今日は利息の返済日らしい。ということでみんな朝早くから登校して返済のための現金を大量に用意して校門前で待っていた。
少し待っていると、乗用車にしては頑丈すぎる装甲を積んだ車がやってきた。察するにあれが...
「現金輸送車、来ましたね...」
「はぁ、今月もようやく...」
アビドスのみんなも、もう散々だとでも言うように暗い表情をしている。
校門前に停車した車の運転席から、こちらの事情を汲む気が一切感じられない笑顔を貼り付けたロボットが下りてきた。
「お待たせいたしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。」
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
そんな呑気なロボットに若干イラつきつつも、私は前に出てロボットに話しかける。連邦生徒会の制服と、連邦生徒会所属の証拠である腕章を、わざとらしく見せびらかしながらだ。
私を発見したロボットは一瞬目を泳がせるような表情を見せたあと、元の笑顔を表示させて私に応対する。...今の表情変化必要あった?ロボットなのにポーカーフェイスが下手くそとはこれいかに。
「はい、どうかされましたか?」
「今回の返済金額について、その内訳を確認できる書類を頂けないでしょうか。」
「...はい。構いませんよ。」
ロボットが運転席に戻って取ってきた書類を受け取ると、私はそれを眺めた。
うーん、一見おかしな所はないか...まあ、普通に利息が多いような気がするけど、金利も分からないうちは何も言えない。アビドスの契約内容と照らし合わせてだな。
「この書類、頂いても?」
「えぇ、構いませんよ。控えはこちらでも管理しておりますので。」
「ありがとうございます。」
そうして私は書類を眺めながら元の先生の横の位置に戻っていく。
ロボットは安心したようにε-(´∀`;)ホッという表情を浮かべた後に現金受け取り作業を開始した。
...だからその表情変化要らないよね?
「"どう?なにかおかしな所はある?"」
「いいえ、特におかしな所は見られませんね。あとはアビドスで所有する契約内容との照らし合わせと、連邦生徒会で管理する金利変動記録との照らし合わせをしてみないとなんとも言えません。」
それから私が返済金額について書かれた書類を眺めながら脳内で計算をしていると、現金を全て運び終えたらしいロボットが声を出した。
「はい。全て現金でお支払いいただきました、以上となります。
カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします。」
そう言い終えたロボットが乗り込んだ現金輸送車が走り去って見えなくなるまで、私たちは誰も言葉を発さなかった。
重苦しい空気を打ち破るようにホシノが声を上げた。
「いやぁ、今月も何とか乗りきったねー。」
「...完済まであとどれくらい?」
「309年返済なので...今までの分を入れると...」
「言わなくていいわよ。正確な数字で言われるとさらにストレス溜まりそう...」
「ところで、カイザーローンはどうして現金でしか受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して...」
ノノミの疑問はもっともだった。
私が知っている情報によれば...先程の現金はブラックマーケットにある闇銀行へと向かっていくはずだ。確かこの後ブラックマーケットを探索して、そこでその事実が判明するはずだ。
カイザーローンが現金にこだわる理由。それは知っている人ならピンとくるものだった。通常闇銀行は取引の記録を金融システム上に残すことを嫌う。まあ考えてみれば分かりやすいもので、カイザーコーポレーションの系列にある機関が闇銀行と取引を行っている、だなんて事実が明るみに出てしまえば、それは会社の損失になるからだ。その理由は信用の失墜やら取引先の減少、消費者の不買運動など多岐に渡るだろうが、なんにせよ百害あって一利なし。だからこそここまで膨大な金額ながらも現金での返済にこだわるのだろう。
「ま、とりあえず先に解決するべきは目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろうー。」
それから教室に揃った私たちはみんな席について思い思いのことをしていた。
私はアヤネに貰ったカイザーローンとの取引内容を明記した書類を読んでいる。
「うーん...これからどうしようねぇ。」
「先日サトミさんが仰ったように、今後の私たちの目標は便利屋68か、ヘルメット団の捕縛になるんでしょうけど...何処にいるのかが見当もつきませんからね...」
...え、何この空気。この後って確かブラックマーケットに向かって行って、さっきの現金輸送車を見つけるんじゃなかったの?モタモタしてたら現金輸送車が闇銀行に到着しちゃうよ?
私が内心焦りながら書類を読み続けても、一向にブラックマーケットに行こうという話にならなかった。
え、なんで?ブラックマーケットに行こうって話になる流れは覚えてないけど...このままじゃ普通に間に合わなくなっちゃうんじゃ...
...もしかして私のせいか?私のせいで流れが変わった...?となると...セリカが誘拐される前に私が未然に防いだ(笑)ことが原因なのか?あの後の流れにブラックマーケットに向かう理由があったのか?だとしたら...うわぁどうしよう...
私が焦りながら目を泳がせていると、目の前の書類の一角、借金の返済については現金での取引のみとする旨の内容が目に入った。
これだーーー!!!
「...え、サトミちゃん、どうしたの?」
思わず立ち上がっていたらしい。みんなが唐突に椅子から立ち上がった私を見ていた。...まあ丁度いいか。
「...先程からずっと気になっていたことです。カイザーローンが現金取引にこだわる理由。この電子マネーの時代にわざわざ現金を扱う理由。
...それは金銭の授受の記録を金融機関に残したくないからです。ではなぜ残したくないのか?それが分からなかったのですが、ようやく合点が行きました。
そもそもカイザーコーポレーションはグレーゾーンスレスレの活動を何度も行っており、連邦生徒会内においても要注意と注意喚起のされていた企業でした。
おそらく今回も同じです。現金にこだわるのは後ろめたいことがあるから。果たしてその内容は?
それはきっと...「ブラックマーケット」との繋がりです。」
私がそう言った瞬間、みんなの顔が強ばった。
...先生だけはピンと来てないようだけど。あっ、そのキョトン顔カワイイ♡写真撮っていい?
「うへ、なんで急にブラックマーケット?」
「ブラックマーケットだと判断した理由はいくつかありますが...1番はカタカタヘルメット団の存在です。
...そもそも彼女たちは、何故アビドス砂漠に拠点を置くのか。ヘルメット団という不良集団にとって、この砂漠環境は補給品は少なく、収入源もまた少ない...姿を隠すには適するかもしれませんが、それもブラックマーケット等他の候補の方が最適です。
ですがもし...アビドス高校を襲撃する代わりに物資、金銭を約束する、という契約を組んでここにやってきたのだとすれば筋は通ります。
他にも、彼女たちが戦闘に用いていた弾薬はホローポイント弾です。ホローポイント弾は、連邦生徒会長が失踪してから急速に普及の進んだ弾薬であり、その主な出処は...ブラックマーケットです。」
そこまで説明したが、まだホシノの中で疑念は拭えないらしい。まだ私の意図を伺うような様子で、質問を投げかけてきた。
「その話だと、カイザーコーポレーションはアビドス高校を乗っとるのが目的だと言っているみたいだけど?」
「みたいも何も、私はそう言っているんです。」
「で、でも...アビドスにはまだ借金があって...乗っ取っちゃうと返済すら出来ないのに...」
困惑したように言うノノミに、私は待ってましたと言わんばかりに言葉を返した。
「そこが1番の問題でした。カイザーコーポレーションの目的は借金の返済、その誤解こそが私たちの目を逸らさせてしまったんです。」
「...違うの?」
「えぇ、違うでしょう。
こう言ってはなんですが、そもそもカイザーコーポレーション程の大企業にとって、10億円というお金は必死になってまで回収するほどの金額ではありません。
情報が漏れるリスクを背負ってまであの手この手で学校を彼らの目的は別にあるんでしょう。現状それが何なのかは不明ですが...
少なくともその遂行にはアビドス高校の存在は邪魔だった。
この契約書を見てください。違法ギリギリの高金利、ただの学生には返済の目処も立たないような高額の借金、300年以上もかけるほど膨大な返済期間。私にとってはそのいずれもが、そもそも借金を返そうという気すら起こさせないための根回しに思えます。...こんな借金を背負うくらいなら、別の学校に行こうと思わせるための。
極めつけはここ、借金の保証人を個人ではなく学校にしているんです。保証人という意味では間違っていますが...つまりこれは、学校に人が居なくなった場合、あるいは廃校になった場合、借金を返す必要のある人間はいなくなります。契約の上でそんなものは損でしかない。それなのにカイザーローンはそんな条件を飲んでいる。つまり彼らにとってこの学校の借金は、取り立てる必要がないと言っているようなものなんですよ。」
「じゃあカイザーコーポレーションの目的は...学校そのものってこと?」
「あるいは土地、でしょうか。深い部分までは分かりませんが学校の立地なのか、砂漠の環境なのか...少なくともカイザーコーポレーションにとってこれほどのリスクを冒してまで欲しい何かしらが、ここにはあるんでしょう。」
そこまで話終えると、教室内はシーンと静まり返る。みんな私の説明について色々考えてくれているんだろう。
「で、ですがそれは、サトミさんの予想ですよね?」
「個人的には推理、と言って欲しいですね。」
「な、何よそれ!意味わかんない!!それじゃあ私たちが今までやってきたことはなんだったの!?」
セリカが我慢出来ないというふうに立ち上がって叫ぶ。
悪いとは思うが、私はその怒りを利用させてもらうとしよう。
「ですからそこに意味を持たせるために...カイザーを摘発しましょう。」
「どうやって?契約内容は違法じゃないんでしょ?」
「えぇ、ですがついさっきまで彼らはやっていたじゃないですか。後ろめたいことを。」
そこでホシノがピンと来たように顔を上げた。
「...つまり、現金輸送車のこと?」
「その通りです。あの時担当のロボットは、回収金額の確認を書類で行なっていました。私も同じものをいただいています。
つまり彼らは現金のやり取りを書類を通して行っている。そしてその次の行先は...」
「...闇銀行...」
「はい、その通りです。おそらく銀行では集金記録の書類が保管されます。バカ正直にその書類を渡してくださいなんて言っても貰えるわけがありませんが...そのために必要な手順は、先日会議であがってましたよね。」
私はチラリとシロコの方を向いた。シロコは待ってましたと得意げに答えを言う。
...なんでもう目出し帽被ってんの?
「銀行を襲う。」
こうして、私たちの目的が決まったのだった。
ちょい短いですけど、キリのいいところで終わらせようとしたらこうなっちゃいました。
実質サトミがしゃべり続けるだけの回です。
あとサトミがバタフライエフェクトその存在を認識しました。「私が余計なことすると原作と変わるんだ...!」と。
思いはするものの全然遠慮なく介入します。むしろいい方向に向かおうとより張り切ります。