「どうするんですか!?毎週毎週観光客が来ますよ!?」
ヨルは今や公民館になった中央プレハブハウスで私に迫った。
観光客が一気に来過ぎたので戦略会議だ。
「とりあえず完全予約制にはしてもらったから……!」
千歳社長や篠田さんに言って受付を代行してもらってる。
断るのに超忙しいらしい。
悪いことしちゃってるな~!借りがさらに増えるよ!どうなってるんだよ!
「それはそうですけどね、じゃあ土日がつぶれて私たちはいつ休むんですか?」
「農作業は忙しい時期以外は平日に休めるからね。その上で繁忙期はそのまま繁忙期だから観光できませんで通そう」
もう全部正直に言っちゃうしかないだろ!?
こんな流行いつまでも続くわけないよ!
そうあってほしい……!みんなもっと気にすることあるはずだろ……!
「それで通るんですかね……?」
「通るかじゃないんだヨル。通すんだよ」
「また依織母さんみたいなことを言って……そうです、何とかして人手増やせませんかね?」
ここで扇風機の前で涼んでいた恵比寿がバッと顔をあげる。
「そうっすよ!じゃんじゃん子作り解禁しちゃいましょうよ!」
「いいですねえ!私も姉妹が欲しいですよ!母様!」
そんなことを言われてもだな。
「二つ問題がある……!一つはこないだ節操なく増やしませんと言ったのを人手がいるので増やしますは通らないよ」
「うーむ……しかしそこは理由を話して……」
「人手を増やすために子作りしますのほうがブッチギリでやばいよ!前世紀の農家じゃないんだから現代人には受け入れられない価値観だよ」
恵比寿とヨルはそうかなあ?って顔をしないでくれ!
なし崩しで産んじゃえば何とかなんないかなって思ってるだろお見通しだぞ。
「二点目の問題は生まれた子が育つまで一か月くらい大変なことだよ。そしてそれで大きくなったからと言って素直に働こうってならない可能性のほうが高いよたぶん」
「なんとか、何とかなりませんかねえ~!」
ここで外の喫煙所からカナメが戻ってきた。
「なに人手たんねえの?」
「足りません!」
ヨルが完全に疲弊してるな。ごめんて。
「じゃあ雇えばいいじゃん。今ならいっぱいいんだろミーハーなやつ」
「ミーハーだから困るんじゃないか」
「逆に抜かれて困るもんは私らの誘拐と農作物の遺伝情報くらいじゃん。それは腕力で防げるわけでさ」
あれっ、なんで私がカナメに説得されてるんだ?なんか私が悪い感じか?
「そう言うやつらは私らが触って読んじゃえばいいじゃん。そこでハネられるよ」
「それは……そうかも……?」
「あと逆にミーハーな奴らなほうがいい。どうせミーハーな観光客が殺到してる間だけ凌げればいいんだから観光客減ると同時にバイトも自主的に飽きて辞めてもらったほうが楽だろ」
私は村の運営費を頭の中で計算してみる。
……いけるなこれ。バイト何人か雇えるよ。
「……わかった。雇おう!バイト!」
「よかった……!頼みますよ母様!早めに!」
「なんとか、なんとかするよ……!」
■
バイト選考はもう超大変だった。
バイト募集します!って告知しただけでサーバー落ちそうになったり。
書類選考をするだけでもう応募者が膨大だったり。
それで面接に呼べるのはまあ十人二十人なんだけど……
結構な数が面接のテイで村に観光に来ただけだろみたいなのだったり。
まあ……産業スパイっぽいのは見抜けたからお帰り願ったけど。
「とにかく……!とにかくバイトである程度は回るようにしたから……!」
これだけ厳選しても最初のころは観光客と一緒に私の写真を撮り始めるバイトが続出したんだよ!
けっきょく三人ほど速攻でクビにした。
「なんか私たちは完全にパンダですね……農業と食堂と民宿の掃除を頼んじゃいましたからね……」
体を前より筋肉質にしてパイをでかくしたカナメがスパーっと窓の外でタバコを吸う。
わあ窓を開けてくるな。
「しゃあねえじゃん、一番求められてて替えが効かない部分がそこなんだからよ」
まあカナメもファンがついてプロテイン飲んでバンプアップしたからね……
筋肉と巨乳の美女だ。こんなの宇宙人でもなきゃ実現できないよ。
どういうファン層なんだよ。私のファンもなんかアレだけど。
「いいんですかねえ……」
実は人気が高いヨルが腕を組んで首をかしげる。
まあ、変なアイドル扱いだからね現状。
下手に深刻に受け止められるよりはずっといいんだろうけど。
でも健全か?といわれれば首をかしげてしまうよ。
「そのうち収まるだろこのバカ騒ぎも。世間のやつらもそんな暇じゃねえって。すぐ忘れるよ」
「だといいんだけどねえ……!」
私も首をかしげてしまうよ。親子って似るもんだね……
すぐ忘れてくれないかなあ……!
こっちは元からいい感じにフェードアウトしたいんだよ!
そういう路線だからね。そのために段階を置いてるんだ。
「渦中ってのはそんなもんだろ。ずっと続くようで思い返しゃ、あっというまだ」
「そうっすかねえ……」
恵比寿まで顎に手を当てて考え込む。
ルナ?この会話の最中ずっとフヒフヒ笑いながらペンタブでなんか描いてる。
まあ……お前はそれでいいんだ。
実際にバイトに任せてる屋台のポップアップとか描いてくれてるし。
成長したなあ……孫かあ……
「とにかく、これで回していくしかないね。安定していけばしばらくは楽ができる」
「ああ、今はやるっきゃねえ時なんだよ」
カナメがめちゃくちゃ頼りになるなあ。引き入れてよかった……
■
実際、三か月も過ぎれば熱狂も収まってきたし、観光業もルーティンワークになってきた。
そして実績もできれば発展もしてくる。
物資をリザーブしてもらってたコンビニもそういう事情ならとだいぶ協力してくれたのだ。
なんか本社まで話が行って、しれっと支店をオープンさせてくれた。
マジで?
そのままうちのバイトがコンビニに正式に雇われ、おまけにこっちはバイトたちに家を貸すことになった。
「なんか……普通にうちの村に移住してないかい君」
「にゃははは……なんかコンビニ本社もそうなんですけど、私も乗れる波には乗っておこうかな~って」
元うちのバイトの子が普通にピッてレジ打ちしてるんだよ。
村の発展速度がおかしいよ。頭がおかしくなりそうだよ。
「うーん、それはそうだけどさあ……思ったよりノリで生きてるね君もこのコンビニも」
「だって私でも店長ですしお給料良いですし。あ、決済何にします?」
「ペエペエで。……いよいよマジの地方自治体になりつつあるね」
ゴクウの声でペエペエと決済音が鳴る。
どうかしてるよこの国産決済サービス。
声優の無駄遣いだろ。
「そういえばどうなったんです?お役所との交渉は」
「とりあえず……アニマフィリアの人たちを私たちの代理人や保護者扱いにしてなんとかやってくれてるよ」
「にゃはは!じゃーいよいよこの村が本物の村になりますねー。らいふさんも本物の村長さんですね!」
「そうなんだよ……」
覚悟していたとはいえ、責任重大だな~!
でも、わかっててやってたことだし、現状は最大限上振れしていると言っていい。
うまく行ってるんだ……私が胸を張らなきゃ。
「緊張してます?人間の先輩として言いますけど、人生波に乗ってれば何とかなりますって~」
「波が終わったらどうするんだいそれ」
「にゃはは、次の波を待つだけですよー」
「意外に肝が据わってるね君」
意外と人生について考えてる。
こんなに軽いミーハー大学生くらいの感じなのに……!
「私はラッキーガールですから!らいふさんだって運がいいですよ。自覚してます?」
「んんんん!それはそう!私も運がいい!まあ、ツイてるうちだけでもなんとかやってみせるさ」
そもそも依織に拾われた時点でそうとう運がいいからね。
がんばろう……!恵まれた立場にふさわしい行いをしよう……!
■
「へえ、案外ちゃんと観光地してるんだね」
そんな事言ってたら来ちゃったよ。他の同類。しかも群れで。
「君たちは……同族かい?」
観光客として普通に予約して来てた。
まあいずれこういう事も起こるかなーとは思ってたけど。
「まっ、そういうこと。僕は神代アキ。よろしくねー」
アキと名乗った個体は私と同じ灰色の髪。
ギリシャ彫刻みたいに筋肉も顔も嫌味なく整った女だった。
その後ろには、性別も年齢もばらばらに見える男女が数人、観光客みたいな顔で並んでいる。
「目的を聞いていいかい?」
「目的かあ……ま、今日は話し合いかな。それがどうなるかで目的も変わってくる」
「……わかった。話を聞くよ」
話し合いと言われれば聞かないわけにはいかないだろ。
さあ、どうなるか……これも出たとこ勝負なんだよな。
「歓迎してよ。一応客で来てるんだぜ?」
「君たちが客としてふるまう限りはそうするよ」
「いいねえ、じゃあご飯でも食べながら……お話ししよっか」
その顔には結構なスゴ味があった。
しかしまあ、私の運というか縁は奇縁の類なんだなあ……奇人変人が集まってくるよ。