「で、私が産まれたってわけですね。どうするんですかこれ」
「私の会社でかくまうわ。いえむしろ繁殖プロジェクトと言った方が良いわね」
ヨルが1週間しないうちにデカくなっている!
私が女子高生くらい、ヨルが小学生のサイズだ。
頭は色素が薄い赤髪。見ようによってはピンクに見える。
服は幸い依織がネットで注文してくれた。
「宇宙人を会社で匿えるものなのか……?」
「身内で作ったバイオ系企業だからよ。いざとなればあなたの細胞から作ったものはうちで研究しましたというテイでいけばいいわ」
うーん、提供したのは私とは言え……
「何から何まで頼りきりですまない……!」
「だから自活できるように我が社でプロジェクトにしちゃうわけよ」
「すいませんお母さん……!なんだか私たちヒモ種族みたいで……!」
ヨルも頭を下げる。私もだ。
「あなたはいいのよ。私から産まれた子なんだから」
「えへへ……そ、そうですかね?」
「そうよ」
まあそう言う訳で依織の会社に車で行ってみる。
これが外の空気か……
■
「なんだい依織ちゃん、家にこもって研究してたと思ったら友達の子でも預かっていたのかい?」
依織の会社『アニマフィリア』には少数の社員がオフィスにいた。
これは……私の口から言うべきか。
とはいえだいぶイカレてる状況だしなあ~!
でも依織が説明すると車内で言ってはいたが。
「そうね、説明が難しいのだけれど……千歳社長、スピーシーズって映画見たことある?」
「エイリアンみたいなやつ?昔流行ったねえ」
千歳という社長はなんでも依織の叔父だとかでヘラヘラと笑っている。どうも軽い調子の男だ。
「この子はそれよ。友好的なスピーシーズみたいなものでこの子は私が産んだわ。らいふ、見せてあげて」
空気が凍っている……!そりゃそうだよ!
いきなりこんなトチ狂ったこと言われても困るだろうよ!
この状況を何とかするには確かにもう私が証明するしかない!
とりあえず手を粘土状にしてうねうねさせてみる。
ヨルも同じようにシナシナな表情で手を粘土にする。
「そういうわけで……地球の人にはまことに勝手かつ遺憾なんですけど……私が産まれてしまったわけで……!」
「大変……大変申し訳ないです……私も生まれて間もなく……自分の生態をよくわかっておりませんでして……!」
千歳社長の口笛がヒュ~ゥと虚しく鳴った。
「なるほど地球の男に飽きた所ってことだね?」
「おおむねそうね」
そこでオフィスにいたうちの一人が立ち上がる。
黒ぶちメガネの真面目そうな男だ。
「水乃星さん。いま目の当たりにしても信じられません。確認しますが、そのへんの家出少女を改造人間にしたとかではないんですね?」
「資料を後で出すわ。間違いなく異種族との遭遇よ」
「ほんっとうにその辺の人間を改造してないですね?」
「ええ、篠田さん」
依織がどういう社会的立場かわかったよ……
そういう感じか~!
やはり依織は人間として一般的な個体ではないんだな。
「……わかりました。ならまあ、とりあえず保護として……どうします社長」
千歳社長はクスクスと心底うれしそうに笑っていた。
「いいねえ……未知との遭遇!人類史上最大の案件が降ってきたよ!さあ、どう演出して世間に出したものかなあ!」
あっ、この人も依織の親戚だってことがよくわかった。
頭おかしいよこの一族。
一番おかしな存在である私が言うのも何だけど。
「……まあ、ヨソで下手な扱いをされるよりはずっとマシでしょう」
メガネの男、篠田はこちらにしゃがんで目線を合わせてきた。
「ええと、お名前は?」
「らいふです。こちらは娘のヨルです」
「とにかく、あなたが我々人類に危害を加えない限り、何とか我々は共存の筋道を探っていきます。……安心してください」
「ありがとうございます……!」
よかった!一人くらい常識人がいた!
依織や千歳社長みたいなのが人類のデフォルトじゃなくて本当に良かった……!
とはいえ、その依織から分け与えてもらった知識ではむしろ依織のような奇人変人でなければ私のような存在はそれはまあバケモノでしかないわけだが。
「まあ三人寄れば文殊の知恵っていうしさ!とりあえずあいつも呼んで考えてみようか!」
「スポンサーも巻き込む気ですか社長」
「逆にこの場に呼ばない方が不義理じゃない?」
スポンサー!?大丈夫なのかこれ!?えっちなやつじゃない!?
私はとっさにヨルの手を握ってしまうし、ヨルは私の服を握りしめる。
「あの、スポンサーとは?」
「ああ大丈夫よ。もともとこの会社は私の才能を世間に翻訳するために叔父さんたちが作り上げたものなのよ。社長を千歳おじさんが、運営をその同級生だった篠田さんが。これから呼ぶスポンサーも同期ってわけ」
要するに身内ということだろうか。そのスポンサーも。
この会社だいぶ特殊なスタートアップじゃないか?大丈夫か?
「やー、高校生にして自宅で人体の細胞から花を作っちゃう子だからね。ほら君も知っての通りこの子あぶなっかしいからさ。世間に理解できる形でマネタイズしないとね。だから今回みたいな案件のための会社でもあるんだよ」
だいぶ……だいぶヤバイ人間に捕まっちゃったの私の方じゃないかこれ?
■
「とうとう人間作ってもうたん?」
スポンサーの第一声がそれだった。
糸のような細い目でどこか蛇じみた細面の男だった。
清潔なワイシャツを着こなす羽振りの良さそうなファッションだ。
「事情はメールで書いておいたはずだけど」
「わーっとるよ。冗談や冗談。ほんでらいふちゃんやっけ。一応証拠みせてくれる?」
「これで宇宙人だと納得してもらえるといいんだけど」
またヨルと二人で手や足をうにょうにょ粘土状にさせて動かしてみる。
「あの、娘のヨルです。お世話になります本当に……」
「親のらいふだ。そのう……呼ばれてもいないのに私たちが勝手に地球に来てしまった以上、何か価値を人類に返したいと思うんだけど、やっぱり私たちだけではどうすればいいのかわからないんだ。知恵もお金も世話になりっぱなしですまない……」
スポンサーはカラカラと笑って私の頭を撫でた。
あっ、なんかまた頭がすっきりしていく。
何かが……私の脳で増えたような感覚だ。
この人の名前は道明寺夏彦というのか。
「いやー、ええねんええねん。なんでも初めは投資からや。この星では花育てるのには最初に水をあげるもんなんよ」
「まっ、種族として子供みたいなもんだしねえ。まずは世話になってから恩返しすればいいのさ!」
千歳社長と道明寺スポンサーが和やかに笑う。
たしかに子供とはどうもそういうものらしいからな……
「まずは人として成長してから……か」
「なんだか悪い気がしますね母様」
道明寺はぶんぶんと手を横に振り冗談めかして言う横で、依織はその様子を私たちを含めて観察していた。
「ちゃうちゃう!君らの特性と人類の市場は相性が悪いねん。君らへの気づかいやなくて僕らの実利の話なんよ」
「まあそれも含めてこれから会議だね!さあ何から手を付けようかな。この道が何車線にも広がってる感覚たまらないねえ!」
篠田さんが会議室のドアをあける。この事務所はそれほど大きくなく、会議室への扉が直であるのだ。
「会議室の用意はもうできていますよ。社長もほどほどに、穏便にお願いしますね」
「じゃあやっぱり全員いたほうがいいね。君が穏便に修正していけばいい」
「はぁ……わかりました」
そういうわけでゾロゾロ会議室に移動してお茶と茶菓子をいただきながら話し合うことになった。
スポンサー含めての会議だからかな?
「まあそない言うわけでな。いきなり労働者として市場に出るんは筋が悪いわ」
会議室に移るなり、道明寺さんは茶菓子をつまみながらそう言った。
スポンサーというより、親戚のおじさんの寄り合いみたいな空気だ。
「君ら、学習能力高いんやろ?それを知能労働として売ったら、人類の席を奪うことになる。ほな肉体労働ならええかっちゅうと、それも儲からへんし、戸籍とかややこしいやろ。人間社会は腕力だけで金取れるほど単純やないんよ」
「……では、私たちはどうすれば」
ヨルが不安そうにつぶやいた。
「まず稼ぐことを考えんでええ。利益は依織ちゃんが稼ぐやろうから、君らは自活したほうがええよ」
「そうね、製品化のアイデアはあるわ」
依織が何でもないことのようにしれっと言う。この短期間でもう!?
優しいけどやはりだいぶマッドサイエンティストだよそれは。
「乳酸菌みたいに、生物由来のサプリとして売ればいいのよ。あなたの細胞そのものではなく、そこから採れる伝達物質を使う。うちで遺伝子改良した新種ということにすれば、説明もつくわ」
「おっ、いいねえ! 依織ちゃんもごまかし方が解ってきておじさんうれしいよ!」
千歳社長が嬉しそうに笑う。この感じは過去に相当やらかしてきてるんだな……
「つまり、お金は大人の仕事だね。らいふちゃんたちは、まず迷惑じゃない隣人として実績を積む。これだ」
なんか私がやらなきゃいけないことのはずなのに、どんどんお膳立てしてくれている……!
いいのかなあこれ。
「そう、田舎で細々と暮らしている宇宙人には実はすごい力があった!いいストーリーじゃないか。世間はそういう柔らかい歯ごたえが好きなのさ」
わからないでもないが~!
世間かあ……私の相手にしてるのはそういうものなんだなあ。
「せやね。理想はド田舎で自給自足や。人類の飯を奪わへん。仕事を奪わへん。土地も荒らさへん。むしろ廃村を使う。そういう形にすれば文句つけ辛いはずや」
「なら地方再生の皮を被ればいいわ。いま流行りの自給自足式のコミュニティづくりとかいいんじゃないかしら。これも半閉鎖環境での閉じた生態系作りよね」
爆速で私の身の振り方が企画になっていくよ。
有能すぎる集まりだ……何もすることがない。
篠田さんが静かにメモを取った。
「方針が決まりましたね。まずは利益よりも、人間社会に迷惑をかけていないという実績を優先しましょう」
しかしなあ、ただ与えられているというのは心苦しいしなあ。
「……でも、やはり貰うばかりというのは健全ではない気がするよ」
道明寺さんはケラケラ笑いながら金勘定でも語るように言う。
「ちゃうねん、ここで一手間加えることで、活躍する準備が整うんよ」
篠田さんがこちらに視線を合わせた。
「地球人としては、まず信用を得ることが自由の前提です。ましてあなた方は宇宙人です。怪力に変身、他者の記憶にも触れられる。人間社会から見れば、それだけで十分に脅威です」
ん~!それはそう!改めて考えるとだいぶヤバい生命体なのは疑う余地がない!残念ながら!
「だからこそ、まずはこう示す必要があります。地球人の席を奪わない。食料を奪わない。土地を奪わない。生活を壊さない。ただ、この星で静かに生きる場所が欲しいだけです、と。それだけで十分に価値があります」
まずは安全の証明が価値かあ。
マイナススタートだがそういうものなのかもしれないな。
がっかり感はちょっとあるが。
ヨルが小さく息を吐いた。
「そういうものなんでしょうか。私たちはまだ何もしていないんですが」
「何もしすぎないことが大事な時もあります」
篠田さんの声は、少しだけ柔らかかった。
「皮肉よね。現代人はみんな誰よりも特別で、世界を変えられる力を求めている。いわゆるチートというやつね」
そーいえばそんな知識もあった気がする。アニメとかラノベだったか。
「でも、チートはチートであるがゆえに、そのまま現代社会へアウトプットできないのよ。力そのものより、受け入れられる手順の方が大事なのは私も実体験したわ」
それはまあ……そう!高校生時点でバイオ生物作ってしまったらそれはそうなる!
おもしろい女にもほどがある!
「そのための我が社だからねえ。大船ではないかもだけど、任せなよ」
千歳社長が笑った。
「この子ともども……よろしくお願いします」
「お世話になります」
私とヨルは頭を下げた。
まあそういうわけでとりあえずの身の振り方が決まってよかった。
私たちはこの星で暮らしていけるかもしれない。
「そうね。まずは廃村の再生。次は風光明媚で維持してほしいけれど人がいない古い観光地。軍艦島みたいなものね。そういう場所の維持管理に突破口を見出しましょう」
「ええやん。どうせ誰も使ってへん場所を維持してるだけ。ある程度自給して、農作物を売って物資を買っているテイにすればなおええ。これは文句つけ辛いはずや」
依織はくすりと笑う。
「まあ、私の観察する金魚鉢を少し大きくしただけよ」
私たちもまた、依織の認知上のビオトープの一人なんだな。
なるほど相変わらず発想のスケールがデカい!
「……それで私たちは生きていけるんでしょうか?」
ヨルが不安そうにつぶやいた。
「できるわよ。というか、生きていけるようにするのよ。あなたの親は『らいふ』でしょう?」
私は頷く。もうこうなっちゃったら後はやるしかないだろう!
「ああ、やってみせるさ。私たちの生きる場所をつくろう。何とでもなるはずだ」
行くか~!田舎!どんな所か楽しみだなあ。