青春の裏側より愛を込めて   作:なまなまな

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来週も予定通りでした


また明日

「……さて」

 

前回、私は【青春】について、ほんの少しだけ理解したような気がしました。

 

何の意味もなく,目的もな。

ただ、誰かと遊ぶ。

そして、その一日を記録した小さな写真を。

理由もないから捨ててもいい。けれど、捨てられない。

 

……あれもまた、【青春】だったのでしょう。

 

さて、それでは…

「次は何を調べるべきでしょうか」

 

 

◇◇◇

 

 

私は、放課後の街を歩いていました。

あちらこちらから、生徒たちの声。

部活、喧騒、賑わい、他愛もないような日々。

 

「おい止まれ!規則違反者!!」

 

「はっ!嫌なこった!」

 

「めんどくさい、めんどくさい…早くシャーレに行きたい…」

 

 

「ぱんちゃーん!!出てきてくださーい!!」

 

「ブラックマーケット行かね?最近面白い銃を仕入れたって聞いてさ。グローブと拳銃が…」

 

…ふむん

 

「また明日ねーエリカちゃん!」

 

「明日は遅刻、しないようにね?」

 

「分かってるってば!」

 

……ふむ?

……また明日。

 

(また明日…ですか)

 

私は、足を止めました。

面白い言葉です。

 

明日、また会う。

 

当然のように皆さんはそう言います。

しかし。

明日、必ず会える保証など、どこにもありません。

キヴォトスでは尚更…

銃社会というテクスチャの都合上…危険度が歴代でも…

せめてファンタジーでしたら、まだ安全でしょう。

くしゃみをしただけで、事故に遭うかもしれない。

笑っただけで喧嘩するかもしれない。

 

…あるいは、それを最後に二度と会えなくなるかもしれない。

 

それでも、皆さんは言うのです。

また明日と…

 

「…………ふむん」

 

私は少し考えました。

 

もしかすると【青春】とは、明日が来ることを当然だと思える時間のことなのでしょうか。

 

……いえ、

少し飛躍しすぎですね。

これもまた、私の悪い癖です。

 

◇◇◇

 

夕方。

沈みかけの夕日が本日最後の見届けをする最中にて。

人通りが少なくなった頃に私は、一人の生徒を見つけました。

学校の校門の、皆さんが帰っていく中。

一人だけ、壁にもたれて空を眺めていました。

まるで明日になれば消えて無くなりそうな空虚な顔で…

 

「…………」

 

…帰らないのでしょうか。

私は少し離れたところから観察しました。

 

五分。

(もう少し近づいてみましょう)

十分。

(もう少しだけ、記録のために近づきましょう)

二十分。

(もう少し)

30分。一歩も動く気配なし、全くもって帰りません。

そういえば、最近ではそう言うストリートパフォーマンスが流行っていましたね

銅像のフリをして、お金を稼ぐやつです。「…………近い」

 

 

「………ふむ?」

 

「いやあの……近い」

 

「ああすみません、パフォーマンスの邪魔をしてしまいましたね」

私は謝るついでに財布からお札を取り出しました。

「……なんのつもり?」

「なんのつもり、とは?」

「なんでお金を私のポケットに突っ込むのよ」

「パフォーマンスがあまりにも上手でしたので」

「パフォーマンスをしてたわけじゃないから!」

「そうですか…ではこれは回収して…」

「いや、これはいただいておくよ」

そういい、勘違いした私がポケットのお札に伸ばした手を弾きました。

……回収したかったのですが…騙されることもまた【青春】…ですよね。

 

……とはいえ、俄然気になります。

 

研究者として。

……気になりました。

 

「帰らないのですか?」

 

「……は?」

 

「あなたは、帰らないのですか?」

 

「帰るよ」

 

「そうですか」

 

「…………」

 

「…………」

 

ですが。

彼女に帰る気配は一向にない。

 

「帰らないのですか?」

 

「帰るって言ったじゃん」

 

「ですが、先ほどから一歩も動いていません」

 

「…………」

 

少女は、少しだけ困ったように笑いました。

 

「……もうちょっとしたら」

 

「なるほど」

 

私は頷きました。

帰る予定はある、しかし、今ではない。

そういうことですね。

 

「では、私は失礼します」

 

「え?」

 

「……私は、帰る場所は、ありますので」

 

「そっか。サヨナラ。」

 

サヨナラとは、別れの言葉

その言葉だけ、妙に耳に残りました。

 

またね、ではありませんでした。

 

◇◇◇

 

次の日。

彼女がいました。

同じ場所、同じ時間。

 

やはりパフォーマンスでお金を稼いでいるのでは…?

 

「…ふむん…またいるんですか」

 

「そっちこそ」

 

「私は偶然です」

 

「嘘つけ、また観察でしょ?」

 

よく分かりましたね。

 

「何してるの?」

 

「【青春】を調べています」

 

「は?」

 

「青春です」

 

「いや、聞こえたけど」

 

「そうですか」

 

少女は、しばらく私の顔を見ていました。

 

「……変な人」

 

「よく言われます。ですがそれが私です。私はそれを気に入ってます。」

 

「ふふ…まるで機械ね。」

 

少しだけ彼女は笑いました。

 

◇◇◇

 

それから私は時々、その校門へ行くようになりました。

 

偶然です。

本当に。

……たぶん偶然。

私が偶然というのですから偶然です。

 

彼女は、いつもいました。

名前を聞いたことはありません。

聞く必要がなかったからです。

彼女も同じ思いだったのでしょう、私の名前を一度も聞きませんでした。

 

それでも、話しました。

 

今日あったこと。

 

学校の先生の愚痴。

友達が寝坊したこと。

授業中に寝たこと。

くだらない話。

 

本当に。

くだらない話ばかりでした。

 

「……それでさ」

 

「はい」

 

「昼飯のパンが売り切れてて」

 

「はい」

 

「マジで最悪だった」

 

「それは最悪ですね」

 

「でしょ?」

 

「はい」

 

「……なんか、話聞くの下手じゃない?」

 

「そうでしょうか」

 

「うん」

 

困りました。

会話の研究も必要かもしれません。

私は自分は聞き上手だと自負していたのですが…

研究の時も、ゴルさんにたまにそう言われてましたし。

 

「ところで」

 

そんなある日、彼女が私に聞きました。

 

「普段、何してんの?」

 

「研究です」

 

「学校は?」

 

「……行く時もあります」

 

「趣味は?」

 

「研究です」

 

「休みの日は?」

 

「研究です」

 

「友達と遊んだりは?」

 

「…………最近は」

 

そこで私は踏みとどまった、止まってしまった。

 

最近、プリクラを撮りましたがあれは偶然です。

なので答えは…

 

「ありません」

 

「ないの?」

 

「ありません」

 

「マジで?」

 

「はい」

 

彼女は、少し驚いたような顔をしました。

 

「……楽しくないの?」

 

「……?」

 

「いや、だから」

 

彼女は、言葉を探すように。

 

「研究ばっかしてて。楽しいの?」

 

「…………」

 

私は、答えられませんでした。

 

楽しいかどうかなんて基準で、考えたことがありませんでしたから…

研究は、必要だからするものです。

知りたいからするものです。

 

卵が先か鶏が先か

キヴォトスが先か外の世界が先か

宇宙が先かキヴォトスが先か

子供が先か大人が先か

理解できなければ、調べる。

分からなければ、考える。

それだけです。

 

楽しいかどうかなんて、一度も考えたことがありませんでした。

なので…

「……分かりません」

 

私がそう言うと…

彼女は、少しだけ笑いました。

 

「なにそれ」

 

「分かりませんから」

 

「そっか」

 

「はい」

 

「……まあ、いいんじゃない?」

 

「そうでしょうか」

 

「うん」

 

彼女は空を見上げました。

 

「分からないことがたくさんあった方がいいでしょ。少なくともあなたはそれでいい。

だって、楽しそうに見える。」

 

「…………そうですか?」

 

「うん」

 

そうでしょうか。

 

私には。

自分が楽しそうに見えるかどうかすら、分かりませんでした。

ですが、森羅万象より無知無能の方が優れている

と私は思っています。

私は、探求しています。

興味があるので。

 

だからこそ、【楽しそう】

その言葉がしっくりきたのかもしれません。

 

◇◇◇

 

数日後

彼女は、手を怪我していました。

 

「怪我をしていますね」

 

「ん?」

 

「右手です」

 

「あー」

 

彼女は、自分の手を見ました。

 

「これ?」

 

「はい」

 

「転んだ」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

「…………」

 

「…………」

 

私は、それ以上聞きませんでした。

 

なぜでしょう。

 

聞く必要がないと思ったからでしょうか。

それとも彼女が嘘をついている証拠がなかったからでしょうか。

 

あるいは…

聞いたところで、答えてくれないと思ったからでしょうか。

 

……分かりません。

ですがその時の私は

 

「そうですか」

 

と、それだけ言いました。

 

◇◇◇

 

また別の日。

彼女の制服が汚れていました。

 

「汚れていますね」

 

「うん」

 

「何かありましたか?」

 

「別に」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

私は、それ以上聞きませんでした。

 

◇◇◇

 

ある日。

私は聞きました。

 

「……なぜ、帰らないのですか?」

 

原点回帰でした。

少女は、少しだけ黙りました。

 

「…………」

 

「聞かない方が良かったでしょうか」

 

「いや」

 

彼女は笑い…

 

「家、嫌いなんだよね」

 

「…………」

 

「それだけ」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

それ以上彼女は何も言いませんでした。

 

私も、聞きませんでした。

 

……いえ。

 

聞かなかった、聞けなかったのです。

 

私は、研究者。

観測する。

記録する。

推測する。

 

しかし。

対象に介入することは、また別の問題です。

 

下手に踏み込めば相手を傷つけるかもしれない。

関係を壊すかもしれない。

余計な問題を生むかもしれない。

 

変化への介入は…危険です

 

だから私は何もしませんでした。

 

しかしそれは間違い、今思い返せばですがね。

だってそもそもこうやって、既に介入しているので。

なのになぜあの時は…やってることと矛盾した考えで言い訳をしたのか…

 

「…………」

 

それが正しかったのかは、今でも分かりません。

 

◇◇◇

 

「明日になれば、なんとかなるよ」

 

ある日彼女が言いました。

 

「何がですか?」

 

「さあ?」

 

「なんとかなると言いましたよね」

 

「なんとなく」

 

「…………」

 

理解できません。

 

「明日になれば、何か変わるのですか?」

 

「分かんない」

 

「では、なぜそう思うのですか?」

 

「思ってないよ」

 

「……?」

 

「ただ、言ってるだけ」

 

「…………」

 

彼女は笑いました。

 

「明日になれば、なんとかなるよ」

 

もう一度彼女は言いました。

 

「……そうですか」

 

私は。

その言葉を記録しませんでした。

抽象的すぎて、くだらない言葉だと思ったからです。

 

◇◇◇

 

ある日

彼女はいませんでした。

 

「…………」

 

たまたまでしょう

 

私はそう思い、1時間経ってから踵を返しました。

 

次の日。

 

いませんでした。

 

その次の日も。

 

いませんでした。

 

「…………」

 

まあ、家に帰ったのでしょう。

なんとかなる明日が到来した。

そう考えました。

 

それから私は、校門に行かなくなりました。

理由はありません。

彼女は研究対象ではありません。

私が観測しなければならない義務もありません。

 

……そもそも、名前すら知らないのです。

 

◇◇◇

 

数週間後。

ブラックマーケットを歩いていた時のことです。

 

「最近、ゲヘナ学園の辺りヤバいらしいよ」

 

「なんか学生が巻き込まれたとか」

 

「行方不明者もいるって」

 

「怖いね」

 

「…………」

 

私は、足を止めました。

 

学生。

 

行方不明。

 

…ゲヘナ学園。

 

「…………」

 

関係ありません。

キヴォトスではそんな話、珍しくもありません。

 

事件が起きる。

人が消える。

誰かが泣く。

誰かが忘れる。

 

…それだけです。

 

「…………」

 

私は歩き出しました。

その刹那

なぜか、あの子の言葉を思い出しました。

 

『明日になれば、なんとかなるよ』

 

「…………」

 

くだらない言葉です。

私は、そう思いました。

 

◇◇◇

 

それから何ヶ月か経ちました。

 

彼女を見かけることは一度もなく、

それもそのはずで、私は彼女を探していません。

探す理由がなかったからです。

 

……今思えば

 

今思えば…理由がなかったのではありません。

理由を作らなかっただけなのかもしれません。

作りたくなかっただけかもしれません…

 

「…………」

 

あの日。

もう少し聞けば良かったのでしょうか。

 

「大丈夫ですか?」

 

心配をして、聞けば良かったのでしょうか。

 

「家に帰りたくないのなら」

 

「一緒にどこかへ行きますか」

 

と、言えば良かったのでしょうか。

 

「…………」

 

分かりません。

何しろ私は。

エゴと推測にまみれていますから。

我儘です。自分勝手です。臆病です。

 

私が手を差し伸べれば彼女は救われた?

…いいえ

そもそも彼女は救われることを望んでいたのでしょうか。

…それもいいえ

 

私は…はたして彼女の何を知っていた?

 

名前

年齢

家族

友達

好きなもの

嫌いなもの

 

 

何も知りませんでした。

 

ですが一つだけ

 

夕方になると校門の前にいた。

それだけです。

 

「…………」

 

それでも時々思い出します。

夕方の、誰もいなくなった校門。

一人で立っていたあの少女を。

 

『明日になれば、なんとかなるよ』

 

……あの子は明日を信じていたのでしょうか。

 

それとも、信じるしかなかったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

……そもそも明日を信じていた確証は…?

 

 

 

彼女は何を信じていた?

 

 

 

それは…声をかける…「ちがう」

 

 

 

……断じて違います

 

綴っていた日記帳を破き捨てる。

 

「私には分かりません。分かりたくはないです。」

 

彼女はいなくなりました。

そしてそれからも、彼女は戻ってきませんでしたそれだけです。

何も見向きされないただの少女の一幕。

 

「…………そんなわけがない」

 

 

「…そんなわけは…決してないです。」

 

 

あの日あの時あの場所で

皆さんは楽しそうに言っていました。

 

「また明日」と。

 

私はあの子に一度も言いませんでした。

 

「また明日」と。

 

あの時私が何かをしていれば、何かが変わったのでしょうか。

 

「……分かりません。」

 

私が何もしなかったことが正しいのか間違いか、それすら分かりません。

 

 

 

ですが、一つだけ、今になって思うことがあります。

 

【青春】とは、やはり楽しいだけのものではないのでしょう。

 

皆が笑っている場所の外側にも青春はある

誰にも気づかれない場所にも青春はある。

 

誰かが「また明日」と言っている、そのすぐそばで。

誰かは「また明日」が来ることを怖がっているのかもしれません。

 

…もし、あの子が今もどこかにいるのなら。

もし、明日を迎えているのなら。

 

今度こそ、言ってみたいと思います。

たとえ返事がなくても…言おうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また明日」

 

私はそう呟いて、ぐしゃぐしゃに丸めたページをセロハンテープで無理やりくっつけました。

我儘ですみません。

結局私は何がしたいのかについて、私自身わからなくなってしまったようです。

明日以降はもう少し、素直に生きましょう。

折角の自由なのですから、来週はもっと、くだらないことを綴りましょう

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