異種族百鬼譚~ボッチを極めた刀の修羅は異種族だらけの現代で英雄となる~ 作:モンジョワ〜
ある日俺は、刀に命を捧げた前世の記憶を取り戻した。
全部ではない。ただ、印象的な場面が断片的に蘇る程度。ただわかることは、前世の俺が誰とも深く繋がることなく死んだこと。
家族はいた。幼い頃には友人と呼べる人も表面上はいた。
けれど、心の奥まで誰かに触れたことは一度もなかったんだ。
誰かの代わりに泣いたことも、誰かに本気で怒られたこともない――ただ、淡々と日々を過ごして、何か起こるわけでもなく刀を振るって病気で息を引き取った。
「ああ、結局何も残らなかったな」
そんな後悔を最後に、意識は途切れて――気が付けば、俺は子供になっていた。
目を覚ました時にあったのは、白い天井。近くにあった鏡に映るのは、五歳ぐらいの見知らぬ子供の顔で。
「……俺は誰だっけ?」
頭痛がする。
直前の記憶が混ざり合ったような気持ち悪い感覚に襲われて、そういえば家に一人でいたときに倒れたことを思い出した。
ならここは……病院なのだろうか?
そう思い、周りを見渡せば前世でも見慣れてしまった白い部屋が広がっている。
「懐かし」
自嘲気味にそうぼやいてから、俺は横にあった窓の外を見てみた。
人生の最後に見慣れた景色に気が滅入りそうだったのと、純粋に息が詰まったから。なんか前世よりも目がよくなったのか、下の景色がよく見える……歩いているのはもちろん人のはずなのに。どういう訳か視界に入ったのは狐耳をした女子高生。
「え?」
コスプレ? そう思ってもう少し周りを見てみれば赤い肌をした眼鏡をかけた角の生えた男がベンチで新聞を読んでいて、何より偶然見えたコンビニにはどう見ても下半身が魚な少女が接客をしていた。
「いや……おかしいだろ」
さっきみた誰かの記憶ではありえない光景。
でもなんでだろうか、不思議とその光景を受け入れる自分がいて……それが当たり前の日常だと思えてしまう。
「ここって本当に日本……なのか?」
それが、この世界で目覚めて最初に目にした光景、自分が目を覚ました先が普通ではないと知った最初の出来事だった。
――――――
――――
――
昔々と言っても千年ほど前の話。
今の時代からは考えられないが、その当時は文化や常識の違いで大混乱した現世。何度も大きい戦が起こり、国境が書き換わったりと色々な事が起きて無茶苦茶になったが、時間が経った事で徐々に異なる種族達は受け入れられ――。
それから約三十分混乱する頭が落ち着いて、色々なことを思い出し俺はそんなこの世界の常識を思い返していた。
意識がちゃんと戻ったというか、さっきは前世っぽい記憶のせいで混乱したが今は今の自分の記憶も安定したおかげか、落ち着いている。
「名前は、
自分のことを確認するようにつぶやいて、少し考える。
あれは多分前世の記憶だろう、それほどまでに長い夢のような感覚だったし五感もあって、嘘だなんて思えないから。
「玲、目が覚めたんですか?」
色々考えてどうしてなんだろうと思っていれば、ふと震える声が聞こえてきた。
声のする方へ視線をずらせば、そこにいるのは長い白髪をした赤目の女性。どう見ても二十代……もしくは十代後半にしか見えないだろうその女性は、今の俺の名前を呼んでから一気に駆け寄ってきた。
「よかった……家に帰ったら倒れてて、もう目覚めないかと」
「痛い死ぬ。祖母ちゃん力つよっ――あ、まってぎぶぎぶほんとに召される!」
そして力強く、それこそ万力の様な抱擁を喰らい、俺は死にかけた。
なんか、もう本当に力が強いというか人間の範疇を超えてるせいか中身が飛び出そう。というか、死因になりえるくらいの筋力で、まじでやばい。
……あれ、というか、祖母ちゃん?
「……祖母、ちゃん?」
「そうですよ? 貴方のおばあちゃんの百鬼
再度言うが、この人の見た目は十代後半から二十代前半ぐらい。
それに顔が異常なまでに整っていて、人形というか本当に美少女と言っていい見た目だ。腰ほどまでの長い白髪、紅い宝石のように輝く瞳に黒い着物。
それに、立ち振る舞いが洗練されていて、一目で分かるがものすごく強い。
なんでそんな人を祖母ちゃん呼ばわりしているか分からないが、俺の今までの記憶が、この人が祖母だと言っている。
「それにしても、本当に良かったです。もう目覚めないかと」
心底安心しているのか、ほっと息を吐いて喜ぶ祖母?
いまだ違和感しかないが、妙な安心感があるというか……不思議な感覚。
暖かいようなそんな感じを覚えたかと思えば、感極まったのかまた俺を抱きしめてくる。
「祖母ちゃん、大丈夫だから離してよ」
「本当ですか? ……なら、離しますけど」
名残惜しそうな表情で離れる彼女。
前世の記憶と常識が邪魔をするが、なんとか俺も深呼吸をする。
引っかかるのは、さっきの祖母の表情。前の人生であそこまで喜ばれたことがあったっけと、そんなことを思ってしまう。
前世……というか前の記憶で、見舞いもなく死んだ俺からすると……あの表情だけでも暖かくて、不思議な気分だ。
「あ、お医者様呼んできますね玲。待っててください」
それから祖母ちゃんはそう言って、部屋を出て行ってしまう。
その去って言った扉を見て、どういう訳か寂しいなと思って……逃避なのかまた窓の外を見れば、空には龍が飛んでいて……。
「……これ、前世還りってやつなのかなぁ」
明らかに異常な光景に、そうこぼした俺は祖母ちゃんが帰ってくるまで寝転がることにした。
あれから二日が経って、健康だと判断された俺は無事退院することができた。
お世話になった病院の先生や看護師の方々に挨拶をし、祖母ちゃんの後をついていって電車に乗り込む。
中の景色は前世と変わらないものだ。
広告があって次の駅を表示する画面が上にあって、だけどやはりというかこの世界故か電車にいるのは人間だけではなく異種族が沢山。
まじまじと見ないようにするが、やはり慣れない景色というのは不自然で気が付けば目で追ってしまう。
ここ二日で慣れた気にはなっていたけど、まだまだなようだ。
家があるのは東京の中でも田舎にある神去町という町。由来としては神がいない場所とかだった気がするその町の神社が俺の実家である。
家の最寄り駅までは、電車で三十分程。
祖母ちゃんが心配しすぎてか、離れた設備のそろった大きな病院に運んだらしく移動が大変な気がするが、それだけ今までの俺が愛されてたってことなんだろう。
それに、この世界で生まれて俺は初めて電車に乗るし前世の記憶があるとはいえ、わくわくするというか……久しぶりに揺られるのが少し楽しい。
「ふふ、玲そろそろ着きますよ」
「了解祖母ちゃん」
そう言われたので、俺はまた彼女の後ろについてホームドアから出て改札にICカードをタッチした。ここは変わらないんだなとか思いながら、駅を出て広がっている景色は紅葉。
今の秋という季節らしく、赤や黄色に彩られた並木道があって、遠くを見渡してみれば神社がある山までもが彩られていて、とても綺麗だった。
わぁと数日前までは当たり前に見ていた景色なのに、前世の記憶のせいなのか、その景色がとても綺麗なもののように見える。
「祖母ちゃん、綺麗だね」
「お祖母ちゃんはいつも綺麗ですよ?」
「……その、そっちじゃなくて紅葉」
「……むぅ、孫が反抗期です」
冷静にツッコめば、不満げな顔を見せる確か何歳だっけ祖母ちゃんって。
少なくともすごい生きてるらしい彼女の見た目だけならの年相応な反応に、複雑だなとか思いながらも、彼女が手を出してきたので不思議だった。
「……えっと?」
「玲、転ばないように手をつなぎましょう」
自然に笑う祖母ちゃん。
ただ純粋に俺を想ってなのか、そうやって手をつなごうとする彼女。
たったそれだけの行為、きっと転生者であることを知らないだろう彼女、俺の前世の事なんて一切知る由もないはずの彼女のそんな些細な行動。
「――いいの?」
「当たり前です、家族なんですから」
ふんす、と胸を張る祖母ちゃんの手をおずおずと握る。
真っ白い手、だけど確かに感じるぬくもりがこれが夢ではないという事を知らせてくれる。夕焼けに照らされるこの時間、手を握ってくれて笑いかけてくれる彼女は優しくて。
「ねぇ、祖母ちゃん。帰ろっか」
「はい、今日は退院祝いですからね。奮発してお寿司でも頼みましょう」
そんな他愛のない会話でさえ、嬉しく感じる俺は。
きっと本当に愛情というモノに飢えてたんだろうと……そんな事を思う。
それから見慣れているけどはじめてに感じる町中を抜けて、山を登った俺は神社の横にある家に入り自室で寝転がった。
「転生とか……なんだよね、これ」
前世の記憶も、今世の記憶もどっちもある状況。
どういう訳かそうなってしまった俺は、どう生きるべきか分からない。
でも、あの些細な行動が今の今まで百鬼玲として生きていた記憶が……前世の何もなかった自分が、こう言うのだ。
祖母ちゃんと過ごすあの時間を失いたくないって。
いつも当たり前に感じていたたった一人の家族からの愛情。
前世の記憶を取り戻して、それが当たり前じゃないと知った俺は……それをなくしたくないと思ってしまう。
「……それは、怖いな」
俺は百鬼玲だ。
だけど、同時に前世の誰かでもある。
それが混ざった自分は、今まで通りの俺でいられるか分からない。そしてそれが知られてしまって、あの人に拒絶されるのが怖い。
それと同時に、この世界では孤独に生きるのは嫌だとそうやって……思うんだ。
「もう、一人で死にたくない」
心の底からそう願う。
……死ぬときは一人だとか、人は孤独でしか死ねないととか色々聞くし、それを何よりも思い出してしまった自分だからこそ。
この世界では「悔いが残らないように」いろんな人に囲まれて死にたいと。
そんな事を切に願ってしまう。だって、あんな末路を辿りたくないから。
「……だからこそ、全力で人と関わるんだ」
ここは、ファンタジーになった世界だ。
いろんな種族の人たちがいて、いろんな不思議な術が存在する、前世からするとあり得ない世界。知らないこともいっぱいで、きっと前の世界よりも大変だ。
だけど、年甲斐もなくワクワクするから、決めた。
俺はこの世界で本気で生きていこう。
もう、二度と後悔はしないように。何より、あんな寂しい死に方をしないように――どこまでも全力で。