朝起きてシャワーやらご飯やら着替えやら、準備を終えた私はシャーレの部室へ向けて歩いていた。
少し前まではこの通りも、治安の悪化のせいで不良がのさばっており戦闘が弱すぎる私はビクビク怯えながら歩くしかなかったのだが、先生がやってきて以降は不良たちの数も目に見えて減ってきており最近は堂々と歩くことができていた。
(今日はちゃんと寝てくれたかな...)
イヤホンで音楽を聴きながら歩く私の思考を埋め尽くすのはいつも先生のことだ。
元々有り余る責任感で、毎日のように徹夜を繰り返していた先生だが、最近は私が先生が心配だと泣きついたお陰か夜にはちゃんと寝てくれている。
それでも自宅ではなくシャーレの中だからまだワーカホリック気質を拭えてはいないのだが、ちゃんと寝てくれていると言うだけで前進だと言えるだろう。
まあその分、しれっと添い寝をする機会も減ってしまったのだが、まあそこは私の欲望なので我慢することとしよう。今でも徹夜をすることはあるので、添い寝はたまにの楽しみということで取っておくことにした。
シャーレの建物の中に入った私は慣れた足取りでエレベーターに乗り、中にある鏡を使って、朝の風で乱れた前髪を整えた。
そうしているうちに目的の執務室のある階に止まったエレベーターから降りて、すぐ近くにある扉に手を掛ける。中から先生がキーボードを叩く音がすることを確認すると、扉についたガラスに反射する自分の顔を最後に確認した。
うん、今日も一番カワイイ私だ。
「せんせ、おはようございまーす!」
「"おはよう、サトミ。"」
扉を開けて元気よく挨拶をするとすぐに帰ってきた返事のした方を見ると、こちらに目線を向けた先生と目が合った。そのまま先生の顔を確認しながら隣の机に荷物を置いた。先生の顔に隈は見られない。
「うん、ちゃんと寝れてるみたいですね。」
「"サトミのおかげだよ。昨日も遅くまで手伝ってくれてありがとうね。"」
「私がやりたくてやってることだからいいんですよ♡それじゃあ今日も頑張っていきましょう!」
私がそう言いながら普段通りに目の前に並べられた書類の山に手を伸ばした瞬間、先生が声をかけてくる。
「"あ、ちょっと待ってね。今日の朝、ちょっと気になる手紙を見かけて..."」
そう言って先生が差し出した手紙を受け取った。
手紙なんて今どき珍しい...前世も込みで現代っ子な私は自分で書く文字の温もり〜とか言われても分からないのだ。漢字を忘れてしまうこともないし。
そんなことを思いながら呼んだ手紙にはこう書かれていた。
連邦捜査部の先生へ
こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校が追い詰められています。それも、地域の暴力組織によってです。
こうなった事情はかなり複雑ですが...
どうやら私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます。
このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで、今回先生にお願い出来ればと思いました。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?
あー...アビドスか。砂漠の学校だよね。正直細かいところは覚えてないけど、1番最初のストーリーということもあって印象には残っている。
「これは...」
「"ちょっとただ事ではないなって思ってね。アビドスに出張しようと思うんだけど、サトミもどうかな?"」
先生は私の顔を伺いながら尋ねてきた。
私の答えはもちろん決まっている。
「もちろん、私もご一緒させていただきますよ!」
先生が心配だって言うのもあるし、先生について行きたいという欲望もあるけど、何より私の知っている(うろ覚えの)ブルーアーカイブのストーリーは、どれも悲しい道筋を辿るものだ。私も前世で大人を経験した身としては年下の高校生が苦難を経験する姿を見たくなんかない。それを和らげるために、私もできる限りの事はやろうと思っていたのだ。
...ついでに言うと、先生に救われた生徒たちはみんな先生を好きになる。それに対して先んじて牽制をしておこうという魂胆もある。...本当についでだよ?
それから出張のための準備を終えた私たちは、電車に乗ってアビドス自治区へとやってきた。
確かストーリーでは先生が迷子になってギリギリのところでシロコに助けられる、とかそんな感じの展開だったはずだ。
だから地図と食料品や飲料を多めにバッグに詰めて出発した。
のだが...
現代っ子私、地図が見れなかったのである。スマホの位置情報と照らし合わせようにも、アビドスが広すぎて歩いているうちにすぐに充電切れとなってしまった。モバイルバッテリーは持ってきていない。
そしてスマホアプリの位置情報を失った私たちを襲ったのは一面砂だらけの地平線。もはや住宅街の影もない。
あれぇ?ストーリーだと流石に住宅街はあったはずなんだけど...
不幸中の幸いか食料品と飲料は沢山あるため、節約しながら二人で分け合って歩くこと数日。ようやく見えてきた住宅街とその先にある学校らしき建物に、二人で抱き合って喜んだ。連日お風呂に入っていないからか、エロい匂いがした。くんくん。
自力で学校を見つけたということもあり、もはや元のストーリーは見る影もないが、多分元のストーリーの方が楽だった。
私たちは震える足を無理やり動かしながら学校に入っていく。
「ごめんくださーい!」
カラカラの喉をギリギリ最後に残ったペットボトルの水で潤した私は、玄関前で声を張り上げた。
やがて廊下を走る音と共にやってきたのはノノミとアヤネの2人だった。
「はーい!...お客さんですか!?」
その反応からアビドスに部外者が来るのはよっぽど珍しいだろうことが察せられた。まあこんな広大な砂漠を渡らなきゃいけないってなるとね...
それから二人で通された生徒会室で、水を貰って私も先生もようやく息をついた。
部屋の中には既に対策委員会の全員がいて、私たちに様々な視線を向けている。
「それで...あなた方は...?
来客の予定は無かったはずですが...」
不思議そうな視線を向けて言うアヤネに先生が立ち上がって答えた。
「"シャーレの顧問です、よろしくね。"」
その言葉に全員が目を見開いて驚いた。
「...え、ええっ!?まさか!?」
「連邦捜査部、シャーレの先生!?」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「むにゃ、よろしくねぇ。」
ほとんどが喜びの声をあげる中、アヤネの視線がふと、私の方を向く。
「そちらの方は...」
「私は連邦生徒会所属、シャーレ管理担当の小比類巻 サトミです。よろしくお願いしますね、アビドスの皆さん。」
私がそう挨拶した瞬間に、みんなの表情が強ばった。気がする。え、なんで?
そのことを疑問に思った瞬間、外から銃声が響いた。
ダダダダダダダッ!!!
「じゅ、銃声!?」
急いでみんなが窓の外を見ると、そこにはヘルメットを被った武装集団が迫ってきていた。
「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「あいつら、性懲りも無く...!」
「急いで迎撃するわよ!ほら、ホシノ先輩も起きて!」
「むにゃ、ヘルメット団め、よくもお昼寝の邪魔をしてくれたな〜。」
それぞれが扉の近くにあるガンラックから愛銃を取り構えながら出撃を開始した。それを見て私も自分の拳銃をホルスターから抜いたのだった。
どうも皆さん、役たたずです。
アビドスのみんなの連携がすごすぎて気がついた時には戦闘が終わってました。私がやったことと言えば届くわけも無い距離から拳銃を撃って外したことくらい。
やめて!そんな目で見ないで!私は先生の隣で先生を守ってるんです!
教室に戻ってきたあと、アビドスのみんなは先生の指揮のおかげで戦闘がやりやすかった!先生のおかげで勝てた!なんて話題で盛り上がっていた。そんな中ものすごい気まずさを感じた私は先生の後ろに隠れていた。
恥ずかしさと気まずさで隠れているだけだ。決して匂いなんて嗅いでない。すーはー。
「...少し遅れちゃいましたけど、改めてご挨拶します、先生。
私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネ...こちらは同じく1年のセリカ。」「どうも。」
「2年のノノミ先輩とシロコ先輩。」「よろしくお願いしますね♣︎」「ん、よろしく。」
「そしてこちらは委員長で3年の、ホシノ先輩です。」「いやぁ〜よろしく、先生ー。」
全員の挨拶を終えたところで先生が後ろに隠れていた私を横に移動させながら話し出す。
「"それじゃあこっちも、私は先生、この子はサトミ。私の補佐をしてくれてるんだ。"」
「よ、よろしくお願いします。」
...やっぱりこうして改めて見ると、みんなに警戒されてるな...ご、ごめんって、戦闘で一切役に立たなかったのは謝るからさ...
「さて、先ほどご覧になった通り、わが校は現在危機にさらされています。
そのためシャーレに支援を要請し、先生がいらしてくれたことでその危機を乗り越えることが出来ました。」
グフッ( ´ཫ` ): . °
いやまあ、ほんとに何もしてないんだけどさ...
「先生がいなかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません。」
「"対策委員会っていうのは?"」
「そうですよね、ご説明します。対策委員会とは...このアビドスを蘇られるために有志が集った部活です。」
「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なんです!全校生徒と言っても、私たち5人だけなんですけどね。」
「他の人たちは転校したり、学校を退学したりして街を出ていった。学校がこの有様だから、学園都市の住人もほとんどいなくなってカタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの。」
そういえばそうだ。アビドスは確か借金が大量にあって、それをこの5人で返済しようと日夜努力していたはずだ。
そこをカイザーコーポレーションに邪魔されて...みたいなストーリーだったはず。なんとなく流れを思い出してきた気がする。
確かこの後にセリカがアルバイトをして、便利屋が絡んできて...あれ、セリカが攫われるのっていつだ?
くそう、分からない。私のポンコツ記憶力ではストーリーに介入して悲しい展開を無くすっていうのは無理があったのかもしれない。とりあえず思い出すかもしれないし、今は先生について行こう。先生ならストーリー上の最善を選んでくれるはずだし。
「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃ行けないんでしょうか...ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに...」
私が思考を会話の方に戻すと、アヤネが悲しそうに現状を嘆いていた。他の問題と言えば、やはり借金のことだろう。私の信用ならないポンコツ記憶力によれば10億円はあったはずだ。
私の方で、連邦生徒会に話を通せないだろうか?他校の問題事となると...調停室の管轄だろうか。後でアユムに話を聞いてみよう。
「...そういうわけで、ちょっと計画を練ってみたんだー。」
「えっ、ホシノ先輩が!?」
「うそっ!?」
「いやぁ〜その反応はいくら私でも、ちょーっと傷付いちゃうかなー。おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー。」
そういえばこのホシノもこんな感じだったっけ?なんかもっとキリッとした感じのキャラクターだったと思うんだけど...確か覇権レベルのタンクキャラでみんなこぞって使っていたはずだ。私は引けてなかったけど。
なにか事情があるんだろうか...先は長そうだ。
「...で、どんな計画?」
「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いてるからねー。
だからこのタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らは1番消耗しているだろうからさー。」
「い、今からですか?」
「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるし。」
「なるほど。ヘルメット団の前哨基地はここから30kmくらいだし、今から出発しよっか。」
「いいと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて夢にも思ってないでしょうし。」
「そ、それはそうですが...せんせいはいかがですか?」
「"うん、いいと思う。...サトミは?"」
...なんで私に聞いた?私気まずいから全力で空気になって考え事してたのに...
とはいえ。
「いいと思います。話を聞く限りでは何度撃退しても襲撃をしてくるということは、相手には潤沢な物資があるということ。
...一介の不良集団がそんなに物資を持つ理由は不明ですが、それを削ぐなり、後ろ盾に関する情報を得るなり出来れば、不良集団に対する問題はかなり前進するんじゃないでしょうか?」
「"うん、決まりだね。それじゃあ出発しようか。"」
「「「「おー!」」」」
そんなこんなでやって参りました。ヘルメット団前哨基地!これから始まるは追撃戦!つまりはそう!
私は役たたずってことです。悲し。
相も変わらず、アビドスのみんなはものすごい連携で敵をバッタバッタとなぎ倒していた。
そんな中、私は地面に倒れたヘルメット団員のうちの特に目立つ1人、赤いヘルメットを被った(多分)リーダー格の人の肩を揺すって起こしていた。
「おーい、起きてくださーい。」
「んぐ...はっ!よ、よくもやってくれたな!」
意識を取り戻した彼女は急いで腰に手を回すが、その手は空を切るだけだ。残念ながら、もう既に武装解除は終わっている。私はわざとらしくホルスターから銃を抜いて彼女に見せつけながら問いかけた。
「今からの質問には嘘なく答えてくださいね?
ひとつめ、あなた方の基地はこの砂漠地帯にあって、弾薬や食料品などの物資が大量に余っていますけど、これらはどこから仕入れたんですか?」
「ひぃっ!?わ、私は知らない!本当だ!許して!」
「あれ?あなたがリーダー格に見えたんですけど...」
「か、カタカタヘルメット団の幹部連中はみんなこのヘルメットだ!リーダーはあんたらにやられて治療中だから出払ってるんだよ!物資は勝手に、気づいたら送られてきてるんだよ!」
うーん...ハズレか...
「じゃあふたつめ、私たちはあなたと違って潤沢な補給がなくて困ってるんですよね。あなたたちの抱える物資をいくらかいただけませんか?」
「わ、わかった!あ、あそこを曲がった先の部屋にあるた、大量のダンボール箱の中に入ってる!いくらでも持って行っていいから!だ、だから許してくれ!」
「ありがとうございます、それじゃあいただいていきますね?」
そこまで言ったところで彼女は気絶したのか、頭を地面に倒して動かなくなってしまった。どうしてそんなにビビるの?
気を取り直して、私が教えてもらった部屋に向かおうと立ち上がって振り向いた瞬間、私の方を見るアビドスのみんな+先生と目が合ってしまった。
みんなびっくりした表情をして固まっている。
...もしかしなくてもさっきの私のエセ尋問もどきを見てた?
私は恥ずかしさを隠すように物資の置いてある部屋へと逃げ込み、その場で悶絶するのだった。
恥ずかしいいいいいっ!!!
百歩譲ってアビドスの人達に見られたのはいいとして、先生に見られていたのがヤバい。今までずっと猫被って接していたのがバレただろうか?マズイ。先生に引かれた!?
いやー!!先生、嫌いにならないでー!!
数分後、ようやく落ち着きを取り戻した私は黙って俯いたまま物資の入ったダンボール箱を外に停めてあるアビドスの車に運び込むのだった。
砂漠で迷った理由はアビドスの第1校舎に向かおうとしてたからです。砂漠の中に埋もれてるんだから見つかるはずもなく...
そしてサトミに尋問のノウハウなんてありません。ただ前世でやったゲームの尋問シーンを意識しながらそれっぽく振舞ってるだけです。ただ雰囲気はバッチリだったようで、アヤネやセリカを怖がらせ、ホシノにより一層警戒されました。
先生はサトミって尋問もできるのかーって感心してる程度です。この程度で先生からの評価が変化するなんて私が解釈違い起こします。