドス対策委員会もどうやら平和な日常を取り戻すことが出来たらしい。
私たちシャーレの1番最初の大仕事は大成功だったようだ。
とはいえ...
「"サトミ、次はこっちをお願い!"」
「分かりました!すぐに持っていきます!」
私たちがアビドスに出張にいっていた間も、相変わらず仕事は溜まっていく。アビドスでも少しずつ進めてはいたものの、アビドスの問題に時間を使っていた分、どうしても溜まってしまっており、帰ってきた私たちを出迎えたのは大量の書類の山だった。
あれから先生も徹夜をするようになっていしまい、私のこっそり添い寝も再開された。個人的には役得ではあるが、その理由が理由である。連邦生徒会にはしっかりとクレームを入れておいた。あんまり変わってないけど。
そうして忙しい書類を片付けて日も暮れた頃、私はシャーレに併設された居住スペースのキッチンにいた。
前世では自炊こそしてはいたものの、簡単な細切れ肉と野菜パックでの炒め物ばかりだったため本格的な料理などは出来なかったのだが、今の私は幼少期から練習を重ね、大抵の料理はレシピを見ずとも作れるようになっていた。
「お待たせしました、先生。今日は肉じゃがですよ♡」
仕事が多すぎて、先生だけでなく私もシャーレに寝泊まりをしている最近は、三食シャーレで取っていた。先生は放っておくと、コンビニ弁当かカップ麺で済ませるという不健康な食生活を送ってしまうため、私が用意するということで決まっている。ここで先生の胃袋を掴んでやるのだ。
「"いつもありがとうね、サトミ。...うまっ!"」
「ふふっ、良かったです♡」
食事スペースに移ったあと、私は肉じゃがを美味しそうに頬張る先生を眺めていた。もうこれ新婚でしょ。
そうして食べ終わった先生は、お風呂に入ると寝巻きのままに再び机に向かった。
ここからが毎日行われる私と先生の勝負である。
「また机に向かって...先生、今日はもう終わりです。続きは明日ですよ!」
「"い、いやでも、まだ残ってるし..."」
「えぇ、残ってますよ。こんなにもね!」
私がそう言いながら指さした先には、大量に積まれた書類の山がある。全て期限事に優先度別で分けられたものである。
できる限り進めておきたいという気持ちは分からんでもない。私だって以前は社会人だったのだ。とはいえそれも限度というものがある。
過剰な自己犠牲で進めたところで、その疲労でかえって効率が落ちてしまうものなのだ。
「直近までに期限が定められたものはもう終わったんです。今日頑張って進めたところで終わるものでもなし、今日はもう休みましょう!」
「"いやでも、今進めておくと後々楽になるよ!"」
「その「後々」はいつ来るんでしょうねぇ?今でもやるべき書類は増え続けているというのに!」
「"でも...うぅ...はい...今日は終わりにします..."」
勝った。今日の勝負は私の勝ちだ。ちなみにこれまでの勝敗は五分五分である。期限の近い物があるかどうかで大体が決まる。
しかしまだ油断ならないのだ。この前なんかそれで就寝後に起き上がって、こっそりと仕事をしていたのだから。
監視目的で起きたらすぐ分かるように先生の隣で寝ることを提案したら大人しく寝てくれた。ちなみに隣で寝るのは断られた。私は良いのに...
私はベッドに入り、画面の明るさを極限まで落としたスマホでSNSを確認して、シャーレの評価とか連邦生徒会の現状、そしてキヴォトスのニュースを確認した。こういう時間に確認しておかないと暇がないのだ。これはプライベートだし、仕事ではないのでヨシ!*1
ゲヘナ自治区で温泉開発部がビルを爆破、結局温泉は出ず、風紀委員会が到着した頃には既に撤収していた...ゲヘナは治安が悪すぎて、いつもネットニュースには何かしらの事件が報道されている。
一般家庭にて、ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部が開発したBluetooth付きハンガー使用中に自爆ボタンが押され爆発。エンジニア部部長の白石 ウタハは「自爆ボタンはロマン」だと主張しており外す気はない、との事...どこからツッコめばいいのやら。
トリニティ総合学園内で深夜に水着を着用して徘徊していた生徒を正義実現委員会が拘束。本人は「校内では校則で定められた服を着るもの、水着も校則で定められたものだ」とのこと...これ絶対ハナコだよね。
そうして少し経った頃、起き上がった私は先生の寝室に割り当てられている部屋へと向かう。出来るだけ音を立てないように部屋へと入った私は、先生が寝息を立てていることを確認しつつ、先生の寝顔を観察する。
10分ほど先生の寝顔堪能した私は、部屋を出ていくと自分のベッドへと戻り再びスマホを開く。そうして時刻が11時を過ぎたところで、ようやくスマホを閉じ、私は就寝するのだった。
翌朝、スマホのアラームに設定した音楽が流れる直前のバイブレーションで目を覚ました私は、音楽のイントロが来る直前にストップをかけた。時刻は6時半、先生が起きてくる7時半になるまでに朝の準備やら朝ごはんやらを用意するのだ。
顔を洗って目を覚ましたあとは少しのメイクをして、今日も先生にアピールをする準備をする。
うん、今日も今日とて可愛い私の完成だ。
...いや、今までにアピールが成功しなかったことを考えるに、少し変えた方がいいのか?もしかしたら別のメイクの方が先生に刺さったりするのだろうか...今度春葉原辺りに出向いてメイク用品でも探しに行こうかな?...そんな暇があればだけどね。*2
メイクを終えて作った朝食は、簡単にハムエッグトースト。ちょっと手抜き感が拭えないけど、シャーレの忙しい朝にはこういう簡単な朝食の方が適してる。
個人的には白飯と味噌汁の並ぶ豪華な朝食も良いかなとは思うけど、先生は朝はそこまで食べない派みたいだ。
「せんせー、起きてください。朝ごはんできてますよ♡」
「"うーん...もうちょっと寝かせて..."」
「もうそろそろ準備しないと、当番の子が来るまでに間に合わなくなっちゃいますよ。」
このやりとり夫婦っぽくない!?「あなた」って呼んだ方がいいかな!?
その後のそのそとカワイく起き上がってきた先生と朝ご飯を食べた後に朝の準備やらを終わらせた頃には時刻は9時、当番の生徒がやってくる時間になった。
「先生、サトミさん、おはようございます。」
「おはようございます、ユウカ。」
「"いらっしゃい、ユウカ。"」
今日の当番はユウカ。今のところダントツで当番の回数が多い生徒だ。
そんなユウカだが、どうやら私たちがアビドスに出張に行っていた間もちょくちょくシャーレに来て、簡単な書類を進めたり、整理してくれたりしていたらしい。
私たちはもはやユウカに頭が上がらない思いだ。
だからと言って先生のヒロインの位置を譲る気は無いぞ!がるるる...!
そんな私の内心に気づくことなくユウカはシャーレの部室に入ってきて辺りを見回した。そしてその視線は部室の一角、正確にいえばキャビネットの上に鎮座するカイテンジャーロボに注がれる。
「せ〜ん〜せ〜い〜!?またこんなものに無駄づかいして!!大人なんですからちゃんと計画的に買い物するように言ったじゃないですか!」
「"お、落ち着いてユウカ。ほら、カイテンジャーロボは私の生活に欠かせないものだから..."」
「そう言ってこの間金欠だって嘆いてたの忘れてませんからね!
...サトミさんも!先生が無理しないように止めてください!」
おう、こっちにも飛んできた。
「いやぁ、私も先生の気持ちは分かりますからね。合体ロボはロマンです。」
「...あなたもですか!!!」
ユウカのツッコミを無視して先生にサムズアップをすると先生もいい笑顔でサムズアップを返してくれた。
合体変形のカッコ良さは男なら誰でも通る道だからね。私も好きだし、合体変形。
そんな私たちを交互に見ながらユウカは頭を掻きむしっていた。残念だったね、男(元男も含む)ってのは無駄にガシャンガシャン動いてるだけでテンションが上がるチョロい生き物なんだよ。
「サトミさん!先生を甘やかしたらダメです!この人は甘やかした分だけ付け上がってまた変なことにお金を使いますよ!?サトミさんもそうやって金欠になってもやし生活する先生なんて見たくないでしょう!?」
「いやー、先生が好きなことを追求してテンションが上がってる分には良いんじゃないですか?
というか、もし金欠になったとしても先生を飢えさせなんてしませんよ。最近は三食シャーレで私が作ってますから。」
私の言葉を聞いた瞬間、ユウカは固まってしまった。
あ、もちろん意図的ですよ?ヒロインマウントです。
「だ...だとしても先生は大人なんですよ!?教師として生徒の規範となる行動をですね...!」
「ふふふ...分かっていませんねぇユウカ。」
「...何をですか?」
「良いですか、ユウカ?先生を見てください。あのカイテンジャーロボを見つめる純粋な目を。あれは先生が好きなもの、ことを追求することの大切さを伝えているんですよ。」
私がそう言って先生の方を見ると先生の視線はカイテンジャーロボに注がれており、その目は背後に「キラッ☆キラッ☆」という効果音が見えるほどに輝いていた。
「ユウカはこれまで、先生のあそこまで曇りひとつない瞳を見たことがありますか!?無いでしょう!カワイイですよね♡*3
あの先生の様子を見て生徒のみんなは気付くんです、探究心を大切さを。実際に先生は、あのカイテンジャーロボを購入して以降、定期的にあのロボットを視界に収めることで作業効率の向上が確認されました。
加えて私についても、そんなカワイイ先生を視界に収めることで、同様に作業効率の向上とモチベーションの維持を自覚しています。
百利あって一害なし。どうです?これでもまだあのカイテンジャーロボを「無駄な買い物」呼ばわり出来ますか?」
ふふふ...一息で言ってやったぜ。
作業効率の向上とモチベーションの維持は実際のことだし、そんな私とユウカのやり取りをそばで見ていた先生からサムズアップが飛んできている。私も速攻サムズアップとドヤ顔で返しておいた。
一方のユウカは、「ぐぬぬ...」と唸りながら頭を悩ませていた。
やがて諦めたのか、「...分かりました。」と小さく呟いたユウカと一緒に私たちは仕事を始めるのだった。
なお、先生の視線はカイテンジャーロボに、私の視線はそんな先生にかなりの頻度で向けられるせいで、再びユウカが爆発することになったのはまた別のお話。
久しぶりの先生LOVE全開話。
サトミは先生のお世話をしまくることで胃袋を掴む、好感度を稼ぐ、果ては依存させる等色々考えております。とはいえ打算だけでなく料理も好きだし合体変形ロボも、本当に好きなんですけどね。
良いよね、ガシャンガシャン無駄に動く機構って。