あれから数時間。
ふざけ倒したみんなをアヤネが説教したり、頭を押さえてうずくまる私をみんなが介抱したり...それはもうわちゃわちゃしていた。
そして現在、私たちは再び柴関ラーメンへとやってきていた。
「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」
「怒ってません...。」
「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」
「赤ちゃんじゃありません!」
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
「...ふぁい(もぐもぐ)」
「"私も悪ノリしちゃってごめんね、サトミ。"」
「まあ良いですけど...変わりに先生の味玉ください♡」
「"うん、取っていいよ。"」
「あーん♡」
「"...取っていいよ。"」
「あぁっ、急に頭が...!」
「"うっ!わ、わかったよ。...はい。"」
うまっ、先生のあーんで食べる味玉は格別だなー!
「...なんでもいいんだけどさ、なんでまたウチに来たの?」
呆れたように私たちを見るセリカを他所に味玉を堪能していると、ラーメン屋の扉が開いた。
「...あ、あのう...」
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「...こ、ここで1番安いメニューって、お、おいくらですか?」
店の入口でそう不安そうに尋ねている彼女には、私も見覚えがあった。
苗字は、えーっ...と...はい。ハルカですね。便利屋68の1人、これからアビドス対策委員会が敵対する予定の生徒だった。
ハルカは柴関ラーメンでいちばん安いメニューが580円だと聞くと、目を輝かせながらお店を出ていった。
...そういえばこのタイミングか。
そして再びお店に入ってきたハルカと、それ以外にも4人。
順番にハルカ、ムツキ、カヨコ、なんですっての人。
...冗談、アルちゃんですね。アルちゃんはネタ枠的な面白さと、ネットミームになったあの曲との影響でよく覚えている生徒のひとりだった。私基本ブルアカのキャラクターは名前の呼び捨てなんだけど、アルちゃんだけはアルちゃんって感じだよね。みんなもわかる?
...みんなって誰だよ。
「えへへっ、やっと見つかった。600円以下のメニュー!」
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」
「そ、そうでしたか、さすが社長、なんでもご存知ですね...」
「はぁ...」
「4名様ですか?お席にご案内しますね。」
「んーん、どうせ1杯しか頼まないから大丈夫。」
「一杯だけ...?でも...どうせならごゆっくりお席でどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし。」
「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん。」
あー、そういえばそういうエピソードもあったか...確かアビドスを襲撃するために傭兵を雇ってたら、お金が無くなったんだっけ?計画性よ...。
「えっ、4膳ですか?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」
「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」
「あ、い、いや...その、別に謝らなくても...」
「いいえ!お金が無いのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません...!」
「はぁ...ちょっと声デカイよ、ハルカ。周りに迷惑。」
「そんな!お金が無いのは罪じゃないよ!胸を張って!」
卑屈なことを言い募るハルカに、セリカが励ましの言葉をかけた。
まあ確かに、お金が無いっていうのはアビドスも共感するか。ヒートアップしたセリカの叫び声に、こちらのテーブルのみんなもなんだなんだと、向こうの様子を伺っていた。
「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし!それでも小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?そういうのが大事なんだよ!
もう少し待っててね。すぐ持ってくるから!」
意気揚々と去っていくセリカに便利屋の面々はポカーンとしていた。私の記憶が正しければ、この後は...
それから私たちが再び雑談に戻りながらラーメンを食べていると...
「はい、お待たせしました!お熱いのでお気をつけて!」
ドン!という衝撃音と共にセリカの声が聞こえ、そちらの方を見ると、「超大盛り」でも表現しきれないくらいの山になったラーメンが、少し離れた席の私たちからも見えていた。
ここまで来ると、どうやって運んだの?という疑問が湧いてくる。というかあれ、4人前どころじゃなくない?10人くらいで食べる量だよ。フードファイターかよ。
「うわっ、なにこれ!?ラーメン超大盛りじゃん!」
「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう...」
「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将!」
「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ。」
「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞ!」
大将、聖人過ぎない?ちょっと手元が狂ったってレベルじゃないよ...
...失礼ながら(本当に失礼だけど)いくら超うまいからって、この砂漠地帯で、あの格安の値段で、経営が上手くいっているとも思えないのに...人情でここまでのサービスを提供できるだなんて...かっこよ。
あっ、先生!私はちゃんと先生一筋ですからね!柴大将への感情は憧れとか尊敬とか...あーいう人間になりたいなーっていう思いっていうか...先生に向けている感情とは違いますからね!浮気じゃないです!*1
私がそんなことを考えていると、席の向こうから歓声が聞こえてきた。内容を聞くに美味しいがゆえの歓声らしい。
まあ、分かる。思わず声が漏れるほどの美味しさだよね、ここ。
その歓声を聞いたノノミが席を立ち上がって便利屋のいるテーブルへと歩いていく。
「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?
うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ。」
「えぇ、わかるわ。色んなところで色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの。」
「えへへ...私たち、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです。」
「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね。」
「私、こういう光景見たことがあります。1杯のラーメン、でしたっけ...」
「うへ〜、それは1杯のかけそばじゃなかったっけ?」
アルちゃんとアビドスにみんなが仲良く話している奥で、カヨコとムツキがアビドスのみんなを見ながらヒソヒソと話していた。気づいたかな?
先生も、ワイワイと話すみんなを楽しそうに眺めているだけだった。まあ、先生は指名手配犯の情報とか見なさそうだもんね。おーい、その人たち、さっき私が話してた高額指名手配犯だよー。まあストーリー的に便利屋を捕まえるってことにはならないだろうけど。
「それじゃあ、気をつけてね!」
「お仕事、上手く行きますように!」
「あははっ!了解!あなたたちも学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!じゃあね!」
ラーメンを食べ終わった頃にはすっかりと仲良くなったアビドス対策委員会と便利屋68は、同じタイミングでお店を出ていた。
そのままお互いの健闘を祈りながら別れたのだが...確かこの後戦うよね?うわ、気まず...
「"サトミ、どうかした?"」
「うぇっ、いや、なんでもないですよ〜...あはは...」
それから対策委員会の会議室に戻ってきた私たちがダラダラとしているところに、アヤネが声を上げた。
「校舎より南15km地点付近で大規模な兵力を確認!」
その声によってついさっきまでだらけていたアビドス対策委員会のみんなは一気に戦闘態勢に入っていた。
わあ、慣れてるなぁ。
「まさか、ヘルメット団?」
「ち、違います!ヘルメット団ではありません!
...傭兵です!おそらく日雇いの傭兵!」
「へぇー、傭兵かぁ。結構高いはずだけど。」
「これ以上接近されるのは危険です!先生、出勤命令を!」
「"出動だー!"」
「「「「おー!!」」」」
先生の号令で校門前に出てきた私たちを出迎えたのは、アヤネの言う通りの傭兵集団と...
「あれ、ラーメン屋の...?」
「ぐっ、ぐぐっ...!」
歯を食いしばって現在葛藤中のアルちゃんたちであった。
「誰かと思えばあんたたちだったのね!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!」
「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ。」
「残念だけど、公私はハッキリしないと。受けた仕事はきっちりこなす。」
そんな中、私はあえてスマホを適当に操作しながら、あたかも今気づいたかのように言った。
「何処かで見たかと思えば...彼女たちは「便利屋68」、ゲヘナ学園の生徒4名で構成される指名手配集団です。ゲヘナの風紀委員会ですら捕縛に苦戦を強いられる戦闘集団とのこと、気を付けてください!」
「...なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ。」
「もう!学生なら、他にもっと健全なアルバイトがあるでしょう?それなのに便利屋だなんて!」
「ちょっ、アルバイトじゃないわ!れっきとしたビジネスなの!肩書きだってあるんだから!
私は社長!あっち(ムツキ)が室長で、こっち(カヨコ)が課長...」
ムツキとカヨコを順番に指差しながら紹介したアルちゃんはドヤ顔をしているが、なんだかちゃっちいなという印象しか受けない。
...4人しかいないのに室長も課長も関係無くない?いや、指示の優先度をはっきり決めておくのは大事なんだけどさ...そもそも何室の室長で何課の課長なのさ...
どちらかと言うと、縦よりも横に広げた方が良くない?お金の管理をする経理課とか、仕事を取ってくる営業課とか...まあ正直4人の時点で課って言うより担当っていう感じなんだけど、それでもまだ体裁は保てそうだけど...
「誰の差し金?...いや、答えるわけないか。
...力尽くで口を割らせるしか。」
「ふふふ...それはもちろん企業秘密よ?
...総員!攻撃!」
アルちゃんの号令を皮切りに、傭兵集団が一斉にこちらへ突っ込んできた。
うわぁ、戦闘素人な私の目から見ても、こないだのヘルメット団とは統率の取れ具合が全然違うよ。
まあでも、連携の上手さで言うと、アビドス対策委員会の圧勝だった。もちろん先生の指揮のもとに戦っているというのはあるのだろうが、先生が指揮をしていないタイミングでも、誰も遮蔽物から顔を出していないタイミングがない。相手はひっきりなしに飛んでくる弾への対処で手一杯だろう。
これも5人だけでずっと戦ってきたアビドス対策委員会だからこそなのだろう。少数精鋭、という言葉がまさにピッタリだな、と内心で私は考えていた。
そんな折、相手の傭兵集団がどんどん減っていき、アルちゃんの顔色が目に見えて悪くなってきた時のこと。
キーンコーンカーンコーン...
戦場には似つかわしくないチャイムの音が鳴り響いた。
「...あ、定時だ。」
「今日の日当てだとここまでね。あとは自分たちで何とかして。みんな、帰るわよ。」
傭兵の人たちが一斉に武器を下ろして帰り支度をはじめてしまった。ついさっきまでやられて倒れていたはずの子すら元気に起き上がって近くの仲間と駄弁りながら銃を片付けている。
そんな唐突な出来事に、アルちゃんが右往左往しながら傭兵たちを引き止めているのだが、もはや誰も見向きもしなかった。
「あ、うぅ...こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!!」
そんな3流悪役のようなセリフを吐きながら便利屋68はものすごい速度で走り去っていったのだった。
「あ、待って!」
「うへ〜、逃げ足早いね、あの子たち。」
「...詳しいことがわかりませんが、敵兵力の退勤...いえ、退却を確認。
困りましたね...妙な便利屋にまで狙われるとは、先が思いやられます。一体何が起きているのでしょうか...」
「まあ、少しずつ調べるとしよう。まずは社長のアルって子の身元から洗ってみたら。なにか出てくるよ、きっと。」
「はい。みなさんお疲れ様でした。一旦帰還してください。」
それから教室に戻ったアビドス対策委員会の間には微妙な空気が流れていた。さっきまで仲良くしていたはずの子と敵対したというのもあるし、ここに来て新しい敵が現れたというのもあるのだろう。
そんな中、私は教室に入りながらみんなに声をかけた。
「とりあえず、連邦生徒会に連絡を取って便利屋68の情報を貰えるように言ってきました。情報を精査するのに少し時間がかかるみたいなので、今日中に届くかどうか...と言った感じでしたが、便利屋68の様子を見るにすぐに出撃してくることはないでしょう。」
「うへ、ありがとうね、サトミちゃん。」
「いえ、とりあえずは今わかっている情報の整理くらいはしておきましょう。」
私がそういうとみんなが机に座って私の方を見た。
こういうのはアヤネの役割なんだろうけど、当のアヤネが落ち込んでしまっているので、私が変わることにする。
「まず、敵は便利屋68。ゲヘナ学園の指名手配集団です。彼女たちはその名前の通りなんでも屋を営んでいます。実際に事業登録もされている企業で、その情報によると社員は合計4名。紹介は...必要ありませんね。
彼女たちはその名の通り、なんでも屋です。
...つまるところ、彼女たちは何者かに仕事を依頼されたことで私たちを襲撃したという可能性が高いのです。それ自体は、柴関ラーメンの中でこの後仕事があると話していましたし、先程シロコがクライアントについて質問をした時にはぐらかしはしたものの、依頼ではないと言わなかったことから確実でしょう。
目下私たちの目標は、彼女たちに依頼をしたクライアントの存在を探ることになります。
現状クライアントについてのヒントを持ちうるのは便利屋68、そしてヘルメット団ですかね。」
私がそこまで話した時にホシノが質問をしてきた。
「ヘルメット団もヒントになるの?どうして?」
「ヘルメット団もヒントになる、と私は踏んでいます。
理由は便利屋68がやってきたタイミング。
彼女たちがやってくる直前、私たちが行ったのはカタカタヘルメット団の追撃戦。あれによって彼女たちは物資を失いほとんど壊滅したと言ってもいいわけです。その直後に便利屋68がやってきた...
偶然だという可能性もありますが、視点を変えてみればこれは、カタカタヘルメット団にアビドスの襲撃を依頼していた黒幕が、いつまでもアビドス高校の乗っ取りを成功させないヘルメット団に痺れを切らして別の方法をとった...そうは見えませんか?」
「たしかに...」
「タイミングも合いますね...」
「ですから私たちが次にするべきは便利屋68、あるいはカタカタヘルメット団の捕縛、尋問による黒幕の正体探ることになります。」
今の私参謀っぽくない?戦闘はできないけど作戦をたてる諸葛孔明ポジション!かっこよくない!?先生、惚れていいですよ!
まあ原作知識のおかげでカイザーコーポレーションという黒幕の存在を事前に知っているんだけど、それがなくても私はここまで考えられる自信はあるぞ!ポンコツ記憶力は前世まで!今世は余裕を持って連邦生徒会に入れるくらいには頭がいいのだ。
...だったらこのポンコツ記憶力もどうにかして欲しかったけどね!!
「...現状、便利屋68については情報が一切ありません。ですので彼女たちの襲撃に気を付けつつ、ヘルメット団の残党を探していく...ということでどうでしょうか?」
「うん、それでいいよー。」
「方針が決まって良かったですね☆」
まあ、カイザーコーポレーションってグレーゾーンを渡り続けるくらいには用意周到で狡猾な奴らだから、ヘルメット団は情報源として処理、もしくは回収されてる可能性が高いと思ってるんだけどね...
今更ですが、サトミの原作知識を明確にしておきましょうか。
基本的にはストーリーの流れはわかっているけど、細かいやり取りや時系列は覚えてない。ネットミームになっているような有名なやり取りとかは知っている。
ってな感じです。基本的には、なので普通に唐突に思い出したりします。
まあ言ってしまえばストーリーの流れによって変わります。例えばセリカを救った時みたいなね?ストーリーが面白くなるように考えてそうなったって感じなのでご容赦ください。