レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
大上段から振り下ろされたボスの渾身の一撃。鋭い鋼の剣尖が、私の無防備な首筋に向かって一直線に迫り来る――――が。
私は足すら動かさず、上半身をスッと少しだけ傾けて、その一撃を容易く躱した。
「なっ……!?」
「……遅いですね。欠伸が出そうです」
空を切った剣を見て驚愕する男に対し、私は小さく息を吐いた。
「ふ、ふざけやがってェッ!」
男は怒号を上げ、すぐさま体勢を立て直して連続で剣を振り回してくる。
袈裟斬り、横薙ぎ、突き。人の出入りが激しく、それなりに栄えているこの辺境の宿場町。その裏社会を己の武力だけでまとめ上げ、仕切っている裏組織のボスというだけあって、洗練された恐るべき連撃だ。並の騎士や冒険者なら、あっという間に細切れにされているだろう。
しかし、レベルカンストまで育てたゲームキャラである私の動体視力と敏捷性からすれば、まるでスローモーションの映像を見ているかのようだった。
「チィッ、チョロチョロと……ッ! 当たれェッ!」
私は欠伸を噛み殺しながら、迫りくる鋼の刃を鼻先で、頬の横で、全て余裕で回避し続ける。そして数回躱したところで、「そろそろ飽きましたね」と呟き――――男が渾身の力を込めて放ってきた大振りの斬撃を、素手でガシッと受け止めた。
「なっ……!? バ、バカな……ッ!?」
ボスの男が限界まで目を見開いた。
彼が全魔力と筋力を乗せたであろう鋭利な刃を素手で握り止めているのに、私の手のひらには傷ひとつ、血の一滴すら滲んでいない。圧倒的な防御力の差だ。
「この程度の力で、私を傷つけられるとでも思ったんですか?」
私は冷たく言い放つと、握りしめた鋼の刃にそのままギリッと力を込めた。
バキィッ! メキメキメキッ!
分厚い鋼鉄の剣が、まるでビスケットでも砕くかのように、私の握力だけで無惨にひしゃげ、砕け散っていく。
「ひっ……、バ、バケモ――」
「ゴミはすっこんでなさい」
目の前で己の武器を握り潰され、恐怖で全身を戦慄かせる男。私は、剣を砕いたのとは反対の手を彼の腹部へ向け、路地裏のゴロツキにも使った『突風魔法(ウィンド・ブロウ)』の魔力をさらに引き上げた強化版を、至近距離から打ち込んだ。
ドゴォォンッ!
爆発でも起きたかのような轟音と共に、ボスの巨体が部屋の端まで吹き飛び、背後の石壁に深くめり込んだ。
「ガハッ……、あ……」
男は血を吐き、白目を剥きかけながらも、まだギリギリ意識を保っているようだ。しかし肋骨や手足の骨がいくつか砕けているのか、ピクピクと痙攣するだけで全く動けない状態になっている。
(おや、さすがにボスだけあって少しだけタフですね。キッチリ気絶させておきましょうか)
私が追撃のために一歩踏み出そうとした、その時だった。
「主の威光よ、邪悪なる闇を打ち払う浄化の光となれっ!」
背後から、パニックに陥った女性神官の悲鳴のような詠唱が響いた。振り返ると、彼女の杖の先端から眩い光の束が放たれるところだった。中級の聖属性攻撃魔法『ホーリーレイ』だ。神の威光であるはずのその強烈な光は、一直線に私の身体を撃ち抜いた。
しかし――――ポワァン……。
私を包み込んだ光は、まるで日向ぼっこをしている時のように『少し暖かい』程度の熱を残し、あっさりと霧散してしまった。
「……あれ?」
私は思わず首を傾げた。
(廃屋でセシリアの『聖印(ペンダント)』に触れた時は、ただ触れただけだったのに『ジュッ』と火傷っぽくなって痛んだんですが……。今のはちゃんとした攻撃用の聖魔法のはずなのに、ただの温風レベルでしたよ?)
「な、なんで……!? 聖属性の魔法が、魔族に効かないなんて……っ!」
絶望に顔を歪める女性神官を見て、私は一つの仕様を思い出した。
(ああ、なるほど。聖属性の魔法って、術者の『信仰心』の高さによって威力が変わる仕様でしたね。聖都の教皇候補筆頭の聖女であるセシリアと違って、私利私欲にまみれ、腐敗したこの神官の魔法では、私の魔法防御を貫けない程度の威力しか出ないんでしょうね)
そこで私は、ふと疑問を抱く。
(……しかし、なんでゲームの仕様とこの現実世界の設定が、ここまで完全に一致しているんでしょうか。ステータスから魔法の性質まで、ただの偶然にしては出来すぎです。なんであれ、いつかは原因を調べる必要がありそうですね)
「ひっ、あ、あああっ……!」
最大の切り札が全く通じなかったことで完全に心が折れたのか。女性神官はカタカタと震えながら杖を落とし、その場に力なくへたり込んだ。私は無様に尻餅をつく彼女の首根っこを掴み、軽々と持ち上げて壁に押し付けた。
「た、助けて、殺さないで……っ!」
「殺す? いえいえ、殺しませんよ。あなたには、まだやってもらわなきゃいけない『仕事』がありますからね」
もしここでこいつを殺せば、聖都の腐敗神官たちが『使いが戻ってこない』と怪しんで、何かあったと考えて警戒を高めるかもしれない。それは非常に面倒だ。
(……なら、完全に『私の操り人形』にしてしまえばいいんですよね)
私がプレイしていたVRMMOでは、特殊なクエストをクリアすることでのみ異なる種族の『ハーフ』になることができた。その最大の利点は、複数の種族の能力を取得できること。さらに、同じ性質の能力が被った場合は通常よりも遥かに強力に強化されるという仕様があった。
私の『サキュバス・ヴァンパイア・クイーン』は、名前通りサキュバスとヴァンパイアのハーフ。魅了した敵は味方のパーティ枠を一人分使ってしまうため、ゲームでは不人気だったが……。
「ねえ。あなた、私の大切な恩人にひどいことをしましたよね?」
「ひ、ヒィッ……! ゆ、許し、お許しをぉっ!」
「許しませんよ。だから、これからは私のために、文字通り『死ぬまで』馬車馬のように働いてもらいますから」
私はニッコリと笑い、女性神官の首根っこを掴んだまま無理やり私と目を合わせさせた。私の瞳が、ヴァンパイア特有の妖しい真紅の光――『魅了の魔眼』――を帯びる。同時に、サキュバスの『魅了魔法』を彼女の脳髄へ直接、視線を通して流し込んだ。
「ヒッ――――……あっ、あぁぁぁぁんっ……♡♡」
ドクンッ、と彼女の身体が大きく跳ねた。精神を強制的に書き換えられる恐怖は、二重の魅了がもたらす魔力によって一瞬にして脳を焼き切るほどの強烈な快楽へと反転し、女性神官はビクビクと身体を震わせて甘い嬌声を上げた。
種族は人間のまま。アンデッドにも魔族にもせず、ただ魂の根底の忠誠心だけを『私(ご主人様)への絶対服従』へと書き換える魅了の重ね掛け。
(ゲームキャラが現実の肉体となった今の私には、感覚的にわかります。この世界には『パーティ枠』なんてシステム的制約はないため、魅了できる人数は無制限。さらにこの魅了の重ね掛けは通常の魅了と違っておそらく永続。……男性相手には嫌悪感がキツすぎてもう一生やりたくないレベルなんですが、これ、下手すると私一人で国を支配できてしまうのでは……?)
自らのヤバすぎる能力の全貌に気付き、私は内心で少しだけ冷や汗を流した。もしこんな力が世間にバレたら、間違いなく『世界の敵』として全人類から討伐隊を組まれてしまうだろう。レベルがカンストしているとはいえ、そんな面倒な事態は絶対に避けたい。
(この重ね掛け魅了は、世界の敵認定されないためにも出来る限り使わないように封印しておきましょう……)
私が内心で平和主義(?)な決意を固めながら魔眼の力を解くと、女性神官は力が抜けたようにその場にへたり込んだ。しかし数秒後、彼女はゆっくりと立ち上がる。その瞳からは先ほどまでの傲慢さや恐怖といった感情は完全に消え失せ、代わりに私に対する狂信的な熱と、快楽の余韻でトロンとした色気を帯びていた。
「私の声が聞こえますね?」
「……はい。我が身も心も、すべては愛しきご主人様のために……♡」
頬を紅潮させ、甘く蕩けた声で答える女性神官。先ほどまでとはほぼ別人である。だが、この完全魅了の怖い所は、見た目は完全にいつも通りで、普段通りの行動が出来るという点だ。
ゲームでは状態異常欄に『魅了』と表示されたが、現実のこの世界にステータスウィンドウ的な物は無い。この場合、魅了されているかの有無は恐らく行動でしか判別が出来ないだろう。そして、彼女は私以外の人間に対しては、今まで通り『腐敗した傲慢な神官』として完璧に振る舞うことができる。まさに最高のスパイだ。
「よし。じゃああなたは真っ直ぐ聖都に帰って、『聖女は間違いなく魔の森で毒に苦しんで死んでいた』と偽の報告をしなさい。その後は、今まで通りに生活しながら……調べられそうなら、セシリアの冤罪と毒での暗殺についての情報収集をお願いしますね。あ、向こうに怪しまれたら元も子もないので、無理には集めないように。いいですね?」
「ええ、お任せくださいませ。ご主人様の敵は、私がすべて欺いてみせましょう……ふふっ」
女性神官は艶然と微笑んで深く一礼すると、少しおぼつかない足取りで部屋を後にした。今後、もし聖都へ行くことになった際、向こうの内部事情を探るための強力な情報源になってくれるだろう。
(さて。神官の事後処理も終わりましたし、あとは……)
私はクルリと振り返り、壁にめり込んだままの一人の男に視線を向けた。この裏組織のボスである男は、私が神官の精神を完全に書き換え、意のままに操り人形へと変えるまでの一部始終を、壁に埋まったまま恐怖に引き攣った顔で見ていたのだ。
「ひっ……、あ、悪魔……! く、来るな……ッ!」
私が近づくと、男はガチガチと歯を鳴らしながら震え上がった。威勢の良かった先ほどまでの面影は完全に消え去っている。
「安心してください、命まで取るつもりはありませんよ。ただ、あなたには少し『お願い』がありまして」
「お、お願い、だと……?」
「ええ。通路で倒れているあなたの可愛い手下たちと、今も骨が砕けて苦しんでいるあなたのその傷を、私の魔法で完全に治してあげます。……その代わり、このアジトにある金品や裏金の隠し場所をすべて教えること。そして今後、私や私の関係者に一切の報復やちょっかいを出さないこと。この二つを約束してください」
私は慈愛に満ちた(と自分では思っている)笑みを浮かべて、提案という名の『脅迫』を突きつけた。
「治す、だと……? ば、馬鹿な。魔族が人間の傷を癒やすなど……。それに、もし俺が断ったらどうする気だ……?」
「断るなら、別に構いませんよ?」
私はわざとらしく首を傾げ、先ほど神官を洗脳したのと同じように、瞳に真紅の光を灯してみせた。
「傷を治さずに放置して、あなたにもさっきの神官と同じ魔法をかければ、隠し場所なんて簡単に吐かせられますからね。……まあ、むさ苦しいおじさんに魅了を使うなんて生理的嫌悪感が凄まじいので、途中で力を調整しきれずに、あなたの脳みそが破裂して死んでしまうかもしれませんが」
「ヒィッ……!?」
脅し文句を聞いた瞬間、男の顔からスッと血の気が引き、完全に白紙のような真っ白な顔色になった。死ぬよりも恐ろしい『精神の破壊』を目の前で見せられたのだ。裏社会を取り仕切るボスとはいえ、抗えるはずもない。
「わ、わかった! わかった、教える! 全部持っていけ! 机の裏の隠し金庫だ! 鍵は俺の胸ポケットに入ってる! 頼むから、俺の頭をいじらないでくれぇっ!」
「ふふっ。話が早くて助かります」
ボスの男が涙と鼻水を流しながら降伏したのを見て、私は満足げに頷いた。私は男の懐から鍵を抜き取ると、すぐさま彼の首筋に手刀を落として気絶させた。これ以上起きていられても騒がしいだけだ。
そして、部屋の中心に立つと、気絶したボスと通路にいるゴロツキたち全体を包み込むように、広範囲の回復魔法『エリア・ヒール』を発動した。淡い緑色の光がアジトを満たし、ボスの砕けた何本もの骨や、ゴロツキたちの打撲傷を一瞬にして完治させていく。
(ここで中途半端に殺したり一生治らない重傷者を残したりすれば、必ず逆恨みを買い、忠告を無視してでも報復しようとする輩が出てきますからね。大切なセシリアへの恩返しに、これ以上無用な横槍を入れられるわけにはいきませんし)
そんな事を思いつつ、私は男の言っていた机の裏の隠し金庫を開けた。中に入っていた大量の金貨や宝石を、近場に置いてあった袋に詰め込んでいく。机の上に置かれていた、先ほど女性神官が渡した『聖女暗殺の追加報酬』の袋も、当然のごとく回収する。
(ふふっ、大豊作です! ……って、よくよく考えたら、やってること完全に強盗ですよね、私)
アジトの金品を根こそぎ奪い尽くし、ずっしりと重くなった袋を抱えてホクホク顔になりながら、私はふと冷静になった。
(圧倒的な暴力で脅迫して、精神を洗脳して、金品を強奪して……。この行動、どう見ても私が完全に『悪側』ですよね……?)
元の日本の倫理観に照らし合わせると完全にアウトである。しかし、よく考えてみればこれは『因果応報』というやつだ。彼らは私服を肥やすために、私と同じような事をしてきたのだろうし、今回はか弱き少女を魔の森へ捨てたのだから、これくらいの報いを受けて当然だろう。
(それに、裏組織が不当に溜め込んでいる汚れた資産を奪い、それを市場に流して経済を回すんですから、ある意味では社会貢献です! しかもそのお金で心優しい聖女様を助けるのだから、立派な人助けの一環と言っても過言ではありません!)
私は心の中でそんなもっともらしい屁理屈を並べ立て、ほんの少しだけ湧いた罪悪感を綺麗さっぱりと彼方へ放り捨てた。
「せっかくの資金ですから、ありがたく有効活用させてもらいますね!」
私は再び幻影魔法をかけ直すと、本来の目的である服屋へと向かうべく、スキップでもしそうなほど意気揚々と廃倉庫を後にしたのだった。