その後お婆さんも含めて宴をした。恵比寿の送別会だ。
なごやかで楽しくはあったが、新しい情報は特にないのでこれは置いておく。
そしてフェリーに乗り、山道を走り……私たちは村に到着した!
「なんか……鬱蒼としてるっすね……」
「廃村だからね。でも道はつながってるし、隣村まで十キロほどで行ける。ちょうどいい陸の孤島だよ」
そんなことを、すでに設置されていたプレハブの中で話し合う。
そう、すでにあったんだよ!仕事が早い!
風情もあったもんじゃないが、しかしありがたいのはそう!
「とはいえ、このプレハブハウスがあってよかったですよ。初日からキャンプはさすがにちょっと……」
ヨルがほっとした様子で長椅子を二つ並べて作った簡易ベッドに寝ころぶ。
くつろいでるな~!君は!強い子だ……さすが私の子だよ。
そういえばヨルもわりと背が伸びたな……海鮮料理がよかったのかな。
私の記憶ではこういう長椅子は病院の待合室とかにある簡易でしかし座り心地のいいものだとある。
依織の記憶なんだろうなこれは。
「あなたたちのおかげで思ったよりスムーズだったわ。まあ初日は開封作業よね」
「私はもっとこう、いきなり廃屋を掃除したりキャンプするのを予想してたよ」
現場用のコンテナハウスが三、四棟あって、中に長椅子が詰め込まれた状態であったんだよ。
今いるひときわ大きい中央のハウスは正方形でなんとシャワーや洗濯機、冷蔵庫まであった。
まあ水回りはまだ配管をつないでないし、エアコンや冷蔵庫はガソリン発電機で動かしてるんだが。
いやだから仕事が早いって!
「合理的でしょ?これから行うのはある意味建築作業なんだから、建築用の資材を使うのは」
「現場資材ってこんなに早いもんなのかい?」
「だから計画の時に一週間くらいかかったのよ。手配のほうが時間がかかったわ」
「はえ~、アニマフィリアって会社ってすごいんすねえ……」
「まったくだよ……」
ビバ資本主義社会だね。金があれば話が早い!
家具付きの家までデリバリーできるとはね……
「とりあえずこれからどうしたものかな……家を直して使うのは必要だよね。いつまでも現場事務所じゃ怪しまれる」
「そうね、使える家を直していきましょう。必要なものは通販サイトで頼めばいいのだし」
ここまで配達が来る日本のインフラおかしいよ。
まあ、依織というか篠田さんが役所でちゃんと手続きをしたおかげなんだが。
ここの住所をアニマフィリアとして使いますよとね。
「あとは……ある程度食材は自給しつつ、体制が整ったら農業だね」
「そうね、それについては計画段階で予定した通りよ」
「何育てるんすか?あと魚については任せてくださいっす。近くの川に罠をしかけるっすから」
「ああ、それで頼む。恵比寿がいてくれて助かるよ」
「えへへ……まあ枝や石から罠作るのは親方に習ったんで!」
依織が持ってきたタブレットに、ヨルが計画書のPDFを映し出す。
「とりあえずはジャガイモや根菜は私たちが食べるために作ります。あとはあんまり言いたくないんですがその……」
「私が作った植物を育てるわ。つまりここは表向きはアニマフィリアが外注してた遺伝子改良作物の栽培実験場と生産施設ってわけ」
「あー、マジでバイオ科学者なんすね……どんな作物なんすか?」
依織はスッと画面に葉っぱの茂る植物を出す。
「まずはハーブ類と豆類ね。花粉症の治るハーブ、植物性タンパク質が豊富でミキサーにかけるだけで豆乳が取れる豆、炭水化物の塊で栄養摂取が効率的な芋、糖度が80を超えるイチゴ……そんなところね」
「またまた~」
恵比寿の笑顔が私たちの真顔を見てスンッと真顔になる。
「……マジなんすか?ヤバくないすか?」
「ヤバいよ。アニマフィリアはそういう異常作物を作る企業だし、依織はそういうものを作れてしまう人だよ」
正直私も恵比寿もドン引きだよ。真顔になっちゃうよね。
だが今はありがたいのは事実だ。
「あとは、これはホヤやサンゴをベースに作ったのだけれど、水の中で卵を実らせる樹木のように見えて動物とか」
「御社の生命倫理ってどうなってるんすか……?」
ごめんね!騙したような形になって済まない……!
最悪はもうちょっと許容範囲内の作物でなんとかしよう。
「でも合法よ」
「う~ん、じゃあ仕方ないすね……便利は便利そうなんで!とにかく畑や生け簀を作るのをやってくしかないすね」
ん~!割り切りが早い!さすが漁師だよ。判断力が違うね。
「そうだね、基本はその方針で行こう。いずれまともな鶏とかも飼って卵が手に入ればいいね」
「いいっすね!ね!普通の鶏っすね!」
「もちろんだ……!」
私たちとてこんな異常なものは育てたくないんだよ……!
これもう私たちより作物のほうがブッチギリでヤバいだろ。
逆にバレても私たちよりそっちが目立つかもしれない。
「じゃあまあ、今日は弁当食って寝ましょうか!」
「まあ、明日からは電子レンジごとレトルトや冷食も届くと思うから今日は我慢して頂戴ね」
「いいっすよ!ところで部屋割りなんすけど、お二人はその、そういう関係でしょ?なら私がヨルちゃんの面倒見ますよ!」
ね!と恵比寿がヨルに尋ねる。ヨルは少し考えてうなずいた。
そういえばヨルも私も、今では見た目だけなら背の低い高校生くらいだ。
私たちの成長速度は相変わらずおかしいよ。
「娘としては、親のそういう生々しい面はあまり知りたくないですけどね。でもそういうことなら構いません。お母さんたちはゆっくりしてください。恵比寿さんと一緒なら私も安心ですし」
「じゃあよろしくっすね!」
うーん、いいのかな。でも私もそれは魅力的な話に思えるしなあ。
「わかった、じゃあ頼んでもいいかい?」
「任せてくださいっす!」
「ふーん……まあ、それも一つのアイデアよね。いいわ」
「わーい!いやあ、楽しみっすね」
私はその時気づくべきだったよ。恵比寿の笑顔の下にある邪気を。
■
「おいっ!なんで増えてるんだよ!お前ふざけるなよ恵比寿!」
「いや~……あはは……その、私もヨルちゃんも、その……なんかその気になっちゃってっすね……」
「か、母様!恵比寿さんは悪くなくてですね、これはその合意の元というかなんというか」
ウッソだろオイ。ヨルがタオルに包まれた赤子を抱いてるんだが。
依織を見ると特に怒ってない。むしろやさしい眼と研究者としての観察眼が半々だ。
これ依織はこうなることを予想していたな!?知らぬは私ばかりかよ!
「依織……まさか君はこうなることを予想してたのかい?」
「可能性の一つには考えていたわ。まあ仕方ないじゃない。あなたも似たようなものだったでしょ」
それは、そう!生まれて直でそうだった!
しかし納得いかない~!!
「ウーッ!それを言われると弱いけど!」
「何ならいま必要なのはあなたたちの人口よ。気が付いたら増えていましたが理想なんだから」
「そうだけどさあ……!わかった……腹を括るよ……!恵比寿、何か私に言うことがあるよね?」
恵比寿はガチ土下座で叫んだ。
「娘さんを私にくださいっ!」
森の木々が揺れて鳥がピーピー鳴いて飛び立つ。
「んんんん!許す!許すよ、今はね。ただこれで私たちは貸し借りなしでいこう」
「あざっす!」
し、深呼吸深呼吸……!私たちの種族は成長が早すぎる……!
人間の感性だと情緒が追い付かない~!感情がぐちゃぐちゃになっちゃうよ。
「ヨル」
「あっはい……その、ごめんなさい」
ヨルがビクッと肩を震わせる。
ち、違う私は怯えさせるつもりとか怒ってるわけじゃなくってだね。
「いや……いいんだ、いつか起こるべきことだから。私たちの種族はそれが人間の尺度じゃなかっただけだよ」
「はい……」
「ただ……私が言うのもあれだけど、節度を持とうな……これは全員に言うんだけど」
「そうですね……!」
深く実感したよ……注文リストに避妊具を付け足しておこう……!
私たちも昨日ちょっと使っちゃったから……!
くそ~っ!親の生々しい話どころじゃないよ!
とんだ爛れた村だよチクショウ!
だが私もその一人だ……!情緒の持って行き場がない~!