薄々察してはいましたけど、やっぱみんなTS好きなんすね。
ヘルメット団の前哨基地襲撃を終えて、学校に戻る車の中で、私はうずくまって顔を覆っていた。そんな私を気遣ってか、車内はなんとも微妙な空気が流れていた。
やってしまった。前世では絶対に経験することのない尋問という場面に遭遇して前世のゲーマーだった頃の血が騒いでしまった。ついゲームで見た事のある尋問シーンを意識してその真似事をしてしまったのだ。
それも先生の目の前で。
どうしよう...先生に嫌われたら生きてけない。
もぉまぢ無理...
「"サトミ..."」
「はい...」
そんな私を気遣って、隣に座る先生が小声で私に話しかけてくれた。私は顔を手で覆ったまま返事を返す。先生の優しさが痛い!
「"サトミの尋問、ゲームみたいでかっこよかったよ。"」
私はそんな言葉に思わず顔を上げた。
「引いて...ないですか?」
「"引いてなんかないよ。"」
「嫌いに、なってないですか?」
「"もちろんだよ。"」
元ゲーマーとして、私が意識した場面と同じものを先生が意識してくれたという嬉しさが込み上げてきて、思わず顔がにやけてしまった。そんなところを先生に見られたくなくて、私はまた顔を覆う。
私の女としての意識は慰め方が下手くそだと言っている。自己嫌悪に陥っている相手に対してかっこいいだなんて慰めにもならないと言っている。
それでも、先生と同じことを考えていたという嬉しさと、嫌われてなかったという安堵感から、どうしても先生を許してしまう。不器用にも慰めようとしてくれた先生の優しさに、さらに好きになってしまう。
そうして私は、さっきとは違う理由で、再び顔を覆って俯くのだった。
「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした。」
アビドス高校に帰ってきた私たちは、対策委員会の会議室の中でようやく一息つくことが出来た。まあ私は何もやってないんですけどね。
「ただいま〜。」
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです。」
「そうだね、これでやっと、重要な問題に集中できる。」
「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛れるわ!ありがとう先生!この恩は一生忘れないから!」
一息ついたことで気が緩んだのか、セリカが爆弾を投下した。ついさっきまでタブレット端末を操作しながらみんなの様子を見ていた先生も動きを止めてセリカの方を見ている。
「"借金返済って?"」
「あっ...わわっ!」「それは...その...」
先生に聞き返されたアビドスのみんなは目に見えて焦りだした。
「ま、待って!アヤネちゃん、それ以上は...」
「...いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし。」
「か、かといってわざわざ話すようなこともないでしょ!それに...」
そう言ってセリカは私の方を見た。...私?
「別に犯罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私たちを助けてくれたし、サトミちゃんも悪い子じゃないってのはもうわかってるでしょ?」
「で、でも...2人とも結局部外者だし!」
「たしかに先生がぱぱっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?
...それに、連邦生徒会の子に直接話を通せる機会なんてそう無いだろうし。
それとも、他に何かいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」
「う、うう...でっ、でも、さっき来たばかりの大人でしょ!?今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことあった!?この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、部外者が首を突っ込んでくるなんて...!
わ、私は認めない!!」
我慢の限界が来たらしいセリカがそう叫んで教室を勢いよく飛び出していった。
それを受けてノノミがセリカの後を追って走っていく。
教室に残された私たちの間にはなんとも微妙な空気が流れていた。
アビドスの借金のことを知らない先生は混乱しているだろうし、知っている私もここで知っているということを言ったところで何にもならないのだ。
そんな中、ホシノがポツリと話し出す。
「えーと...簡単に説明すると、この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で...9億円くらいあるんだよねー。」
「"9億円!?"」
そのとてつもない金額に、先生が驚きの声を上げた。
そんな途方もない金額を学生が、それも5人だけで背負っているというのだ。驚くのも無理はないだろう。
「正確には、9億6235万円です。アビドス...いいえ、私たち対策委員会が返済しなくてはならない金額です。
これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。
ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く...ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて去っていってしまいました。」
「そして、私たちだけが残った。」
「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒が居なくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです。」
アヤネが悔しそうに胸元で拳を握りながら説明をした。確かに9億円もの借金を負わされてまで特定の学校に通いたいと思う人は少数派だろう。でも、それだけに今のアビドス高校の生徒が、どれだけこの学校が好きなのかを察せられる。
「"...どうして借金をすることになったの?"」
「理由ですか?それは...数十年前、この学区の郊外にあるとある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい...その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした。
しかし、このような片田舎の学校に巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず...」
「結局、悪徳金融業者に頼るしか無かった。」
その言葉を受け、私はとある企業を思い出していた。
カイザーコーポレーション。連邦生徒会内でも、連邦生徒会内だからこそ、その企業の話はよく聞いていた。
連邦生徒会に舞い込んでくるカイザーコーポレーションの話は、毎度グレーゾーンギリギリの商売をしているというものだった。法務部所属の友人がよく愚痴を言っていたのを覚えている。
明確な悪事の証拠が中々掴めず、やっとの思いで糸口を掴めたとしてもすぐトカゲの尻尾切り。なまじ大企業相手なせいで思うように動けないと言っていた。奴らの手によって廃校を余儀なくされた学校も多くある。この学校もつまりはそういうことなのだろう。
実際に私の中途半端な記憶は、この一件の裏にいるのはカイザーコーポレーションだと告げている。もうちょっと明確な知識があれば、先んじてカイザーコーポレーションの悪事の証拠でも掴めたのだろうか。
私は再び自分のポンコツ記憶力を呪った。
「...最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし、砂嵐はそのあとも、毎年更に巨大な規模で発生し、学校の努力も虚しく...学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途を辿りました。そしてついには、アビドスの半分以上が砂に飲まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです。
私たちの力では、毎月の利息を返済するので精一杯で...弾薬も補給品も底をついてしまっています。」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生が初めて。」
「...まあ、そういうつまらない話だよ。
で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これから始まる借金返済に全力投球できるってわけー。もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし。」
自然災害による環境の悪化、忍び寄る大人の悪意、膨れ上がる借金。
仕方ないと割り切るにはあまりに害意が多く、誰かを責めようにもそこにあったのは純粋な善意だけ。
彼女たちがやるせない気持ちになるのも分かってしまうし、セリカが怒るのも分かってしまう。積み上げた信頼が崩れるのは一瞬で、崩れたものを立て直すのは途方もない。彼女たちはもう、大人を信じられないのだろう。例えそれが、初対面の一見優しい大人でも好意の影にこれまでの経験を、騙された記憶を連想してしまう。
つまりこれは、この中の誰が悪いという話ではなく、仕方がないという話でもなく、ただただ彼女たちが悪意の影を拭いされるまで、
「"私も、対策委員会の一員として、一緒に頑張るよ。"」
うん、そうだよね。先生、あなたなら生徒を、子供を見捨てない。だから私はあなたを好きになったのだ。
だから、私も。
「この学校を、見捨てることはしません。私も、できる限りの事をやらせてもらいます。」
あなたを信じて、隣を歩きたいと思えるのだ。
その日の夜、アビドスの学区にある宿を借りた私と先生は、先生が借りた部屋に集まって書類仕事を進めていた。こういう出張をしている時でも少しずつ進めていかないと、帰ってきた時が怖いのだ。私も前世で経験している。
「"サトミ...ありがとうね。"」
「先生、急にどうしたんですか?」
そんな中、先生が唐突に感謝の言葉を述べた。脈絡もなく、どうしたんだろうか?
「"アビドスの借金のこと、サトミも協力してくれるって言ってたから。"」
「その事ですか。あれは、私が言いたくて言ったことです。先生が気にする必要はありませんよ。」
「"...本当は、借金の問題は私がやるからサトミは一足先にシャーレに戻ってって言おうとしてたんだ。"」
まあ、なんとなく予想はできた。先生の有り余る責任感は、徹夜での業務ができなくなった代わりに別のものを背負いこもうと必死だったらしい。
私は思わず笑ってしまった。
「なんですかそれ、私はせんせの隣にいたいんですから、ひとりで戻るなんてしませんよ?」
「"うん...大人の問題に巻き込んじゃってごめんね。"」
「私を巻き込んでくれて、ありがとうございます♡」
私がそう返すと、先生は目を丸くして私を見たあと、柔らかい笑みを浮かべて言葉を返してきた。
「"うん、協力してくれてありがとう。"」
その後、しれっと先生の部屋で寝ようとした私は先生の手によって自分の部屋へと運ばれたのだった。くそう、同衾失敗。
翌朝、アビドス高校へと向かっていた私と先生の前に、セリカの姿が見えた。
セリカもこちらに気づいたようで、ちょっと嫌そうな顔をしていた。
「おはようございます!」「"おはよう。"」
「な、何がおはようよ!馴れ馴れしくしないでくれる!?私、まだあなたたちのこと認めてないから!
全く、朝っぱらから二人でのんびりうろついちゃって。いいご身分だこと!」
そんな二人でだなんて〜、おしどり夫婦に見えるだなんて〜*1
「"セリカちゃんは、これから学校?"」
おぉ、先生のちゃん付け珍しい。リン行政官くらいじゃないかな?他に呼んでるの。
先生、サトミちゃんって呼んでみてください。1回だけでいいから。
「な、何よ!なんでちゃん付けで呼んでんのよ!私が何をしようと、別に先生には関係ないでしょ?朝っぱらからこんなところをうろちょろしてたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ?じゃあね!せいぜいのんびりしてれば?私は忙しいの。」
「"学校に行くなら一緒に行かない?"」
「はあ?なんで私があんたたちと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?それに悪いけど今日は自由登校日だから、学校に行かなくてもいいんだけど?...どこ行くって、教えるわけないでしょ?じゃあね、バイバイ。」
そう言ってセリカは砂埃を巻き上げながら走り去っていく。あの去り方、アニメでしか見た事ないぞ。
「"追いかけよう!"」
「え、えぇ!?」
そんなセリカをおって先生も走り出したため、私は大慌てでその背中を追いかけるのだった。先生、意外と足速いな!?
「ちょっ!?なんで着いてくるの!?」
「はぁ、はぁ、どこまで着いてくるのよ!あっちいって!ストーカー!!」
「はあ!?さっきまで後ろにいたのになんで前から来るのよ!?」
そんなこんなで数十分走った後、息も絶え絶えになった私たち3人は、路肩の壁に手を付きながら肩で息をしていた。
急に先生が「"先回りしよう!"」って言い出したと思って着いて行ってたら前からセリカが走ってきた時はびっくりしたね。どういう道通ったの?
「はぁ、はぁ...わかった、分かったわよ!行き先を言えばいいんでしょ!?
...バイトよ。あ、あんたたちみたいにのんびりしてられないのよ。こっちは少しでも稼がなきゃ!もういいでしょ!着いてこないで!」
そう言ってセリカはさっきよりも早く走り去ってしまった。なんでまだ走れるの?
その後、セリカを見失った私たちは仕方なくアビドス高校に向かうのだった。
「セリカちゃんのバイト先?」
「"うん、今朝セリカと会ってね。バイトに行くって言ってたから。"」
「セリカちゃんのバイト先って言ったら、"あそこ"だよねー?」
「多分そうですね!丁度いい時間ですし、みんなで行きませんか?」
「賛成。遊びに行こう。」
そんなこんなでやって参りました!柴関ラーメン!
いやー、一応名前は覚えてて、ネットで調べたらほんとにあるのは確認してたから1度来てみたかったんだよね!連邦生徒会の仕事が忙しくてなかなか来る機会がなかったんだけど、ようやく来れた!何頼もうかな?
勢いよく扉を開けて入っていくノノミの後に私たちはついて行きながら何を注文しようか迷っていた。
「いらっしゃいま...わわっ!?」
「あの〜☆6人なんですけど〜!」「あ、あはは...セリカちゃん、お疲れ...」「お疲れ。」
「み、みんなどうしてここを!?」
「うへ〜やっぱりここだと思った。」「"どうも。"」「お邪魔しまーす!」
遅れて入ってきた私と先生を見たセリカの顔が引き攣った。
「げぇっ!やっぱりストーカー!?」
「うへ、先生たちは悪くないよ〜。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?」
「ホシノ先輩かっ!ううぅ...」
「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、お喋りはそれぐらいにして、注文受けてくれな。」
「あ、うう...はい、大将。それでは広い席にご案内します...こちらへどうぞ...」
セリカの案内でテーブル席にやってくると、既にほか4人が座っていた。
「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」
「...ん、私の隣も空いてる。」
ま、マズイ!早速アビドスにライバルが2人も!!
「"さ、サトミはどっちがいい?"」
「...私は先生の隣がいいです。」
結局先生はノノミの隣、私がシロコの隣に座ることになった。ぶーぶー、先生の隣は私のなのにー!
そこ!しれっと先生を膝の上に座らせようとしない!私もやったことないのに!
「セリカちゃん、バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」
「いやぁ〜セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」
「ち、ち、違うって!関係ないし!子、ここは行きつけのお店だったから...」
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?1枚買わない、先生?」
「変な副業はやめてください...」
先生、大将服着ませんか?先生の写真だったら私買いますよ!
「も、もういいでしょ!ご注文はっ!?」
「ご注文がお決まりですか、でしょー?セリカちゃん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー?」
「あうう...ご、ご注文はお決まりですか...」
「私はチャーシュー麺をお願いします!」
「私は塩。」
「えっと...私は味噌で。」
「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!先生とサトミちゃんも遠慮しないで、じゃんじゃん頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー!アビドス名物、柴関ラーメン!」
そう言われて私もメニュー表を広げる。うーん、醤油...味玉は欲しいなぁ...
「...ところでみんなお金は大丈夫なの?もしかしてまたノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」
「私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし。」
「いやいや、またご馳走になる訳には行かないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」
唐突なホシノの言葉に先生がメニュー表から顔を上げて目を丸くしていた。
「"初耳なんだけど!?"」
「あはは、今聞いたからいいでしょ!」
その瞬間、先生が逃げ出そうと席を立つが、離れる前にテーブルの反対側から伸びてきたホシノの手に捕まってしまった。南無。
あ、醤油ラーメンはものすごく美味しかったです!ご馳走様でした!!また来ます!!
いいこと言ったと思ったらちゃっかり先生とくっつこうとするサトミ。抜け目がないというか、強かというか。
ちなみに先生はしっかりとサトミの好意には気づいてます。ここまで直接的に言われて気づかないはもう鈍感とかいうレベルじゃないからね。でも先生と生徒だから、と言及を避けてるような感じです。どこかで深堀できるかな?