レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
朝食を終え、テントを片付けた私たちは、いよいよ本格的な街道の旅を再開することになった。
「さあ、出発ですね! ――あ、セシリア。その革袋、私が持ちます」
「えっ? だ、ダメです! 昨日も言った通り、自分の荷物くらい自分で――ひゃっ!?」
言い終わる前に、私はセシリアが抱えようとしていたずっしりと重い革袋(魔物避けの香炉や毛布が入っている)を、問答無用でひょいっと奪い取った。
「昨日の反省を生かしてください! セシリアはただでさえ昨日無理をして倒れかけたんですから、今日は手ぶらで歩いてもらいます!」
「うぅっ……。でも、リゼット様だってすでにその大きなリュックを背負っているのに……」
セシリアが申し訳なさそうに見上げる先には、私の背中で山のようにそびえ立つ巨大リュックサックがある。私は奪い取った革袋を、リュックの空いているスペースに無造作に括り付けた。成人男性でもひっくり返りそうな重量と体積だが、私の筋力からすれば、羽根布団を背負っているのと大差ない。
「ほら、全然平気です。さ、行きますよ!」
「……はぁ。リゼット様には敵いませんね」
セシリアは小さくため息を吐きながらも、どこか嬉しそうに微笑んで私の隣に並んだ。
サクッ、サクッ……
二人の足音が、のどかな土の街道に響く。魔の森の獣道とは違い、人々の往来で踏み固められた街道は格段に歩きやすい。しかし、私はセシリアの体力に合わせ、あえて『すっごくゆっくり』としたペースで歩幅を合わせていた。
「……あの、リゼット様。さすがにもう少し速く歩けますよ? わたし、子供じゃありませんから」
あまりの過保護っぷりに、セシリアが少し不満げに頬を膨らませて抗議してくる。
「ダメです。セシリアは油断するとすぐに『聖女だから』って無理をして限界まで我慢しちゃうんですから。疲れたらすぐに言ってくださいね? いつでもおんぶ……じゃなくて、お姫様抱っこしますから!」
「も、もう! 昨日から過保護すぎます!」
顔を真っ赤にしてポカポカと私の腕を叩いてくるセシリア。そんな微笑ましいやり取りをしながらのんびりと歩くのは、ピクニックのようで悪くない。
しかし、ただ無言で歩き続けるのも退屈だ。私はふと、昨日から気になっていた疑問を口にした。
「そういえばセシリア。昨日の道具屋のおじさんが言っていた『天恵(ギフト)』って、具体的にどんなものなんですか? 言葉自体は知っているんですが、魔族には天恵という概念がないので、詳しい効果までは里の文献にも載っていなくて」
「あ……はい。教会の教えによれば、天恵とは人族の神である『女神様』が、数千人から数万人に一人の割合で、人族に授ける特殊な能力のことです」
セシリアは少し表情を引き締め、真面目な声で語り始めた。
「この世界は、人族の神である『女神様』と、魔族の神である『魔神』の二柱が争っていると言われています。ですが、神々が直接戦えば力が拮抗しているため、世界ごと両者が消滅してしまう危険がある。……だからこそ、この世界を作り、人族と魔族による『神々の代理戦争』を行わせているのだと、教会ではそう伝えられています」
「神々の、代理戦争……」
「はい。そして天恵とは、その魔神の勢力と戦い、勝ち抜くために、女神様が人族に与えてくださった恩恵なのです。魔力を劇的に高めるものや、身体能力を飛躍的に向上させる『剛力』や『俊敏』など、様々ですね」
「なるほど……神聖で特別な力なんですね」
「ええ。ですが……」
セシリアはそこで言葉を切ると、少し呆れたように小さくため息を吐いた。
「神聖な力のはずなのに、教会に治療を受けに来た若い冒険者の方が、シスターたちに向かって『俺は天恵を持っている将来有望な男だぞ』と自慢げに語って口説いているのを、よく見かけましたけれど……」
「あはは。どこの世界でも、男の人のやることは変わりませんね」
聞けば、セシリア自身も『魔力増大』という通常よりも魔力が大幅に跳ね上がる天恵を生まれつき授かっており、それが理由で孤児院から教会へと見出されたのだという。
「へぇー、そうだったんですか。それにしても、神様の代理戦争だなんて、なんだかすごくスケールが大きいお話ですね」
私が感心したように相槌を打つと、セシリアは不思議そうにパチクリと瞬きをした。
「……え? あの、リゼット様? 魔族の神である魔神のお話なのに……もしかして、魔族の方にはそういった神話や伝承は伝わっていないのですか?」
「へっ?」
(……あ、しまった!)
おそらく、魔族側にも似たような伝承はあるのだろう。特に私のような『中級以上の魔族』であれば、常識として知っていて当然の知識だったのかもしれない。
しかし、中身が『異世界から来た元・女子高生』である私が、そんなこの世界の神話なんて知る由もない。魔族の里にいた時も、そんな小難しい歴史書など一切読んでいなかったのだ。
「あ、あはは! ほら、私って森にずっと引きこもってた特異体質のサキュバスですから! 難しい歴史とか神話にはちょっと疎くて!」
「……なるほど、そういうことですか」
私が滝のような冷や汗を流しながら誤魔化すと、セシリアは少しだけ目を伏せ、何かを考えるようにじっと私を見つめてきた。昨晩、私が寝ぼけて『ちきゅう』という謎の単語を口走ってしまった時と同じような、静かで、探るようなアメジストの瞳だ。
「せ、セシリア……?」
「いえ……なんでもありません」
セシリアがそれ以上追及してこなかったことで、私はホッと胸を撫で下ろした。彼女の胸の内に、私という存在への小さな『違和感』が積み重なっていることなど知る由もなく。私は難しい神話の考察をあっさりと放棄し、目の前のもっと実用的なメリットに気がついていた。
(つまり、天恵持ちの人間は『常識外れの力』を持っているということ。これ、今後の言い訳として完璧に使えますね!)
もし私が人前でうっかりバカ力を出してしまっても、『魔族だから』ではなく『剛力の天恵持ちだから』と言い張れば、人間社会で怪しまれずに済むのだ。私はポンッと手を打ち、これからのカモフラージュ設定を心の中で固く決意した。
――そんな有意義な世界観トークをしながら街道を数時間ほど進んだ頃。
「あれ? リゼット様、あそこ……」
「ん? 誰か立ち往生していますね」
街道の先、少しひらけた場所に、一台の大きな荷馬車が停まっていた。
よく見ると馬車の車輪の軸が外れてしまっており、車体が大きく傾いている。馬車の横では、身なりの良いふくよかな行商人と、革鎧を着た二人の若い護衛――首から提げた木製のギルドカードが初級冒険者の証だ――が、必死の形相で馬車の後部を持ち上げようと悪戦苦闘していた。
「せーのっ、うおおおおっ!」
「だ、ダメだ! 荷物が重すぎて持ち上がらねえ!」
「くそっ、このままじゃ日が暮れちまうぞ……!」
冒険者とはいえ、初級レベルは『基礎的な訓練を積んだ、少し腕っぷしの強い一般人』に過ぎない。積載量満載の重い荷馬車を二人で持ち上げるなど、物理的に不可能なのだ。
「お困りのようですね。手伝いましょうか?」
私が声をかけると、商人と護衛たちはハッとしてこちらを振り返った。しかし、私の背中にある常軌を逸した巨大リュックと、隣にいる魔法使い姿の小柄なセシリアを見て、彼らは困ったように眉を下げた。
「お、おう、嬢ちゃんたち。気持ちはありがてえが、見ての通り馬車が壊れちまってな。俺たちでも持ち上がらねえ重さなんだ。嬢ちゃんたちの細腕じゃあ……」
「大丈夫ですよ。ちょっとどいていてください」
私は護衛たちの制止をひらりと躱し、背負っていた巨大なリュックをどすんと地面に下ろすと、傾いた馬車の後部にスッと入り込んだ。そして、両手を馬車の底板に添え――。
(いけない、いくら天恵持ちでも涼しい顔で持ち上げたら怪しまれますね。ここは限界の力を振り絞っているフリをしましょう!)
「んんんっ……よい、しょぉぉぉぉっ!!」
メキメキッ、と軋む音と共に。
私はわざとらしく顔をしかめ、数トンの重量があるであろう荷馬車を、さも渾身の力を込めているかのように両手でゆっくりと持ち上げてみせた。(本当は空箱のように軽いのだが)
「「「…………は?」」」
商人と護衛の冒険者たちの動きが、完全にフリーズした。口をあんぐりと開け、目玉がこぼれ落ちそうなほど見開いて、馬車を持ち上げている私(見習い女剣士の姿)を凝視している。
「ほら、今のうちに車輪の軸をはめちゃってください!」
「あ、ああ、おおっ!? す、すぐやる!」
我に返った商人と護衛が慌てて車輪を押し込み、カコンッ、と見事に軸がはまった。私がゆっくりと馬車を地面に下ろすと、護衛の男たちが信じられないものを見るような目で私を取り囲んできた。
「ね、姉ちゃん、すげえな!? 一体全体、どうなってんだその馬鹿力は!」
「俺たちじゃビクともしなかったんだぞ!? それをこんな細腕の姉ちゃんが持ち上げるなんて……バケモノかよ!?」
よし、来た! 私はさっき思いついたばかりの言い訳を披露すべく、わざとらしくえっへんと胸を張り、ドヤ顔で言い放った。
「ふふんっ! 気づいちゃいましたか? 実は私、こう見えて『剛力』の天恵持ちなんです!」
――だぷんっ。
私が得意げに胸を張ったその瞬間。冒険者の服では到底隠しきれない私の爆乳が、重力に従って暴力的なまでの質量を主張し、大きく揺れた。
馬車を持ち上げた私を凝視していた初級冒険者の少年二人は、その豊満な揺れと、さらには私の整いすぎた容姿に今更ながら気がついたらしい。急に顔を茹でダコのように真っ赤にして、あからさまに見惚れたようにフリーズしてしまった。
冒険者があえて自分の手札(スキル)を明かすのは本来なら悪手かもしれない。だが、先ほどセシリアが呆れながら語っていたように、富や名声を求める若い冒険者の中には自身の『天恵』を誇示して箔をつけようとする者も数多くいるらしい。
そうであるなら、この状況で自慢げに名乗りを上げるのは『少し見栄っ張りな若手冒険者』として、むしろ自然な振る舞いのはずだ。予想通り、私の嘘は今見た情景と共に彼らの中で納得と共に受け入れられた……のだが。
「…………」
しかし、私のすぐ隣では。先ほど私に『天恵』の意味(と、それを自慢する痛い冒険者の愚痴)を教えたばかりのセシリアが、見事な絶対零度のジト目を向けていた。
(い、痛いですセシリア! そんなウソつきを見るような目で見ないで! 天恵という特殊能力があるならこう言うのが説得力もありますし早いじゃないですか!)
私が内心で冷や汗を流していると、少年たちとは違って大人の余裕を見せる商人の男性が、揉み手をして近づいてきた。
「いやぁ、天恵持ちのお嬢ちゃんたちのおかげで本当に助かったよ! 俺は行商人のトーマスってもんだ。よかったらお礼に……お嬢ちゃんたち、この街道を通ってるってことは聖都に向かってるんだろ? だったら、うちの馬車に乗っていきなよ! 歩くよりずっと速いし、楽だぜ!」
「本当ですか!? ありがとうございます、私はリゼットです。こっちの彼女は――『セリア』。馬車に乗せていただけるなんて、すごく助かります!」
「……えっ?」
自分の本当の名前とは違う偽名で紹介され、セシリアがハッとして私を見上げてくる。私はトーマスさんたちに気づかれないよう、彼女に向かってパチリとウインクを一つ落とし、『今はこれで話を合わせてください』とアイコンタクトを送った。
聡明な彼女も、すぐに自分の立場を思い出したのだろう。こくりと小さく頷き、顔を隠すようにつば広の帽子を深く被り直した。
馬車に乗せてもらえるなら、セシリアの体力を温存したまま、本来なら数日かかる旅程を一気に短縮できる。私とセシリアはありがたく申し出を受け、トーマスさんの荷馬車の空きスペースへと乗り込んだ。
(ふふんっ。私の機転と圧倒的なパワーのおかげで、まさかの超絶ショートカット成功ですね!)
ガタゴトと心地よく揺れる馬車の中で、私は内心で盛大にガッツポーズを決める。
――ただし。
「…………」
隣にちょこんと座るセシリアからは、『先ほどのあれは一体なんですか』とでも言いたげな、呆れ半分のジト目が突き刺さったままだ。私は彼女へと身を寄せ、御者台にいるトーマスさんに聞かれないよう、耳元で極限まで声を潜めて言い訳を囁いた。
「『あ、あのー、セシリアさん? ……私が魔族だって言えない以上、ああやって天恵持ちだって誤魔化すしかなかったというか。それに、勝手に『セリア』なんて偽名で紹介しちゃったのも、ごめんなさい……』」
私の必死の弁解を聞き、セシリアは不思議そうに目を瞬かせたあと、小さく肩をすくめて耳元で囁き返してくる。
「『……え? いえ、私は冤罪で手配されているかもしれない身です。そのまま名乗るのは確かにまずいですよね。リゼット様の機転には助けられてばかりです、ありがとうございます……っ』」
「『よ、よかったぁ……! じゃあ、なんでジト目だったんですか? 怒ってないんですよね?』」
「『はい。怒ってはいませんよ。ただ……』」
彼女は口元を袖で隠しながら、堪えきれない様子で小さく吹き出した。
「『リゼット様の先ほどのドヤ顔が、さっきお話しした教会の冒険者の方にそっくりだったのを思い出してしまって……』」
「『えっ! そんな男のイメージと重ねないでくださいよ……恥ずかしい……っ!』」
私が顔を真っ赤にして小声で抗議すると、セシリアはさらに肩を震わせて、クスクスと楽しそうに笑い声を上げた。
そんな私たちの賑やかなやり取りを乗せて。一台の荷馬車は、私たちの決戦の地である『聖都』方面へと向かって、のどかな街道を走り出したのだった。