候補地は四国にあるらしく、私たちはフェリー乗り場に向かう途中で田舎の港町に立ち寄った。
私たちの学習というのと、途中で海鮮料理でお昼でもってことでね。
引率は依織だけで、ほかの面々は普通に都内で仕事だ。依織が一番フリーなのだそうだ。
ふいに、視線の端が妙に気にかかる。ヨルを見ると同じ症状がでているようだ。
「ヨル、何かあの辺が妙に気にならないかい?」
「母様もですか?変に目を離しがたいんですよね」
食べ物を買いに行っていた依織が興味深そうにその様子を観察している。
「出航にはまだ時間があるわね……いいわ、行ってみましょう。同族と呼び合ってるというのが定番だけど、あらゆる可能性があるわよね。全く何が起こるかわからない……いいじゃない」
何が起こるかわからないけど確実に何かありそうなのって怖いなあ!
敵だったらどうするんだよ。
その可能性も考慮に入れてなお行く気なんだろうなあ。
これだからマッドサイエンティストは!
いざとなれば私とヨルのゴリラパワーでなんとかするしかない。腹を括ろう。
だが、確かにこの感覚自体は嫌な感じはしない。
「うーん……確かにそうかもしれない。いやな感じは私はしないんだけど、ヨルはどうだい?」
「妙に気になるだけですね……」
「なら決まりね。同族がいる可能性は当然あり得るわ。その場合少し計画の前提が変わってくるけど……まあ修正範囲内ね」
本当か?同族がそこら中にいるなら暴れる個体が出ないわけがないんだ。
野生動物の模倣をしちゃった個体とかもいそうだし……
その場合はまさに侵略的外来種として爆速で混血しちゃわないか?
「本当に修正範囲内かなあ?」
「範囲内にするのよ」
「お母さんは割と出たとこ勝負に慣れてますね……慣れていいものなんでしょうか」
とにかく、ヨルと私で三角測量的に少し離れて歩き、気になる方向を特定していった。
そして探していたものは予想以上に早く見つかった。
「あー、ひょっとしてっすけど……」
向こうもこっちをじっと見ていた。相手も同じ感覚を抱いたらしい。
その子は大学生くらいの女の子だった。
だが歯がサメみたいで体つきも筋肉質で体格がいい。胸もデカい。
重たそうな海産物がどっさり入ったプラスチックの籠を三段重ねで運んでいる。
これは決まりだろう。
「ああ、たぶん私たちは同郷だ」
「マジすか私以外にもいたんすねえ」
初めての同胞との邂逅は驚きはなくむしろ納得があった。
「私はこの子の保護者的なものをやってるし事情も知ってるのだけれど、よかったら少し話さない?」
「ちょっと親方に聞いてくるっす!」
その子は重たそうな荷物をパパパッと片付けると漁船のほうに行き、そしてすぐに老年の男性を引き連れて戻ってきた。
「あー、俺は舟木ってもんです。この子は恵比寿ってもんで……見ての通り船乗りをしとります。その、あんまり人前で話すことでもねえですし、よかったら船へ」
牧歌的だが人の良さそうなお爺さんだ。
いきなり口封じとかはなさそうだ。考慮はするけどね。
私って海に突き落とされたら泳げるのかな?
「わかった。いいかな依織?」
横目で依織を見ると不安そうなヨルを軽く抱きしめながらうなずいていた。
「かまわないわ。船は遅らせましょう。それよりも優先すべきことだから」
「すまんこってす」
舟木さんはぺこりとお辞儀をして私たちは彼の船についていく。
おお……これが漁船か。意外と狭いなあ。
ビールケースをひっくり返したものにみんなしてそれぞれ座る。
「どこからお話したもんでしょうか……」
「なら、私からこの子たちが何者かってことを」
依織はざっくりと私たちが宇宙から降ってきたこと、粘土状の塊だったこと。
あっという間に育ち、そして依織が会社を持っていること。
私たちの住める村を作ろうとしていることをかいつまんで話した。
「……というわけで私の会社でこの子たちの居場所を作ろうってプロジェクトをしているわけ」
「はあ……そげなことが……私ゃあれです。人魚か何かだと最初は思っとったですが、あっちゅうまにこの子が言葉を話し出して……見捨てるんも気が悪いで、桃太郎みたいなもんと思って育てとったです。孫娘ができたみてえで……」
そう言って保護者同士で名刺を交換し合って互いに頭を下げる。
「とりあえずお互いの状況はわかったけど……どうする?私はできれば新しい村に来てほしいけど無理強いはしない。まだ何もないし招ける状態でもないしね」
ここは私が当事者として言うべきだからね。
「母様、そのお母さんに許可なく勝手に勧誘するのはどうかと」
「大丈夫よヨル。らいふが言わなかったら私が同じことを言ってたから。二人も三人も同じよ。むしろ人手があるほうがありがたいわ」
「むう……じゃあ恵比寿さんや舟木さんはどうなんですか?」
恵比寿と舟木さんは同じように顎に手を当てて考えていた。
「いや~、私ゃ恵比寿が行きたいなら、最初から関わるべきじゃねえかと思いますわ。後からおいしい所だけいただくのは不義理でしょう。帰るべき所に帰る。それも仕方ねえす。あっ、恵比寿!そやけんどお前がここにいたいならいつまでも居てええ。わしはお前を迷惑と思った事ぁ一度もねえ。おめえ次第だ」
う~ん、誠実!まともな大人ってこんな感じかあ。
いや、世話になっておいて依織たちがまともじゃないと言うのはどうかと思うけど。でもまともさと善悪は別だしな。
恵比寿はしばらく考えて静かに口を開いた。
「ん~、ときどき親方の顔を見に帰ってもいいっすか?」
「ははっ、ジジババの顔なんざ見ても面白なかろうに。けんど、いつでも帰ってきてええ」
「じゃあ行くっす!いや~そういう場所があったらいいなあって思ってたんで!たぶん私以外にもきっとそう思う同郷の人は多いはずっすから!」
舟木さんはポンと恵比寿の肩に手を置いて少し涙ぐんだ。
「それでええ!お前みたいな若者がこんな所で燻ってたらいかん!うん、それでええ、それでええ……」
「親方……本当にお世話になったっす……!」
私が声をかけなければ、恵比寿は今日もここで親方と魚を運んでいた。
これから彼女に起こることは、少なくとも半分は私の責任だ。
これでよかったかは、私たちがその村を成功させるかにかかっている。
責任重大だなあ!
「その……言い出しっぺは私だから提案するんだけど、よかったら恵比寿さんの送別会を兼ねてどこかでご飯でも……」
さすがにこの状況で直で村に連れてくのは常識がないだろ。
お婆さんもいるみたいだし挨拶は実際大事だ。
「良いわね。良ければそちらのお家にお伺いしてもいいし、その辺で店に行くなら奢るわ。私たちのプロジェクトですもの」
「いやあ、奢ってもらうのはさすがに……なんもねえ家ですが泊って行ってくだせえ」
「ありがとうございます」
私は真っ先に深く頭を下げた。いわば娘さんをくださいだからね。
私と依織にはこの子を預かる責任がある……!