「ここがブラックマーケット...」
「わあ☆すっごい賑わってますね?」
「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて。連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった。」
「うへ〜普段私たちはアビドスばっかにいるからねー。学区外には結構変な場所が多いんだよー。」
私たちは闇銀行を襲うためにブラックマーケットへとやってきていた。私が過去に連邦生徒会で見たブラックマーケットの様相とは全く違っていてびっくりだ。まさか1年足らずでここまで大きくなっているとは...連邦生徒会もここまで把握しきれていなかったのではないんじゃないか?
「私も予想外ですね...ここまで大きな規模になっているとなると...件の銀行を絞るのも時間がかかるかもしれませんね。ここだとスマホの地図もほとんど無駄になりますからね。」
「まーゆっくり回ろうよー。ここには色々あるみたいだよー。ちょーデカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうの!今度行ってみたいなー。うへ、魚...お刺身...」
食べてるじゃん。水族館って聞いて魚料理を連想するのやめた方がいいと思う。
『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるか分からないんですよ。何かあったら私が...きゃあっ!』
タタタタタタタッ!
アヤネが通信越しに注意を促して来ている途中で何処からか銃声が聞こえてきた。
みんながそれぞれの武器を構えながら音のなった方向を向くのに、私も続いた。...武器を構えようとして手を空振らせながら。あんま慣れてないんです、許して。
「待て!!」
「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!ついてこないでくださいー!!」
「そうは行くか!」
遠くから走ってきたトリニティ総合学園の制服を着た少女と、それを追うチンピラ。ご存知ファウス...ヒフミですね。
そんなヒフミはパニック状態でほとんどまわりがみえていないらしく、私たちのいるところに突っ込んできてシロコにぶつかって転んだ。
「い、いたた...ごめんなさい!」
「大丈夫?...なわけないか、追われてるみたいだし。」
「そ、それが...」
転んだヒフミをシロコが起こしてあげているうちに、ヒフミを追ってきたチンピラ達も追いついてきたらしい。
「なんだお前らは。どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用事がある。」
「あ、あうう...私は特に用事は無いんですけど...」
『思い出しました!その制服、キヴォトス1のマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園の制服です!』
「そう!そしてキヴォトスで1番金を持ってる学校でもある!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」
「拉致って交渉!なかなかの財テクだろ?くくくっ...」
チンピラ達は自信満々にそう言っているが、普通に犯罪だぞ。いやまあ、ブラックマーケットで言うことじゃ無いんだろうけど、連邦生徒会の生徒の前で言うのはよくないと思う。
そんなチンピラ達をいつの間にやらサイドに回り込んでいたシロコとノノミが同時に銃でどついて気絶させた。ナイス連携。
「悪人は懲らしめないとです☆」
「うん。」
「あ...えっ、えっ?」
それから私たちは未だに混乱しているヒフミに事情を聞いた。
「あ、ありがとうございました。皆さんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした...
それにこっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら...あうう...想像しただけでも...」
そう言って身を震わせるヒフミだが...確かこの先テストをサボったとかで補習を受けさせられるはずだ。まさか...と思いながらスマホで今の時期のトリニティの情報を調べると...
「問題なら既に起こしているのは?トリニティ総合学園では今、定期テストが行われているはずですけど...」
「へっ...」
私がスマホ画面を見せながらそういうとヒフミは固まってしまった。やっぱこの子相当にファンキーだな。
「うへ、ヒフミちゃんはどうしてテストをサボってまでこんな危ない場所にきたの?」
「え、えっとですね...探し物がありまして...
もう販売されていないので買うこともできない物なのですが...ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて...」
「もしかして...戦車?」
「もしくは違法な銃火器?」
「科学武器とかですか?」
「えっ、い、いいえ。えっとですね...ペロロ様の限定グッズなんです。」
そう言いながらヒフミは背負ったバッグの中からぬいぐるみを取り出した。
それは私たちが普段から利用するトークアプリ「モモトーク」の代表キャラクターである、あらぬ方向を見ている謎の鳥、ペロロが口にアイスをぶち込まれているぬいぐるみだった。
普通にキモイ。
「はい、これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」
そういいながらペロロの口にぶち込まれているアイスのコーン部分をぶにぶにと押すヒフミ。顔面が潰れちゃってるよ...ブルアカのプレイヤーとして見ていた時は、女子ならこれが可愛いっていう感性に共感出来るのかなーなんて思いながら見ていたが、普通にダメだった。目とかもっとつぶらにしていれば良かったのに...なんであらぬ方向を見てるの?
「限定生産で100体しか作られていないんですよ!ね、可愛いでしょう?」
「「「...。」」」
「わあ、モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよね!私はミスターニコライが好きなんです!」
「分かります!ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて...最近出たニコライさんの本、善悪の彼方も買いましたよ!それも初版で!」
ノノミとふたり、モモフレ談議で盛り上がる2人。周りの私たちはその話に乗り切れず、後ろでそんな2人を眺めているだけだった。
「...いやぁー何の話だか。おじさんにはさっぱりだなー。」
「ホシノ先輩はこういうファンシー系に全く興味ないでしょ。」
「うむ、最近の若いやつにはついていけん。」
「歳の差、ほぼ無いじゃん...」
私がホシノにツッコミを入れるセリカを眺めていると、ふとヒフミが疑問を口にした。
「...ところで、アビドスのみなさんは、何故こちらへ?連邦生徒会の方も一緒にいるとは...」
「アビドスの皆さんが被害にあったとある闇銀行での不正の証拠を集めようとしていましてね。連邦生徒会としてそれを手伝いに来たのです。」
「そうなんですね...ここらは悪質な金融機関も多いですから...」
質問には私がまっさきに答える。バカ正直に借金があってーだなんて言うのも、アビドスのみんながいい思いをしないだろうし。というかやっぱヒフミはブラックマーケットに詳しいのね。
『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かってきています!』
唐突に入ってきたアヤネからの警告に全員が辺りを見回した。するとアヤネの言う通り、至る所からチンピラ集団が走ってきているのが見えてきた。それも全員が武器を構え、激高した表情を隠そうともせずにだ。完全に敵対モードである。
「あいつらだ!」
「よくもやってくれたなあ!痛い目に合わせてやるぜ!」
「望むところ。」
「全く、なんでこんなのばっかり絡んでくるんでしょうね?私たち、悪いことした?」
『愚痴はあとにして...とりあえず撃退しましょう!』
アヤネの声を皮切りに、みんなが銃を構え出した。
...私も一応構えとこ。
タンクとしてまっさきに突っ込んで行ったホシノにチンピラたちが発砲するが、ホシノが構える大きな盾に防がれる。それでもチンピラたちは考え無しに撃ち続けるせいですぐに弾切れを起こしてしまった。
ホシノは銃声が鳴り止むのを確認する前に既に盾から身を出しており、リロードに勤しむチンピラたちを愛用のショットガンで的確に1人ずつ撃ち抜いていった。
そんな中ライトマシンガンを持ち、周りよりも大量の弾をばらまけるチンピラがホシノに銃口を向けて発砲しようとするが...それを察知したシロコとセリカが2人同時にそのチンピラに発砲し、チンピラの銃が火を吹く前に持ち主を完全に沈めてしまった。
冷静に遮蔽裏でリロードを終えたチンピラの複数が遮蔽から次々に飛び出し、再びホシノに向かって発砲しだしたが、既にホシノは盾の裏に隠れている。
「"ノノミ、今!"」
「はーい☆ノノミ、行きま〜す!」
先生の指示を貰ったノノミが辺り1面への掃射を開始し、放射状に飛んでいく弾丸の雨は、瞬く間にチンピラたちを沈めていく。
冷静な何人かのチンピラは遮蔽物に隠れたのだが、ノノミの弾丸はその遮蔽物すら破壊してその奥にいたチンピラを襲っていく。
「わ、わぁ!凄いです!わ、私も...!」
アビドスのみんなの連携に驚きの声をあげたヒフミも、ペロロのバッグを漁って、取り出したものを敵に向かって投げつけた。
敵集団の手前に落ちた円盤型のそれは、中央からどんどん大きく膨らんでいき...やがて等身大(?)のペロロ人形へと姿を変えた。キモ。
「うわ!なんだこいつ!」
「でか!キモ!壊せ壊せ!」
途端に集中砲火を受けたペロロ人形は、みるみるうちにしぼんでいってしまう。稼げた時間は数秒程度だが、それでもかなりの連携力を誇るアビドスのみんなにとっては十分な時間だった。
「あはは...」
そしてヒフミ自身もリロードを終え、さらには自分の好きなペロロ様を馬鹿にされたヒフミはその顔に暗黒微笑を携え、敵への発砲を開始した。心なしか命中精度がめちゃくちゃ上がってるし、さっきまでと違って全員が一撃でダウンしている気がする。
私も声に出さなくてよかった。
そんなこんなであっという間にあれだけの数がいたチンピラ集団のほとんどが倒れてしまった。
私?なんもやってないよ。
『敵、後退していきます!でも、このままじゃ...』
「仲間を呼ぶつもり?いくらでも相手してあげる。」
「ま、待ってください!それ以上戦っちゃダメです!」
ヒフミの静止にみんなの視線がそちらへ向いた。
「どうして?」
「だ、だって...ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安組織に見つかってしまうかもしれません!
あうう...そうなったら本当に大事です。...まずはこの場から離れて...」
「ふむ、わかった。ここのことはヒフミちゃんの方が詳しいだろうから、従おう。」
「ちぇっ、運のいい奴らめ!」
ヒフミの案内で私たちはその場から離れ、お店やら屋台やらが立ち並ぶ飲食店街へとやってきた。
「ふう、ここまで来ればいいでしょうか...」
「ここのことをかなり危険な場所だって認識してるんだね。」
「えっ?と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから...あっ、連邦生徒会を責めてるわけじゃないですよ!」
危険だと思うなら来ちゃダメでしょ...なんて思いながら聞いていると、ヒフミが慌てたように弁解を始めた。
別にいいんだけど...
「たしかに連邦生徒会もここまでの規模になると思わず、手を出さなかったのは事実ですね。戻ったら1度議題に上げてみますか...」
「そう簡単にはいかないと思いますけどね...ここでは様々な企業が違法な事柄を巡って利権争いをしているらしいですから...」
「だからこそ放置できないんですよ。連邦生徒会がグレーゾーンの取り締まりに弱いのはそうですけど、だからといって見て見ぬふりはできません。」
そんな私たちの会話を興味深そうに聞いていたホシノがヒフミを見ながら言った。
「ふーん...ヒフミちゃん、ここのこと意外と詳しいんだねー。」
「えっ、そうですか?危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか...」
「よし、決めたー。助けてあげたお礼に、私たちの探してる銀行を一緒に探してもらおうー。」
「えぇっ!?」
驚くヒフミを他所に、アビドスの面々は「ナイスアイデア!」なんて言って盛り上がっている。
そこ、誘拐だね。じゃないよ。
「あ、あうう...私なんかでお役に立てるか分かりませんが...アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます。」
「よーし、それじゃあちょっとだけ同行頼むねー。」
こうしてヒフミの同行が、半ば強引に決定したのだった。
「次の闇銀行はこの通りを進んだ先でしょうか...」
「まさかここまでずっとハズレくじだとは...」
「もう数時間も歩いてるよ〜。おじさんの腰も膝も、悲鳴をあげてるよー。」
かれこれ数時間、至る所にある銀行を回り続けてみんな疲弊していた。
というのも向かった先のものが件の銀行かどうかを判別するのに、現金輸送車の目撃証言やら銀行の確認やらで大忙しなのだ。
銀行の回りも銀行自体も、私が連邦生徒会の生徒だと見るやいなや大慌て。「ついに見つかったか!?」だとか「ガサ入れか!?」だとかで騒ぎまくっていたのだ。
私の目的が別の銀行だと分かれば、早くどっか行ってくれという態度を隠すこともなく協力的にはなってくれたから良いんだけどさ。
「あっ、あそこにたい焼き屋さんが!」
「あれ、ホントだー。こんなところに屋台があるなんてね。あそこでちょっと一休みしましょうか?たい焼き、私がご馳走します!」
そう言ってノノミが屋台へ向かって言った。
そしてたい焼きの入った袋を抱えて戻ってくると、みんなで小休止という事になった。
「美味しい!」
「いやぁ、ちょうど甘いものが欲しかったところだったんだー。」
「あはは...いただきます。」
たい焼きうまうま。疲弊した脳が回復していく。
そんなことを考えていると、ふと視線の先ではシロコが遠慮していたらしい先生にたい焼きを渡しているのが見えた。
おい!それは私の役目だぞ!あーんとかするなよ!
そのままシロコが自分のたい焼きを食べ始めたのを見て安心しつつ、これ以上のアプローチは許さないとばかりに、私は先生の隣に移動してたい焼きを食べ始めるのだった。
「そういえば、皆さんが被害にあった金融機関はなんという名前なんですか?今更ですけど...」
「カイザーローンってところだよー。」
「カイザー...カイザーコーポレーションですか!?」
「うへ、ヒフミちゃん知ってるの?」
「知ってるも何も...カイザーグループ自体は犯罪を起こしていませんが...合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で...
カイザーは私たちトリニティの区域にもかなり進出しているのですが、生徒たちへの悪影響を考慮し、ティーパーティーでも目を光らせています。
...もしかして、アビドスの皆さんが被害にあったというのは、カイザーローンから?」
「...そうですね。あの時は説明を省いて「被害にあった」と言いましたが、こうなった以上詳しく説明するべきでしょうか。良いですか?」
そう言ってホシノに視線を送ると、ホシノは頷いてくれた。
それから私たちはヒフミに説明をする。
アビドスの借金のこと。現金のみでの支払いや、アビドスを襲った襲撃事件の数々から私が導き出した推測。*1
それらからカイザーローンを、ひいてはカイザーコーポレーションの悪事を掴めるのではないかという私たちの目的を。
「そんなことが...わ、私も頑張りますね!いや、今までも頑張っていたんですけど...より一層!」
私の話を聞いたヒフミはこれまで以上にやる気を出してくれた。この子も感受性豊かだなぁ。
いい子だなと和んでいるところにホシノから提案が飛んできた。
「それじゃあそろそろ行こうか〜。」
『そうですね。皆さん、準備は出来ましたか?』
「うん、もう大丈夫。」
それから移動した私たちは辺りで聞きこみ調査を行ったあと、件の現金輸送車があの銀行にやってきたという証言を得られた。
「...そういえば、確かな証拠を掴むには集金記録とかが必要ですよね。そう簡単に銀行が渡してくれるとは思いませんけど...どうやって手に入れるんですか?」
「ん、銀行を襲うの。」
「はいっ!?」
あ、ヒフミに説明するの忘れてたな。
サトミが介入したことでブラックマーケットに向かうタイミングとか、銀行を見つけ出すタイミングとか、色々ズレてるはずなんですけどそこはご都合展開ということでよろしくお願いします。