「...それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は先生とサトミさんにもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論が出来ると思うのですが...」
とある日、先生と一緒にアビドス対策委員会の会議室に呼び出された私はアヤネの進行の元、会議に参加していた。ここは全然覚えてないな。会議ってなんかあったっけ?
...1回くらい私が覚えてるストーリーと覚えてないストーリーを整理するべきかもしれない。なんか覚えてるとこと覚えてないとこで差がありすぎる。
「うへ、よろしくねー。先生、サトミちゃん。」
「"よろしくね。"」
「よろしくお願いします。」
「早速議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重要な問題...学校の負債をどう返済するか、について具体的な方法を議論します。
ご意見のある方は挙手をお願いします!」
学校の負債をどうするか...まあアビドス一番の問題はそこだよね。一口にお金を稼ぐと言うと、パッと浮かぶものをあげるとすればアルバイト、指名手配犯の捕縛辺りが妥当だろうか。とはいえ、その借金の中身は9億円。とても学生5人がアルバイトの稼ぎで返せるような金額ではない。
と、来ればやはり一番の狙い目は指名手配犯を捕まえること。それも七囚人やらゲヘナの温泉開発部、美食研究会等の高額指名手配犯を捕縛することが出来れば借金の大部分を補填できるだろう。
まあこちらの案も、そもそも高額指名手配犯をそんな簡単に捕まえることが出来たらの話だ。
最悪捕まえることができたとしても、消費した弾薬や負傷者の治療費で大部分が飛んでいく可能性を考えれば、果たして正解だとは言い難いだろう。
私がそんなことを考えている間にセリカが元気よく挙手をした。
「はい、1年の黒見さん。お願いします。」
「...あのさ、まず名字で呼ぶのやめない?ぎこちないんだけど...」
「せ、セリカちゃん...でも、せっかくの会議だし...」
「いいじゃーん、おカタ〜い感じで。それに今日は珍しくお客さんもいるんだし。」
「珍しいと言うより、初めて。」
あんまり硬いと連邦生徒会での会議を思い出すかと思ったけど、ここの会議はそこまで硬いわけでもなかった。
今の連邦生徒会の会議はリン行政官の目がある分かなりお硬いものに仕上がっているのだ。前は連邦生徒会長がそんな空気を破って和ませてくれていたのだが、最近はそれすらない。
あるとすれば静まり返った会議室の中に響き渡るモモカが持ち込んだお菓子を頬張る音と、リン行政官の人でも殺しそうな冷たい目線だ。会議室の並び的に毎回モモカの隣だった私がモモカをシバいてお菓子を没収していたのはいい思い出...いや良くないな。お菓子持ち込むなよ。
最近はあの子もちゃんとやれているだろうか?...多分相変わらずのらりくらりとリン行政官の視線を躱しながらお菓子を貪っているんだろう。
おじさ...お姉さんは君の将来が心配だよ...
「...とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわ!このままじゃ廃校だよ!みんな、分かってるよね?」
「うん、まあねー。」
「毎月の返済額は、利息だけで788万円!私達も頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない。これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアをするだけじゃ限界があるわ。
このままじゃ埒が明かないってこと!何かこう、でっかくいっぱつ狙わないと!」
うん、概ね私と同意見だ。ただ当たり前ながら、そのでっかい何かが成功するまでの障害が多すぎるというのが大きな壁として立ち塞がるのだ。
「でっかくって、例えば?」
「コレコレ!街で配ってたチラシ!」
「...これは!?」
そう言って意気揚々とセリカが机に叩きつけたチラシに、全員の視線が集中する。
そこにはかなり目立つ虹色の文字でこう書かれていた。
「ゲルマニウム
「そう!これでガッポガッポ稼ごうよ!」
嘘だろセリカ!?私はセリカに詐欺をして欲しいから助けたんじゃないぞ!?
まさかのセリカの詐欺宣言で私が目眩を感じているうちに会話はどんどん進んでいく。
「この間、街で声を掛けられて、説明会に連れていってもらったの!運気をあげるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!
これね、身に付けるだけで運気が上がるんだよ!で、これを周りの3人に売れば...」
...え?セリカもしかして、詐欺行為をしようとするんじゃなくて、詐欺の被害者!?嘘だろ...今どきマルチ商法なんて引っかかるやつ初めて見たぞ!
私が驚愕の事実に言葉を失っていると、セリカもようやく周りのみんなが一言も発していないことに気が付いたのか、不安そうにみんなの様子を伺った。
「却下ー。」
「えーっ!?何で、どうして!」
「セリカちゃん、それマルチ商法だから...」
「儲かるわけない。」
「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな...こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずなんてないよ...」
「そっ、そうなの?私、2個も買っちゃったんだけど!」
「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」
「全く、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと、悪い大人に騙されて人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」
「そ、そんなぁ...そんな風には見えなかったのに...せっかくお昼を抜いて貯めたお金で買ったのに...」
ガックリと項垂れるセリカを見ながら私はため息混じりに決意するのだった。
「今度連邦生徒会の会議で、各校に詐欺被害を防ぐための授業を実施するように進言しておきますね。」
「"うん。よろしくね。"」
先生もさすがに大きな問題だと見たのか、真面目な顔で答えてくれた。
「えっと...それでは、黒見さんからの意見はこの辺で...他にご意見のある方...」
「はい!はい!」
「えっと...はい、3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが...」
普段会議を取り仕切っているであろうアヤネが嫌な予感がすると言ったことで、私もなんか嫌な予感がしてきたぞ...
そんな私の不安を他所に、ホシノが自信満々に語り出した。
「うむうむ、エッヘン!
我が校のいちばんの問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはず。だから生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も選出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね。」
キヴォトスにおける最大規模のマンモス校を例にあげた説明に、私は納得していた。
確かにトリニティの財力は文字通り桁違いだし、ゲヘナに至っては治安の悪さから崩壊しているように見えて、その実しっかりと学校としての機能は果たしているのだ。連邦生徒会に送られてくる各校の報告書を見るにゲヘナがなんで成り立っているのかは未だに分かっていない。それもゲヘナの生徒会長の手腕と言ったところなのだろうか。
あとは連邦生徒会での発言権というのも大きいだろう。私自身は各校の議員が参加する会議の様子は見たことは無いが、その会議で色々と変わってきているところを見ている。あの会議には参加すること自体に相当な価値があるものだ。
「たしかに鋭いご指摘ですが...でもどうやって?」
そう、どうやって。そこがいちばん重要なのだ。ことアビドスに置いては、在校生の人数の少なさと砂漠地帯という環境の過酷さがある。砂漠というアイデンティティは、ともすれば有利に働くかもしれないが、やはり過酷な環境をこの身で実感したあとだとマイナス要素を大きく見てしまうものだ。
砂漠地帯に長く住んでいるホシノにはそのデメリットを帳消しにするほどの策があるのだろうか...?
「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」
「「はい!?」」
私とアヤネの驚愕に声がシンクロした。まあホシノの口から飛び出したトンデモ発言を考えれば仕方のないことだと思う。
「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ〜、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」
「それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?
狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも。」
ここでまさかのシロコ参戦。しかも超乗り気である。嘘だろお前。
「お?えーっと、うーん...そうだなぁ、トリニティ?いやゲヘナにしよーっと!」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな方法で転校とかってありなんですか!?」
「ありなわけないでしょ...」
真面目にもそれが合法かどうかを確認するアヤネに否定を零しつつ私はため息をついた。もしかしてアビドス高校の生徒って超野蛮なのか?
「それに、他校の風紀委員が黙ってませんよ...」
「うへ〜やっぱそうだよねー?」
「やっぱそうだよねー、じゃありませんよホシノ先輩...もっと真面目に会議に望んでいただかないと...」
分かりきったことを言うホシノに、アヤネが呆れながら言った。そんなところにシロコが意気揚々と立ち上がった。もう嫌な予感しかしないぞ。
「いい考えがある。」
「...はい、2年の砂狼シロコさん...」
「銀行を襲うの。」
「「はいっ!?」」
私とアヤネ、2度目のシンクロである。まあシロコの口から飛び出したトンデモ発言を考え...(以下略)
「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある中央銀行。
金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから。」
「さっきから一生懸命見てたのはそれですか!?」
「今サラッと銀行強盗を確実かつ簡単って言った?」
ちょっと各銀行に警備強化するように通達してもらおうかな...
「5分で一億は稼げる。はい、覆面も用意しておいた。」
そう言ってシロコが紙袋から取り出したのは色とりどりの目出し帽。いやまあ、まさしく銀行強盗って感じだけどさ。その中の青い覆面を自信満々にすっぽりと被るシロコ。耳が外に出てるし、縫い付けられた数字がある辺り自作なんだろうか。
これがアプリアイコンになったヒロインの姿か?
誰がヒロインだ!ヒロインは私だぞ!!(情緒不安定)
いつの間にやらホシノとノノミも覆面を被って遊びだしていた。これ真面目な会議なんだよね?さっきからふざけてるようにしか見えないんだけど...あ、アヤネも震えてる。あれ絶対笑いを我慢してるとかじゃないって。怒りに打ち震えてるよ。
「いやー、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねぇ、セリカちゃん?」
「そんなわけあるか!却下!却下ー!!」
「そっ、そうです!犯罪はいけません!」
良かった、1年ズが止めてくれた。覆面を脱いだシロコがふくれっ面で抗議をしていたが、まあ通るわけもなかった。
「はぁ...皆さん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと...」
息を切らせたアヤネがそうつぶやくも、みんな反省してないような顔で笑っている。あ、セリカだけ若干気まずそうだった。
「あのー!はい!次は私が!」
「はい...2年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします。」
「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!
アイドルです!スクールアイドル!」
...まあ、確かに犯罪でも詐欺でもないけど...
「あ、アイドルですか...?」
「そうです!アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の手段はアイドルです!私たちが全員アイドルとしてデビューすれば...」
「却下。」
「あら...これもダメなんですか?」
「なんで?ホシノ先輩なら特定のマニアに大ウケしそうなのに...」
「うへーこんな貧相な体が好きとかいっちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない。」
「決めポーズも考えておいたのに...
水着少女団のクリスティーナで〜す♣︎」
「どういうことよ...」
そんなアビドスのみんなのやり取りを横目に、私は別のことを考えていた。
("生徒のみんな、愛してるぜー!!")
私の脳内には煌びやかな衣装を着てステージの上でマイクを持って踊る先生の姿があった。
...いけるな。絶対売れる。私がプロデューサーになって先生の隣で...うへへ...
「先生、アイドルになりませんか?」
「"無理。"」
くそう、ダメか。まあ不特定多数にファンサをする先生を思い浮かべると私が嫉妬で狂いそうになる気がするので大人しく諦めるかな...。
でもやっぱり、私のためだけのアイドルに...あ、ダメ?そっか...(´・ω・`)
「あのう...議論が中々進まないんですけど...」
「じゃあそろそろ外部から意見を取り入れてみよう。サトミちゃん、何かある?」
おう、急に振られた。まあとりあえず部外者ながらの考えくらいは話しておいても良いだろうと、私は考えをまとめながら話し出した。
「そうですね...先程の皆さんの意見から考えるに、アルバイトなどでちまちま稼ぐのはキリがない。犯罪行為はともかく、1発大きく当てる必要があるというのはその通りだと思います。
ただ...そこに立ち塞がる問題点としては、砂漠という環境、少ない生徒数、その基盤を整える余裕すらないこと...辺りでしょうか。大前提として、これらのうちひとつはクリアしなければ行けません。
そして、砂漠という環境は変えられない。生徒を集めるには環境、生徒を惹きつけるための魅力が必要ですが、その用意がありません。
...となると可能だと言えるのは余裕を生むこと。返済に追われる日々に余裕を持たせるには、やはり必要なのはお金になってきます。
犯罪行為を除いて纏まったお金を用意するとなると、やはり最初に浮かぶのは高額指名手配犯の捕縛でしょうか?返済に充てるには足りない金額ながらも、余裕を生むという面では十分でしょう。
まあこれについてはその捕縛に必要な物資の費用や、捕縛の過程で発生するであろう治療費などを度外視した計算ですが...どちらにせよ確実な方法がない以上、私はこれを推薦しますかね。
そのために必要な情報があれば、私から連邦生徒会を通して入手することも可能だと思いますよ。」
「"「「「「......おー...」」」」"」
「さ、サトミさんっ!!」
私がそこまで話終えると、みんなが驚嘆の声をあげ、拍手をしてくれた。アヤネも目に光を取り戻している。
良かった、真面目な話に戻せたらしい。
「それじゃあそろそろ結論を出すとしようー。先生、これまでの意見でやるならどれがいい?」
ホシノにそう振られた先生は、悩んだように目を瞑って唸っている。
え、私の対抗馬、詐欺と犯罪とアイドルだよ?そんな悩む?
そして、少し悩んだ先生は、カッ!と目を見開いて立ち上がったかと思えば、これまでの意見が書かれたホワイトボードの一部分を指差して叫んだ。
「"アイドルグループ結成!私がプロデューサーになる!!"」
...なんでやねん!!!まさか先生まで悪ノリしてくるとは思わなかった。
アビドスのみんなは先生の決めた意見ということで盛り上がっていた。
「...い...。」
そんな中、小さいながらもはっきりと聞こえてきたアヤネの声にみんなが注目した。
件のアヤネは地面を向きながらプルプル震えているかと思えば、ガっとテーブルを掴んで叫んだ。
「いいわけないじゃないですかァ!!!」
その時、なんとアヤネがものすごい力でテーブルを空中へと投げたのだ。そしてそのまま宙を舞うテーブルは...
「あいたぁ!?!?」
私の頭部へ向けて、華麗な着地をかましたのだった。
サトミにちゃんとした意見を喋らせようと考えてたけど、めっちゃむずかった。アビドス中々に詰み状況じゃない?
もう銀行強盗するしかないよ。
そういえばサトミの容姿について考えた結果、AI生成というものに手を出してみました。
かがくのちからってすげー!
【挿絵表示】