そういうわけで神代アキたちを食堂に案内することにした。
まあまあ広くて明るい食堂だ。
なんていうか、古びた町中華を新築で広めに再現しました、みたいな感じだよ。
「じゃあ初めに名乗っとくけど僕らは『夜回りの会』。予約にもそう書いてあったよね?都会でちょっと面倒事を片づけてるんだ」
「自警団みたいなものかい?噂ではやらかした同族を狩ってるグループがいるとか聞いたけど」
そういう同族もいるとかカナメが言ってたな。
ノリが異能バトルのそれとか聞いたよ。
この人たちがそうか。
「ああ知ってるの?なら話が早いね。そういうこと」
神代アキから威圧感は感じないけど、嫌だな~!
お前は秘匿を破ったとか言い出さないよね?面倒だな~!
そういう事なら絶対ケンカ強いもんこの人たち。
参ったなあ~!何とか話し合いで納めたいなあ~!
あれこれひょっとして今わの際かい?マジで?いきなり今?
くそっ!腹を括るしかない!なんで命がけの交渉が何の前触れもなくポップするんだよ!
「……それで、私たちに何の用かな?」
「ああ、そんなに警戒しないでよ。文句をつけに来たんじゃないさ。むしろ火中の栗を拾ってくれたと思ってるよ。僕はね」
僕はねってのが怖いよ!明らかに『夜回りの会』の中に納得してないやつがいるってことじゃん!
「意外だね。余計なことをするなって言われるかと思ってたよ」
とにかくポーカーフェイスだ……!舐められないように、敵対しないように立ち回るしかない……!
「むしろ矢面に立って人間相手の面倒な手続きをしてくれて助かるかな。それに僕らも共存を考えて自警団してるわけでさ」
ここで神代は言葉を区切って私の目を見た。澄んだ青い眼だ。
なんて言うか、修羅場をくぐったスゴ味があるんだよね……
私も目をそらさず見つめ返す。
これでも村長なんだ。逃げるわけにいかないだろ。
「……だから、手を組まないかい?」
「それは助かるけど、具体的にはどういう事になるのかな」
「僕らは都会で危ないやつを狩る。君たちは田舎で戦わなくて済む場所を作る。でもお互い種族の代表ってわけじゃない。それは通してくれるよね?」
あ~、最後の種族代表じゃないってのが大事なんだろうな。
それはそう!私たちはあくまで一つの群れにしかすぎないもんね。
「わかるよ。要するにゼノミムスは田舎でおとなしくしてる存在って定義されるのは困るってことだよね?」
「そういうこと。あとは役割分担でさ。お互いうまくやれそうじゃない?」
よかった~!思ったより平和的な話だったよ!私にも偏見があったかもなあ~。
「ああそれが何よりだね。同盟ってことでいいのかな?」
「そ、詳しくはこれから決めるけどさ。こっちは都会の同族の情報を回すよ。あと戦闘訓練もできる。何かあったら駆けつけてもいい」
じゃあこっちが差し出せるものも考えなきゃね。同盟は等価交換が基本だよ。
「じゃあその代わりこっちは君たちに何かあったら匿うし、普段から保養施設として使う……いや、君たち用の家を手入れしておくよ」
「いいね。じゃあもうひとつ追加で殺すまでもないけど都会では生きていけないなって同族をここに送っていいかい?君たちで保護してくれるかな」
要するに厄介者の更生施設か~。それは期待されるよね!わかる!
やらかしたやつを村に入れるのはデメリットだ。
でも、うまく行けば人手になるしなあ……
あっ、そもそも同族の保護を掲げてたんだったよ私は。
じゃあ拒否する選択肢はないかな。ないな。くそっ。
「……わかった。できるだけ努力はしてみるけど、例えばそいつがマジでヤバいやつで村でもうまく行かなかったとしても怒らないでくれよ?」
「その時は僕らも来るさ。できるだけね。みんなで考えていこう。いいかな?」
「うん、そうしよう」
ここで私が全員に頼んでおいた日替わり定食が来る。
おっ、今日は焼き魚定食か。定番だね。
神代アキは意外にも丁寧にいただきますをして食べ始める。
「じゃあ一回食事タイムをはさんで話そうか」
「そうだね、食べよう」
うん、村のヤバい野菜も漬物にしたりデザートに出すとおいしいね。
「うまいじゃん。あのヤバい見た目から想像つかないよ」
「見た目のヤバさは私たちもヤバいと思ってるよ」
「自覚があってよかったよ。そうだ、あの女博士って僕らの治療とかできんの?」
そういえば依織がどれだけ私たちを把握してるか私もわかんないんだよね。
何しろ私も自分の種族特性をわかってないからね。
「わからないけど、少なくとも誰より私たちの身体構造を知ってるのはそうだね」
「じゃあまあ、それも期待しすぎない程度に頼りにするよ」
まあ自警団してればケガもするよね。
依織はどの程度できるのか知らないけど、後で頼みこんでおこう……
事後承諾で悪いなあ~!まあ無理だったら無理ってことで後で神代に謝ろう。
「ああ、ケガとか病気の時は助け合おう。これ後で書類にするかい?」
「そのほうがいいね。連絡先渡すからあとで送ってよ。これで今日の目的は八割達成だね!」
神代がスマホを操作して私にメールを送る。
よかった……穏便にお帰り願えそうだ。
話がまとまったところでそれまで黙っていた『夜回りの会』の男が口を開いた。
「神代さんの話は、俺もそれでいいと思ってる。君たちと助け合えるなら、俺たちにとってもありがたい」
そこで一度、彼は言葉を切った。
「でも……君や神代さんの言うこともわかるけど、ゼノミムスの中から怪物になってしまう奴が出た時のことを、この『たなばたの里』でも真剣に考えてほしいんだ」
それはそう!今まで棚上げしてた問題を突かれたな~!
確かにそれはうちの村の弱点なんだよな~!
「……ああ、それは確かにうちの村でも考えていかなきゃいけないことだね」
「……俺たちゼノミムスにも悪人はいた。だから俺たち自身が秩序を守れるって姿を人間に見せなきゃいけない。問題を起こしたやつを、同族だからって庇うのは……俺は違うと思う。説得できないなら、一人一人倒してでも……!」
なんかシリアスな人だな……都会大変すぎるだろ。
やっぱり田舎で正解だったね。
もちろんそれができたのはアニマフィリアのおかげで……
私は運がいい!!
「やっぱり、多少は僕ら自身で自衛する必要があるのかな?」
ここで神代アキが食後の麦茶を飲んで身を乗り出してくる。
「じゃあ、戦い方を教えようか?さっきの約束の履行でさ!」
うわあ急に生き生きするな!ひょっとしなくてもバトルジャンキーだなこの人!?
「神代さん……楽しむなとは言わないけど、拳を振るうってことを俺はそんな単純に考えられないよ」
さっきのシリアスな男が神代をたしなめる。
「雨宮さあ、嫌そうにやってたら勝てるものも勝てないよ。迷ってる間に相手が止まってくれるわけじゃないんだから」
「……わかってるさ」
「あ、らいふさんこいつうちのナンバーツーの雨宮ね。まっ、いつ訓練するかはそっちの都合のいい日でいいけど、今日のほうが話早くない?」
あっ、これ私が決めるやつか。
「わかった、手の空いてる子たちを呼んでくるよ。ここは辺鄙な場所だからね。早いうちにやったほうがいいと私も思うよ」
「そうこなくっちゃ!」
うへえ、人生初の格闘技体験かあ……
憂鬱だけどできるに越したことはないからね……
にしても本当に楽しそうだな神代アキ!バトルマニアすぎる……!
そんなわけでいきなり格闘教室イベントが始まることになった。
この村はいつでもいきなりだよ!