レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
西通りの外れにあるという廃倉庫は、人通りの少ない薄暗い路地のさらに奥に、ひっそりと建っていた。
一見するとただのボロボロの空き家だが、入り口には柄の悪い見張りのゴロツキが二人、退屈そうに欠伸をしながら立っている。間違いなくここが裏組織のアジトだろう。
(さて、どうしましょうか。さすがに正面から扉を蹴り破って「たのもー!」と突撃するのは、少し品がありませんね)
私は倉庫の物陰に身を潜めながら、幻影魔法を解除して魔族の姿に戻る。その後、新たに別の魔法を展開した。
「————『透明化(インビジブル)』」
これも幻影魔法と同じく、維持している間ずっと魔力を消費し続ける魔法だ。ただ、ゲーム時代においてはこの魔法は完全な『産廃(使えないゴミ)スキル』として扱われていた。
姿が見えなくなるだけで、足音や匂いは消えない。さらには扉を開けたり物に触れたりする『物理的な干渉』はそのまま反映されるため、対人戦(PvP)で使っても「あ、あそこで透明化してる奴が走ってるな」と一瞬でバレるという、ポンコツ仕様だったのだ。
おまけに幻影魔法よりも維持に必要な魔力がかなり高い上に、透明化を使ってくる厄介な敵モンスターが多数いたため、プレイヤーは透明化への対策アイテムや探知スキルを常備しているのが当たり前だった。そのため、対人では使ったところで即座に見破られ、むしろ使った方が魔力消費が多い分だけ不利になってしまうのだ。
(でも、冒険者として成功できなかったゴロツキ崩れが集まるような、この程度の一般裏組織なら……対策なんてしているわけがありませんよね)
私は透明になった身体で、見張りの男たちの目の前を堂々と、それこそ鼻先を掠めるような距離で横切った。
「ん? なんか今、風が……」
「気のせいだろ。昨夜飲みすぎたんじゃねぇか?」
(ほら、余裕で素通りです。冒険者崩れのゴロツキでは探知スキルなど持っていないようですね)
私は念のためこちらに気付く相手がいないか警戒しつつ、アジトの中へと足を踏み入れた。内部は薄暗く、酒の匂いとカビ、それに長年染み付いた汗臭さが充満している。
少し進むと、通路の開けた場所で、ゴロツキが四人ほど集まってカードゲームらしき賭け事に興じていた。
『ギャハハ! 俺の勝ちだぜ。これでまた美味い酒が飲める』
『クソッ、ついてねぇ。……そういや、昨日聖都から来た依頼、かなり金払いが良かったらしいじゃねぇか。俺たちにもボーナス出ねぇかな』
『バカ言え、あれはボスの直轄案件だ。俺たち下っ端には関係ねぇよ』
下劣な笑い声を上げる彼らの背後に、私は一切の足音を立てずに忍び寄る。そして、誤って殺してしまわないよう、ゲームの補助スキルである『生かさず殺さず(HPを必ず1残すスキル)』を指先に付与し、彼らの首筋に次々と手刀を落としていった。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ。
『え……? な、に……』
悲鳴を上げる暇すら与えない。カードを握りしめたまま、男たちは白目を剥いて次々と床に崩れ落ちた。サブキャラなども作らず、このキャラ一筋で極限まで育成し続けたサキュバスのステータスにかかれば、この程度のゴロツキなど止まっている案山子(かかし)と変わらない。
(ふぅ。さすがにリアルで人を殴るのはまだ少し変な感覚がしますが……ゲームのスキルがちゃんと機能してくれるのは助かりますね)
出払っているのか、アジト内にそれほど人数はいなかった。私は出会った相手を次々と気絶させながら、気配を殺して奥へと進んでいく。やがて、一番奥にある立派な木製の扉――いかにも『ボスの部屋』といった雰囲気の部屋へと辿り着いた。
少しだけ開いた扉の隙間から、何やら話し声が聞こえてきた。
当然だが、この透明化の魔法の弱点は、扉の開閉といった『物理的な干渉』までは誤魔化せないことだ。誰もいなければ問題はないけれど、人目がある所で扉の開閉などしようものなら、周囲から見れば勝手に扉が開くという異常事態と見られてしまう。
今回は運良く扉が少し開いていたので、私は中で行われている会話に耳を傾け――――聞こえてきた内容にピタリと足を止めた。
『……昨日の“聖女の処分”の件、特に問題も無く完了しましたぜ』
(…………はい?)
『ええ。ご苦労様でした。今頃は魔の森で、毒で死体になっている頃でしょう。これが、約束の追加報酬です』
隙間から覗き込むと、そこには傷だらけの悪党面をしたこの組織のボスと……そんな悪党面をした人物と一緒にいるのが似合わない、豪華な神官服に身を包んだ人物が、分厚い金貨の袋をやり取りしている光景があった。
(…………あれ? もしかして?)
私は、お小遣い稼ぎとあわよくば情報が手に入らないかな、程度のつもりで乗り込んできたのだ。それがまさか。セシリアをあんな目に遭わせた『実行犯』たちの密談に、運良くカチ合うなんて。
『ええ。しかし、あの忌々しい小娘がいなくなってせいせいしましたわ。平民のくせに次期教皇候補の筆頭だなんて、身の程知らずにも程がある。それに、あのバカ娘がスラムの貧民どもに無料で治癒なんて施すから、教会の治療院の利益がダダ下がりだったんですよ』
『へへっ、貧民どもから搾り取れねえんじゃ、俺たち闇ギルドに回ってくる裏金も減っちまいますからねぇ。……眠っている小娘を麻袋に詰めて魔の森に捨てるだけでこれだけ頂けるとは、ボロい商売でしたわ。また目障りな聖職者がいたら、宜しく頼みますぜ』
(……あの女。セシリアの純粋な善意を、そんなふうに……っ)
隙間から漏れ聞こえる下劣な会話に、私のこめかみでピキリと青筋が鳴った。
『ええ、何かあったらまた頼みますよ。……さて、用も済みましたし、私は聖都へ戻り――』
「――へぇ。なるほど。あなたたちが、私の『恩人』に手を出したんですね?」
『『――――ッ!?』』
突然、何もない空間から響いた声に、ボスの男と女性神官がビクッと肩を跳ねさせて振り返る。
私は声を出したと同時に自ら『透明化』を解除し、部屋の隅からゆっくりとその姿を露わにした。頭から生えた艶やかな角、背中のコウモリの羽、お尻から伸びる長い悪魔の尻尾。そして豊満な肢体を煽情的な衣装で隠したサキュバスの真の姿である。
「な、なんでこんな所に魔族が!?」
ボスの男が、信じられないものを見るような目で悲鳴を上げた。最前線で戦争をしているはずの憎き魔族が、なぜ人間の辺境の街の、しかも自分たちのアジトの奥深くに立っているのか。彼のパニックは当然だろう。
「驚くのも無理はありませんね。ですが、あなたたちは万死に値する罪を犯しました」
私は静かに、しかし絶対零度の怒りを込めて微笑んだ。
もし私が偶然通りかからなかったら、セシリアは間違いなくあの廃屋で、たった一人で毒の苦しみに悶えながら死んでいたのだ。
(……確かに、魔力回復と治療のためとはいえ、ちょっとアレなこと……いえ、かなり破廉恥なことはしてしまいましたが! それでも彼女は、転生してからずっと飢餓感に苛まれていた私を救ってくれた、大切な命の恩人なんです!)
立派な正義感などではないかもしれない。だが、これは自分を救ってくれた心優しい少女を理不尽に傷つけ、ゴミのように捨てた悪党たちに対する、純粋で激しい怒りだった。
「チィッ……! 魔族だろうが何だろうが関係ねぇ! 誰だか知らねぇが、あの話を聞かれたからには生かして帰すわけにはいかねぇぞ!」
ボスの男が、凶悪な顔を歪めて腰の剣を引き抜いた。
彼は、私が極限まで育成されたゲームキャラ特有の理不尽な力を持っていることなど知る由もない。この世界において、サキュバスなどの人型魔族は『中級魔族』に分類され、討伐には熟練の兵士が五人以上必要だと言われている。
だが、ここは彼らのアジトだ。正規の兵士には劣るゴロツキの集まりとはいえ、アジトには十人以上の手下が控えている。全員でかかれば中級魔族一匹くらい何とかなる、と計算したのだろう。
「おい野郎ども! 出合えッ! 相手は中級魔族一匹だ、アジトの全員でかかれば何とか討伐できるはずだ!」
ボスは大声を張り上げ、部屋の外にいるはずのゴロツキたちに応援を要請した。
…………。
………………しかし、いくら待っても、扉の向こうからは何の足音も聞こえてこない。静まり返ったアジトには、ボスの荒い息遣いだけが虚しく響いていた。
「な、なんだ野郎ども!? 何やってやがる!」
「無駄ですよ」
焦り始めた男に対し、私は冷ややかな笑みを浮かべて告げた。
「あなたたちの可愛い手下なら、全員通路に転がっています。私がここへ来る途中に、仲良くお昼寝させておきましたから」
「なっ……!? テ、テメェ……!」
アジトの戦力がすでに自分一人になっていると悟り、ボスの顔からスッと血の気が引いていく。男はヤケクソになったように目を血走らせると、隣で震えている女性神官に向かって叫んだ。
「おい神官! 死にたくなきゃテメェも手伝えッ!」
「ひっ、ヒィィッ……!」
ボスは女性神官を怒鳴りつけると同時に、大上段に剣を構え、轟然たる踏み込みで私に向かって斬りかかってきた。鋭い剣尖が、私の無防備な首筋に向かって一直線に迫り来る――――。