「いやぁ〜!ゴチでしたー、先生!」
「ご馳走様でした。」
「うん、お陰様でお腹いっぱい。」
「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」
「あ、あはは...セリカちゃん、また明日ね...」
「ほんと嫌い!みんな死んじゃえー!!」
「あはは、元気そうでなによりだ。」
柴関ラーメンでご飯を食べ終えた私たちはセリカの見送りで店を出るところだった。
いやぁ、本当に美味しかった。また食べに来て別の味も食べてみたいね。
「本当に美味しかったですね、先生。
また今度二人で一緒に来ましょうね♡」
それはそれとして先生の隣の席を取れなかったのは不満だった。先生の隣は私のものだぞ!
その後、昨日と同じように先生が借りている部屋の中で、二人で書類仕事をしていた私に唐突な電気が走った。
「──はっ!?」
「"...?サトミ、どうしたの?"」
「い、いや...なんでもないです!」
そういえば、セリカが誘拐されるのって今夜じゃないっけ!?なんか朧気に浮かんできたぞ!?
落ち着け、落ち着くんだ私。まだ大丈夫、まだあわわわわ...
そうだ、この後の展開を考えると、この後にやってくるのは便利屋68。その登場シーンは用済みになったヘルメット団をボコボコにするシーンだ。アニメとかでよく使われる、今までの主人公たちの敵を容易くボコすことで新規の敵を格上に見せるシーンで印象に残っている。
それを考えると...メタ的にヘルメット団が出てくるのってそれ以前のはず。便利屋が出てくるタイミングは正確には覚えてないけど、柴関ラーメンで初邂逅なのは合ってるはず。
そして今日私たち...というか先生が柴関ラーメンを知った。メタ的にストーリーのテンポ感を考えると柴関ラーメンの存在をそんなに間を開けて濫用はしないはず。
つまり柴関ラーメンのお披露目から便利屋との邂逅までは時間はそこまで空いてなく、必然的にセリカ誘拐イベントもその短い間のどこかで実行される!
私のIQ53万(笑)の脳内CPUが出した結論は、そう!セリカが誘拐されるのは今夜!!*1
「先生!やっぱり私、ちょっと出てきます!」
「"えっ!ちょっ!?"」
もう外は日も落ちている。セリカ誘拐までは猶予がないどころか下手をするともう実行されているかもしれない。それでも私は行かなければいけないのだ。
(ほんと嫌い!みんな死んじゃえー!!)
私は柴関ラーメンのお店がある方向へ走りながらお店を後にする前にセリカが叫んでいたセリフを思い出していた。
この後、きちんとストーリーに沿って進むのなら、セリカはちゃんと救出される。でもそれは今日の出来事では無いはずだ。つまりセリカは誘拐された状態で今夜を過ごすことになる。しかも助けが来るのかどうかも分からない状態で。
きっとセリカはあの時の言葉を後悔するだろう。下手をすればトラウマになってしまうかもしれない。
学生である彼女がそんな経験をするなんて、私が耐えられない。救えるのなら、手が届くのなら、手を伸ばす。それが大人である私のするべきことだ。明日には救われるから〜なんて言ってそれを見逃すなんて、するべきじゃないし、やりたくない。だから私はこうして走るのだ。
とはいえ、私が今走っているのは前世のブルアカの知識を元にした考察が理由のため、こんなことを先生に相談する訳には行かない。私一人で動くしかないのだ。
そうして走ること数分。
ドドドドドーーーーン!!!
唐突に聞こえてきた爆発音に、私は足を止めた。
今のは、戦車砲...?
もしかしたら、私の想像以上にヤバい事態なのかもしれない。とはいえ、私の足は音の鳴った方向に向いていた。このアビドス自治区は不良すらほとんどいない。そんな中で戦闘音が響くのなら、そこは高確率で...
「セリカ!!」
件の誘拐現場だ。
「あ?ちっ...あいつもアビドスか?」
「いや...あんなやつ見たことないですけど...」
私が到着した時には、3人のヘルメット団が気絶したセリカを運んでいるところだった。
「セリカを離しなさい。これ以上の悪事は許さないよ。」
私は拳銃を構えながら、できる限りの低い声で相手を威圧しつつ前に出る。
しかしヘルメット団の3人に脅しは通用しなかったようで、鼻で笑うと同時にセリカを乱暴に地面に下ろして各々銃を構え出した。
「素直に従うとでも?お前はひとりでこっちは3人。お前もアビドスの関係者なんだったら、お前も攫っちまえば私らが有利になるだけだぜ?」
そう言って前に出てくる赤いヘルメットを被った子の言葉を、できる限りのポーカーフェイスを保ちながら、私は内心焦り散らかしていた。
やばいやばいやばいやばいやばい。
ここまで来ておいてなんだけど、私戦闘弱いのよね。3対1どころか、1対1でも多分勝てますよ?今からレギュレーション変えません?あ、それでも私負けるから意味ないか。
どうしよう、隙をついてセリカを救出しないと...
しかもモタモタしてたらさっきの戦車砲を撃ったやつが私にも撃ってくるかも知れない。
3対1のよーいドン、遮蔽物無し、時間制限付き、そして私はクソザコナメクジ。これ普通に無理じゃない?
しかもこれ失敗しちゃうと多分私も誘拐されるのよね。私お荷物過ぎないか?
そんなことを悠長に考えているうちにヘルメット団のふたりは銃を構えながら私に近づいてきていた。残りのひとりはセリカの近くに待機中だ。
もう無理!作戦なんてクソ喰らえ!1番、サトミ!いっきまーす!!
「あっ!」「まてっ!」
覚悟を決めた私は左右から近づいてくる二人を無視して走り出す。走り出す直前に牽制として2人に1発ずつ撃ったんだけど...あれ、私の弾どこいった?え?全然外れてた?そっか...(´・ω・`)
私は2人のヘルメット団の間を走り抜ける。ヘルメット団は私目掛けて撃ってきてるが、今のところは当たって...痛っ!当たった!めっちゃ痛い!
痛む身体が動きを止めようとするのを我慢して走った私は目の前で銃を構えた赤いヘルメットを被った子目掛けて拳銃を撃つ。もちろん外れた。それも惜しいとかじゃない。右上に飛んでったが?私の銃壊れてる?
このままヤケになって銃を撃っても当たらないと判断した私は、勢いそのままにヘルメット団目掛けてドロップキックをかました。
相手もまさか物理攻撃に頼ってくるとは思わなかったようで、クリーンヒットした結果見事に吹き飛んで行った。今の私めっちゃフォーム綺麗じゃなかった!?
とはいえ、練習もしていなければ受け身も取れない身でドロップキックは無理があったようで、そのまま地面に激突した。超痛い。
「リーダー!?」「よくも!」
そして倒れたままの私は怒ったヘルメット団員に滅多打ちにされた。
痛い!痛いって!てかこれホローポイント弾じゃねぇか!!通りで痛いわけだ!!
そのままの姿勢で撃たれ続けた私は、痛みから意識を飛ばす寸前になってしまった。
くそ、このままじゃ私もセリカと一緒に誘拐コースだよ!ホローポイント弾絶対禁止にしてやるからなー!!!
そうして意識を飛ばしてしまった私には、その直後に放たれた言葉を聞くことはできなかった。
「うへ、サトミちゃんほんとに戦えないんだね。」
「知らない天井だ...」
これみんなも一回は言ってみたかったセリフだよね。
気がつくと私はどこかの教室のベッドの上に寝かされていた。多分ここアビドスだよね?てことはもう既に誘拐からの救出の一連の流れは終わった感じか。
【悲報】役たたず私、ただただ誘拐されただけ。
原作知識も、悲しませまいとする心意気も、結果を変える実力がないと無駄なんですね...先が思いやられる...
そんな事実を思い知らされた私は、ベッドから起き上がろうとする。その瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。
「サトミちゃん!?起きたんですね!」
入ってきたのはノノミ、そのままわたわたと私の体調やら怪我の具合やらを確認したノノミは「先生を呼んできますから、安静にしててくださいね!」と叫んで走っていった。
なんか、人が焦ってるとこ見ると冷静になれるよね。
冷静になった私は、着せられているワイシャツをグイッとめくった。
うわぁ、しっかり跡になってるよこれ...まあでもこれを元にして連邦生徒会の会議で話題に出せるかな...ホローポイント弾を複数貰ってこんなに跡になりました。相当痛くて気絶しちゃったんですよ!って感じで。後で証拠写真でも撮っておくか。
「"サトミ!...へっ、わっごめん!?"」
そんなことを考えていると、勢いよく教室に入ってきた先生と目が合った。なお私は服をたくし上げている状態だ。顔を赤くして急いで後ろを向いた先生の様子に、意識してくれたという事実が嬉しくなった私は思わずにやける顔を隠そうともせずに先生に話しかけた。
「せんせ、別に遠慮せずに見てもらってもいいんですよ♡」
「"...サトミはまだ若いんだから、そういう事を言っちゃダメだよ。"」
くう、誘惑失敗か。こんな美少女が服をたくし上げて見ていいって言ってるんだぞ!前世の私ならガン見してた。先生は修行中なんですか?
「はーい...下ろしましたよ。」
私の声に安心したように息を吐いた先生がこちらを向いた。たくしあげたまま下ろしたって言えば可愛い反応してくれそう。ちょっともったいないことしたかな。
まあそれは置いておいて。
「「"セリカを助けてくれてありがとう。"」ございます。」
「「"...ん?"」」
被った。それも全く同じ言葉で。
えぇ、私と先生、そんなに仲良い?お似合い?照れるなぁ。*2
まあそれは置いておいて、なんで先生がセリカを助けてくれてありがとうって言うの?
自分で言うのもなんだけど、私勝手に動いて勝手に誘拐されたおマヌケちゃんだよ?
「えっと...私、セリカと一緒に誘拐されたんじゃ...」
「"え?...あぁ!サトミが部屋を出ていったあの後、私もサトミを探して外に出たんだけどね。その時にホシノ達に協力してもらって、たまたまサトミたちの近くにいたホシノが間に合ったんだよ。"」
あ、そうなんだ。じゃあ一応誘拐はされずに済んだのね。それなら私もホローポイント弾の雨に晒されたかいがあったってもんよ。
いや、それでも良くないな。まだ全然ズキズキするわ。
やっぱホローポイント弾は滅ぼさなきゃ...!!
私が1人そんなことを思案していると、廊下から幾つもの足音が聞こえてきた。
「サトミちゃん!」
ホシノの叫び声と共に開かれた扉の先にはアビドスのみんなが揃っていた。その中にはもちろん、セリカの姿もある。
それを確認した私は、つい目頭が熱くなってしまう。
セリカが無事にみんなの元に戻ってくる、というのは覚えていないながらも確信があった。
だってこんな序盤で可愛いキャラクターがハンデを背負うことになるようなストーリーを展開するようなゲームなら私は続いてない。私はハピエン厨なのだ。
いけないいけない。歳をとると涙腺が弱くなっちゃっていけないよ。おじさ...お姉さん泣きそうになっちゃった。
「おー!セリカ、無事でよかったよ!」
私はそんな感情を誤魔化すように声をあげた。
声をかけられたセリカは顔を赤くしながら前に出てきて、俯く。
「...えと、その...ホシノ先輩から聞いて...あ、の...た、助けてくれてありがとう!それだけ!」
顔をさらに真っ赤にしたセリカは廊下へと飛び出していった。赤い猫...さながらジバ○ャンだね。
「もー...セリカちゃんは...恩人を前に逃げ出すなんていただけないなぁ!おじさん怒っちゃうぞ!」
「あはは...一応感謝は伝えてましたけどね。」
「...そんなわけで、セリカちゃんを助けてくれてありがとうね、サトミちゃん。」
「助けたって言われても、私無防備に飛び出して集中砲火食らってノビてただけなのであんまり自覚ないんですけどね。」
ホシノも先生も、私がセリカを助けたって思ってるみたいだけど、私本当にあれよ?考え無しに突っ込んで気絶してただけよ?ヘルメット団からしたら、さながら「おかわり入りまーす!」って感じだったろうな...
...いや待てよ?リーダー格の1人に超綺麗なドロップキックをかましたのを考えると何もしていないとは言いきれないのでは?そう、抵抗はしたのだ。した上で実力が足りなかったのだ。
...なんかもっと悲しくなってきた。泣いちゃいそう。
「それでも、だよ。サトミちゃんがいなかったらセリカちゃんはあいつらに連れ去られてたかもしれない。
...だからありがとう。」
「ど、どういたしまして...」
何この空気!おじさ...お姉さんこういう青春っぽいの苦手なんだけど!
...え?普段の先生へのアプローチは良いのかって?だって先生のこと好きだし。それとこれとは話が別。
私へのお礼を告げたアビドスのみんなは教室を出ていき、その教室に残されたのは私と先生だけになった。
全員が離れていったのを確認した先生は、静かに私に話しかけてきた。
「"...サトミ、ひとついい?"」
「はい、なんですか?」
「"昨日...どうしてセリカが襲われるって分かったの?"」
「......あ。」
やっべ忘れてた!そりゃそうだ!普通にこんなタイミング良く飛び出せば、何でわかったの?ってなるわ!
えーと言い訳...なんか無いか...
「あーっと、その...ヘルメット団の前哨基地を襲った時にそういう計画があるって聞いたのを、唐突に思い出しまして...」
「"...そうだったんだね、ありがとう。"」
やばい、咄嗟に取り繕った嘘だから絶対怪しまれた。なんだよそういう計画を聞いてたって。事前に言っとけよってなっちゃうよ。私ならなる。
幸いにも先生はそれ以上聞いてくることはなかったので、私はそっと息をつくのだった。
サトミの新技「ドロップキック」
まるで歴戦の格闘家の如く完璧なフォームから繰り出されるドロップキックは受けた者を瞬く間に吹き飛ばすだろう。でも、その後受身を取れずに地面に転がって痛がるので隙だらけになる。1対1専用技かと思いきや普通に1対1よーいドンで当たる訳もなく。奇襲専用技である。
なお、今後再登場するかが不明。
もちろん、「声援」に変わるEXスキルにはなり得ません。