転生してからかなりの時間がたった。
もはやどれだけの距離を移動したのかさえ分からないほど歩いたが、人里は未だ遠い。
「ふわぁ~」
伸びをして歩く凛。
魔法も、魔物との戦闘も、すっかりマンネリ化していた。
「本当に人なんか居るのかね?」
若干不安に思いつつも先へ進む。
少し進んだ先には開けた場所が。
「お?」
足元の段差に躓く。よく見れば何やら靴の跡のようなモノが残っている。
周囲を見渡せば足跡は今まで歩いてきた方向とは少しずれた方に向いていた。
泥はまだ乾いていない。
足跡の形からしても動物や魔物の可能性は低いだろう。
立ち上がった凛は足跡を辿って進んでいく。
人の足ならばそこまで遠くには行けない筈。
そう考えた彼の足取りは幾分か軽い。
「これは……」
進んだ先にあったのは魔物の死体と破壊された木々。
死体は綺麗に急所だけを突かれている。
そして、これだけの死体を状態から見て恐らく短期間で作り出したというのは……人であれ何であれ恐ろしい手練れだ。
ついでに言えば遭遇した魔物を片っ端から殺しているようで魔物の姿が見えない。
人に会えるかも、と喜んでいたが、避けた方がいいのでは?
危険人物とわざわざ会いたい奴は少ないだろう。
「まあ、襲われたらその時、か」
余計な考えを振り払うように頭を振って再び歩を進める。
探知魔法にも反応はない。魔力を隠して潜伏しているのか、それとも探知範囲外か。
「あで」
考え事をしながら歩いていたせいか、足元の泥濘にハマって転ぶ。
怪我こそないものの内心はかなりびっくりしていた。
頭をさすりながら周囲を見渡して目を見開く。
焦ったように表情をゆがませた凛は急いで大剣を取り出す。
「クソッ」
直後、澄んだ金属音が森に響いた。
最悪だ。痺れる腕を意識的に無視しつつ相手を睨みつける。
斬りかかってきた男は青年。騎士のような恰好だ。
そして、凛は見逃さなかった。
攻撃された一瞬、魔力感知にもう一人、反応があったのを。
「なんだお前ら?!」
「怪物に名乗る名など無い!」
曲剣と大剣。重量の差はどうやっても埋められない筈だというのに、簡単には押し返せない。
どういう腕力をしているのか。
取り合えず青年の意識が剣に向いているようなので下腹部を蹴り上げて距離を取る。
「ぐはぁ」
防御も一切なしに良い所へ入った。
ガッツポーズを取りたくなるのを抑えて大剣を構え直す。
直ぐ後にもう一人がやってくる。
貴族のように優雅な老人。
携えた直剣に手を掛けこちらの様子を窺っている。
強い。
二人を見てそう感じる。
背筋がちりちりと焼けるような感覚。
「お前らは……何者だ?」
「貴様に名乗る名など……無いといっているッ」
「……落ち着け。昂って勝てる相手ではないぞ」
感情だけで動く相手ではない、と。
厄介だ。随分と敵視されているようだが、挑発の効果も薄そうだな。
青年が走り出す。
死角を取るように動き、止めようと動けば老人が動く。どちらかが必ず死角を狙って動き、意識を固定させてくれない。連携が上手い。
「
軽い攻撃をいなしつつ、足に力を籠める。
強烈に踏み込まれた地面が砕け、一息の間に青年との距離が詰まった。
勢いそのままに上段から大剣を叩きつける。叩きつけられた大剣を真っ向から受けようとするほど相手は間抜けではないらしい。
体を一歩引いて半身になった青年はカウンターで腕を狙う。
凛は引き戻された大剣の柄でカウンターを受けつつ、衝撃そのままに後ろへ飛ぶ。
「クソ」
逃げた先に刺突が迫る。
体勢を変え、避けるが巻き込まれた髪が数本散った。
低い体勢から足払いをするが、既に老人は下がり、代わりに青年が再び迫っている。
一人を相手取るようにしているのに攻撃が途絶えない。
敵が二人いる以上、当たり前だが常に正面からの攻撃に備えないといけなくなる。
「面倒な」
手足を動かして異常が無いか確認する。
痺れは残っているが戦闘に支障はない程度。長期戦になれば効いてくるかもしれないが今は問題ない。
今度距離を詰めてきたのは凛ではなく老人。
振るわれる直剣はいつの間にか炎を纏っている。
「魔法武器ってやつか?」
「……」
あからさまに目を輝かせつつも迎撃の手は緩めない。
速度でこそ負けているが威力は大剣の方が圧倒的に上。彼は集中して攻撃を選別する。
受けれる攻撃は受け、フェイントは無視。避けなければいけない攻撃はしっかりと避ける。
軽くカウンターを狙うが技量の差か、それとも経験の差か。攻撃は通らない。
「なら……これは受けれるかな!!」
大剣が振り下ろされる。
グシャ。
老人の腕は拉げ、苦痛に顔が歪む。
「ふん!」
出来た隙に蹴りを差し込み吹き飛ばす。
吹き飛んだ老人を青年がキャッチする。
利き手は潰した。
戦えなくなることは無いだろうが、十分なダメージだ。
「大丈夫ですか?!」
青年は焦ったように懐を弄り、一本のビンを取り出す。中身には薄水色の液体が入っている。
「……?」
それを振りかけられた老人は拉げた腕が見る見るうちに元へ戻っていく。
凛は興味深そうにそれを見つめていた。魔法薬、回復薬の類だろうか。効果を見るに骨折程度ならすぐに直せるようだ。
何本持っているかは分からないが、生半可な傷では戦線離脱させるのは難しいだろう。
と、なるとやはり殺してしまうのが手っ取り早いか。
「はあ!!」
老人の回復が終わるまでの間、青年が入れ替わるように前へ出てくる。
肉厚の曲剣は老人の直剣と違い、十分な強度と力があるようだ。凛の攻撃にも怯まず打ち込んでくる。
そこに応急処置を終えた老人も参戦。
老人をメインに据え、青年をサポートに回すような形で凛を責め立てる。
刺突、斬撃、合間に魔法。
戦闘しながら魔法を発動とは中々器用なことをする。凛とてできないことは無いが難しい。
先程と違い、攻め手が二人になったことで単純に攻撃量も二倍。対処も簡単ではなくなってくる。
長引けば長引くほど不利になるのは凛。
状況を打開すべく更に一歩踏み込む。大剣という武器の特性上、あまり近づきすぎれば反対に振りにくくなってしまう。この距離は大剣が威力を損なわず、尚且つ、最も動きやすい間合い。
間合いが詰まった分、攻撃も苛烈になる。
老人の刺突を躱し、青年の斬撃を大剣で下から跳ね上げた。
無防備になった横腹に左拳を叩きこむ。
吹き飛ばした青年には目もくれず更にもう一歩、踏み込んだ。
その瞬間、老人の意識は凛ではなく、青年に向いていた。
「ウィルズッ!!」
「へぇ……あいつはウィルズって言うのか」
ああ、こいつは仲間を気にするのか。
いいことだ。狂気に飲まれやすい、戦場なら。
だが、ことここにおいては最悪の選択だ。
―――ここだ。
顔と顔が触れ合えるほどに近づいた二人。
凛はもう一歩踏み込む。
老人の足は静かに踏み潰された。
鉄靴など履いていなくとも相手の足は派手に潰され血が飛び散っている。
「なぁ?!」
余りの行動に一瞬動きが止まる。
さもありなん。誰だって驚くだろうが、その隙がここでは致命的だ。
大上段から振るわれた大剣は真っ直ぐに相手を捉えた。
後ろに下がろうとするが足を失い、平衡感覚が崩れ、尚且つ踏み潰されたとはいえ足を踏まれたままの為、失敗。
振り下ろされた大剣は最後の抵抗とばかりに出された直剣ごと頭の上から股下までを綺麗に両断した。
イチゴのように真っ赤な断面、まろび出る臓物。
本当なら気分が悪くなるような光景なのだろうが、何故だかそうはならない。
(ああ。楽しい)
理由は分からない。
次の獲物に目を向ける。
彼は随分と激高しているようだ。
「ルードさんッ!!?」
殴り飛ばされていたウィルズが戻ってくる。
真っ二つにされたルードを見て叫ぶが、もう遅い。
死体を無造作に退かすと仕切り直すようにだらり、と大剣を構える。
対照的にウィルズは構えを取り、魔力の流れが変わった。濁流のように流れていた魔力は統制され、均一に。
魔力は徐々に収束し―――――
――――爆ぜた。
凛がそう認識した瞬間に刃は首に迫っていた。
さっきまでの攻撃とは何もかもが違う。
動き出しも、何も捉えられなかった。
否、間に合わなかった。
全力で首と体を捻って回避する。
「うぐ……」
全身が軋み、悲鳴を上げる。
耳の辺りが熱い。
血が流れている。
次の瞬間、体が吹き飛んだ。
さっきまでとは段違いだ。
威力も、精度も。
あんな速度で動いてよく無事なものだ。
「かはっ」
木にぶち当たり肺から空気が漏れる。
追撃はない。
骨に異常は――ないな。
軽量武器で大剣と打ち合う膂力から勝手にパワー系だと思っていたが、当てが外れたか?
速い。
それは分かる。
だが、本当にそれだけか?
速いだけならば動き出し位は見える筈だ。
思考加速を使っても一切、動きを捉えられない事なんてあるとは思えない。
「うぉ?!」
考え事にもお構いなしに突っ込んでくる。
やっぱり、動きの
何かしようとしてる、そう感じた瞬間にはもう目の前。
「何より、土埃が、無い」
確実に、地面を蹴って進んでいる筈。
なのに何も舞わない。
種があると考えるのが自然……かなぁ?
取り合えずとばかりに魔力を全身に流す。
ウィルズとは反対に整った流れから濁流に。
心地いい。
全能感とはまた違うが、いい感覚だ。
周囲に舞う紫電はまるで凛を讃えるかのよう。
最初は対応できなかった。
二度目は考え事をしていた。
だが、三度目はない。
独特な動き故、予測は困難。
それでいい。
原理なんてのは後から考えればいい。
硬質な金属音が森に響いた。
今度はウィルズの剣を受け止められた。
攻撃に失敗したウィルズは舌打ちをしながら鍔迫り合いに持ち込む。
「うっぐ」
「随分と軽いなァ!お前の剣は!」
押し込まれたウィルズは逆らわずに後ろへ飛ぶ。
まただ。
後ろへ飛んだだけのように見えたのに。
「現れたのは、ずっと後ろ」
魚の骨が喉に引っかかったような感覚だ。
もどかしい。確実にヒントがある筈なのに、辿り着けない。
「中々いいんじゃない?」
再び姿が消える。
首筋にチリチリする。
勘に従って一歩、下がった。
刃は鼻先を掠め、前髪を切り飛ばす。
開いた胴に横薙ぎを振るうが、間に合わない。
下がったウィルズの顔には冷汗が浮かんでいた。
(焦っている?)
凛の顔には笑みが浮かぶ。
なるほど。
あまり見せたくはないようだな。
横薙ぎを途中で止め、刺突を放つ。
普通なら不可避の攻撃。
「避けて見せな!」
しかし、ウィルズならば避けられる筈だ。
『
瞬間、周囲が炎の壁で包まれる。
これなら普通の移動手段で逃げられない。
どこかで必ず炎に焼かれる。
「……クソ」
小さな呟きと共にウィルズはどこかへ消えた。
魔力感知から壁の外に逃げたのだろう。
分かってきた。
種は空間。
魔力による強化はミスリード。
速く移動しているように見えてその実、移動なんかしていなかったのかもしれない。
「もうちっと見せてほしい……が、もう無理かな」
「当たり前だ」
今度は両者が突撃。
数度の打ち合い。
速度は相手が上。
力は凛。
技量は相手に少し軍配が上がる。
絡めとるような動きで大剣が明後日の方向へ向く。
反動で一歩下がった凛。
ウィルズは追わない。
生成された魔力弾が飛んでくるだけだ。
(来ない……そりゃ警戒されるか)
内心ではそう考えつつも凛の口角は上がっている。
「とはいえ、タイムアップだ」
迎撃の魔力弾が炸裂し粉塵が舞う。
今まで得た情報を整理しつつ、歩く。
見えない動き出し。
異常な速さ。
上がらない土煙。
無視される空間。
「不自然な移動、に進路上の影響を受けていない本人……もし仮に瞬間移動とかだったら、どうなる?」
そもそも間の空間を移動していないのだから当たり前ながら影響は受けない。
動きの起こりも、動いた瞬間にそこから消えているなら見えなくて当然だ。
異常な速さもこれなら納得がいく。
「でも、俺が使った時は散々だったんだよなぁ」
もしくは、これが異能ってやつなのかもしれない。
少なくとも魔法でやろうとするならウィルズはいろいろと足りない気がする。
「全く、持っている奴は羨ましぃね」
手記に書かれていた力。
魔法よりも汎用性に劣るが強力。
「確かに、これは強力だ。なあ!!聞こえてんだろ!」
「中らずと雖も遠からず」
砂煙が晴れウィルズの姿が見える。
「俺の異能『星繋ぎ』は……」
パチン、と指を鳴らし背後へ移動する。
集中していれば空間が歪んでいるのが分かった。
「空間を繋げる異能。速く移動しているのではなく、距離が無くなっただけだ」
やはり、瞬間移動か。
「能力の特性上、距離は目視できる範囲という制約こそ付くが、な」
「いいのか?俺にそんなこと話して」
彼に焦りはない。
先程まで浮かんでいた冷汗も、どこかへ消えてしまっている。
「どの道、貴様は終わりだ」
体が、熱い。
至るとこに異物が入り込んでいる。
視界が揺れた。
体は力なく倒れ、血だまりが広がる。
木々が、空が反転して見えた。
これは―――
(詰み……か?)
どこかゆっくりとそれを受け入れていると、視界に二人の新手。
一人はウィルズと似ている意匠の鎧を身に着けている。
もう一人は……なんだ?
目を疑うほどに酷い襤褸と体躯だ。
そして、異能の気配。
(この子か……)
凛の体を突き刺している翳はこの少女のモノだろう。
「遅かったな」
「位置特定に手間取りました。すみません……ルード様は?」
「殺られた」
転がっている頭を指して吐き捨てる。
何やら女の方は体に近づいて詠唱を始めていた。
いつ途切れるかもわからない意識に覚悟をしつつも、三人を見続ける。
「早めに燃やしてくれ。何されるか分かったものではない」
こちらに歩いてきたウィルズが頭を踏み潰した。
痛くはない。
ただ、靴の裏の感覚が残った。
明らかな致命傷。
そこで凛の意識は途絶え――――
(てない?!)
内心であらん限り叫びながら現状を確認する。
頭を潰された瞬間に視点は目視から体を中心とした魔力感知へ。
体の感覚も戻って来た。
いよいよ化け物だ。
頭を失って尚、意識があるとは。
魔力が頭部へと集まり、徐々に戻っていく。
「いやァ、人間やめてるみてぇだな」
「?!」
「……?!」
頭が再生し、視界がクリアになる。
正面に居た女性は直ぐに距離を取った。
襤褸を着た少女が即座に異能を発動する。
魔法が発動され炎も上がる。ウィルズも直ぐに距離を詰め斬りかかってきた。
だが、どれ一つとしても凛の体躯を傷つけるには至らない。
炎は掻き消え、翳は崩れ落ちた。
唯一、ウィルズの剣だけが結界を切り裂いた。
が、悲しいかな。それが凛の体を傷つけることは無い。
「異能『
刃が触れた傍から砕け散っていく。
刃が無くなった剣は目標を無くし体勢が崩れ空振る。鳩尾の辺りに掌底を叩き込んで異能を発動させる。
触れた周囲が黒く、光を喪う。そこからぐずぐずと広がっていき消滅していく。体の中心から存在が消えていく。
魔力を流す、異能で空間を歪める、部位を切り取る。
全て意味をなさなかった。一片さえも残さず侵食していく。
ずぶずぶと広がっていく"破壊"は驚愕の表情に満ちたウィルズと共に消え去った。
「報告では異能はない筈じゃッ?!」
「異能ってのは後天的な発現もあるんだろ?」
女は声を張り上げて言う。
ウィルズは強かった。
それは凛の主観だけではなくこの世界の常識からみてもそうだったのだろう。
相手の表情は恐怖と、驚愕と、不安を映し出している。
異能が本当に発現するかは正直、五分といったところだったが。
ウィルズの異能を見た瞬間から使える自信はあったが自身に異能があるか不明瞭だったため時間がかかってしまった。
しかし、翳の異能を見て異能が確固たる形を得た。
「行きなさい!!004番っ!」
「了解」
少女が迫る、が遅い。
振られる鎌も、異能も全て。
互いの顔が触れそうなほどまで近づき鎌の間合いの内側に入る。こうなってしまえば刃は届かない。
後は異能で消し去ってしまえば終わりだ。
「ん?」
異能が少女に対して発動しない。
何度か試すがうんともすんとも言わない。
どういうことだ?
仕方がないのでハイキックからの卍蹴りをお見舞いする。
蹴り飛ばされた少女と入れ替わる様に女性が前に出る。手には大きめのダガーが一本。
鋭い突きが繰り出される。首を捻り避けるが薄皮が一枚切り裂かれ急所を掠めた。
引き戻される前に手首を掴んで関節の下側から突き上げる。
ゴキリ、と嫌な音を立てて腕がおかしな方向に曲がる。
だが、驚いたことに女性はそれに反応一つ示さず蹴りを叩き込んできた。
蹴りを防ぐために手を放して防御をする。体が浮いて衝撃が突き抜ける。
この女、強いな。恐らく、単体の戦闘能力だけならウィルズ以上。
なればこそ、早く仕留めたい。
痺れた腕を振りながら腰を落とす。
あと一合いもすれば少女が戻って来る。そうなれば面倒だ。
「行くぞ?」
距離を詰めようとする凛に対して女は魔力弾を放つ。
直撃すれば掻き消えるがそれ以外の魔力弾の衝撃波しっかりと凛に伝わっている。
「う……」
「どうしましたぁ!さっきまでの威勢は!!」
襲いくる弾幕に足が止まる。
遠距離の攻撃手段は現状、魔法しかない。
ただ、今、結界を解けばハチの巣。
このまま、ではじり貧だな。
「あなたの異能は自身に触れたものだけに発動すると見ました!ならば、触れなければいい。爆発の衝撃は通るのでしょう?!」
劣勢。
異能の発動条件がバレ、相性も良いとは言えない。
そんな状態で凛の口角は上がっていた。
「004番!彼の異能の発動条件は触れること、です!」
「了解」
女の指示に少女は淡白に頷く。
凛は少女を見て、次に女に視線を向ける。
少し遠いか……?
とにかく、再び二対一の様相だが今なら好都合。
少女の異能が発動すると同時に二人が距離を詰めてくる。
音を置き去りに神速の斬撃が放たれる。
しかし、いくら速くとも武器の間合いは広がらない。
半身を引いて間合いを外す。
躱されたと同時に少女も制動をかけ、切り返す。
刃は届かない筈だったが柄が伸びる。既に刀身は目前にまで迫っている。
ぞわり、と背筋が凍える。首を斬り飛ばされた時にさえ感じなかった死の気配。
これは―――
「まずい」
小手先では躱せない。受けるかいなすか。
どちらも間に合わない。
「ふっ」
奥で女の表情が緩むのが見えた。
殺った。
躱しようのない、少なくとも女の視点では回避しようのない死が凛に迫る。
だが、凛は軽く鼻を鳴らして笑った。
(少女は目の前。女も、まあ、近くにいるな)
二人が近くにいることを確認して地面を踏み抜いた。
直後、黒い亀裂が走った。
触れてはいない。
それでも
少女の翳は砕けた。
女の魔法が消えた。
鎧は崩れた。
地面は捲れ上がり、木々は粉々に。
その中心で凛は妖しく嗤った。
「ハハハッ……俺の異能がいつ、『触れることが発動条件』なんて言った!そんな小難しいもんはねぇよばぁあーか!!」
二人は動けない。
絶対的な力を前に、足が竦む。
心臓が早鐘を打つように鳴る。
「なぁんだったか?触れなきゃ発動しないィ?ンなわけねえだろ。異能は願望の具現化だぞ」
ダメージで動けない女の心臓を掴む。
凛の異能は触れずとも発動する。
一部の権能を除いて彼の知覚できる範囲内なら発動が可能だ。
「発動条件もなく……そんな強力な、いの、う、を」
女の声が震える。
それを見た凛は、軽く手に力を込めた。
「しっかり引っかかってくれてよかったよ」
心臓を握り潰す。
女の顔には驚愕と恐怖だけがこびりついていた。
「威力の制御は……今後の課題だな」
辺りは荒野へと変わっていた。
凛の異能の暴威は、彼の考えるよりもずっと、凄まじい。
ここまで盛大にやるつもりもなかったが、威力調整がザルだったか。
「もう一人は……」
見渡せば少し離れたところに倒れている。
体力切れか、それとも頭を強く打ちつけたのか、気絶していた。
苦しそうな表情に加え、魘されている。
「……クソッ、はぁ」
盛大に溜息を吐く。
同時に熱くなっていた思考が覚めていくのを感じる。
振り上げた大剣を下ろし、仕舞う。
冷静に考えてみればこんな子を殺したい奴の方が少ないだろう。
持ち上げた彼女は外見よりもずっと軽い。よくよく見てみれば手足は痩せ細り、傷だらけだ。
(幾分かは俺の付けた傷だろうがな)
治癒しつつ、邪魔になっている首輪を外す。
「何か、懐かしいな」
何故だかは分からない。
だが、この子の顔を見ていると昂っていた感情が落ち着く。