超輝夜姫!   作:白鳥ダイヤ

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第22話

一対一となったスコアが頭上に残る中、Black onyXの三人は第三ラウンド開始を待つ自陣へ集まっていた。第一ラウンドでは三本のレーンへ一人ずつ分かれたトライデントが完璧に機能したものの、第二ラウンドではその成功を彩葉に読まれ、同じ配置を続けたことまで利用されている。

 

帝は腕を組んだままマップを見下ろし、トップ、ミドル、ボトムへ順番に視線を走らせた。もう一度同じ形へ戻れば、彩葉が何らかの対策を用意している可能性は高く、今度は自分たちから配置を崩す必要がある。

 

「さすがに次もトライデントってわけにはいかねえな」

 

乃依も異論はないらしく、短弓を肩へ乗せながら気怠そうに頷いた。

 

「また同じにしたら、いろPに全部読まれそうだしね」

 

第二ラウンドでは、乃依がヤチヨと距離を取って足止めしようとしたことすら利用された。撃破したはずのヤチヨはリスポーンを移動手段へ変え、そのうえウルトまで吐かせてからトップへ現れているため、同じ役割を一人へ任せるだけでは再び崩されかねない。

帝が次の配置を口にしようとしたところで、それまで黙ってマップを見ていた雷がボトムへ指を置いた。その視線には迷いがなく、すでに自分の中では答えを決めているようだった。

 

「俺たちはヤチヨを止める」

 

帝と乃依の視線が同時に雷へ向く。

 

「一人じゃ止め切れない。乃依と俺で行く」

 

乃依が僅かに眉を上げる。

 

「二人でヤチヨちゃん?」

 

「ああ」

 

第一ラウンドでは乃依一人でも、ヤチヨの進軍を遅らせることには成功していた。しかし一度距離を詰められれば近接戦では押し切られ、第二ラウンドではその遅延そのものを逆利用されているため、今度は最初から一対一を作らせない方がいい。乃依が遠距離から進路を削り、雷が正面から圧力を掛ければ、ヤチヨはどちらか一方だけへ意識を集中できなくなる。片方を追えばもう片方が自由になり、少なくとも第二ラウンドのように好きなタイミングで別レーンへ移ることは難しくなる。

 

「乃依は距離を取って撃つ。俺が前に出る。ヤチヨが俺を見るなら乃依が自由に撃てるし、乃依を追うなら俺が止める」

 

乃依はボトムの表示を見つめながら、その形を頭の中でなぞった。ヤチヨが自分を追えば雷が割り込み、雷を相手にしている間は自分の矢を通せるため、役割としても噛み合っている。

 

「一対一にしなきゃいいってことね」

 

「そういうことだ」

 

帝も雷の狙いを理解すると、ゆっくりと口元を上げた。ヤチヨを二人で引き受けるなら、残るのは輝夜と彩葉であり、そこへ誰が向かうかは考えるまでもない。

 

「じゃあ、輝夜ちゃんと彩葉は俺が見る」

 

乃依は少しだけ首を傾げ、帝の顔を覗き込む。

 

「帝ちゃん一人で大丈夫~?」

 

「おう!」

 

返事には一瞬の迷いもなかった。第一ラウンドでは輝夜と彩葉を相手にトップを維持し、そのまま牛鬼まで倒しており、第二ラウンドで崩されたのも途中からヤチヨまで加わったことで人数差を作られたからだった。そのヤチヨを雷と乃依が切り離せるなら、再び二対一へ戻せる。帝にとっては、それだけで十分に勝負になる見込みがある。

 

雷が拳を前へ出すと、乃依も小さく笑いながら拳を重ね、最後に帝が勢いよくぶつけた。三人の拳が中央で一つになり、誰が誰を止め、どこで時間を作るのかという役割が、改めて言葉にしなくても共有される。拳を離した帝は、そのままトップ側へ視線を向けた。そこへ来るはずの輝夜と彩葉を迎え撃つことを、むしろ楽しみにしているようだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

反対側の自陣でも、彩葉たちは第三ラウンドを前にマップを囲んでいた。第二ラウンドでは読みが当たり、一勝を取り返すことができたものの、帝との通話で作戦の狙いまで知られた以上、Black onyXがもう一度同じトライデントを選ぶとは考えにくい。

 

彩葉は三本のレーンへ順番に視線を動かしながら、第一ラウンドと第二ラウンドで起きたことを頭の中へ並べ直した。帝がトップ、雷がミドル、乃依がボトムという形を二度続けた相手が最後に配置を変えるなら、次に考えるべきなのは誰を最優先で止めたいかだった。そこで真っ先に浮かんだのは、第二ラウンドで戦況を大きく崩したヤチヨだった。乃依に足止めされ、ウルトで撃破されたはずなのに、その敗北すら移動へ利用して戻ってくると、輝夜のハンマーを拾ってトップへ向かい、安定していたBlack onyXの形を一気に崩している。

 

「たぶん、次はヤチヨを一人にはしないと思う」

 

輝夜がマップから顔を上げる。

 

「乃依一人じゃ足りないってこと?」

 

「うん」

 

ヤチヨは少し不満そうに眉を寄せた。

 

「足りないって、私を止める人数の話だよね?」

 

「そう」

 

「なんか嬉しくない褒められ方だなあ」

 

彩葉はその抗議を聞き流しながら、ボトムへ指を置いた。乃依がヤチヨとの近接戦を避けるのはすでに分かっており、それでも一人では利用されてしまった以上、次にBlack onyXが取りそうな手段として一番分かりやすいのは、もう一人を追加することだった。

 

「おそらくボトムに、雷と乃依の二人でヤチヨを止めに来ると思う」

 

輝夜が少し目を見開く。

 

「二人とも?」

 

「たぶん。乃依が遠くから矢で止めて、雷が前に出れば、ヤチヨもどっちか一人だけ見てればいいってわけにはいかなくなるから」

 

ヤチヨは腕を組み、今度は真面目な表情でボトムを見つめた。乃依一人なら矢を掻い潜って懐へ入ることは一度成功しているが、そこへ雷まで加われば、同じ方法をそのまま使うのは難しい。

 

「なるほど。今度は私が二人担当かあ」

 

「なんで嬉しそうなのよ」

 

輝夜が呆れたように横目を向けると、ヤチヨは隠す気もなく口元を緩めた。

 

「だって二人も来てくれるんでしょ?」

 

「遊びじゃないわよ」

 

「もちろん。本気でやるよ」

 

その返事を聞いた彩葉は、残るトップ側へ視線を動かした。雷と乃依がボトムへ向かうなら、Black onyX側で残るのは帝一人になるため、帝が自分と輝夜の二人を担当する可能性はかなり高い。彩葉がその結論を口にするより早く、輝夜も同じところまで考えたらしく、マップから顔を上げた。

 

「じゃあ、帝は私たちのところに来るのね?」

 

「たぶんね」

 

その答えを聞いた瞬間、輝夜の表情が明らかに変わった。嫌そうにするどころか口元へ楽しそうな笑みを浮かべ、傍らに置いていた巨大なハンマーの柄を掴むと、そのまま軽く持ち上げて肩へ担いだ。

 

第一ラウンドでは帝に押し切られ、第二ラウンドでも帝本人を倒したわけではない。二度続けて立ちはだかられたままでは、自分の中ではまだ勝負が終わっていないらしい。

 

「ちょうどいいわ」

 

輝夜は握った柄へ少しだけ力を込める。

 

「今度こそ帝を倒して、ちゃんと借りを返すわ」

 

彩葉はその好戦的な笑顔を見て、少しだけ嫌な予感を覚えた。

 

「一人で突っ込まないでよ」

 

「分かってるわよ。彩葉もいるんでしょう?」

 

そう答えながらも、輝夜の視線はすでに帝と戦う時のものへ変わっていた。第一ラウンドでは二人で挑んでも崩せなかった相手だが、どの距離で攻撃を弾かれ、どこで無理に踏み込めば反撃を受けるのかは、すでに二度のラウンドで経験している。

 

彩葉もそこまでは読めたものの、問題はその先にあった。配置までは予測できても、第三ラウンド全体が第二ラウンドのように予定どおり進む保証はなく、帝たちもこちらが動きを読むことを承知したうえで最後の勝負へ入ってくる。

 

配置を外された時の対応や、その後に起こる変化まで、自分が最後まで間違えずに考え続けなければならない。二人を勝たせるためには、それが自分の役目なのだと、彩葉はいつの間にか思い込んでいた。

 

そうして次の手を探そうとしたところで、胸の奥に沈んでいた昔の声が不意に蘇った。まだ今よりずっと幼く、家で母と向き合っていた頃の記憶だった。

 

任されていた役を、やりたがっていた別の子へ譲ったことを話すと、母は納得しなかった。欲しいと言われるたびに何でも渡してしまうつもりなのかと問われ、幼い彩葉は返す言葉を見つけられず、ただ俯いていた。

 

そんな自分と母の間へ、兄の声が割って入った。

彩葉にも、譲れないものはある。

 

あの頃は、その言葉が何を指しているのか自分でもよく分かっていなかった。けれど今、マップから顔を上げて輝夜とヤチヨを見ると、兄が言っていたものがようやく形を持った気がした。

 

――勝ちたい。

 

輝夜と一緒に勝ちたいし、ヤチヨにも最後まで一緒にいてほしい。それは誰かへ譲ってしまっていいものではなく、だからといって自分一人ですべてを背負う必要もないのだと、今なら分かる。

 

一人で届かないのなら、二人の力を借りればいいという答えまで辿り着くと、次から次へと正解を用意しなければならないと思い詰めていた胸の奥が、少しだけ軽くなった。彩葉はマップへ置いていた手を離し、改めて二人の顔を見る。

 

「たぶん最初はそんな感じ。でも、絶対そのままにはならないと思う」

 

ヤチヨが彩葉を見る。

 

「じゃあ、どうする?」

 

以前なら、ここでも何とか一人で次の答えを探そうとしていたはずだった。けれど今回は、先のすべてを決め切ろうとはせず、彩葉は少しだけ肩の力を抜いた。

 

「崩れたら、その時また考える」

 

輝夜が意外そうに瞬きをする。

 

「ずいぶん適当ね」

 

「全部当てるなんて無理だよ。相手だって、こっちが考えてることを考えてるんだから」

 

彩葉はそこで一度息を吐き、少しだけ照れくさそうに笑った。

 

「だから、その時は二人にも頼る」

 

ヤチヨの表情が僅かに柔らかくなり、輝夜も少しだけ彩葉を見つめたあと、肩へ担いだハンマーを持ち直した。

 

「最初からそうすればいいのよ」

 

「そうそう。彩葉は一人で全部やろうとしすぎだよ」

 

二人から同時に言われ、彩葉は少しだけ眉を寄せた。それでも今度は否定せず、困ったように小さく笑うだけで、自分一人ですべてを決めようとはしなかった。

 

輝夜はそんな彩葉の横で、もう一度ハンマーを握り直した。協力することには納得していても、帝への借りだけは自分の中でまだ別らしく、先ほどから好戦的な笑みは消えていない。

 

「でも帝は私に任せて。今度こそ絶対に倒すから」

 

「だから一人で行かないでって言ってるでしょ」

 

「彩葉と一緒に倒すって意味よ」

 

「それならいいけど」

 

二人のやり取りを聞いていたヤチヨが、楽しそうに小さく笑った。第二ラウンドまでとは少しだけ違い、誰か一人が正解を決めるのではなく、三人で最後の勝負へ向かう空気が生まれている。

 

やがて戦場の奥から第三ラウンド開始を待つ静けさが広がり、三人の視線もそれぞれのレーンへ向けられた。Black onyXはヤチヨを二人で止めるため、輝夜いろPはその動きを読みながら、予定が崩れた時には互いを頼るため、それぞれ最後のラウンドへ出る準備を整えていく。

 

三人は、一対一となった勝負を決める最後のほら貝を、静かに待った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

三度目のほら貝が戦場へ響き渡ると、六人はほとんど同時に自陣を飛び出した。二戦続けてトップ、ミドル、ボトムへ一人ずつ散っていたBlack onyXだったが、今回は帝だけがトップへ向かい、雷と乃依の二人が揃ってボトムへ進路を取っていく。

 

対する輝夜いろPは、輝夜と彩葉がトップへ向かい、ヤチヨが一人でボトムへ入った。事前に予想していた通りの配置を目にして彩葉が僅かに息を呑む一方、二人を押しつけられたヤチヨは警戒するより先に和傘を肩へ担ぎ、どこか楽しそうに目を細めていた。

 

「本当に二人で来たんだ」

 

正面から近づいてくる雷と乃依を交互に見ながら、ヤチヨは嬉しそうに口元を緩める。

 

「人気者になった気分だなあ」

 

「遊びに来たんじゃない」

 

雷は巨大な芭蕉扇を正面へ構え、その半歩ほど後ろでは乃依がすでに短弓へ矢を番えていた。前へ出れば雷が盾となって進路を塞ぎ、横へ逃げれば乃依が射抜けるよう、二人は最初から互いの間隔を崩さずヤチヨを挟み込もうとしている。

 

「ヤチヨちゃん一人に二人って、ちょっと大人げないよねえ」

 

「二人掛かりじゃないと駄目って思われたんでしょ? 私は嬉しいよ」

 

「そういうところが面倒なんだよねえ」

 

乃依が気怠そうに返した直後、雷の芭蕉扇が大きく振り抜かれた。正面から押し寄せた風圧をヤチヨは開いた和傘で斜めへ受け流し、身体ごと押し戻される前に横へ踏み出したものの、その移動先にはすでに乃依の矢が飛び込んでくる。一本目を扇子で外し、続く矢を和傘の縁で弾いたところへ、雷が鬼面の盾を前にして間合いを詰めた。錫杖まで振り下ろされると、ヤチヨは和傘の柄で軌道を流しながら身体を横へ滑らせ、まともに二人を相手にする代わりに、雷の身体を乃依との間へ置くよう位置を変えていく。

雷が右へ寄ればヤチヨも同じ方向へ動き、左へ詰めれば再びその陰へ入る。味方の身体越しでは狙えない乃依が射線を作り直すため横へ踏み出した瞬間、ヤチヨは雷から離れ、和傘を高速回転させながら乃依へ投げ込んだ。

 

「俺を盾にする気か」

 

「ちょうどいいところにいるからね」

 

回転する傘が乃依の視界を塞ぎ、矢を放つための僅かな時間を奪う。ヤチヨはその陰へ重なるように走り込み、背後から雷の風圧を受けても扇子で外へ逃がしながら、後衛との距離を一気に縮めた。乃依もすぐ短弓を巨大な輪刀へ変形させ、横薙ぎの一撃で近づかせまいとする。

ヤチヨは刃のある外周から逃げるのではなく、中心の非刃部分へ扇子を滑り込ませ、そのまま輪の内側へ潜り込むことで大きく振り直せない距離まで身体を寄せた。

至近距離から扇子を開くと、強い風圧が乃依の身体を後ろへ崩す。そこへ戻ってきた和傘を掴み、その回転を殺さないまま胴へ振り抜くと、残っていた体力表示が一気にゼロへ落ちた。

 

「乃依、撃破ぁぁぁ! ヤチヨ、二人掛かりを相手にまず後衛を落としました!」

 

光へ変わり始めた乃依は、倒れたままヤチヨを見上げて困ったように笑う。

 

「最初から俺狙いだった?」

 

「さて、どうかな?」

 

「その顔、絶対そうじゃん」

 

ヤチヨが笑い返したところへ、横から鬼面の盾が脇腹へ叩き込まれた。乃依を倒すため深く踏み込んだ直後で雷へ向き直る余裕がなく、まともに衝撃を受けた身体は数メートル先まで地面を滑っていく。

人数差こそなくなったものの、乃依の矢が肩を掠めた際に受けた鈍足はまだ残っていた。雷はその消耗を逃さず、芭蕉扇の風圧で足を止めながら錫杖の長い間合いを押しつけ、ヤチヨが得意とする近距離へ簡単には入らせない。

ヤチヨも扇子で風を外へ逃がし、和傘を盾の側面へ滑り込ませながら何度も懐を狙った。しかし、近づけば鬼面の盾で押し戻され、離れれば錫杖の先端が追いつくため、一対一へ持ち込んだはずの戦況は少しずつ雷へ傾いていく。

 

「一人になっても強いねえ」

 

「当たり前だ」

 

雷は短く返すと、風圧で和傘を大きく開かせた直後、その隙間へ錫杖を差し込んだ。受け止めた骨組みが嫌な音を立て、ヤチヨが体勢を直そうとしたところへ鬼面の盾が押し込まれ、残っていた体力をまとめて削り取る。

 

「ヤチヨ撃破! 乃依を先に落としましたが、残った雷が一対一を制しました!」

 

身体が光へ変わり始めても、ヤチヨは悔しそうに眉を下げるだけで、表情から余裕を失わなかった。

 

「一人ならいけると思ったんだけどなあ」

 

「甘い」

 

「次はもう少し上手くやるよ」

 

ヤチヨがリスポーンへ送られると、雷はすぐにボトムの牛鬼へ向き直った。戦闘中にも少しずつ削っていた巨体へ錫杖と芭蕉扇を続けて叩き込み、最後に強い風圧を浴びせて倒すと、そのまま櫓まで進んで鐘を鳴らす。澄んだ音とともにBlack onyXの紋章が浮かび上がり、ボトム側から輝夜いろPの天守閣へ攻め込む道が開いた。実況席からBlack onyXの先制を知らせる声が響く中、戦場の反対側では、ほぼ同じ頃にトップの勝負も動き始めていた。

 

トップでは、帝を挟んで輝夜と彩葉が攻撃を重ねていた。第一ラウンドでは二人まとめて抑え込まれた相手だったが、今回は輝夜がハンマーで正面を押さえている間に彩葉が側面へ回り、帝が彩葉へ意識を向ければ輝夜が再び踏み込むという形で、互いの攻撃を途切れさせない。

 

「また俺とか。輝夜ちゃん、縁あるねえ」

 

「今度は逃がさないわよ」

 

「別に今まで逃げてねえけど!?」

 

帝が金棒でハンマーを受け止めると、彩葉のブーメランが横から飛び込み、避けた先へ再び輝夜が竹筒の噴射で距離を詰める。帝も二人の動きを読みながら金棒を刀身へ変え、攻撃をいなし続けたものの、第一ラウンドのように一人ずつ切り離す余裕はなくなっていた。

 

「ちょっと待て、二人とも急に連携よくなってない!?」

 

「二回も負ければ覚えるわ」

 

「私は二回負けてないけどね!」

 

「細かいことはいいのよ!」

 

言い合いながらも二人の動きは止まらず、帝へ攻撃を重ねる合間には牛鬼へも確実にダメージを入れていった。最後は輝夜が正面から金棒を押し込み、彩葉のブーメランが死角から帝を捉えたことで体力を削り切り、そのまま残っていた牛鬼まで二人で仕留める。輝夜がトップの櫓へ駆け上がって鐘を鳴らすと、輝夜いろPの紋章も戦場へ浮かび上がった。Black onyXがボトム、輝夜いろPがトップを一つずつ確保したことで、どちらも相手の天守閣へ大将落としを持ち込める状況となる。

 

「両チーム、一つずつ櫓を確保! ここからは天守閣まで一気に届きます!」

 

彩葉はトップから戦場を見渡し、ボトム側を進んでいる雷へ気づいた。乃依もすでにリスポーンへ入っている以上、このままBlack onyXの天守へ攻め続ければ、こちらが辿り着くより先に自陣を落とされる危険がある。

 

「輝夜、戻るよ!」

 

「分かったわ!」

 

二人は攻める足を止め、すぐ自陣側へ引き返した。復活した乃依が雷へ合流する頃には、二人はすでにかぐやいろPの天守閣へ向かっており、戻ってきた輝夜と彩葉がその進路へ割って入る。雷が芭蕉扇で正面を押し、乃依は半歩後ろから矢を放って二人の移動先を削っていく。

輝夜は巨大なハンマーを盾代わりに風圧を受け、彩葉はブーメランを投げながら雷の側面へ回ろうとしたが、そのたび乃依の矢が進路へ刺さり、攻撃の形を作らせてもらえない。彩葉は雷が抜けようとすればその前へ入り、乃依の矢が輝夜へ向けばすぐブーメランを投げて弾いた。

二人を止めなければという意識が強くなるほど、自分が一人で両方へ対応しようとする動きへ戻り、輝夜が受け持てるはずの範囲まで無意識に補い始める。

 

「彩葉、乃依は私が見るわ!」

 

「でも雷が抜けたら――」

 

「だから私がいるって言ってるでしょ!」

 

輝夜の言葉を聞いても、彩葉の身体はすぐには止まらなかった。雷の盾が前へ出ればそちらを抑え、乃依が弓を引けば今度は射線へ視線を移すうち、肩へ込めた力ばかりが強くなっていく。

 

その時、横から吹き込んだ風が雷の身体を僅かに押し流した。

同時に回転する和傘が乃依の矢を弾き、そのまま二人の間へ滑り込む。リスポーンを終えたヤチヨが傘を追うように走り込み、彩葉と輝夜を庇うように雷たちの前へ立った。一度倒されたばかりだというのに、ヤチヨの表情には焦りも苛立ちもなかった。むしろ、自分がいない間まで二人を止めようとしていた彩葉を見ると、困った子を見るように僅かに笑う。

 

「彩葉ー! 格好いいけど、輝夜も私もいるんだからさ。ちゃんと頼ってー!」

 

その声が耳へ届いた瞬間、作戦会議で交わした話が彩葉の中へ蘇った。予定が崩れたならその時に考え直し、自分だけで何とかしようとせず、その時こそ二人へ頼ればいいと自分で口にしたはずだった。胸の奥へ溜め込んでいた息を、彩葉はゆっくりと吐き出した。張り詰めていた肩から力が抜けていくのを感じながら、雷と乃依の前へ立ったヤチヨの背中を見つめる。

 

自分が全部をやらなければならないわけではない。

目の前には、任せてもいい相手がいる。

彩葉はようやく二人分の戦況から視線を外し、ヤチヨへまっすぐ声を掛けた。

 

「ヤチヨ」

 

「なあに?」

 

「二人、お願い」

 

一瞬だけ目を丸くしたヤチヨの顔へ、すぐ満面の笑みが広がった。傷の残る和傘を肩へ担ぎ直し、任された雷と乃依へ向き直りながら、弾むような調子で声を上げる。

 

「任せて!」

 

その返事を聞いた彩葉は、もう二人の方へ振り返らなかった。隣に立つ輝夜と視線を合わせると、今度こそ仲間へ戦いを預けたまま、Black onyXの天守閣へ続く道へ向かって走り出した。

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