ロックマンゼクス&はぴねす!2〜激闘!超次元戦争〜 作:騎士誠一郎
**【地球衛星軌道・要塞都市『ワイリー・キャッスル』最深ブリッジ】**
漆黒の宇宙空間を背景に、地球の蒼い輪郭が歪んだガラス窓の向こうで静かに明滅している。
かつて瑞穂坂の地下深くに封印されていた膨大な高濃度サイバーエルフ炉は、いまや異世界の泥臭くも圧倒的な超合金テクノロジーと融合し、この全高数百メートルに及ぶ巨大極超音速要塞『ワイリー・キャッスル』の心臓部として禍々しい赤紫の脈動を打っていた。
「ヒッヒッヒ! 素晴らしい! なんと美しいのだ!」
制御ドックのキャットウォークを、つぎはぎだらけの白い実験着をなびかせた老科学者——ワイリーが、両手を天に掲げながら跳ね回っていた。
彼の目の前に整然と並べられているのは、瑞穂坂から強奪したサイバーエルフのエネルギー粒子と、イザナミが遺したフォルスロイドの残骸データ、そしてワイリー自らが世界各地から極秘裏に収集していた最先端金属材料をブレンドして組み上げられつつある、新たなる『ワイリーナンバーズ』の巨大カプセル群であった。
「あの狂った女科学者・イザナミの残したナノマシン製造ラインは実に使えるわい! ワシの設計図を入力するだけで、ワシの最高傑作たるナンバーズどもが、瑞穂坂のサイバーエルフの力を得て次々と実体化していく! クイックマンやアイスマンの敗北など、ただのデータ採取に過ぎん! この新たなるナンバーズ軍団さえ完成すれば、あの青い不分限者も、瑞穂坂の生意気なガキどもも、まとめて灰燼に帰してくれるわ!!」
狂気じみた高笑いが、金属音のこだまするブリッジ内に響き渡る。
だが——その高笑いを遮るように、上部の暗がりから冷ややかな、金属の擦れ合うような声が降ってきた。
「……相変わらず声がデカいな、老いぼれ」
ワイリーの笑い声がピタリと止まった。
ゆっくりと振り返ったワイリーの視線の先、高圧ケーブルが束ねられた暗い天井の梁の上に、一機のロボットが膝を立てて腰掛けていた。
黒とゴールドを基調とした鋭利極まりない装甲。頭部には漆黒の三日月のような意匠を戴き、胸元には凶悪な「W」の刻印。そして、その瞳は暗闇の中で冷徹な漆黒の殺気を孕んで発光している。
彼の足元には、紫黒の体毛と漆黒の装甲を纏った狼型のメカ生命体——ゴスペルが、重低音の唸り声を上げながら伏せていた。
ワイリーの誇る最高傑作であり、ロックマンを打倒するためだけに生み出されたライバル——**フォルテ**であった。
「ふ、フォルテ! お前、いつの間に起動していたのだ! まだ最終調整のプロトコルが残っておるというのに勝手に動き回るなと言ったはずだぞ!」
ワイリーが杖を振り回して怒鳴り散らすが、フォルテは鼻で笑うように吐き捨てた。
「ウルサイぞ、ワイリー。お前の無駄話を聞かされる身にもなってみろ。……それより、さっきの防衛モニターの映像は何だ?」
フォルテは視線を、ブリッジ中央に浮かぶ巨大な立体ホログラムモニターへと向けた。
そこに映し出されているのは、地上の壊滅した瑞穂坂の街並みと、そこでクイックマンを圧倒的な連携で粉砕した雄真たちの戦闘記録データであった。
「ふん! あのガキどもか! 瑞穂坂の『適合者』とか呼ばれておる生意気な連中だ! ライブメタルなどという未知のテクノロジーを鼻にかけ、ワシの計画を邪魔しようとする不愉快極まりないガキどもめ!」
ワイリーが忌々しそうに吐き捨てる。
しかし、フォルテの鋭い眼光は、ワイリーの怒りなど端から意に介していなかった。フォルテの視線は、モニターの中心で胸元の『モデルX』と『モデルZ』を輝かせる少年——小日向雄真、そしてその隣でバスターを構える青いライバル——ロックマンの姿に釘付けになっていた。
「……面白い」
フォルテの薄い唇が、歪んだ弧を描いた。
「ロックマンの奴……あの青い不分限者が、この見知らぬ世界でお手本のような正義の味方ごっこをしているのはいつものことだ。だが……あの人間どもは何だ? ロボットでもない、単なる人間のガキが、あの『モデルなんたら』という未知の装甲を纏っただけで、クイックマンの音速の動きを見切り、ロックマンのチャージショットと完全に同調した技を放ったというのか?」
「グロロロ……」
ゴスペルが喉を鳴らし、フォルテの足元から立ち上がると、モニターに映る雄真の影に向かって牙を剥いた。
「おい、フォルテ! 余計な興味を持つなと言っておろうが!」
ワイリーが焦ったように叫ぶ。
「お前のターゲットはあくまでロックマンだ! あの瑞穂坂のガキどもは、ワシが新しく準備しておるこの『極限ナンバーズ』どもに始末させれば済む話なのだ! お前は大人しくワシのワイリーマシン・瑞穂坂スペシャルのコアとして……」
「黙れ、老いぼれ」
フォルテの身体から、圧倒的な紫黒のエネルギー波——フォルテプラズマの圧力が爆発的に噴き出した!
ブリッジの床がミシミシと悲鳴を上げ、ワイリーが「ひいっ!?」と悲鳴を上げて尻餅をつく。
「俺の目的は『最強』だ。ロックマンを倒し、俺がこの全次元で最強の存在であることを証明すること……それ以外に興味はない。……だが」
フォルテはしなやかに梁から飛び降りると、無音でワイリーの目の前に着地した。
その足元で、ゴスペルが紅蓮の瞳をギラつかせている。
「あの『モデルZX』とかいう赤いの装甲……そしてあのガキの中に眠る『魂の熱量』とやらは何だ? あれはただの科学理論で作られたメカじゃない。人間の意志が、機械の限界を超えさせている。……ロックマンの甘い正義感とはまた違う、奇妙な『強さ』の匂いがする」
フォルテは手袋で覆われた自分の拳を見つめた。
「俺とゴスペルが求めているのは、圧倒的な力だ。……ワイリー、お前の作った新しいナンバーズなどというおもちゃどもに、あのガキどもを殺させられるのは不愉快だ。あいつらの力を……あの『ライブメタル』という未知のシステムの力を、この俺自らの手で引きちぎり、叩き潰してみたいものだ」
「な……何を言い出すのだお前は! フォルテ! ワシの命を聞かんか!」
ワイリーが杖を振り回して叫ぶが、フォルテはすでに興味を失ったように背を向けていた。
「安心しろ、老いぼれ。お前の全自動世界征服計画とやらは邪魔してやらん。……だが、あのガキどもがこの宇宙要塞に辿り着いた時は……真っ先に俺が相手をしてやる。それまでに、あのガキどもが俺の暇つぶしになるくらい『強く』なっていることを祈るんだな」
フォルテが指を鳴らすと、ゴスペルが闇の中へと溶け込むように姿を消した。続いてフォルテ自身も、漆黒の光の粒子となってブリッジの天井へと消え去っていく。
残されたワイリーは、立ち上がって地たたみを踏みながら大声を上げた。
「くそう! あいつめ! いつもいつもワシの言うことを聞かんのだから! まあいい……ガキどもがこのキャッスルに辿り着ければの話だがな! ガハハハ! 辿り着けるものなら辿り着いてみせるがいい!!」
**【瑞穂坂市・旧イザナミ研究所地上ドック跡地】**
(一方、その頃。クイックマンという猛威を、春姫の新技と雄真・ロックマンの合体攻撃によって死闘の末に撃破した雄真たちであったが、地上に広がっていたのは勝利の歓喜などでは到底なかった)
夜空を見上げる雄真たちの視線の先。
雲を遠く突き抜け、上空数万メートルの衛星軌道上に鎮座した『ワイリー・キャッスル』から放たれる紫黒の電磁脈動は、衰えるどころか、ますますその密度を増していた。
瑞穂坂の街全体をドーム状に覆う巨大人造バリア——『Wフィールド』。
その表面には、幾重にも重なる「W」のホログラムが不気味に明滅し、外界とのすべての通信、物理的な出入りを完全に遮断している。
「ハぁ……ハぁ……っ……!」
変身を解除した雄真は、膝を地面につき、肩で激しく息を吐いていた。
右拳のプロテクターは焦げ付き、皮膚からはうっすらと煙が上がっている。ロックマンとの合体攻撃『ダブル・アルティメット・チャージ・ストライク』の反動は、適合者である雄真の肉体にとっても限界に近い負担を与えていた。
「雄真くん! しっかりしてください!」
小雪が駆け寄り、冷却効果を持つサイバーエルフの光を雄真の右腕にかざす。
「大丈夫だ……小雪……。それより、春姫は……?」
「あたしが肩を貸してるわよ。……無茶しやがって、あのバカ春姫」
杏里が、意識を失いかけている春姫の身体を優しく抱きかかえていた。春姫の呼吸は浅く、新技『サイクロン・バインド』によって全エネルギーを使い果たした彼女の肌は、氷のように冷たくなっていた。
「春姫さん……ごめんなさい、私のアナライズがもっと早ければ……」
リコが自責の念に駆られ、涙を浮かべながらデータウィンドウを消去する。
「リコちゃんのせいじゃないよ!」
すももがリコの背中を撫でながら、毅然とした声を張った。
「リコちゃんがクイックマンの弱点を教えてくれたから、姫ちゃんも、兄さんたちも戦えたの! 自責の念は禁止です!」
「すももちゃん……はいっ……!」
「……で、どうするんだよ、これ」
八輔が胸元のモデルAを叩きながら、上空の『W』の刻印を睨みつけた。
「クイックマンのやつは倒した。だけど……あの自称・天才科学者のジジイは、巨大な城ごと宇宙へ逃げちまった! 街のバリアも消えてねえ! これじゃ、俺たちは瑞穂坂から出ることも、宇宙へ追いかけることもできねえじゃねえか!」
八輔の言葉に、重苦しい沈黙がその場を支配した。
そう、目標は上空にある。
だが、自分たちには空を飛んで宇宙空間まで届くような輸送機も、バリアを突き破るほどの極大出力の推進装置もないのだ。
『……僕の「ラッシュジェット」を使えば、ある程度の高度までは上昇できる』
静かに口を開いたのは、青い英雄——ロックマンであった。
彼の隣で、ラッシュが「ワン」と心配そうに鼻を鳴らす。
『だけど……あのバリアの密度は、僕たちが地下から突入した時とは比べものにならないくらい強化されている。ラッシュジェットの推進力だけじゃ、バリアに接触した瞬間に蒸発させられてしまう……』
「そんな……! じゃあ、手詰まりだって言うのかよ!?」
八輔が拳を地面に叩きつける。
「せっかく沖縄から急いで帰ってきて、命がけでファイアマンもクイックマンも倒したのに……! 結局あのジジイの思い通りかよ!?」
「あきらめちゃ……ダメだ……!」
雄真が小雪の肩を借りて、ゆっくりと立ち上がった。
その目は、どれほどの絶望に晒されても決して折れることのない、力強い意志の光を宿していた。
「諦めたら……そこで終わりだ。イザナミの時もそうだった。どんなに絶望的な状況でも、仲間を信じて、一歩前に踏み出せば……必ず道は開けるんだ!」
胸元で、モデルXとモデルZが温かい光を放つ。
『そうだ、雄真の言う通りだ』
モデルXの声が響く。
『ワイリー博士のバリアは完璧に見える。だけど、どんなに巨大なシステムでも、必ずどこかに「エネルギーの供給源」と「構造上の歪み」が存在するはずだ』
「構造上の歪み……?」
杏里が眉をひそめる。
その時だった。
「あ……あのっ! 皆さん、これを見てください〜っ!」
リコが突然声を上げ、目の前に特大のホログラム日本地図を展開させた!
「何だ……この地図は……!?」
八輔が目を丸くする。
リコが展開した日本地図の上には、瑞穂坂を中心として、日本全国の幾つもの主要都市や重要施設に、赤い「W」の警告アイコンが点滅していた。
北海道のメガソーラー発電プラント。
九州の阿蘇地熱発電基地。
太平洋沖の巨大洋上プラント。
そして、中部山岳地帯の旧国防軍・自動兵装研究所跡地——。
全国少なくとも『六箇所』の重要拠点に、鮮烈な「W」のマーカーが打ち込まれていたのだ。
「これって……どういうことなの、リコちゃん!?」
小雪が息をのむ。
「データ解析が終わりました!……瑞穂坂を覆っているあの強力な『Wフィールド』と、上空のワイリー・キャッスルを維持している莫大なエネルギー……あれは、瑞穂坂の中だけで賄われているんじゃありません!」
リコが画面を高速でスライドさせながら説明を続ける。
「ワイリーさんは、この瑞穂坂の地で完成させた『次元転送型サイバーエルフ・コネクター』を使って、日本全国の主要エネルギー施設に自分の刺客……**『ワイリーナンバーズの特別基地』**を瞬時に配置したんです!」
「日本全国に……基地を!?」
雄真たちが絶句する。
「はい! 各地の基地に設置された『大容量エネルギー中継タワー』から、日本全体の電力を強奪して、この瑞穂坂の上空へ向けて集中送電しているんです! あの上空のワイリー・キャッスルは、日本という国全体のエネルギーを吸い上げる『巨大な掃除機』になっているんです!」
「何て汚い真似を……!」
春姫が意識をはっきりと戻し、怒りに震える声で叫んだ。
「日本全国のエネルギーを奪うなんて……そんなことをしたら、各地の病院や生活インフラはどうなってしまうの!?」
「すでに各地で大規模な停電や、電子インフラの暴走が始まっています……!」
リコの顔が引きつる。
「そして……これが一番重要です! あの上空のワイリー・キャッスルを護る『Wフィールド』は、各地の六つの基地から送られてくるエネルギーが合流することで、絶対の硬度を保っているんです! つまり……!」
『……なるほどな』
モデルZが冷徹な声で後を継いだ。
『上空の城に直接突入することは不可能だが……各地にある六つの「中継基地」を全て破壊し、エネルギーの供給を断てば、あのバリアは自ずと崩壊する。それどころか、キャッスルそのものの動力も底をつくというわけだ』
「そうか……!」
雄真の瞳に、勝利への筋道がはっきりと浮かび上がった。
「各地のナンバーズ基地を叩く! それが……あの宇宙城へ行くための、唯一にして最大のルートなんだ!」
「でも……」
小雪が心配そうに言った。
「瑞穂坂はこのバリアで完全に閉じ込められているのよ? 全国各地の基地へ行くなんて、どうやって……」
「それなら、ボクたちに任せてほしい!」
ロックマンが前に一歩踏み出した。
「ボクの転送システムと、ラッシュの航続能力を使えば、バリアの微小な『エネルギー供給ラインの隙間』を逆流して、各地の基地へ直接転送することができるはずだ!」
「ワンッ!」
ラッシュが頼もしく吠える。
「さらに! 私のナビゲートプログラムがあれば、各地の基地の内部構造や弱点をリアルタイムで解析できます!」
リコが胸を叩いて微笑んだ。
「決まりだな……!」
八輔がニッと笑い、拳を掲げた。
「敵は全国に散らばったワイリーナンバーズの基地! 全部ぶっ潰して、あの高笑いジジイを宇宙から叩き落としてやるぜ!」
「よし……それじゃあ、チーム分けを決めよう!」
雄真が全員を見渡した。
「全国六箇所の基地……同時に叩かなきゃ、ワイリーの奴に警戒されて、エネルギーラインを迂回変更される可能性がある。俺たちも二手に……いや、各自の属性と相性に合わせたチームで散らばるんだ!」
「異議なしよ!」
杏里が腕を組んで頷く。
「火炎属性の基地なら、あたしのモデルFが片っ端から焼き尽くしてやるわ! どんなナンバーズが相手だろうと、負ける気がしないわね!」
「私は水と氷の基地を担当します」
小雪がモデルLを抱きしめ、静かに、しかし力強い目で言った。
「瑞穂坂の綺麗な水を取り戻すために……私の水流で、ワイリーの悪意を洗い流してみせます!」
「すももは……隠密の『モデルP』で、敵の基地に忍び込んで、中継タワーを内部からドカンとします!」
すももが自信満々に胸を張る。
「私は……モデルHとともに、風と雷の基地へ向かうよ」
春姫が立ち上がり、雄真の目を見つめた。
「雄真くん……あなたは、ロックマンさんと一緒に、一番危険な基地へ向かって。あなたのその『真っ直ぐな拳』が、この戦いの最大の鍵になるはずだから」
「春姫……ああ! 分かった!」
雄真は力強く頷き、ロックマンと固い握手を交わした。
「頼むぞ、ロックマン!」
「うん! 一緒に戦おう、雄真くん!」
二人のヒーローの手が強く握り合わされた瞬間、互いのバスターと装甲が、眩い共鳴の光を放った。
『ふん……お前たち、随分と威勢がいいな』
突然、瓦礫の影から不気味な声が響いた。
「……プロメテ! パンドラ!」
八輔が咄嗟に構える。
瓦礫の上に着地したのは、大鎌を担いだプロメテと、氷の鏡を浮かべたパンドラであった。
「誤解するなよ、ガキども。手助けに来たわけじゃねえ」
プロメテが冷酷に笑う。
「あのジジイの作った基地のデータ……俺たちの情報網(ネットワーク)でも拾ったぜ。各地に配置されたナンバーズどもは、イザナミのフォルスロイドとは比べものにならねえほど『戦闘だけに特化された狂乱の機械』だ。生半可な気持ちで行けば、返り血で染まるのはお前たちの方だぞ」
「……警告してくれているの……? パンドラさん……」
小雪が尋ねると、パンドラは無表情のまま首を横に振った。
「……警告ではない……事実を伝えただけ……。だが……あなたたちが各地の基地を叩けば……ワイリーの意識は地上へと削がれる……。その隙に……私たちも『私たちの決着』をつける……」
「お前たちも……ワイリー城へ行くつもりなのか!?」
雄真の問いに、プロメテは大鎌を肩に担ぎ直し、不敵にニヤリと笑った。
「あのジジイには、俺たちの存在を『過去のゴミ』扱いされた借りがあるんでな。……せいぜい地上の基地で死ぬなよ、雄真。お前を最後に倒すのは、この俺なんだからな!」
ヒュッ……と一陣の黒い風が吹き抜け、プロメテとパンドラは夜の闇へと消え去った。
「まったく……相変わらず素直じゃない奴らね」
杏里が呆れたように息を吐く。
「でも……これでハッキリしたわ! あたしたちのやるべきことが!」
雄真が夜空に向かって、右拳を高く突き上げた。
「全国の仲間たち、そしてこの瑞穂坂の街のために……! ワイリーナンバーズ基地攻略作戦、開始だ!!」
「「「「「おおおぉぉぉぉぉっ!!!!!」」
六人の適合者と、青き英雄ロックマン、そしてナビゲーターのリコ。
彼らの魂の叫びが、封鎖された瑞穂坂の夜空へとどこまでも高く響き渡っていった。
**【地球衛星軌道・『ワイリー・キャッスル』最深制御室】**
「ヒッヒッヒ……! 馬鹿めが! 瑞穂坂の虫ケラどもめ!」
巨大モニターに映し出される、地上でチーム分けを行い、転送ポータルへ向かって走り出す雄真たちの姿。
それをワイングラスを手にしながら見下ろしていたワイリーが、不快そうに、しかし凶悪な嘲笑を浮かべた。
「全国の基地を叩いてワシの『Wフィールド』を解除するつもりか? 考えることは誰も同じよのう! だが……甘い! 甘すぎるわい!!」
ワイリーが杖のスイッチを押し込むと、モニターの画面が切り替わり、全国六箇所の基地内部のカプセルが一斉に開放される映像が映し出された。
そこから溢れ出すのは、過剰なまでのエネルギーと、殺戮のプログラムを刻まれた凶悪なる『極限ナンバーズ』たちの咆哮であった!
「行け! ワシの最高傑作たちよ! 基地に侵入してくるガキどもを、一人残らず血の海へと沈めてやるのだ!!」
そして——要塞の最も高い尖塔のてっぺん。
真空の宇宙空間に裸身で佇む、漆黒の戦士——フォルテ。
その足元でゴスペルが紅蓮の牙を剥き出しにし、地球の水平線を見下ろして遠吠えを上げる。
「……来たか、雄真。ロックマン」
フォルテの漆黒の装甲から、激しい紫のプラズマが放たれる。
「各地の基地で……お前たちの『強さ』を証明してみせろ。そして、この俺の元へ辿り着け。……お前たちのその未知の『魂』を、この俺が残らず噛み砕いてやる!!」
漆黒の流星が、宇宙の暗闇の中で激しく輝いた。
地上と天空、そして全国の基地を舞台とした、次元を超えた超壮絶なるバトルロイヤル。
英雄たちの新たなる激闘の幕が、今、静かに……そして決定的に切り落とされたのだった!
**【ライラット系・惑星コーネリア・防衛軍司令部タワー】**
瑞穂坂市で雄真たちが全国の基地へ向け出撃を決意し、そして上空のフォルテが漆黒のプラズマを放っていたその時——。
地球から幾重もの時空の層を隔てた遥かなる宇宙、ライラット系。
平和を謳歌しているはずの惑星コーネリアの防衛軍司令部内は、これまでにない異様な緊張感とアラート音に包まれていた。
「報告します! コーネリア南半球の超長距離広域重力波観測アレイが、未知の『位相空間歪曲波』をキャッチ! 歪みの中心は我が星系内ではありません……次元の位相が異なる、極めて遠い空間領域です!」
「第3観測衛星および第7偵察衛星の亜空間通信リンクに深刻なノイズが発生! 一部サブシステムで重力定数の局所的な変動を観測!」
オペレーターたちの叫び声が飛び交うホログラムディスプレイの中央。
重厚な軍服に身を包んだ老将——ペパー将軍は、組み上げた両手の上に顎を乗せ、険しい表情で巨大な全天周スクリーンを見つめていた。
スクリーンに映し出されているのは、ライラット系全域のホログラムマップである。
だが、そのマップの端……通常であれば何もないはずの次元の境界線上に、赤く明滅する巨大な「歪みの波紋」が投じられていた。その波紋は、まるで水面に投げ込まれた石のように、ライラット系の亜空間航行ルートや通信網をじわじわと侵食しつつあった。
「……ただの超新星爆発やブラックホールの影響ではないな。この波形……まるで、時空そのものが何者かの粗暴な力によって『強引に書き換えられている』かのような歪みだ」
ペパー将軍の傍らに立つ技術参謀が、青ざめた顔でデータを操作する。
「はい、将軍。解析の結果、この歪みの波形には……極めて異質な電子ノイズと、未定義の巨大エネルギー反応が混入しています。このままこの時空振動が拡大し続ければ、我がライラット系のアーウィンや超光速跳躍システム全体に壊滅的な障害が発生します」
「うむ……。そして何より、この歪みの向こう側に存在する『世界』で、何か未曾有の危機が進行しているのは間違いなさそうだ」
ペパー将軍は深く胸を痛めるように息を吐き出すと、意を決して手元のホロ・コミュニケーターの暗号化回線を起動した。
「……私だ。スターフォックス隊へ繋いでくれ。フォックス・マクラウドに緊急の要請がある」
**【ライラット系外縁部・超大型母艦グレートフォックス・ブリッジ】**
漆黒の宇宙空間を静かに滑空する、スターフォックス隊の誇る巨大母艦グレートフォックス。
そのブリッジに、ペパー将軍のホログラム映像が映し出された。
「……というわけだ、フォックス。この時空の歪みは、放っておけば我がライラット系全体をも呑み込む大災害に発展しかねん」
通信ディスプレイの前に立っていたのは、緑の飛行服に身を包んだリーダー——**フォックス・マクラウド**であった。その凛々しいきつねの瞳が、ペパー将軍の提示した観測データを鋭く見据える。
「次元の壁を穿つほどの超巨大な時空振動……。将軍、原因の特定はできているんですか?」
『完全ではない。だが、我々の最新鋭次元観測器が、歪みの中心点である異世界——「地球」と呼ばれる惑星の、ある極小の都市領域……「瑞穂坂」という場所で起きている戦闘反応を捉えた』
ペパー将軍の映像が切り替わり、地球の瑞穂坂、そしてその上空に浮上した『ワイリー・キャッスル』のエネルギー波形が映し出される。
『その瑞穂坂という場所では、現在「ロックマン」と呼ばれる異世界の青い戦士と、その地の「適合者」と呼ばれる若きヒーローたちが、時空を歪めた元凶……ワイリーという悪の科学者と死闘を繰り広げているようだ』
「ロックマン……!?」
操縦席から跳ね起きるように前に躍り出たのは、名メカニックの**スリッピー・トード**だった!
「ちょっと待ってよ将軍! ロックマンって、僕が昔サブシステムのデータ解析中に見つけた、あの伝説の異次元ヒーローのことかい!?」
「へっ、面白くなってきたじゃねえか」
シートに深々と腰掛け、腕を組みながら口元を歪めたのは、エースパイロットの**ファルコ・ランバルディ**だ。
「時空の歪みだか何だか知らねえが、俺たちのライラット系にまで迷惑をかけてるってんなら、黙って見過ごすわけにはいかねえな。なぁ、フォックス?」
「ああ」
フォックスは力強く頷き、背後に控えていた**クリスタル**と視線を交わした。クリスタルは自身の超感覚(テレパシー)を集中させ、静かに言葉を紡ぐ。
「……感じるわ、フォックス。その『瑞穂坂』という場所から……遠く離れたこの星系にまで届くほどの、熱く強い『絆の意思』を。彼らは今、命を懸けて自分たちの街と世界を守ろうとしている……」
「ペパー将軍」
フォックスがペパー将軍のホログラムに向かい、きりりと胸を張って敬礼した。
「スターフォックス隊、只今より緊急任務を拝命します! 任務内容は『時空の歪みの原因調査』、および『現地で戦うロックマンと適合者たちへの後方支援と共闘』!……これでよろしいですね!」
『うむ! 頼んだぞ、スターフォックス! コーネリア防衛軍の総力を挙げ、君たちのアーウィンに超時空跳躍用の特殊シールドを増設させた。……未知の異世界での戦闘となる。くれぐれも気をつけてくれ!』
「了解! グレートフォックス、全速前進! 次元の壁を突破し、地球・瑞穂坂へ向かう!」
**【瑞穂坂市上空・次元の狭間】**
ゴオォォォォォォォッ!!
全国のワイリーナンバーズ基地へ向けて出撃した雄真たちの頭上、瑞穂坂の夜空のさらに高次元の領域で、時空の壁がバリバリと青白いプラズマ火花を上げて引き裂かれた。
その亀裂から姿を現したのは、洗練された白と青のシルエットを誇る超時空戦闘機——**アーウィン**の編隊、そしてその背後に威容を誇る超大型母艦**グレートフォックス**であった!
「こちらフォックス! スリッピー、ファルコ、クリスタル、状況は!?」
『バッチリだよ、フォックス! コーネリア防衛軍のシールドのおかげで、次元の歪みを無事に突破できた! 下に見えるのが……地球の「瑞穂坂」だね!』
『おいおい、見ろよあのバカでかい城! 宇宙空間にまで届きそうな悪趣味な要塞だな!』
ファルコのアーウィンが翼を翻し、上空の『ワイリー・キャッスル』を捉える。
『フォックス……下層の地上領域から、いくつかの強力なエネルギー反応が全国へ向けて移動を開始しているわ。……あれが、この街を守る「適合者」たちね』
「よし! 我々の第一目標は、地上で戦う雄真たちとロックマンのバックアップだ! ワイリーの自動防衛ドローン群を牽制し、彼らが各地の基地を無事に撃破できるよう、上空から制空権を確保する!」
アーウィンのコックピット内で、フォックスの瞳が燃え上がる。
(待っていてくれ、異世界のヒーローたち……! 君たちの戦いに、俺たちスターフォックスも加わる! ライラット系の、そしてこの全宇宙の平和のために……!!)
**【地球衛星軌道・『ワイリー・キャッスル』最深部】**
「ぬうううっ!? なんだあの謎の戦闘機群はぁぁぁっ!?」
要塞のメインモニターに突如乱入してきたアーウィン編隊とグレートフォックスの映像を見せつけられ、ワイリー老人が泡を食って叫んだ。
「ワシの『Wフィールド』の次元干渉を突き破って、別の星系から軍隊が乗り込んできたというのか!? ええい、鬱陶しい! どこから何が来ようとも、ワシの最高傑作・超ワイリーマシンと極限ナンバーズの敵ではないわい!!」
狂乱するワイリーの後方。
尖塔のてっぺんで腕を組み、冷ややかに夜空を見上げていた黒きライバル——フォルテ。
その視線の先で、フォックスの乗るアーウィンが鋭いロールを打ちながら大気を引き裂いていく。
「……フン。別の星系の狐どもか。面白い……どこまでも俺を楽しませてくれるじゃないか、この世界は」
フォルテの足元で、ゴスペルが獰猛な咆哮を上げた。
——地上で激闘へ向かう雄真たち六人の適合者。
——時空を超えて駆けつけた青き英雄・ロックマン。
——電脳のナビゲーター・リコ。
——宇宙の果てから救援に訪れたスターフォックス隊。
——そして、全てを噛み砕かんと爪を研ぐワイリー軍団と黒き狼フォルテ。
次元の歪みが引き寄せた無数の魂と絆が、いま瑞穂坂の空の下で一つに交錯する。
地球の、ライラット系の、そして全次元の未来を賭けたかつてない超時空大決戦が、ついにその幕を開けようとしていた——!