青春の裏側より愛を込めて 作:なまなまな
シルバーウィークだというのに
39度の熱を出しました
全てが原因な気がする
鳥刺し、ジビエ、暴飲、冷房の汚い空気
ラクダとカンガルーのお肉がすごい美味しかった。
写真を撮らなかったことを少し後悔してます。
「……悲鳴が聞きたいんだ
私と同じくらいで、物怖じしないタイプがいい」
それは、中性的な声で唐突に語りはじめた。
人を馬鹿にするような狸のお面を着けたそれは、
まるで夕飯の献立でも話すような口調で言った。
「それだけ?」
私は尋ねた。
「ああ、それだけさ」
自信満々に答える。
あまりにも単純だった。
世界を揺るがす思想もないし、復讐も金銭目当てでもない。
ただ、人が恐怖に耐えられなくなったときに出す声。
それを聞きたい。
狸のお面を着けたそれは、それだけの理由で、私の首筋にスタンガンを当てたのだった。
◇◇◇
私は、とある建物の一室にいた。
何処かは無論分かるはずもなくそして、私の向かいには、もう一人の少女。
制服は薄汚れていて、俯いている。
けれど、その右手だけは妙に落ち着いていた。
手首に巻かれているのは、一本のミサンガ。
赤と白と青で、少し古びている。
そう、あのミサンガだ
あのとき私が出会ったヘルメット団の、ボスのそれ。
色が似ていて、簡単に思い出せた。
「……それ」
私が指差すと、少女は顔を上げた。
「これ?」
「ええ、そのミサンガ、どこで貰ったものですか??」
「これ?作った。私が作ったんだ。」
そう言って、彼女は少しだけ笑った。
「ずっと付けてるの」
「大切なのですか?」
「うん」
短い返事だった。
その言葉を聞いた瞬間。私は、以前見たヘルメット団のボスの言葉を思い出した。
最強になる。そう言っていた。
くだらない目標、あまりにも子供らしい。
だからこそ眩しかった。
そして、その手首にあったミサンガと
今、目の前にあるものが、
やはりどう見ても、同じ眩しさを放っていると感じてしまう。
「……あなたは」
私は少女を見つめた。
「相棒がいたのでは?」
「…よく分かったね。いたよ。ずっと一緒だった
ゲヘナ地区郊外のブラックマーケットを、取り仕切ってたんだ。」
その言葉だけで十分だった。
これは、私の求めていた事象だ。
世界には私の知らないところで、私が観測していなかったところで。確かに青春が続いていた。
これはその証明だ。
出会う場所だけどうにかなっていれば完璧だったと思う。
◇◇◇
私は質問を続けた。
好きなもの。嫌いなもの。学校。友達。将来。
どうでもいい話ばかりだった。
それが狸のお面を着けたそれの神経を苛立たせたようだ。
殴る音、骨を折る音、悲鳴
私はそれを観察していた。
観察して分析してそして、何もしなかった。
いつもの私だった。
◇◇◇
最低限の食事を与えられた瞬間が、私と彼女の唯一の自由時間でした
「……ねえ」
突然こちらを見た。
「あなた、怖くないの?」
「怖いですよ」
「そうは見えない」
「慣れているだけです」
「何に?」
…私は答えなかった。
研究。観測。理解。
そういうものに、私はずっと慣れていた。
それしかしなかったから。
果てには、研究される自分自身すらも、私にとっては研究対象となっていた。
そのときには既に、
なんかもう、すべてがどうでもよくなっていた。
ヘルメット団のボスの相方は、
目の前で何度も何度もミサンガを握り直している。
「それ、大事なんですね」
「うん」
少しだけ笑った。
「帰ったら、あの子に見せるんだ」
「……帰ったら?」
「うん」
「会えると?」
「会えるよ」
迷いのない言葉だった。
私はその言葉を否定しなかった。
◇◇◇
時間が過ぎて男は私たちを見比べた。
「どっちの声がいいかな」
そう言った。
私は初めて、彼、もしくは彼女のことを、研究対象を見るような目をやめた。
そんな気がします。
「私を残してください」
男がこちらを見る。
「……何?」
「彼女ではなく、私を残してください」
「へえ」
それは笑った。
笑って近付いて、枷で壁に固定されている手にナイフを突き刺した。
グリグリと、血を確かめるように執拗に捩る。
「っ…!!」
「自分からそんなこと言うんだ」
「彼女には…帰る場所があります」
「ちょっと」
「あなたには、待っている人がいます」
「……やめてよ」
「だから」私は言った。
「あなたを残したほうが、合理的ですし、楽しいですよ。」
合理的。そんな言葉しか。私は知らなかった。
男はしばらく黙り、そして
「面白いね」
と、笑った。
「君、面白いよ」
◇◇◇
結果だけを書きます。
彼女は帰ってきませんでした。
私は帰されました。
なぜ私だったのか、分かりません。
なぜ彼女だったのか、それも分かりません。
男にとってはただ、私より彼女のほうが都合がよかった、それだけなのかもしれません。
もしかすると私が交渉したことに、興味を持ったのかもしれない。
あるいは
最初から結果など決まっていたのかもしれない。
……これは、私の推測です。
何しろ私は。
エゴと推測にまみれていますから。
…
何がエゴと推測だ
自分を正当化させるためのモットーを羅列したところで
なにかが変わることはい
あるのは、胸に残る痼のような罪悪感と虚しさ
ですが、それすら興味深さを感じてしまう私は
…なんなのでしょうね
◇◇◇
帰ってから私は、あの少女の友達を探した。
見つからなかった。
何度探しても見つからなかった。
繰り返した
時間はいくらでもある
自身に設定したテクスチャを変え、様々な姿になって、ひたすら探した。
ある日はラーメン屋の大将
ある日はブラック企業の役員
ある日は副担任
そして、ある日。
あのミサンガを見つけました。
ミサンガは千切れていました。
無理矢理引きちぎられたのか、それとも成就して自ら千切れたのか…
私はそれを拾い上げ、その場から立ち去った。
彼女との思い出など、ほとんどない。
ただ、一度だけ話した。それだけだ。
それなのになぜか捨てることができない。
理由はない。意味もない。価値もない。
それでも捨てられなかった。
……きっと。これも【青春】なのでしょう。
そう思いたかった。
けれど今回は、そう思うことすらできなかった。
青春だから。友情だから。大切だから。
そんな言葉が何かを救ってくれるわけではない。
ミサンガを大切にしていた相棒も。
相棒を待っていたヘルメット団のボスも。
その時間を知っていた私も。
誰一人として何かを得たわけではない。
一人、いなくなった。
ただそれだけだった。
しかし、そんなことがあったとしても
世界は私たちを無視して
何事もなかったように。今日も動いている。
……それが一番残酷だったから
私は胃の中身を全てを、堂々と道のど真ん中でぶちまけてしまったのでしょう。
誤字脱字あったらすみません。