ロックマンゼクス&はぴねす!2〜激闘!超次元戦争〜 作:騎士誠一郎
**【中部山岳地帯・黒部渓谷最奥部・旧国防軍自動兵装研究所跡】**
標高二千メートルを超える険しい峰々に囲まれ、一年を通して深い濃霧と万年雪に閉ざされた秘境。
かつて旧国防軍が極秘裏に建造し、いつしか時代の闇へと葬り去られたはずの『自動兵装研究所』——その廃墟は今、異様な変貌を遂げていた。
「……ここね。イザナミのデータに残されていた、旧時代の遺物……」
漆黒の闇に包まれた絶壁の岩肌。その亀裂に溶け込むように佇む影があった。
影を纏う紫と黒の装甲——『モデルP』の適合者、すももである。
彼女は音もなく舞い降りると、軽やかに爪先を岩肌に乗せた。モデルPのバイザー越しに捉えた視界には、鬱蒼とした原生林の中に不気味に蠢く「異物」がはっきりと映し出されていた。
「……何よ、これ。ただの廃墟なんかじゃない……!」
すももは息をのんだ。
古びたコンクリートの表面を覆うのは、苔でも蔦でもない。赤黒く明滅する配線コードと、奇怪な幾何学模様を描く超合金の増殖装甲。そして、旧軍のシンボルマークが削り取られた防壁には、あの不吉な「W」の刻印が刻み込まれていた。
「旧国防軍の放棄された研究所が……ワイリーの『兵器開発プラント』に改造されている……!?」
『気をつけろ、すもも』
影の中から、モデルPの冷静かつ重厚な声が響く。
『この山気……尋常ではない。かつての防衛システムとワイリーの自動兵装プログラムが融合し、足の踏み場もないほどの罠が張り巡らされている。しかも、内部で稼働しているジェネレーターの熱量が異常だ。瑞穂坂から奪われたエネルギーが、ここに大量に流流し込まれている』
「……分かってるよ。目立たず、迅速に……忍びの戦い方で見極める」
すももは両手に長大な手裏剣型の光学兵器『クロススター』を生成すると、足音ひとつ立てずに、警戒厳重な排気ダクトの闇へと滑り込んだ。
**【研究所内部・自動兵装製造プラント】**
ダクトを抜け出たすももが見たものは、巨大な地下空洞を埋め尽くす、おぞましい兵器の生産ラインであった。
カチャン……コン……カチャン……コン……。
規則正しい機械音とともに、巨大なベルトコンベアの上を大量の自律型戦闘ドローンや、対人用の足止めトラップ、さらにはイザナミの残した悪質性の高いサイバーエルフを組み込まれた無人兵器群が次々と組み上げられ、搬出されていく。
「こんな人里離れた山奥で……これほどの量の兵器を密造していたの……!? ここが機能し続けたら、全国の基地へ送撃される兵器の数が跳ね上がってしまう……!」
すももが唇を噛み締め、中継タワーの核となるメインサーバーへ接触しようとした、その瞬間——。
シュッ……!
「……ッ!?」
音もなく、首筋をかすめた冷ややかな殺気。
すももは反射的に身体を大きく反らし、バックステップでその場を離脱した!
直後、彼女がコンクリートの床に立っていたわずかな隙間に、数本の「漆黒のクナイ」が深く突き刺さり、一瞬で青白い爆炎を上げた!
ドカァンッ!!
「……くっ! 誰……!?」
爆煙の中から跳び退き、天井のキャットウォークに着地したすももは、両手の手裏剣を構えて周囲を警戒する。
だが、広大なプラントの中に人影はない。聞こえるのは、一定のフリッカー音を立てる工場ラインの稼働音だけだ。
『すもも、上だ! 影に潜んでいる!!』
モデルPの警告と同時に、天井の闇が「歪んだ」。
「……ほう。我が忍びの気配を間一髪でかわすとはな。モデルPの適合者……なかなか鋭い
ハットリ・ハンゾウの如き影を纏い、紫の装甲と巨大な手裏剣を背に負った異形の存在が、天井から上下逆さまの姿勢で静かに降り立っていた。
胸元に刻まれた「W」の刻印。そして、底知れぬ「死の気配」を漂わせるその瞳。
「ワイリー様が刺客……ナンバーズの一人、**シャドーマン**。……我が忍術の前に散るがいい、幼き忍びよ」
**【研究所内部・中央通路】**
「シャドーマン……! あなたが、この兵器プラントの管理者ね……!」
すももは脚力を溜め、モデルPの特殊能力である『光学迷彩』を発動させた!
フッとその姿が空気中に溶け込み、完全な不可視の状態となる。
「消えた姿で探れるほど、我が忍びの眼は甘くはない!」
シャドーマンは一歩も動かず、静かに目を閉じた。
「シャドーブレード!!」
空を切る羽音とともに、不可視のすももが頭上からクロススターを振り下ろす!
ガキィィィィンッ!!
完璧な死角からの奇襲——しかし、シャドーマンは背中に背負った巨大な「シャドースター」を素手で引き抜き、見ずしてすももの刃を完璧に受け止めていた!
「なに……!? 見えていないはずなのに……!?」
すももが目を見開く。
「フン……気配、風の揺らぎ、そして殺気。影に潜む者の呼吸など、手にとるように分かるわ!」
シャドーマンが腕をひと振りすると、巨大なシャドーブレードが高速回転しながらすももの胴体を薙ぎ払った!
「きゃああっ!?」
衝撃波に吹き飛ばされ、光学迷彩が強制解除されたすももが床を転がる。
「くっ……! だったら、これでどう……!? 『黒鉄時雨』!!」
立ち上がりざま、すももは無数の光のクナイを投擲! 弾幕となってシャドーマンを包み込む!
しかし、シャドーマンの体が突如として「ブレ」た。
ズババババッ!
クナイは全てシャドーマンの体を通り抜け、背後の壁を穿つだけだった。
「残像……!? いつ間に……!?」
「ここだ」
いつの間にかすももの真背後に立ち、その首筋に冷たい刃を突きつけていたシャドーマンが、低く冷酷な声を漏らした。
「ワイリー様の命により、このプラントで作られた兵器群は間もなく全国の拠点を経由し、瑞穂坂を……そしてこの世界を恐怖で埋め尽くす。貴様のような小娘一人が潜り込んだところで、この大局は変えられぬ」
すももの額から、冷や汗が伝い落ちる。
速さ、間合いの見切り、そして忍びとしての経験——全てにおいて、相手が一枚上であった。
「……わたしは……負けない……」
すももは歯を食いしばり、首筋に刃を突きつけられたまま、瞳に強い意志の光を宿した。
「兄さんたちが……みんなが瑞穂坂で、命を懸けて戦ってるの……! わたしがここでこのプラントを止めなきゃ……みんなが挟み撃ちにされちゃう……!」
『すもも、焦るな!』
モデルPの声が頭の中に直接響く。
『相手はワイリーの技術と忍術が融合した特殊メカニカル忍者だ。真っ向勝負では分が悪い。……奴の「影」の隙を突くのだ!』
「影の……隙……!?」
すももは、足元を照らすプラントの照明のチラつきに目をやった。
「往生際が悪いな。散るがいい!」
シャドーマンの刃が、すももの首を刈り取らんと一閃した!
ガキンッ!!
間一髪、すももは手元に生成した小さな光弾を床の照明器具へ向けて弾き飛ばした!
ドカァンッ!!
プラント全体を照らしていた大型サーチライトが一瞬で破壊され、広大な地下空洞は完全な『絶対の暗闇』へと突き落とされた!
「ぬ……っ! 暗闇か……!」
シャドーマンが一瞬、視界を奪われて足を止める。
忍びにとって暗闇は主戦場。しかし、それはモデルPを纏うすももにとっても同じであった!
「暗闇なら……わたしの方が、影になれる!!」
すももはモデルPのレーダー機能をフル稼働させ、暗闇の中で静止するシャドーマンの背後へと、音もなく影となって滑り込んだ!
「そこよっ!! 『曼荼羅手裏剣・乱れ桜』!!」
暗闇を切り裂く、青紫の閃光!
すももの解き放った無数の手裏剣が、シャドーマンの右肩の装甲を鋭く削り取った!
「ヌオォォッ!?」
火花を散らしながら飛び退くシャドーマン。
「やった……! 手応えがあったわ……!」
しかし、シャドーマンは削られた右肩から黒い煙を吹き出しながらも、不気味な笑い声を漏らした。
「……くくく、見事だ。この我が影を奪われ、傷を負わされるとはな。……だが、小娘よ。これで終わりだと思うなよ」
シャドーマンが印を結ぶと、彼の周りの闇から、全く同じ波形を持つ「三体の分身」がぬっと姿を現した。
「な……分身……!? どれが本物なの……!?」
すももが身構える。
「この研究所の地下深くには、まだワイリー様の真の切り札……『中継タワー第三増幅炉』が眠っている。……ここから先へ進めると思うな。貴様の命、ここで貰う!!」
四体のシャドーマンが同時に巨大なシャドースターを構え、すももを包囲するように殺気を解き放つ!
絶体絶命の包囲網の中、すももは息を整え、両手のクロススターを強く握りしめた。
(兄さん……、みんな! わたしも絶対に諦めない! この不気味なプラントをぶち壊して、絶対にみんなの元へ帰ってみせる!!)
深山幽谷の廃墟に響く殺気と、暗闇の中で火花を散らす忍びたちの刃。
中部の山岳地帯を舞台にした影と影の死闘は、いよいよ互いの命を賭けた最終局面へと突入していくのだった——!
**【研究所内部・暗闇の自動兵装製造プラント】**
「ハハハハハ! さあ、どれが本物の我か、見極めてみるがいい!」
四体に増殖したシャドーマンが、寸分違わぬ動作で同時に巨大なシャドースターを振りかざした。四方から迫る凄まじい風切り音と、全方位を覆い尽くす密密たる殺気。逃げ場などどこにも存在しない。
「……ッ!」
すももは深く息を吐き出し、胸の前で両手を交差させた。
『すもも、惑わされるな』
モデルPの重厚な声が、彼女の極限状態の精神に直接語りかける。
『分身の残像に惑わされるな。目を閉じろ。忍の真髄は、肉眼の光に頼ることにあらず。相手の存在が放つ「存在の揺らぎ」を感じ取るのだ』
「……うん。見せるよ……わたしの、忍びの戦いを!」
すももは静かに瞼を閉じた。
視界から光が消え去り、暗闇の感覚だけが研ぎ澄まされる。
周囲を旋回する四体のシャドーマン。空中を切り裂く刃の音。床を蹴る微小な振動。
肉眼であればどれも本物に見えるその挙動の中に、たった一つだけ——「異質」なものが混じっていた。
三体の分身は、完璧すぎるほどに規則的なデータ軌道を描いている。
だが、右奥の一体だけは、先ほどすももが削り取った右肩の損傷部から、極めて微小な「不規則なノイズ」を撒き散らしていた!
(見えた……! 右奥……あなたが、本物よ!!)
「忍法……『影縫い・舞華』ぁぁぁっ!!」
すももが目を開くと同時に、その身体が紫の光の粒子となって消失した!
「なに……!? 姿を消しただと!?」
四体の分身が一瞬、攻撃の手を止めて困惑したその隙——。
すももは本物のシャドーマンの真上、死角となる天井の梁から、モデルPの全エネルギーを両脚に集中させて超高速で滑空降下(ダイブ)していた!
「そこだぁぁぁぁぁっ!!」
ズバガァァァァァンッ!!
すももの爪先が、本物のシャドーマンの傷ついた右肩から胸部のコアへと完璧に突き刺さった!
「グ、グオォォォォォッ!?? な、なぜ見抜いた……我が不敗の分身の術を……!?」
「あなたの影は……冷たすぎたのよ! 仲間のために戦う熱がない影なんて……わたしの敵じゃない!!」
すももは胸部のコアを踏み抜いたまま、両手に生成した巨大なクロススターをシャドーマンの頭部へと叩き込んだ!
**「ファントム・ブレイクッ!!」**
ドカァァァァァァァン!!!!!
紫閃の爆炎が咲き乱れ、シャドーマンの巨体は内側から回路をズタズタに破壊され、激しい火花を散らしながら崩れ落ちた!
「ワ、ワイリー様……! 申し訳……ございま……せん……っ!!」
ドカンッ! ボカンッ!!
メインコアを粉砕されたシャドーマンは、断末魔の叫びとともに爆散し、プラントの金属床へと散っていった。
「ハぁ……ハぁ……! 勝った……わたし、勝ったよ……!」
膝をつき、肩で激しく息を吐くすもも。
だが、安らぎの時間は訪れなかった。
『すもも! 喜んでいるヒマはないぞ!』
モデルPが緊急アラートを発令する!
『シャドーマンの消滅と連鎖して、地下の「中継タワー第三増幅炉」の安全装置が解除された! 奴め、負けた時のためにプラント全体を自爆させるプログラムを仕込んでいたんだ!』
「ええっ!?」
**ブー! ブー! ブー!**
「警告。増幅炉の臨界点突破。カウントダウン開始。基幹プラントはあと三十分で完全消滅します」
無機質な機械音声が工場全体に響き渡り、赤く発光するパトランプが暗闇のプラントを不気味に照らし出す。
床が激しく揺れ、製造ラインのベルトコンベアが次々とショートして爆発を起こし始めた。天井からは巨大な鉄骨やコンクリートの破片が雨のように降り注ぐ!
「そんな……! ここが爆発したら、山ごと吹き飛んじゃうじゃないの!?」
『それだけではない! 増幅炉が暴走すれば、内部に蓄積された高濃度サイバーエルフの汚染データが、この中部山岳地帯全体に拡散する! 一刻も早く、中継タワーのコアを物理的に破壊して、爆発の指向性を外へ逃がすんだ!』
「分かったわ! 中継タワーはどこ!?」
すももは崩れ落ちる瓦礫を軽やかに跳び越え、プラント最深部の巨大な耐圧隔壁へと突き進んだ。
隔壁の向こう側にそびえ立っていたのは、瑞穂坂の空へ不気味な悪魔的エネルギーを送り続けていた、禍々しい紫色の柱——『中継タワー第三増幅炉』であった!
「これで……最後よ!!」
すももは両手に残された全精神力を込め、モデルPの光学クナイを限界まで巨大化させた。
「みんなの未来を……瑞穂坂の街を……壊させはしないんだからぁぁぁっ!!」
**「クロス・ファントム・スラッシュッ!!」**
ズババババババッ!!
巨大な光の刃が、中継タワーの基盤とメインコアを幾重にも十文字に切り裂いた!
パリィィィィンッ!!
ガラスが割れるような甲高い音とともに、タワーを包んでいた悪魔的なエネルギー供給線が完全に途絶え、コアが眩い白光を放って内部崩壊を始めた!
「よし……! タワーの破壊、完了……!」
「警告。施設崩壊まであと十秒。九、八……」
「きゃああっ!?」
タワーの崩壊に伴い、地下空洞の天井全体が限界を迎えて崩れ落ちてきた! 巨大な岩塊がすももの頭上を塞ぎ、退路を完全に遮断していく!
「嘘……逃げ道が……ない……!?」
『すもも、上だ! 天井の排気口を破る! 拙者の全エネルギーで最後の一撃を放つ!』
「うん! 一緒に飛ぼう、モデルP!!」
すももは背部のスラスターを全開にし、崩れ去る岩石の隙間を縫うようにして、垂直にそびえ立つ排気シャフトへ向かって急上昇した!
「ハアァァァァァッ!!」
ズドォォォンッ!!
シャフトの出口を塞いでいた分厚い装甲板を叩き割り、すももは爆炎とともに黒部渓谷の夜空へと飛び出した!
直後——。
**ドガアァァァァァァァァン!!!!!!**
背後の山腹が、腹の底から響くような凄まじい大爆発とともに激しく吹き飛んだ!
山肌を真っ赤に染め上げる巨大な火柱と爆風。旧国防軍の自動兵装研究所跡地は、ワイリーの不吉な兵器プラントもろとも、跡形もなく地中深くへと埋もれ、完全に消滅したのだった。
「ハぁ……ハぁ……! やった……わたし……逃げ切れた……」
絶壁の頂にある巨岩の上に降り立ったすももは、膝をつき、ヘルメットの装甲を解除した。
夜風が、汗に濡れた彼女の髪を優しく揺らす。
見上げれば、中部山岳地帯を覆っていた重苦しい悪魔的なエネルギーの霧が、雲散霧消するように晴れていく。そして、遙か遠くの瑞穂坂の上空を覆う『Wフィールド』の光が、一段と弱まり、不規則に明滅を始めていた。
『見事だ、すもも。九州の杏里に続き、お前もまた一つ、ワイリーの楔を打ち砕いた』
モデルPの温かい声が響く。
「……うん。でも、あたし一人じゃないよ。モデルPが……そして、みんながいてくれたから」
すももは夜空に輝く星々を見つめ、ギュッと小さな拳を握りしめた。
「待っててね、兄さん……みんな……。わたしたちのバトンは、ちゃんと繋がったよ。次は……兄さんたちの番だからね!!」
不気味な廃墟を飲み込んだ爆炎の余韻の中、若き忍びは次なる決戦の地へ向かって、静かに、しかし確かな足取りで跳躍していった——。