初めに光があった。
目を開けたら女の顔があった。
黒髪で丸顔で、おそらく背が低い……らしい。
白衣だ。
だが、私は誰だ?名前もなにもわからない。
体はどうなってるんだ?
「おはよう、宇宙人ちゃん。聞こえる?あなたは宇宙から落ちてきて、つい三日前まで粘土みたいな生き物だったわ。そして今、体が出来始めている……科学者として興味がつきないわね」
マジか。私は宇宙人なのか?
こう……事故とかで記憶がぶっ飛んだだけじゃないか?
「寒天培地だけでこれだけ増えるのだから次はこれを試してみましょうかね」
何か液体を垂らされた。なんか……体に力がみなぎってくる!
そして眠気が……
「今は眠っていなさい。運が良ければ人型になるかもしれないわね」
大丈夫なのかこれ。私はどうなるんだ……
「まあ人型に成れなくてもそれはそれで一つの命よね」
どうなるんだよ私は。
■
目が覚めると私はどこかのベッドの上にいた。
手足がある。ちゃんと人間の形だ。
体を起こすとどうも私は裸の少女らしい。
視界の端に金髪の髪が見える。小さく柔らかい手も。
「目が覚めたのね。宇宙人ちゃん。さあ、あなたは何を話すのかしら。私はイオリ。ミナホシ、イオリよ」
「……私は宇宙人なのか?」
「なるほど日本語を話すのね。ふぅん……何か覚えている事とかあるかしら?」
「いや……記憶がまったくないんだ。なのになぜか知識や言語がある。私は人間ではないと言われてもまるでわからないんだ」
私の前に何かの写真が出された。
……私がバスケットボールくらいの粘土から人間の少女のような形になるまでの記録だった。
ほんとか~!?こんなの合成とかそういうので作れるんじゃないの~?
「……本当に?」
「私ができる証明はこのくらいね。それにしてもどうして言語を習得できたのかしら……眠っているうちに音を聞いていた……?いえ、あるいは」
女性が私の脈を取るように手を掴んだ。
あっ、なんだこれ。
今は2027年。この人は水乃星依織。戦争、人間、遺伝子工学。
ものすごい量の知識が頭に入ってくる!
これは……依織の記憶か?うわあ頭がなんかスッキリしていく!
どんどん頭が明晰になっていくよ~!
「やっぱりね。あなたは触れた他者の記憶を読んでいるわ。こちらにもあなたの記憶がわかるもの。本当にそういう生物なのね。おそらくは宇宙を旅して現地の生物を真似てそこで適応する種」
明晰になっていく頭でわかった!
こんなことができるのは確かに宇宙人か何かだ。
いやこの人が超能力者という可能性もあるが。
あっなんか宇宙空間で浮かんでたような記憶もぼんやり思い出してきた。
だがその頃の記憶はマジで頭がぼーっとしてた感じなのでたぶん私という個体は宇宙空間で生まれたらしい。
それ以前の記憶が存在しない。
「……たぶん私はここで初めて産まれた存在だと思う。粘土のような形態だったとしたらそれはおそらく卵か幼生なんだろう」
「でしょうね。知能も高そうで何よりよ」
「それで私はどうなる?」
ここはどうもこの人の家らしい。
研究施設とかではないのはちょっと安心だが、それはそれとしてどうなるんだ私は。
政府とかに解剖されたりするのか。
「とりあえず育ててみるわ。まずは食事ね」
女性はスッと立ち上がると机から何やらゼリー状のものが入ったいくつかの器とスプーンを出してきた。
「自分で食べられる?これはスプーン……あら、結構器用に食べるわね」
差し出されたスプーンを使ってまずは一口。
う、うまい!甘い!
記憶にある甘さと実際に舌にで味わう感覚が一致する。
これは……ゼリー飲料、それもプロテイン入りのやつだ!
「地球の味はどう?」
「うまい!食べるほどお腹がすいてきた。もっとあるかな?」
「とりあえず無理のない範囲で食べてみましょう」
おお、おかわりだ。
うまい、うまい、うまい!あれっ、なんか視点が高くなってないか?
「やはりタンパク質は成長が早いみたいね。あなた身長が高くなってるわよ」
マジか。マジみたいだな。手足のサイズがちょっと大きくなってた。
ウッソだろ……
ワンチャンただの事故にあった人間で何らかのドッキリかなと思ってたんだが。
「……本当に宇宙人だったのか私は」
「なるほど、疑う知能もあるようね。やはり私の脳神経を真似ている」
思いっきり観察されているなあ。
宇宙人と人類の初接触ってこんな感じで良いんだろうか?
■
それから依織による「教育」が始まった。
ネットや本、テレビによって私はどんどん知識を吸収していく。
だがまあ、読み取った通りだなという感じだった。
「へえ、握力五百キロ。ゴリラ並みね。見た目は中学生くらいなのに」
「だいぶ……だいぶバケモノだな私は」
「そうかしら、地球上の生命の範疇にとどまっているのが私には意外よ」
そして私自身の試運転というか、身体計測。
わかったのはだいぶ私はモンスターだったことだ。
やろうと思えば自分の肉体なら粘土に戻せるとか。
「じゃあ少し学習の趣向を変えてみましょう」
依織がスマホをシュッとするといきなりテレビにエロビデオが!
「エッ!こういうのは、その、よくないのでは」
「あなたが人型を取った以上、性を知らないまま外へ出す方が危険でしょ」
「それはそうだけど」
あっ、ダメだこれ。これが性欲か。無理だ押さえられない。
「人類の地球外生命体との初接触と言う訳よね。興味深いわ」
「う、う、ウワーッ!ごめん!」
とりあえず……私は下半身も可変だとわかった。
■
朝起きたらなんか赤ちゃんがいた。
いや10か月経ったとかそんなんじゃないんだ。
即日だ。その日の朝起きたらいたんだよ布団に!
「ウッソだろ……」
「あら、どうも私が産んだみたいね。母体に負担が少ない繁殖形式をとるのねあなたは」
気が付けば、すやすや眠る赤ん坊を私は本能的に抱いていた。
愛おしい……!
抱き上げて赤ん坊が乳に吸い付くとなんとまあこれが母乳が出るんだよ。
「依織……私とこの子がこの星で生き残るにはどうすればいい……?」
「なら逆にもっと増えるべきね。そして遺伝子解析をもっと進めるわ。まずはあなたがどういう生き物かを知る事よ」
それが天啓のようにカチリと直感にハマった。
そうだ、増えればいい。根絶されないほどに。
いや~でもな~!
いくら成長が早いといっても食べる物はいるわけだし……
考えろ。考えるんだ私!この星で私たちが稼ぎ、食うには!
「依織、君は科学者なんだろう?なら私のこの細胞や肉体は売れないか?」
「あなたがそういうのを待っていたわ」
依織の顔は悪魔のように優しかった。
「けれど、それはまだ後だしなんなら最初に採取した粘膜や欠片で十分なのよね」
よかった~!
この子のためならば身売りだってするが、解剖とかはさすがにな……
「それよりも、あなた達という種を増やすこと自体がおそらくは強力な切り札になるんじゃないかしら」
そうかな?そうかも。理屈はわからないが、その流れは助かる。
だからこそ、私はちゃんと言わねばならない。
「……助けてほしい……!この子のために。私たちという種がこの星でやっていけるように……!」
「もとよりそのつもりよ。じゃなきゃ体を許さないでしょ」
「その節は大変申し訳なかった……」
「私も楽しめたからそれはいいわ」
それはまあ……いい感じではあったんだが。
「それよりも、いつまでも宇宙人ちゃんじゃ不便だしこの子とあなたの名前を決めましょう。そうね……あなたは『らいふ』この子は『ヨル』。依織とらいふの子で夜に生まれたから。いいかしら?」
文句が言える立場ではない。そしてその名前は割と気に入った。
「いい名前だと思う。らいふ、か……」
そうだ、生きよう。まずは生きよう。
すべてはそれからだ。
「ふええ、あむう」
「ヨル。お前はヨルだ……!」
ヨルが目覚めて泣き始めた。おーよしよし。
「いい子ね」
依織がヨルの頭を撫でる。その眼差しはとても優しかった。