レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
楽しいお茶の時間が終わり、夜もすっかり更けてきた頃。いよいよ男女でテントを分けて就寝することになったのだが、ここで一つ話し合いが行われていた。
「夜警、ですか?」
「ああ。街道沿いで比較的安全とはいえ、ここは外だからな。魔物や野盗の襲撃に備えて、交代で火の番と見張りをするのが野営の基本だ」
トーマスさんの言葉に、私はきょとんと首を傾げた。
「えっと……でも、私たちにはこれがありますよ?」
私は巨大リュックの中から、道具屋でセシリアが購入していた『魔物避けの香炉』を取り出した。かなり高価な代物で、これを焚いておけば低ランクの魔物は寄り付かない。
(それに、私がこっそり周囲に『敵意感知の結界魔法』を張りますから、見張りなんて立てなくてもみんなで朝までぐっすり眠れますし)
私が内心でそう思っていると、初級冒険者のカイル君とリック君が真面目な顔で首を横に振った。
「いや、香炉があっても寝ずの番は絶対に必要だ。道具に頼り切って油断してたら、いざって時に足元をすくわれるって、ギルドの教官にも酸っぱく言われてるからな」
「俺たち、まだ初級だし。こういう安全な場所での夜警も、立派な冒険者になるための大事な訓練なんだ。だから、夜警は俺たち二人が交代でやるよ」
自分たちの仕事を全うしようとする、若き冒険者たちのひたむきな向上心。
(なるほど……確かに、彼らの言う通りですね。ここで私が『結界があるから平気ですよ』なんて魔法の力で解決してしまったら、彼らの成長の機会を奪うことになってしまいます)
私は二人の真摯な姿勢に感心し、一つ頷いた。
「……分かりました。お二人の言う通りですね。でも、それなら私たちも一緒に夜警をやりますよ。タダで馬車に乗せてもらっているんですから、私たちも立派な戦力です」
「えっ? いや、でも姉ちゃんたちは……」
「いいえ、やります。セリアもそれでいいですよね?」
「はい。恩になりっぱなしというわけにはいきませんから」
セシリアも、つば広帽子の下で真剣に頷いた。
「よし、それなら四人で時間を分けて交代しましょう! 時間割を教えてください!」
こうして、私たちは数時間おきに見張りを交代しながら、夜の森で就寝することになった。
――とはいえ。
高価な魔物避けの香炉の効果と、私が密かに展開しておいた『敵意感知の結界』の二重ガードがある野営地は、文字通り鉄壁だった。結局、私たちの見張りの時間帯も含め、朝まで魔物はおろか野ウサギ一匹近づいてくることはなく、何事もなく平和な夜が明けたのだった。
◇ ◇ ◇
「ふわぁ……よく寝ました。おはようございます、セリア」
「おはようございます、リゼット様」
翌朝。
テントから這い出した私たちは、昨日の夜に残しておいたスープと硬パンで手早く朝食を済ませた。野営の片付けを終えると、私たちは再びトーマスさんの荷馬車に揺られ、順調に街道を進んでいった。
ガタゴト、ガタゴト。
太陽が高く昇り、日差しがすっかり暖かくなった昼前頃。馬車の荷台で揺られていた私とセシリアの視界に、ついに『それ』が飛び込んできた。
「リゼット様、見えました……あれが、聖都『エリュシオン』です」
セシリアが、帽子を深く被り直しながら、微かに震える声で呟いた。
街道の先、小高い丘の上にそびえ立つのは、白亜の美しい城壁に囲まれた巨大な都市だった。街の中心には天を突くような大聖堂の尖塔が神々しく輝き、遠目からでもその威容と権力の大きさがうかがえる。ついに、セシリアの冤罪を晴らし彼女を嵌めた者たちに天罰を降すための決戦の地に到着したのだ。
しかし、聖都へと続く正門の前に近づくにつれ、私たちは馬車の外の異様な光景に息を呑むことになった。
「……なんだか、やけに物々しい警備ですね。門を通る人たちの顔を、一人一人念入りに確認しています」
聖都の入り口には、教会の紋章が刻まれた鎧を着た神殿騎士たちがずらりと並び、街に入る者たちに対して非常に厳しい検問を行っていた。ただの通行税の徴収ではない。彼らの手には、何やら『人相書き』のような手配書が握りしめられている。
(うわぁ……あれ、絶対にセシリアの手配書ですよね。『寄付金横領の罪で逃亡中』とか書かれてるんでしょうか……)
もし私たちが二人きりで街道を歩いてきていたら、あの検問を正攻法で抜けるのは至難の業だっただろう。セシリアも状況を察したのか、顔面を蒼白にさせて私の服の裾をぎゅっと握りしめていた。
だが、私たちには心強い味方がいる。
「おいおい、なんだってこんなに混んでるんだ? まぁいい、嬢ちゃんたちはじっとしてな」
御者台に座るトーマスさんが、面倒くさそうに頭を掻きながら馬車を進めた。やがて私たちの馬車の順番が来ると、神殿騎士の一人が鋭い目つきで近づいてきた。
「止まれ。身分証を提示しろ。あと、同行者たちの顔も確認させてもらおうか」
騎士が荷台に乗っている私たちを指差した瞬間、トーマスさんはふぅとため息を吐き、これ見よがしに立派な商会の通行証を提示した。
「おいおい、騎士様。俺はこの聖都に何年も物資を卸してるトーマス商会のモンだ。この少年二人は冒険者ギルドの護衛で、そっちの嬢ちゃんたちは、俺が道中で運悪くトラブった際に助けてくれた冒険者の二人だよ。行く先が一緒だったから解決してくれたお礼として乗せてきただけだ」
「む……? トーマス商会か。確かに、記録には残っているな」
「ああ。まさか、俺が犯罪者でも匿ってるっていうのかい? いいぜ、ならこの荷車に積んである上質な小麦も布も、全部別の街に売りに行くからな。あんたが上司に『俺のせいで物資が足りなくなりました』って説明してくれるなら、今すぐ引き返してやるよ」
ベテラン商人らしい、堂々としたハッタリと交渉術。物資の供給を盾に取られた騎士は、チッと舌打ちをして手配書から視線を外した。
「……いや、いい。商会の人間なら問題ない。通れ」
騎士が道を空け、重厚な鉄格子がゆっくりと持ち上がる。
私たちは顔を見られることもなく、商人一行という完璧なカモフラージュによって、あっさりと厳重な検問を突破したのだった。
(万が一「帽子を取れ」と言われた時のために、セシリアの顔を変える『幻影魔法』の準備はしていました。でも、聖都の関所ともなれば『魔力感知』の魔道具などが設置されているリスクもあったので、あくまで最終手段だったんですよね。トーマスさんの見事なハッタリには、本当に助けられました)
厳重な検問を抜け、巨大な城壁の内側へと足を踏み入れると、そこには辺境の街とは比べ物にならないほどの大都会が広がっていた。
石畳で舗装された大通りには、馬車や人々がひっきりなしに行き交っている。白亜の建物のあちこちには教会のシンボルである女神の紋章が刻まれ、道ゆく人々の中にも、純白の神官服を着た教会の人間たちの姿が多く見受けられた。
ここが、人族の信仰の中心地であり、セシリアを陥れた敵の本拠地――聖都『エリュシオン』だ。
馬車が商業区の大きな広場に差し掛かったところで、トーマスさんが手綱を引いて馬を止めた。
「さて、俺たちはこれから荷物を商会に卸しに行く。嬢ちゃんたちとはここでお別れだな」
「はい。トーマスさん、道中のお気遣い、本当にありがとうございました。これ……さっきの検問で庇っていただいたお礼です。受け取ってください」
私が荷台から降りて、銀貨をいくつか包んだ小袋を手渡すと、トーマスさんは中身を確認し、ニヤリと商人らしい笑みを浮かべた。
「馬車に乗せたのはこっちの助けになったお礼だったんだが……まあ、検問のヒヤヒヤ代としてありがたく受け取っておくぜ。……いいか嬢ちゃんたち。詳しい事情は聞かないが、くれぐれも気をつけるんだぞ」
「はい、ありがとうございます。色々と落ち着いて余裕ができたら、トーマス商会に何か買いに行かせてもらいますね」
トーマスさんの大人の気遣いに満ちた忠告に、私は深く頭を下げる。私の言葉に、トーマスさんは「ははっ、その時はたっぷり勉強(値引き)させてもらうぜ」と朗らかに笑い返し、荷馬車を動かす準備をしに向かった。すると次は、護衛のカイルとリックが私たちに別れの挨拶をしてくる。
「リゼット姉ちゃん、セリア姉ちゃん! スープも紅茶もすげえ美味かったよ! 本当にありがとな!」
「俺たち、この街を拠点にして絶対ビッグな冒険者になるからさ! いつかまたどこかで会おうな!」
「ええ。二人とも、怪我には気をつけて。立派な冒険者になってね」
眩しいほどの若さと夢に溢れた初級冒険者の二人。そして、渋くて頼りになるベテラン行商人。
彼らとの出会いは、私たちの初めての旅をとても温かく、賑やかなものにしてくれた。大きく手を振って去っていくトーマスさんの荷馬車が見えなくなるまで、私とセシリアは並んで見送ったのだった。
◇ ◇ ◇
「……行ってしまいましたね。本当に、良い方たちでした」
セシリアが、帽子を深く被ったままポツリと呟く。
「ええ。またいつか、どこかで会えるといいですね。……さて、それじゃあ私たちも行動開始です」
私は気合を入れるようにポンと手を打ち、広場の中心にある巨大な掲示板へと視線を向けた。そこには多くの市民が群がり、新しく張り出された手配書の前でヒソヒソと噂話をしている。私たちは周囲に溶け込むように自然な足取りで近づき、その紙面に書かれた内容を確認した。
『指名手配:元聖女セシリア。
罪状:教会に対する重大な背信行為、および多額の寄付金横領の容疑。
特徴:銀髪に紫の瞳、小柄な少女。
※罪の発覚を恐れて逃亡中のため、発見次第、速やかに教会騎士団に通報のこと』
「…………っ」
私の隣で、セシリアがローブの裾をギュッと強く握りしめた。
(なるほど……。奴らはセシリアが魔の森で毒死したと確信しているはず。つまりこの手配書は、本気で彼女を捜索するためのものではなく、市民や他の派閥に向けて『彼女は横領がバレて逃げた最低な聖女だ』と印象づけるための、ただのパフォーマンスというわけですか)
死人に口なし。彼女を確実に殺した上で、行方不明の理由をでっち上げ、社会的に完全に抹殺する。そのあまりにも徹底した陰湿さに、私は腸が煮えくり返る思いだった。
「ひどいな。あんなに優しくて立派だった聖女様が、信者からの寄付金を自分の懐に入れていただなんて」
「ああ……次期教皇候補の筆頭だったのに、重圧でおかしくなっちまったのかねぇ」
手配書を見上げる市民たちの、心無い噂声が容赦無くセシリアの耳に突き刺さる。
自分の人生の全てを捧げてきた教会に裏切られ、愛していた市民たちから犯罪者として蔑まれる。その絶望と悲しみがどれほどのものか、私には想像もつかない。
私はそっと彼女の背中に手を回し、周囲から見えないようにギュッと抱き寄せた。
「……大丈夫ですか、セシリア」
「は、はい……。覚悟は、していましたから。でも、いざこうして犯罪者扱いされて、皆さんの声を聞いてしまうと……やはり、少し……」
震える声で気丈に振る舞おうとする彼女の背中を、私は優しくポンポンと叩いた。
「見ないでいいです。今は、何を言われても我慢です。私が絶対に、あなたを陥れた真犯人を見つけ出して、このふざけた手配書を破り捨ててやりますから」
「……っ。はい……ありがとうございます、リゼット様」
私たちは手配書の前から静かに離れ、裏通りへと足を踏み入れた。
「さて。まずは今後の証拠集めに向けて、拠点となる『宿』を探しましょう」
私が明るい声で提案すると、セシリアは真剣な顔でこくりと頷いた。
「はい。わたしたちは教会の騎士団から追われる身です。見つからないように、スラム街の近くや、裏路地の目立たない安い宿を探すのがいいですよね。わたし、少し心当たりが――」
「いいえ。私たちが泊まるのは、この聖都で一番高級で、一番豪華な宿です」
「…………えっ?」
セシリアの足がピタリと止まり、帽子の下のアメジストの瞳が、これ以上ないほど丸く見開かれた。
「え、あ、あの、リゼット様? 冗談ですよね? 指名手配犯が高級宿に泊まるなんて、自ら目立ちに行くようなものでは……」
「大真面目です。考えてもみてくださいセシリア。安い宿は壁が薄いですし、素性の知れない怪しい客が入り浸っているので、盗難などのトラブルに巻き込まれるリスクが高いです。それに、万が一騎士団の捜査が入った時、一番最初に目をつけられるのはそういう『ワケアリの人間が隠れそうな安宿』ですよ?」
「そ、それは……」
「その点、高級宿はどうでしょう。お金さえ払えば客の素性を野暮に詮索することはありませんし、部屋には高レベルの防音魔法や結界が張られているのでセキュリティは完璧です。騎士団だって、『逃亡中の犯罪者が街で一番の高級宿に優雅に泊まっている』なんて絶対に思いつきません!」
私が自信満々にドヤ顔で言い放つと、セシリアは「あ、あわわ……」と口元に手を当て、ぐるぐると目を回し始めた。
「と、灯台下暗し、ということですか……? で、ですが、そんな高級な宿、宿泊費だけでもとんでもない額に……!」
「資金ならたっぷりありますよ? なにせ、悪いヤツから巻き上げ……いただいた資金がありますからね! こういうお金はパーッと景気良く使って経済を回すべきです!」
「うぅ……理屈は、理屈はわかりますが……なんだか、ものすごく悪いことをしている気分です……っ」
真面目な聖女様は、まだ倫理観と葛藤しているらしい。もちろん、先ほど私が述べた『灯台下暗しの完璧なセキュリティ』というのは、すべて事実である。……が、私が高級宿にこだわる『本当の理由』は別にある。
(これから危険な証拠集めをするんですから、フカフカのベッドと、セシリアと一緒に入れる広くて綺麗なお風呂は絶対に必須に決まってるじゃないですか!!)
過酷な野宿を乗り越えたサキュバスの淫魔ソウルが、清潔で極上のイチャイチャ空間を激しく求めていた。もちろん、そんな『邪な本音』は、隣で真面目に葛藤している聖女様には欠片も悟られないよう、私は涼しい顔でポーカーフェイスを貫いている。
「さぁ、そうと決まればさっそく宿探しです! 遠慮はいりませんよ、セシリア!」
「ああっ、リゼット様、待ってください……っ!」
私はまだ戸惑っているセシリアの手を引き、聖都で一番の高級宿が並ぶ貴族街のエリアへと、意気揚々と足を踏み入れるのだった。