ロックマンゼクス&はぴねす!2〜激闘!超次元戦争〜 作:騎士誠一郎
**【時空の彼方・ライト研究所】**
深々とした静寂が支配する部屋。壁一面に整然と配置されたオシロスコープやメインフレームが、規則正しい電子音と青白いシグナル光を滅滅させている。窓の外には、見慣れた平和な街並みが広がっているはずだった。……だが、その空の水平線はどこか異様に歪み、水面に投じられた波紋のように時折空間そのものが引きつれていた。
「……ふむ。やはり、時空振動の減衰波形が完全に一致したか」
白い作業着に身を包み、豊満で豊かな白い髪とヒゲを蓄えた温厚そうな老科学者——トーマス・ライト博士は、分厚い眼鏡の位置を直しながら重い溜息をついた。
その視線の先にあるメインモニターには、数日前にラボの近郊で発生した超局所的な「次元穿孔」の解析データがホログラムで立体表示されている。
「博士、やっぱりあの爆発のショックで……?」
傍らに控えていたのは、ロールだった。赤地に白ラインのワンピースドレスを着た少女型お手伝いロボットは、心配そうにライト博士の顔を覗き込んでいる。
「ああ。ワイリーの奴め、自作した次元跳躍型試作メカの暴走に巻き込まれたのではない。奴自身が、あの土壇場で未完成の時空歪曲装置を意図的に過熱させ、別の世界……我々の存在するこの次元とは全く異なる物理法則と歴史を持つ『別の時空』へと逃げ込んだのだ」
「そんな……! じゃあ、Drワイリーは、もうこの世界にはいないってこと?」
「そうであれば、この世界にとっては一時的な平穏と言えるのかもしれん。……だが、そうはいかんのだよ、ロール」
ライト博士はキーボードを叩き、異次元側の観測データを拡大表示した。
そこに映し出されたのは、異様な電子磁場と、ナノマシンや生命エネルギー粒子が複雑に交錯する、見たこともない都市の構造体——『瑞穂坂』と呼ばれる世界のデータであった。
「ワイリーが逃げ込んだ先の世界……そこは、我々の世界よりも遥かに高度で異質な『電子生命体』や『意志を持つ特殊金属』が存在する世界だ。そして何より問題なのは、あの世界が直近で未曾有の超大規模なエネルギー崩壊事故を経験したばかりだという点なのだよ」
「エネルギー崩壊事故……?」
「うむ。『イザナミ』と呼ばれる科学者によって引き起こされた、次元の壁を希薄化させるほどの巨大人造エネルギーの暴走だ。空間の脆弱性が極限に達していたその瑞穂坂の地に、ワイリーという最悪の劇物が飛び込んでしまった。放置すれば、奴は向こうの世界のテクノロジーを強引に強奪・改造し、その世界を破壊するだけに留まらず……向こうのエネルギーを吸い上げて、再びこちらの世界へ破壊兵器を引き連れて逆流してくる可能性がある」
ライト博士の表情が、かつてないほど厳しく引き締まる。
「奴のしでかした悪始末は、我々の世界の手でつけねばならん。……向こうの世界の住人たちに、これ以上の惨劇を味わわせるわけにはいかんのだ」
自動ドアが静かにスライドし、一人の人物が部屋へと入ってきた。
青いヘルメットと装甲を身に纏い、澄んだ瞳に強い意志を宿した少年型ロボット。
その足元には、赤い装甲と精悍な目つきをした犬型支援ロボットがピッタリと寄り添っている。
「博士。準備はできました」
少年の声には、迷いがなかった。
「話は聞いていました。ワイリーが別の世界へ逃げ込み、そこでまた人々を脅かそうとしているんですね」
「……うむ。すまないね。本当なら、先の戦いが終わったばかりで、お前にはゆっくり休んでもらいたかったのだが……」
「いいんです、博士。ワイリーの野望を止めるのが、僕の役目ですから。どんな世界へ逃げようと、ボクはワイリーを連れ戻します」
少年……世界を何度も危機から救ってきた永遠のヒーローが、強く拳を握りしめた。
足元の犬型ロボット——ラッシュもまた、「ワン!」と短く力強い雄叫びを上げて同意を示す。
「頼んだよ。……だが、今回の任務はこれまでと大きく異なる。向こうの世界には『ライブメタル』や『電子体』といった、我々の世界の物理法則を超越したテクノロジーが存在する。お前のバスターやシステムが、向こうの環境でどこまで正常に機能するかは未知数だ」
ライト博士はデスクの引き出しから、小型の特殊高周波コンバーターを取り出し、少年の胸部装甲の内部へと組み込んだ。
「向こうの世界に到着したら、まずはワイリーの放出している固有の『W波形』を追うのだ。そして……万が一、向向こうの世界の住人と接触した時は、決して争ってはならんよ。彼らもまた、突然現れたワイリーによって恐怖に晒されているはずだ」
「はい! 分かりました!」
「気をつけてね! 絶対に、無事で帰ってくるのよ!」
ロールが祈るように胸の前で手を合わせる。
少年は大きく頷くと、ライト博士が起動させた中央の大型転送ポータルへと歩みを進めた。
青い光の粒子が、少年の体を包み込んでいく。
ラッシュがその背中に飛び乗り、二体のシルエットが光の柱となって上昇を開始する。
「行こう、ラッシュ! 新しい世界へ……Drワイリーを止めるんだ!」
「ワンッ!!」
閃光が一瞬だけ室内を白く染め上げ、光が収まった時、転送台の上にはもう誰もいなかった。
ライト博士は静かに目を閉じ、祈るように呟いた。
「無事でいてくれ……我が最高の息子よ……」
次元の壁を突き破り、青き閃光が、未だ見ぬ『瑞穂坂』の空へと向かって解き放たれたのだった。
**【瑞穂坂市・旧イザナミ研究所地下・高次元電脳空間『ディープ・ログ』境界域】**
(一方、その頃。ファイアマンを急ごしらえの連携で撃破し、プロメテとパンドラからの不穏な警告を受けた雄真たちは、全域が「W」の電磁バリアで封鎖された瑞穂坂の市街地を抜け、原因の根源と思われる旧イザナミ研究所の地下深部へと侵入していた)
「くそっ……! なんなんだよこの広さは! 地下に来れば来ほど、空間が広がってやがるぞ!?」
八輔が懐中電灯の光を壁に当てながら、苛立ちを隠せずに叫んだ。
彼らが歩いているのは、かつてイザナミがセルパンやアポカリプスを構築するために使用した、極限まで拡張された地下ドックの最深部であった。だが、今のその場所は、イザナミが残した紫色のサイバーエルフ光と、ワイリーが持ち込んだ泥臭い赤と黒の電子ノイズが混ざり合い、まるで空間そのものが腐食したかのような異常な光景が広がっていた。
「気をつけて、八輔くん。ここはただの地下空洞じゃないわ」
春姫がモデルHを胸元で光らせながら、慎重に足を進める。
「イザナミさんが崩壊した時、この場所の電脳データと現実世界の境界線が極限まで薄くなったの。そこにあの老人の粗雑な高周波ノイズが流れ込んだことで……今、ここは『現実と電脳世界がごちゃ混ぜになったバグ空間』になっているわ」
「バグ空間……? だからさっきから、壁がチラチラ透けて見えたり、変なデジタル文字が空中に浮いてたりするのか……」
杏里が不機嫌そうに周囲の空気を手で払う。
「でも兄さん、あのファイアマンってロボットを倒したのに、街のバリアが消えないのはどうしてなのだ?」
すももが雄真の服の裾を引っ張りながら尋ねた。
「あの老人が言っていた『ナンバーズ』……ファイアマンは、その最初の一機に過ぎなかったってことだ」
雄真は口元を固く結び、暗闇の奥を見つめた。
「あの老人は、この地下ドックに残されたイザナミの設備や高濃度のサイバーエルフエネルギーを使って、自分のロボット軍団を大量生産している。……街のバリアを維持しているメインフレームも、この奥にあるはずだ!」
『……雄真、立ち止まるな』
モデルZの声が警戒を促す。
『前方の電子密度が異常に跳ね上がっている。サイバーエルフの波形でも、ワイリーのW波形でもない……もっと異質な、純粋すぎる「データ体」の反応だ』
「え……? ワイリーの刺客じゃないのか?」
雄真が足を止めた、その時だった。
ズズズズズ……ッ!
空間が大きく歪み、目の前の空中がテレビの砂嵐のような激しいノイズで覆われた。
空間の亀裂から、鮮やかなエメラルドグリーンとピンクの光の粒子が溢れ出し、まるでホログラムが実体化するように、一人の少女のシルエットが形作られていく。
「きゃあああああっ!?」
可憐な悲鳴とともに、光の中から飛び出してきた少女が、勢い余ってアスファルトの床へと派手に転がった。
「痛たたた……っ! な、なんですか今の時空歪曲は〜〜っ! 電脳空間の修正作業をしてただけなのに、いきなり大穴が開いて吸い出されちゃうなんて聞いてませんよ〜っ!」
「な……なんだあいつ!?」
八輔が思わずモデルAを構える。
そこに倒れていたのは、見たこともない奇抜で可愛らしい衣装を纏った少女だった。
鮮やかなスカイブルーのツインテール。エメラルドグリーンのリボンと、データ端末のような不思議なアクセサリーを身につけ、お尻を押さえながら涙目で立ち上がろうとしている。
「ちょっと、八輔! 女の子に武器を向けるんじゃないわよ!」
杏里が八輔の肘を小突いて前に出た。
「だ、だってあいつ、空間の割れ目からいきなり落ちてきたんだぞ!? ワイリーの新しい刺客かもしれないだろ!」
「違います〜っ! 刺客だなんて失礼なっ! 私は怪しい者じゃありませんよ〜っ!」
少女は慌てて両手をブンブンと振った。そして、自分の服装を整えると、胸を張って威張るように(しかしどこかドジっぽく)名乗りを上げた。
「私は**リコ**! 様々なゲームや電脳世界のデータを管理・修正する『ナビゲートプログラム』です! ……って、あれ? あれれれ……!?」
リコと名乗った少女は、周囲の薄暗い地下ドックを見回し、急に顔を蒼白にさせた。
「ここ……どこですか〜〜!? 『ディープログ』の領域じゃない!? ていうか、データ世界じゃなくて、本物の……生身の『現実世界』になっちゃってます〜〜っ!?」
「はあ……?」
雄真たちは、目の前で頭を抱えてのたうち回る少女を見て、完全に毒気を抜かれてしまっていた。
「……つまり、リコちゃん。君は『別の電脳空間』でナビゲーターをしていて、そこから事故でこの世界に飛ばされてきた……ってことなのか?」
瓦礫の上に腰掛けた雄真が、理解を深めようと尋ねた。
「はい〜……」
リコはジュースの缶(小雪が渡した冷えたお茶)を両手で抱えながら、落ち込んだ様子で頷いた。
「私は『ディープログ』と呼ばれる、様々なヒーローたちの記録データが眠る電脳世界で、不具合(バグ)を修正するお仕事をしていたんです。そうしたら突然、この『瑞穂坂』という場所から猛烈な時空の歪みと、ものすごい『不法なプログラムの書き換えノイズ』が飛んできて……電脳空間の壁が崩壊して、そのまま現実世界へ引きずり出されちゃったんです……」
「不法なプログラムの書き換えノイズ……」
春姫が眉をひそめる。
「それって、あの『ワイリー』とかいう老人の仕業ね?」
「はい! 間違いありません!」
リコは身を乗り出し、空間にホログラムのウインドウを展開させた。そこには、瑞穂坂の地下全域に張り巡らされた、複雑怪奇な電子回路図が表示されている。
「この瑞穂坂という街は、イザナミという人が起こした大暴走のせいで、現実世界と電脳世界の境目が極限までフニャフニャになっちゃってたんです。そこに……この『W』というサインを持った謎の老科学者が飛び込んできて、イザナミさんの残したシステムを強引に自分好みの『粗雑で暴力的なプログラム』へ書き換えちゃったんです!」
リコの操作により、ウインドウにファイアマンや、他の様々な未知のロボットたちの設計図が映し出された。
「この老人……ワイリーという人は、天才的ですけど、やり方がむちゃくちゃです! サイバーエルフやライブメタルの持つ『心』や『高次元の波動』を全部無視して、ただの『破壊用の命令コード』に塗り替えていってます! そのせいで空間の歪みがさらに酷くなって……このままだと、瑞穂坂だけじゃなくて、色んな次元の世界がごちゃ混ぜになっちゃいますよ〜っ!」
「何だって……!?」
雄真が立ち上がった。
『なるほどな……』
胸元のモデルZが吐き捨てた。
『あのアホなジジイ、自分が何をしているかも理解せずに、この世界のシステムを力任せに壊しまくっているわけか。……どうりで街のバリアが消えないわけだ。ファイアマンを倒しても、システムそのものが暴走を続けている』
『八輔!』
モデルAが叫んだ。
『リコとかいうこの子のナビゲートがあれば、あのジジイのいるメインフレーム……「ワイリー・キャッスル」の場所を直接特定できるんじゃないか!?』
「あ! そうだ! リコちゃん、メインフレームの位置ってわかるか!?」
八輔が詰め寄ると、リコはウインドウをパッパッと操作した。
「はい! データ解析なら任せてください! ええと……この地下ドックのさらに奥、かつてイザナミさんがアポカリプスを建造していた最深区画……そこに、巨大な『W』の反応があります! そこが、ワイリーさんの本拠地です!」
「よし! 行こう、みんな!」
雄真が拳を握りしめた。
「待ってください、雄真さん!」
リコが叫んだ。
「その最深区画へ向かう道に……今までにない、恐ろしいエネルギー反応が立ち塞がっています! ファイアマンさんなんて比じゃない……圧倒的な『冷却と冷気』の反応です!」
「冷却と冷気……!?」
小雪がハッとして前に出た。
「私の……『モデルL』と同じ属性……?」
「はい……! ワイリーさんは、イザナミさんが残した最新鋭の氷結生成プラントを乗っ取って、新しい『ナンバーズ』を完成させたみたいです! その名も……**アイスマン**!!」
**【瑞穂坂地下・旧イザナミ氷結プラント跡】**
ドックの奥へ進むにつれ、周囲の温度は急速に下がり始めていた。
さきほどまでファイアマンの炎によって猛暑のようだった空気が、今や息を吹きかければ白く凍りつくほどの絶対零度の世界へと変貌している。
壁や天井は分厚い永久凍土のような氷で覆われ、足元はすべりやすいツルツルの氷床となっていた。
「くっ……さ、寒い……! さっきまであんなに熱かったのに、極端すぎるだろ……!」
八輔が身を縮こまらせ、歯をガチガチと鳴らす。
「みんな、私の後ろに!」
小雪がモデルLへとトランスフォームし、氷の障壁を前面に展開して前進する。
「この冷気……ただの低温じゃないわ。物質の分子運動を直接停止させる、異常な『絶対停止フィールド』よ……!」
「ハハハハハ! 察しがいいな、お嬢ちゃん!!」
凍りついた広間の奥から、幼い、しかし冷酷な高笑いが響き渡った。
氷の柱の陰から滑り出てきたのは、エスキモーのようなモコモコとしたフード付きの装甲を纏った、小柄なロボットであった。胸には、例によって鮮やかな「W」の刻印。
その両手には、小型の冷凍光線砲が握られている。
「ボクこそが、ワイリー様が誇る氷の最高傑作……**アイスマン**様だ!!」
アイスマンが冷凍光線砲を構え、凶悪な笑顔を浮かべた。
「瑞穂坂のガキども! ワイリー様のお邪魔はさせないぞ! お前たちを全員、カチコチの氷漬けにして、永久に展示品にしてやるからな!!」
「アイスマン……! やっぱり、ワイリーの作ったナンバーズね!」
杏里がモデルFの炎を両拳に宿し、前に出ようとする。
「あたしの炎で、そんなカチコチの氷、一瞬で溶かしてやるわよ!」
「ダメです、杏里さん!」
リコが慌てて叫んだ。
「あのアイスマンの着ている『エスキモー装甲』は、イザナミさんの超耐熱ナノマシンを改造した特殊装甲です! 下手に炎で攻撃すると、熱を吸い取ってさらに強力な冷気波を打ち返してきます!」
「何だって……!? 炎も効かないの!?」
「へへ〜ん! 無駄無駄! ワイリー様の科学力は無敵なんだからね!」
アイスマンが跳躍し、空中から両手砲を真下に放った!
**「アイススラッシャー!!」**
空中から放たれたのは、巨大なツララ状の氷の刃の群れ!
それらは地面に突き刺さると同時に、爆発的な冷気波となって周囲全方位へと広がった!
「キャアアアアッ!?」
「うわああああっ!」
氷床の上で足をとられ、八輔と杏里、すももが吹き飛ばされる!
瞬時に足元から氷が削り取り、彼らの身体を拘束していく!
「みんな!」
雄真がモデルZXのセイバーで氷を叩き割ろうとするが、セイバーの刃が触れた瞬間、エネルギー刃そのものが凍りついて光を失っていった!
「な……セイバーが凍りついた!?」
「ハハハ! ボクの『アイススラッシャー』は、エネルギーそのものを凍結させるのだ! どんなハイテク武器を持っていようが、ボクの前ではただの鉄くずなんだよ!!」
アイスマンが空中で高らかに笑い、トドメとばかりに胸のハッチを開いた。
そこには、巨大な絶対零度照射プラズマ砲が格納されていた。
「バイバイ、瑞穂坂のヒーローたち! ワイリー様への最高のお土産になってね! 全開出力……『ハイパー・アイススラッシャー』!!」
極大の冷気光線が、動けない雄真たちに向かって解き放たれようとした——。
「くっ……! ここまでなのか……!?」
雄真が歯を食いしばり、動かない体で前に立ちふさがろうとした、その時であった。
**「そこまでだ!!」**
凛とした、少年の叫び声が地下ドック全体に響き渡った!
ドカアァァァァン!!
天井の厚いコンクリートと永久凍土が、激しい衝撃とともに粉砕された!
落雷のような青い光の柱が天空から貫き、アイスマンと雄真たちの間に凄まじい勢いで着地した!
ズズズズズ……ッ!
着地の衝撃波だけで、アイスマンが解き放とうとしていた冷気光線が力任せに打ち消される!
「な……なんだぁぁぁっ!?」
アイスマンが驚愕して後方へと跳躍した。
爆煙と氷の結晶が舞い散る中、ゆっくりと立ち上がったのは……一人の少年型ロボット。
鮮やかな青いヘルメット、蒼き装甲、そして右腕に装着された『バスター』。
その足元には、鋭い眼光でアイスマンを威嚇する赤い犬型ロボット——ラッシュが佇んでいた。
「な……なに……あの姿……!?」
氷漬けになりかけていた八輔が、目を丸くして叫んだ。
「青い……ロボット……!?」
杏里と春姫も息をのむ。
プロメテとパンドラが語っていた、あの言葉。
*『かつて……ライブメタルが作られるよりも遥か昔……世界を何度も救った……伝説の青いロボット……』*
その姿が、今、自分たちの目の前に存在していたのだ!
『……!』
雄真の胸元で、モデルXとモデルZが、これまでにないほど激しく……まるで懐かしい盟友に再会したかのように、熱く、強く脈動した。
『X……あれは……』
『うん……間違いないよ、Z。彼だ……! 異次元から……僕たちの世界へ来てくれたんだ……!』
青い装甲の少年は、背後の雄真たちを一瞬だけ振り返り、優しく力強い笑みを浮かべた。
「大丈夫かい? 怪我はないか!」
「あ……ああ! 俺たちは大丈夫だ!」
雄真が答えると、青い少年は再び前を向き、アイスマンへとバスターを突きつけた。
「アイスマン! ワイリーを追って、ボクはこの世界へ来た! これ以上の破壊はやめるんだ!」
「な……なぜお前がここにいるんだぁぁぁっ!?」
アイスマンが恐怖と怒りで顔を歪ませ、悲鳴のような声を上げた。
「なぜお前がこの世界にいるんだ! ワイリー様は……ワイリー様はお前を置いて、この新しい世界で無敵になるはずだったのにぃぃぃっ!」
「ワイリーの野望は、ボクが何度だって止める! 行くぞ、ラッシュ!」
「ワンッ!!」
ラッシュが空中へ跳躍し、瞬時に『ラッシュジェット』へと変形! 青い少年はその上に飛び乗ると、氷の空間を音速のスピードで滑空し始めた!
「ぼ、ボクの冷気で凍りつけぇぇぇっ!」
狂乱したアイスマンが『アイススラッシャー』を乱射する!
だが、青い少年とラッシュの完璧な連携の前には、どんな冷気光線もかすめることすらできない!
空中を縦横無尽に駆け巡り、一瞬でアイスマンの死角へと回り込む!
**「チャーーーージ……ショットッ!!」**
青い少年の右腕から放たれたのは、黄金色に輝く巨大なプラズマエネルギー弾!
ドガアァァァァァン!!!!!
アイスマンの絶対零度プラズマ砲が、チャージショットの圧倒的な威力の前に真真っ二つに粉砕された!
「ギ……ギャアアアアッ!? ワイリーさまぁぁぁぁっ!!」
アイスマンの巨体が爆発し、凍りついていた地下ドックの氷が一瞬で全崩壊していく!
あまりの強さ。あまりの圧倒的な手際。
ライブメタルの力すら寄せ付けなかったナンバーズを、わずか数十秒で完膚なきまでに撃破してみせたのだ。
爆炎が収まり、氷の欠片がキラキラと光りながら舞い落ちる中。
青い少年は変身を解除することなく、ゆっくりと雄真たちの方へと歩み寄ってきた。
ラッシュもまた、尻尾を振りながら彼の隣に寄り添っている。
「みんな、大丈夫かい?」
少年が差し伸べた手を、雄真は呆然としながら握りしめた。
「あ……ありがとう。助かったよ。……君は……?」
雄真が尋ねようとした時、胸元のモデルXとモデルZが自ら光を放ち、ホログラムとなって姿を現した。
『久しぶりだな……「青い英雄」』
モデルZの声には、いつになく温かい敬意が込められていた。
『君が時風を超えて来てくれるとはね。……感謝するよ』
モデルXも優しく微笑む。
青い少年は、モデルXとモデルZの姿を見て、驚きに目を細めた。
「君たちは……? ボクの知っている……『彼ら』のデータにそっくりだ。……そうか、君たちがこの世界を守っているヒーローなんだね」
少年は雄真の目を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
「ボクの名前は——」
少年が名前を名乗ろうとした、その時であった。
「わあぁぁぁぁぁっ! 本物です! 本物の『青いヒーロー』さんです〜〜っ!」
リコが目を輝かせて二人の間に飛び込んできた!
「ディープログのデータでしか見たことがなかったのに! 生身の……本物の『彼』に会えるなんて大感動です〜〜っ!」
「ちょっと、リコちゃん! 静かにしなさいよ!」
杏里がリコの首根っこを掴んで引っ張り戻す。
しかし、その場にいた全員の表情には、先ほどまでの絶望感は消え去っていた。
異次元から駆けつけた「伝説のヒーロー」。
そして、この瑞穂坂を守り抜いてきた「六人の適合者」。
二つの時代の……二つの世界の英雄たちが、今、この地下の闇の中で奇跡の巡り合いを果たしたのだ。
だが——。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地下ドック全体が、これまで以上の凄まじい地鳴りとともに激しく揺れ始めた。
壁のクラックから、真っ赤な高周波ノイズが溢れ出し、空中に巨大な老人のホログラムが再び投影された。
『ヒッヒッヒ……! 素晴らしい! なんと素晴らしい展開だ!!』
ワイリー老人の狂気じみた高笑いが、空間全体に響き渡る!
『まさかお前までワシを追ってこの世界へやってくるとはな! だが遅い! 遅いのだよ、ロックマンめ!!』
ホログラムの中で、老人が巨大なレバーを押し下げた!
『アイスマンとファイアマンは、お前たちをこの最深部へ誘い込むためのただの「時間稼ぎ」に過ぎん! ワシの真の最高傑作……瑞穂坂のサイバーエルフと、ワシの天才的プログラムを融合させた強奪型超兵器……**『超・ワイリーマシン・瑞穂坂スペシャル』**が、たった今完成したのだからな!!』
ドカァァァン! という大音響とともに、最深部のシャッターが吹き飛び、そこから現れたのは——。
瑞穂坂の市街地を覆っていた「W」のバリアエネルギーをそのまま巨大なボディへと変換し、無数のサイバーエルフを禍々しく発光させた、全高五十メートルを超える悪魔のような巨大要塞ロボットであった!
『ワハハハハ! 見よ! この圧倒的な力! この世界の適合者どもも、お前も、まとめてこのワシの足元でゴミのように踏み潰してやるわい! 来い! 瑞穂坂の最深部……「ワイリー・キャッスル」の頂上へとな!!』
老人の高笑いとともに、地下の構造が激変し、巨大な要塞が地上へと向かって浮上を開始する!
「くっ……! 街が……要塞ごと地上へ押し上げられていく!?」
春姫が悲鳴を上げる。
「行くぞ、みんな!」
雄真はゼクスセイバーを強く握りしめた。
「ワイリーのじいさん! 俺たちの街で……好き勝手させるかよ!」
「ああ!」
青い少年もバスターを構え、雄真と並び立った。
「ボクたちの力を合わせれば、どんな悪だって絶対に止められる! 行こう、瑞穂坂のヒーローたち!」
「「「「「おおおぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
六人の適合者と、異次元から訪れた青き閃光。
そして、電脳の案内人リコ。
世代と次元を超えた英雄たちが、瑞穂坂の未来を取り戻すため、最後の要塞『ワイリー・キャッスル』への決死の突入を開始する——!
ズズズズズ……ドォォォォォン!!
瑞穂坂の地下数千メートルを支えていた地殻が、まるで紙細工のように激しく崩落していく。
かつてイザナミが全市民の命をサイバーエルフへと変換しようとしていた巨大プラント跡地。その闇の底から現れたのは、瑞穂坂の全電子インフラとサイバーエルフ生成ライン、さらにはワイリー自らの泥臭くも圧倒的な超合金技術が融合した、全高百メートルを超える巨大人型要塞——『超・ワイリーマシン・瑞穂坂スペシャル』であった。
「ワハハハハハ! 見よ! この威容を! この造形美を!!」
要塞の頭部……ドクロを模した巨大な展望ブリッジから、大音量のスピーカーを通じてDrワイリーの狂喜乱舞する高笑いが瑞穂坂の夜空へと響き渡る。
「イザナミとかいう青臭い小娘が残した高濃度サイバーエルフ炉を、ワシの天才的頭脳によって完全に制御下に置いたのだ! このマシンは瑞穂坂の磁場そのものを動力源とし、無限に障壁を張り、無限に破壊光線を撃ち出すことができる! この世界の科学者どもめ、ひれ伏すがいい!!」
「くっ……! なんてデカさなの……!?」
崩れ落ちる瓦礫を避けて跳躍した杏里(モデルF)が、目を見開いて要塞を見上げる。
「イザナミさんのアポカリプスとも違う……! 街のエネルギーそのものを吸い上げて動いてるんだわ!」
春姫が双剣を握りしめ、冷汗を拭う。
「皆さん、気をつけてください〜っ!」
雄真たちの背後で、ナビゲートプログラムのリコがホログラムのデータウィンドウを必死に叩きながら叫んだ。
「あの巨大マシン……ただ大きいだけじゃありません! 瑞穂坂の全域を覆っている『W』の電磁バリアの制御基幹が、あのマシンの胸部に組み込まれています! あれを壊さない限り、瑞穂坂は永遠に外界から遮断されたままです〜っ!」
「なるほどな……! つまりあのデカブツをぶち壊せば、街のバリアも解けて、あのジジイの野望も完全に終わりってわけだ!」
八輔がニヤリと不敵な笑みを浮かべ、バスターを構える。
「よし! 一気に行くぞ、みんな!」
雄真が前に躍り出ようとした、その時だった。
『ヒッヒッヒ……青いガキに、瑞穂坂の適合者どもよ。勘違いするなよ?』
ホログラムのワイリー老人が、侮蔑に満ちた笑みを浮かべて指をチッチッと横に振った。
『この「超・ワイリーマシン・瑞穂坂スペシャル」の力、今ここで見せてやりたいのは山々だが……残念ながら、ここは狭すぎる! そしてワシの本当の目的は、この瑞穂坂などという田舎町一つを支配することではないのだよ!』
「何だと……!?」
『ワシの目的は、このマシンの動力を使い、地球の上空……衛星軌道上にワシの「超・ワイリー宇宙要塞」を完成させることだ! 瑞穂坂のエネルギーは、そのための「ロケットの燃料」に過ぎんのだよ! ワハハハハハ!!』
ゴオォォォォォォォッ!!
要塞の脚部および背部に配置された巨大な熱核ロケットブースターが一斉に点火した!
白熱のプラズマ火炎が地下ドックを突き破り、要塞全体が圧倒的な推力で上空へと浮上を開始する! 天井のコンクリートが粉々に吹き飛び、瑞穂坂の夜空へ向かって巨大な城郭が舞い上がっていく!
「逃げる気か、Drワイリー!!」
異次元から駆けつけた青い少年……ロックマンが、バスターを構えて浮上する要塞を追おうと跳躍した!
「させんと言ったはずだ、ロックマン!!」
ワイリー老人が叫び、要塞の後部ハッチを操作した。
『行けっ! ワシの最高傑作、スピードの限界を超えたファースト・ナンバーズの真の極致……**クイックマン**よ!! お前たちの足止めをし、その命をここで刈り取ってこい!!』
シュパパパパパンッ!!
浮上する要塞のハッチから飛び出してきたのは、一筋の鮮烈な赤い閃光であった。
それは重力を完全に無視したかのような異常な加速度で、崩落する瓦礫の壁を三角跳びしながら、一瞬にして雄真たちの目前へと着地した。
そこに立っていたのは、全身を流線型の鋭利な赤い装甲で包み、頭部に巨大な「V」の字のブーメランを戴いた、細身のロボットであった。
胸には、鮮やかな「W」の刻印。
その目は、冷酷なまでの「速さへの執着」で輝いている。
「……ワイリー様の命令だ」
クイックマンの声は、低く、刃物のように鋭かった。
「お前たちをここで足止めする。……いや、足止めなどという生ぬるいことはしない。コンマ一秒で、全員の首を刎ねてやる」
「クイックマン……!」
ロックマンが警戒を一段と強め、バスターを固定する。
「気をつけろ、雄真! こいつはワイリー博士の作ったロボットの中でも、屈指のスピードを誇る! 普通の目じゃ捉えきれないぞ!」
「速さ……だと!?」
八輔が不服そうに叫んだ。
「速さなら、うちの春姫や小雪だって負けてねえぞ! トランスオン・モデルA!」
「ハッ……笑わせるな」
クイックマンの姿が、一瞬で消えた。
「な……なにっ!?」
八輔が目を見開いた瞬間には、すでにクイックマンは八輔の真後ろに立っていた。
手には、高周波で振動する鋭利な武器——『クイックブーメラン』が握られている。
「遅い」
ザシュッ!!
「ぐあぁぁぁっ!?」
八輔の胸部装甲が切り裂かれ、激しい火花とともに吹き飛ばされる!
「八輔くん!」
雄真が瞬時にモデルZXのセイバーを抜き、クイックマンへ切りかかった!
しかし——
シャキンッ!
雄真のセイバーが捉えたのは、空振りの手応えすら残さない「残像」であった。
「どこを見ている?」
後方の壁の上から、クイックマンの冷ややかな声。
「くっ……!『ZXバスター』!」
雄真が振り向きざまに連続エネルギー弾を放つが、クイックマンは弾道を見切るどころか、放たれたエネルギー弾の隙間を踊るようにすり抜け、雄真の懐へと滑り込んできた!
ドガッ!!
「ぐはっ……!?」
腹部へ叩き込まれた強烈な膝蹴り。雄真の巨体が吹き飛び、瓦礫の山へと激突する。
「雄真さん!」
小雪が氷の弾幕を張り、すももが大量の暗器を投げつける!
だが、クイックマンはそのすべての攻撃を「歩いて避ける」かのような余裕で見切り、二人をすれ違いざまに切り伏せた!
「きゃあぁぁぁっ!」
「うわあああっ!」
わずか十秒。
瑞穂坂を救った六人の適合者たちが、クイックマンただ一機によって、何が起きたかも理解できぬまま打ち伏せられてしまったのだ!
「くそっ……! なんなのよこの速さ……! 動きが見えないわ……!」
杏里が地面に膝をつき、呼吸を乱す。
「フン……所詮はこの程度のものか」
クイックマンが両腕にクイックブーメランを構え、軽蔑の視線を送る。
「ワイリー様が警戒していた『ライブメタル』とやらも、この程度のスピードしか出せないのか。失望したぞ。……これでお前たちの命も終わりだ」
「待て……!」
ロックマンがラッシュとともにクイックマンの前に立ちふさがった!
チャージショットを構えるが、クイックマンは不敵に笑う。
「ロックマン……お前の攻撃パターンは全てワイリー様のデータベースに入っている。いくらお前でも、今のワシのスピードには追いつけない!」
シュバッ!!
クイックマンが姿を消し、ロックマンの周囲を無数の残像が取り囲む!
全方位からの連続ブーメラン攻撃!
「くっ……! ガハッ……!」
さものロックマンですら、超音速の乱舞攻撃を防ぎきれず、装甲を削られていく!
「ハハハハハ! 見えるか! これがワイリー様の作り出した究極のスピードだ!!」
残像の中から響くクイックマンの誇らしげな高笑い。
完全にクイックマンのペースに巻き込まれ、英雄たちは全滅の危機に瀕していた。
#
「……いいえ……負けない……!」
膝をつき、激しい冷汗を流しながらも、神坂春姫(モデルH)が立ち上がった。
その瞳には、諦めの色は一切なかった。
かつてイザナミの事件の際、自らの命を削る『エネミー・アナライジング』によってアポカリプスの真のコアを見破り、勝利への突破口を開いた。彼女の心にあるのは、仲間を信じる強い想いと、巫女としての澄み渡る直感であった。
『春姫……無茶をするな! 相手のスピードは音速を超えている! 闇雲に攻撃してもエネルギーを浪費するだけだ!』
胸元でモデルHが制止の声を上げる。
「分かっています、モデルH……。目で見ようとするからダメなの。風を……空間の『揺らぎ』を感じるのよ……!」
春姫は静かに目を閉じた。
耳を澄ます。
凄まじい速度で旋風を巻き起こすクイックマンの足音、空気の摩擦音、そして大気を切り裂くブーメランの振動波。
(速い……でも、どんなに速く動いても、空気を押し切る『風の道』は必ず残る……!)
リコがホログラムウィンドウから叫ぶ!
「春姫さん! クイックマンの足元にある高周波モーターの駆動周波数を解析しました! コンマ0.003秒ごとに、旋回のための『溜め』が発生しています!」
「ありがとう、リコちゃん……! そこね!!」
春姫が両目を見開いた!
その瞳が、鮮やかなエメラルドグリーンに発光する!
「モデルH……私に力を! 瑞穂坂の風よ……全ての動きを止める、絶対の領域(エリア)を!!」
**「新技……『サイクロン・バインド』!!」**
ズバアァァァァァン!!
春姫が二本のソニックブレードを地面に突き立てた瞬間、彼女を中心として、半径五十メートル全域に真空の超高圧竜巻が炸裂した!
ただの竜巻ではない。
風の分子を極限まで高密度化し、領域内の大気圧を通常の百倍に跳ね上げる、絶対の「空気の檻」!
「ぬ……なにぃっ!?」
超音速で移動していたクイックマンの足が、突如として粘着性のある大気の壁に捉えられた!
「大気が……重い!? 速度が……落ちる……!?」
「捕まえたわ……クイックマン!!」
春姫が血を吐くような思いで双剣を維持する。彼女の装甲から激しい過負荷の火花が散る。
「今よ、雄真くん! ロックマンさん!!」
「春姫!!」
雄真が力強く立ち上がった!
「よくやった、春姫! 俺に……俺たちに任せろ!!」
ロックマンもまた、雄真の隣へと駆け寄った。
二人の瞳が交差する。
言葉など要らなかった。異次元のヒーローと、瑞穂坂のヒーロー。二人の胸の中にある「誰かを守りたい」という熱い魂が、完璧に同調(シンクロ)していた。
『雄真! 僕のエネルギーを……モデルXとZのエネルギーと融合させるんだ!』
ロックマンの胸から放たれる青い光と、雄真のモデルZXから放たれる蒼と赤の光が、二人の間でひとつに合体していく!
「行くぞ……ロックマン!」
「うん! 行こう、雄真くん!」
二人は同時に跳躍した!
拘束され、必死に『サイクロン・バインド』を振り払おうとするクイックマンの上空へ!
雄真は右拳に、モデルX・Z・そしてロックマンから分け与えられた全合体エネルギーを集中させる! その拳は白熱化し、太陽のような眩い光を放ち始める!
ロックマンは右腕のバスターに最大出力のチャージを溜め込む!
「バカな……! わたしのスピードが……打ち破られるというのか……!?」
クイックマンが絶望の悲鳴を上げた。
雄真とロックマンが、同時に叫んだ!
**「「合体技……『ダブル・アルティメット・チャージ・ストライク』ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」」**
ドガアァァァァァァァァァン!!!!!
ロックマンの放った極大プラズマチャージショットがクイックマンの胸を貫き、その直後、雄真の白熱する右ストレートがクイックマンの「W」のコアを完膚なきまでに砕き割った!!
「ワイリーさまぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
凄まじい爆発音が瑞穂坂の夜空に轟き渡った。
クイックマンのボディは跡形もなく吹き飛び、超高圧の衝撃波が瑞穂坂の街を覆っていた闇を一瞬で吹き散らした!
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
爆煙が舞い散る中、雄真とロックマンが着地した。
春姫がその場に倒れ込みそうになるのを、杏里と小雪が慌てて支える。
「春姫! すごかったわよ、あの新技!」
「ええ……! 春姫さんの風が、あの速さを止めました!」
「ふふ……みんなの役に立てて、よかったわ……」
春姫は疲れ果てながらも、嬉しそうに優しく微笑んだ。
「やった……! やったのだー!」
すももと八輔が抱き合って喜ぶ。
「リコちゃんのナビゲートもバッチリだったぜ! サンキューな、リコちゃん!」
「えへへ〜! ナビゲーターですから、これくらいお朝飯前です〜っ!」
リコも嬉しそうに胸を張った。
しかし——。
全員が夜空を見上げた時、その表情から勝利の歓喜が消え去った。
上空遥か彼方。
雲を突き抜け、瑞穂坂の遥か上空へと浮上した『超・ワイリーマシン・瑞穂坂スペシャル』。
瑞穂坂全域を覆う『W』の電磁バリアは未だ衰えることなく脈動し、巨大な要塞の影が、街を見下ろすように鎮座していた。
ホログラムのワイリー老人の高笑いが、上空から途切れ途切れに降ってくる。
『ヒッヒッヒ……クイックマンを倒したくらいで浮かれるなよ、ガキども! ワシの要塞はすでに軌道に乗った! 瑞穂坂のエネルギーを吸い尽くし、世界をワシの手に収めるのは時間の問題だ! 悔しければ、この空の果てまで登ってくるがいい! ワハハハハハ……!!』
通信が完全に遮断された。
夜空を見つめる雄真たちの顔に、迷いや恐怖はなかった。
「……行くぞ、みんな」
雄真が静かに、しかし決意に満ちた声で呟いた。
「瑞穂坂のエネルギーを取り戻して、あの老人の鼻柱を叩き折る。……上空だろうが、宇宙だろうが、俺たちの拳は届くんだ!」
「ああ!」
ロックマンが力強く頷き、バスターを空へと向けた。
「ワイリー博士の野望は、僕たちが絶対に止める! 一緒に行こう、雄真くん!」
「はいっ! 私もナビゲートしますからね〜っ!」
リコが元気に手を挙げた。
六人の適合者、異次元の英雄ロックマン、そしてナビゲーターのリコ。
傷つきながらも、彼らの絆はより深く、より強固に結ばれていた。
かつて悲劇に舞い、そして奇跡を起こした瑞穂坂の街。
その街を守るため、若きヒーローたちは今、未知なる大空……最後の決戦の地『ワイリー・キャッスル』へ向かって、新たなる一歩を踏み出すのだった——!