そうして、要組の人たちがどやどやとやってきた。
五、六人くらいかな。トンカンとどんどん改築作業が進む。
なにしろここではゴリラパワーを隠さなくていいからね。
「いやあ助かるね。五、六人で済むとは思わなかったけど」
「いや、もっとくるぞ。とりあえず十人だな。プレハブ小屋ごと資材搬入を兼ねて後でくるだけだよ」
「十人!?増えすぎじゃないのかい!?」
カナメは現場監督をしながらスポーツドリンクを飲んでニヤリと笑う。
「だからここから一番近いコンビニと契約してきた」
「はぁ!?」
「とりあえず一年は継続して弁当とか買うから倉庫にリザーブしてくれってな」
自分で食料を調達してくれるのはありがたいが……
話がどんどん大きくなっている……!
「安心してくれ。要組の金でやるからよ。ところでここにもう一枚契約書があるんだけどな?」
「私たちの分をアニマフィリアの予算で、か……」
「お得な取引だろ?」
やさしい悪魔みたいな笑顔で笑うな。
これは私の一存では決められないな……
「ついでに私たちが物資を運んでやるよ。それもその契約書にあるぜ」
「んんんん!依織に聞いてみるよ……!」
「そういや畑はどうなったんだ?」
「ああそれは見たほうが早いね。依織に話をするついでに来たらどうだい?」
私は畑のほうにカナメを案内する。
そこにはすでに青々と茂る若芽!ハーブ類からだからね。
苗を肥料とともに植えればいいだけだし。
とはいえ……!
「だいぶ育ちが早くねえか?」
「早いんだよ……!ほかの畑の境界線に成長抑制剤をまかなきゃいけないほどに……!」
なんなんだよ成長抑制剤って!除草剤じゃなく!?初めて聞いたよ!
常在菌を制御してとか不穏な説明を聞いたけどそんなのできるもんなのかい!?
やっぱりこの村でブッチギリにヤバいのは依織だよ。
「遺伝子操作ってやっべえな……」
「同感だよ。恩恵を受けててもね」
なお、依織からはあっさりと『いいわよ』と予算が降りた。
これで晴れて毎週のように一定数の食料や物資が届くことになった。
■
「フヒ……今週号もおもしろい……」
「る、ルナ!?」
ルナがゴラクとチャンピオンREDとヤングアニマルを読んでた。
なんでこんな教育に悪いものがあるんだよ!せめて少年誌か少女漫画を読んでくれよ!
「ルナは絵がうまいっすねー」
「たしかにすごく似てますね……」
なんでそれでルナがオタクになってるんだよ!!
あっ、要組の物資に入っていた漫画雑誌のせいか!
「どういうことだよカナメ!?」
「まあしゃあねえだろ。そのへんに置いてたらそりゃ見るなと言えねえよ。それにおめえは漫画見るなとか馬鹿を言うのか」
「んんんん!……何から影響を受けるかは本人の自由、か……」
「なんなら縁だよ。本人ですら何にハマるかなんて選べねえんだ。あきらめな」
それは……そう!
何を好きになるかなんて選べない!そして好きになっちゃったならあこがれは止められないんだ。
依織を見ればわかるだろ。
新種創造しちゃってついには私という宇宙人を娶っちゃうんだぞ。
「好きになっちゃったらダメとは言えないしなあ……ヨル、その辺はどう思う?親の君には意見を言う権利がある」
「んん~!まあ興味があるものは何もないよりはマシ……なんじゃないですかねえ?」
「なら私がどうこう言う事じゃないか……」
依織が興味深そうにルナの書いた絵を眺めている。
その顔にはやさしげな微笑があった。
「いえ、むしろ支援してみましょう。芽が出たのなら水をあげるべきよ。まずペンタブと画材とタブレットは必須ね」
「依織!?」
「楽しみじゃない?宇宙から来た種族が何を描くのか。人との感性の違いは何か。それともそんなものはないのか」
「依織?」
あっ、これ観察してるな。
とはいえまあ……一人くらいそういう方向に行く者がいてもいいはずだ。
プロになれるかとかは、もうこの際おいとこう!
なあになんとでもなるはずだ!そのための村なんだから!
「さあ、他に何を買ってあげましょうかね」
いや、やっぱり孫馬鹿じゃないのかこれ?
■
そうして季節は夏になっていく。
セミは鳴き、木々は青い葉っぱを生い茂らせる。
山の中の村はむせ返るほどの生命力に満ち溢れていた。
「じゃあまあ……第一期収穫を祝って、乾杯!」
「おつかれさまやで」
そういうわけで収穫と経過報告を兼ねてまた飲み会だ。
こういうのも大事だからね。
「依織、とりあえずハーブは収穫して工場に降ろしたけど、あれは大丈夫だったのかい?」
「ええ、この村でも一応品質検査したから問題ないわ」
「大丈夫だってらいふちゃん!僕も工場長に聞いてみたけど問題ないってさ!いや~なにしろあれは我が社の主力製品だからね!」
カナメは千歳社長のコップにビールを注ぐと、缶に残った分をそのまま飲み干した。
「そういやアレなんなの?はたから見てるとやたらビビッドな色合いでやたら育ってびっくりしたんだけどよ」
「ああ、アレ?イエローハーブは花粉症の薬で、ブルーハーブはアズレンに似た物質……要するに傷薬になるわ」
「要するに薬さ!だから少々しなびてても問題ないんだよ。どうせ乾かして粉砕するからね」
千歳社長が懐から出した青い薬のチューブにカナメは驚く。
「あっ!それか!そのクスリ異様によく効くから何かなーと思ってたけどこういうところで作ってたのかよ!」
「そんなに効くのかいあれは」
「半日で擦り傷が全快するんだよ。明らかにやべえよ」
よくよく考えたらイエローハーブの花粉症がほぼ治るというだけでもかなりヤバい代物だからな……
「ま、まあ効くからいいじゃないか。私たちの育ててるものはヤバいけど世間に害のあるものじゃないと信じたいよ」
「そこは信じてるって言ってほしかったなあ。ま、わかるけどさ!」
千歳社長が私の皿に肉を盛り付けていく。まあ育ててると生命力の強さにドン引きだったよ。
これで遺伝改良作物ってマジ?!まあ育てやすさも弄れるってことかもだけど。
やっぱり依織は掛け値なしに天才だよ……
「でも食べられる作物も作ったし、食べて問題なかったでしょ?大丈夫だよ」
千歳社長がイモやカボチャも金網に乗せていく。でもそれイモでもカボチャでもないんだ。
「今焼いてるイモみたいなのやカボチャみたいなのがそれだよ」
「やたらうまいと思ったらそういうことかあ!」
「そらもう僕も味の監修をがんばらせてもろたからね。ツリートマトなんてもんがもともとあったんと、それからそんなもん作り出すのはそら驚いたけど」
そうだよ……この村ではトマトとイモとカボチャが木に果実として成るんだよ!
おお、冒涜的光景……
「これがアレかあ……試食した時よりもおいしくなってないかい?依織ちゃん」
「肥料に私が弄った菌を入れたからかしらね。それよりそっちの調子はどう?」
そんなアプリの更新感覚で遺伝子をいじらないで欲しいんだけどなあ……!
露骨に話をそらされたけど、でも本社のほうがどうなってるのかも知りたいのはそう。
「まあ、ここの畑は依織ちゃんに任せるからいいけどね……ああ、順調だよ。依織ちゃんからもらったデータをもう公表してるんだ」
「すごい生物です、新発見です、現物は渡せません。そら炎上するねん。第一段階はだからこそ成功やね。つかみはバッチリや」
「じゃあそろそろ私のお披露目かな?」
緊張するなあ~!宇宙人としてお披露目するのは!
「せやね。まずは昔撮った動画から、次に今はこんな感じです、でやってもらうわ」
「……わかった」
「ええねん、こんなんどうあっても弄られるんやから。謙虚にしてたらそれでええんよ」
「大丈夫さ。それが私の役割だからね。やってみせるよ。ただ、台本は欲しいかな……」
千歳社長が大きくうなずいた。
「任せときなって!うまくやるさ」
「ああ、任せるよ」
頼むよ~!これで世間に受け入れられるかが決まるんだから……!
とはいえ、餅は餅屋だ。信じるしかない。
■
そういうわけで、動画を撮ることになった。
台本は覚えたし、依織の構える撮影機材の前でパイプ椅子に座って一礼する。
「新発見の生物のらいふです。すべてをお話しします」
場所はプレハブハウスだしまるで謝罪会見みたいだな。
いや実際炎上してるからほぼ謝罪会見なんだけど。
「アニマフィリアから発表されていた新種の生物。それが私です。私はおそらく宇宙から地球へ落下し、水乃星依織さんに保護されました」
ここからが大事なんだよな~!メインの方針発表だから!
「まず、私たちは地球を侵略しにきたのではありません。というか、私たち自身もなぜ地球へ来たのかはわかりません。少なくとも私はこの星で生まれて初めて自分というものを持ちました」
えーと台本では盛り上げずに切実に淡々とだっけ。
「発見された当初の私は人間の姿をしていませんでした。知能も言語能力もありませんでした。ですが、地球の生物や人間を観察して学習することで、現在の姿になりました」
ここで間をおいて静かに言う。この感情だけは本当だ。
「……らいふという名前も水乃星さんがつけてくれたものです」
ここからがオブラートに包むんだよな。これでいいのかなあ……?
とはいえ直に言ったら激ヤバ宇宙生物が過ぎるだろ。
「たぶんですが、私たちの生態は降り立った星の生命に触れることで体の使い方や知識を高速で学習して模倣するような生き物です。他にも人類と違うところはいろいろあります。たとえば……」
私は右手を掲げてぐにゃりと粘土状に変形させる。
指先がとろけ、スプーン状に変わり、そしてまた人の指に戻らせる。
「こういう風に変形機能はまだありますし、力もかなり強いみたいです」
私は立ち上がってプレハブハウスの外に出て用意してた倒木をひょいと持ち上げてバキッと折る。
それなりの太さがある木で、フェイクじゃないと断面も見せた。
「……これが私たちです。アニマフィリアが発表した新種『ゼノミムス』です」
なんかそういう名前にしたらしい。
エイリアンっぽ過ぎない?と思うがそれも宣伝戦略なのだそうだ。
倒木をそっと置いてぺこりと一礼してビールケースに座る。
「現在、私たちのほかにも同じ種族の生物がいることが確認されています」
横から恵比寿が手を振ってその手をぐにゃっと変えてまた戻す。
一応本番映像では顔にモザイクをかけてくれるはずだ。
矢面に立つ代表者は私だけでいいからな。
「ほとんどが自分が何者なのかわからないまま、人目を避けて生活していました。私たちはすでに、そうした同族を複数保護しています」
カメラを見て真剣な顔で強調する。ハキハキしゃべるのって疲れるな……
「そして、これからも行き場のない同族を探し、可能な限り保護していくつもりです。方針として私は地球人の居場所を奪わない、生活を壊さない。ただ、この星で静かに生きる……そういう方向性で行きたいと思います」
ここでカメラを村全体を見渡すように依織がむける。
「そのために私たちはアニマフィリア社の協力のもと、廃村になった村を整備して自給自足に近い形で運営しています。ここがそうです。アニマフィリア社が土地や建物の手続きをちゃんとしたうえで再開発している『たなばたの里』です」
依織が漫画から名前を取ってきたんだよな……
あれもSFで、宇宙人と交配した人間たちがずっと互いを思い続ける……
みたいなロマンチックな話だった。
宇宙から来た私たち、それに影響された依織たち。良い名前だと思う。
ずっと故郷の宇宙を見上げ続けるような……
再び私にカメラが回って、私はできるだけ誠実に見える微笑みで村を指すように手を広げる。
「将来的には、この『たなばたの里』を小さな観光地として開いていければと思います」
私は村を案内するテイで修復した古民家や見せられる作物の畑を歩いて見せていく。
「ええと……こんな感じです。普通においしいものが食べられて、自然の中で少し変わった体験ができる。そんな観光地を、宇宙生物が運営している……まずはそういう関係で地球の皆さんとお付き合いができればと思います」
そうしてふたたびプレハブハウスの椅子に戻りまた深々お辞儀する。
「突然、このような存在が現れてしまったことを、不安に思う人もいるでしょう。それでも私たちは、あなたたちと共に生きたいんです。人間の皆さんの生活を壊さず、私たち自身も誰かに成り代わらず、名前を持った隣人として生きていく道を探します」
一応これも言わねばならない。
「これから問題が起きないとは確約できません。私たちもまだ自分たちの生態をすべては把握していないので……ですが、少なくともこの村では問題が起きたときに隠さずに人間の皆さんと話し合い、解決することは約束します」
これで伝わればいいんだけど、そうならないのが人間だしなあ……
でも、これは私が言わねばならないことだ。
「皆さんの居場所を奪わないように、この星で共に生きる隣人となれるように努力します」
……私が実現したいことなんだよ。
「どうか私たちのこれからを見守ってください」
深くお辞儀して動画が終わる。
■
動画はまあ大炎上というか大騒ぎらしい。
依織も説明に都会に行ったり、千歳社長がすごく楽しそうにSNSでレスバしてるらしいが私は見ないことにした。
ネットのオモチャになってもいいことないだろ。
それに話題になってるならそれは宣伝戦略として成功なんだよ。
家でテレビを見てたらニュースで出てたのは普通にびっくりしたが。
映像だけでは判断できないとか、本物なら安全保障だいじょうぶなの?とか。
まあ結論としては地方再生なら悪くないんじゃない?みたいな取り上げられ方だった。
『じゃあまあそういうわけだからさ!そろそろお客さんを連れて行くからおもてなしの用意しといてね!』
「……ああ、いよいよ本番というわけだね」
緊張するなあ~!たなばたの里がいよいよ世間と接点を持つわけか。
いよいよ私の立場が村長になってくなこれ。
だが私が選んだ道だ……進んでみせるさ。