レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
手紙を受け取った日の、深夜。
日中は高級宿の特別室で誰にも見られず念入りに作戦会議を行い、三日月が薄雲に隠れる暗がりを待ってから、私たちは行動を開始した。
聖都エリュシオンの大教会・西門にある搬入口。その物陰に、二つの人影がひっそりと身を潜めていた。
私たちは、あらかじめ街で調達しておいた地味なグレーの修道服(清掃係のシスター用)に身を包み、顔の半分以上を隠すように深々とフードを被っている。
「……セシリア。そんな地味でダボダボな清掃係の服なのに、あなたが着ると隠しきれない可憐さが溢れ出ていますね。最高に可愛くて、思わず抱きしめたくなります」
「ひゃぅっ!? きゅ、急に何を……っ。そ、そういう風に言ってもらえるのは嬉しいですけど、今は大事な潜入ミッション中なんですから我慢してくださいっ!」
顔を真っ赤にしたセシリアは、ペチペチと私の腕を叩いてから、なぜか少し歯切れ悪くスッと目を逸らした。
「そ、それに……リゼット様も、その……似合ってますよ?」
「……セシリア。気遣いは嬉しいですが、無理に褒めなくても大丈夫ですよ。胸が突っ張って、ただ着膨れしてるみたいになってるのは自分でも分かってますから」
「あうっ……ご、ごめんなさい」
……無理もない。清掃係の修道服は体型を隠すために全体的にゆったりとした作りになっているのだが、私の爆乳のせいで胸元の布だけが前方に大きく突っ張ってしまい、結果として『ただ着膨れして太っているシスター』のように見えてしまっているのだ。
そんな軽口を叩きながら身を潜めていると、やがて、重厚な鉄格子が軋む音を立てて少しだけ開き、中からランタンを持った一人の女性神官が姿を現した。
キリッとした冷たい目つきと、隙のない立ち振る舞い。第一の聖女アウレリアの側近であり、私に洗脳されて忠実なスパイとなった女神官、ミリアムである。
「ミリアム、手引きご苦労様です。誰も見ていませんね?」
私が小声で尋ねると、ミリアムは私を見た瞬間、鉄の仮面のような無表情を一瞬で崩し、トロンとした熱っぽい瞳を向けてきた。
「ああ……愛しきご主人様っ! お会いしとうございました……っ! 警備の騎士たちは別の区画へ誘導してあります、さぁ、早く中へ……っ!」
頬を赤く染め、私の手を両手で包み込んでスリスリと頬ずりしてくるミリアム。有能な側近神官の見る影もないポンコツぶりに、隣にいたセシリアがドン引きしたような顔で私をジトッと睨んできた。
「……リゼット様。あの神官の方、洗脳のせいでなんか変なことになってませんか?」
「し、仕方ないじゃないですか! 『私に絶対服従する』という命令を脳に直接刻み込んだら、副作用でちょっと愛情表現がバグっちゃったんですから! ほらミリアム、案内を」
「はいっ! ご主人様のおおせのままに……っ!」
ミリアムの先導で、私たちは搬入口から大教会の内部へと忍び込んだ。
大理石の床には赤い絨毯が敷き詰められ、壁には神々しいレリーフが彫られている。しかし、そんな神聖な空間の裏側で、今まさに恐ろしい権力闘争と毒殺計画が進行しているのだと思うと、虫唾が走った。
「現在の教会の内部状況は?」
廊下の物陰を進みながら小声で尋ねると、ミリアムは有能なスパイの顔(ただし視線は私に釘付け)に戻って報告を始めた。
「予定通り、三日後の満月の夜に『聖神祭』が前倒しで行われます。第一の聖女アウレリア様が次期教皇に指名される段取りは、すでに上層部で可決されました。毒の進行が早く、現教皇イレーネ様はすでに意識を失い、もってあと数日の命だと医者も匙を投げております。もちろん、その医者もアウレリア様が金で買収した者ですが」
「教皇様が……っ!」
セシリアが悲痛な声を漏らし、ギュッと胸元を握りしめた。私は眉をひそめ、隣を歩く彼女に尋ねる。
「手紙にもありましたが……その『第一の聖女』アウレリアという女が一番の黒幕で、他の二人もそれに加担しているわけですね? そもそも、どんな奴らなんです?」
「他国の高位貴族の娘である、『第一の聖女』アウレリア様。教会の権力者である枢機卿の娘、『第二の聖女』ルチア様。そして、大商人の娘である『第三の聖女』シャルロッテ様です。最後に選ばれた『第四の聖女』であるわたしは、本来なら一番の下っ端のはずでした」
セシリアは唇を噛み締めながら、ポツリポツリと語り始めた。
「……それなのに、スラムの孤児院出身で、加えて一番の新参者であるわたしが、先輩である彼女たちを差し置いて『次期教皇候補の筆頭』に選ばれたのです。表向きは祝福してくれましたが……」
「実際は祝福なんてしておらず、睡眠薬と毒薬をセシリアに盛った上に冤罪を被せた、と……。権力と金とコネの集合体が、新入りの平民にトップの座を奪われそうになって逆ギレしたなんて、絵に描いたようなクズの極みですね」
ターゲットの素性がハッキリしたことで、私の心に冷たい怒りがふつふつと湧き上がってきた。絶対に、一泡吹かせて絶望させてやらなければ気が済まない。
「急ぎましょう。ミリアム、教皇イレーネ様の寝室の警備はどうなっていますか?」
「アウレリア様の息のかかった騎士たちが交代で監視しておりますが……ちょうど今、見回りの時間で十数分だけ警備が手薄になる空白の時間があります。そこを突きましょう」
ミリアムの完璧な手引きにより、私たちは誰一人と遭遇することなく、大教会の最深部――教皇イレーネの寝所へと辿り着いた。
豪華な装飾が施された部屋の中央。大きな天蓋付きのベッドに、一人の初老の女性が横たわっていた。慈愛に満ちたシワの刻まれた顔は土気色に濁り、呼吸は浅く、今にも消え入りそうだった。
「教皇様……っ!!」
セシリアはフードをかなぐり捨て、ベッドの傍らに駆け寄ってその冷たい手を握りしめた。
「セシリア。すぐに聖魔法を」
「は、はいっ!」
セシリアは涙を堪えながら、両手を教皇の胸元にかざした。彼女の規格外の魔力が、淡い浄化の光となって部屋を包み込む。どんな怪我や病気でも治せる、最高位の聖女の力だ。
……しかし。
「――っ!? 嘘、なんで……っ! 光が、弾かれて……っ!?」
セシリアがどれだけ魔力を注いでも、教皇の身体を覆う黒い毒のオーラが、その浄化の光を『拒絶』するように弾き返してしまった。
「普通の毒じゃありません! 聖魔法を弾くような、邪悪な呪いが混ざっています……っ。わたしの力じゃ、教皇様を治せない……っ!」
セシリアの瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。私は教皇の顔色と、吹き出している微かな瘴気の匂いを嗅ぎ、ふと気付く。
(……あれ? この匂いと症状、魔族領に住んでいた時に図鑑で見たことがありますね。これって上級魔族の『カースド・バジリスク(呪毒蛇)』の毒じゃないですか?)
つまり第一の聖女アウレリアは、教皇を確実に暗殺するために『人類の敵である魔族から、直接この呪毒を仕入れた』ということになる。
(現教皇と筆頭聖女の毒殺未遂に加えて、人類の敵である上級魔族から呪毒の仕入れまでしているとは。次期教皇どころか、これが明るみに出れば完全な人類の裏切り者コースですね。……まぁ、私にかかればこんな呪毒、一瞬で消し飛ばせますけど)
「代わってください、セシリア。私が治します」
「えっ……? リ、リゼット様……? でも、わたしの聖魔法でもダメだったんですよ!?」
「ええ、人間の魔法では無理です。だから、私の『魔族としての力』をフル活用して、力技で呪毒を消し去ります」
私はセシリアと場所を代わると、自分の右手の人差し指をガリッと犬歯で噛み切った。ぷっくりと、赤い血の雫が滲み出す。
「血、ですか……?」
「はい。ただ飲ませるだけじゃ意味がありませんよ? この血を数滴、教皇様の体内に入れてヴァンパイアの力で血液を操作するんです」
「え……? リゼット様はサキュバスだったはずでは……」
(『サキュバスとヴァンパイアの特性を併せ持つゲームのキャラクターです』なんて言っても伝わりませんしね。今は彼女の疑問をスルーして、教皇様の治療を優先しましょう)
セシリアの疑問には今は答えず、私はそっと教皇の口を開き自分の指先から垂れた血を数滴だけ、彼女の唇に落とした。そして、すかさず教皇の胸元に手を当て、全神経を集中させる。
(さぁ、行きますよ。血管の中を巡る極小の猟犬のように……私の血で、上級魔族の呪毒を喰らい尽くして上書きします!)
ヴァンパイアの血の操作能力。それを使って教皇の血液中に混ざるバジリスクの呪毒を見つけ出し、私の血で上書きしていく。
「ん、ぐ、あぁっ……!」
しかし、体内で異なる魔力が激突する反動で、教皇が苦しげに身体を痙攣させた。教皇の首筋に浮かび上がる血管が、ドス黒い呪いと私の紅い魔力の衝突で、バチバチと危険な脈動を打っている。
「リゼット様! 教皇様が……っ!」
「大丈夫です、想定内です! サキュバスの力で『精気』を送り込んで、お婆ちゃんの身体を保護します!」
私はもう片方の手から、サキュバス特有の甘く温かい精気を惜しみなく教皇の身体へと流し込んだ。
ヴァンパイアの血が呪毒を破壊し、傷ついた細胞をサキュバスの精気が修復していく。二つの魔族の特性と、ゲーム時代に極めた精密な魔力操作スキルがなければ絶対に不可能な荒療治だ。
――そして、数分後。
ピカーーッ! と、教皇の身体からどす黒い瘴気が一気に吹き出し、霧散して消滅した。土気色だった顔色がみるみるうちに赤みを取り戻し、浅かった呼吸が、力強く安定したものへと変わっていく。
「すごい……! 本当に、あの恐ろしい呪毒が完全に消えた……!」
セシリアが、信じられないものを見るように私の指先を見つめた。私は噛み切った指先をペロッと舐めて傷を塞ぎ、少しだけホッと息を吐いた。
「ふふっ、言ったでしょう? ……ただ、血を入れるのは数滴が限界でしたけどね」
「限界……?」
「ええ。もし多めに血を入れていたら、呪毒を喰らい尽くした後に『私の血』が余ってしまいます。そうなると、余った血が今度は人間の細胞を支配し始めて……その人は人間をやめて、私の眷属になっちゃうんです。今回は呪毒と相殺して消滅するギリギリの量が、あの数だったんですよ」
「……リゼット様の、眷属……」
私の何気ない解説の言葉に。セシリアはハッとしたように目を見開き、信じられないものを見るような、熱っぽく震える視線で私を見つめた。
「どうしました、セシリア?」
「……普通の魔族が、血を使って他者を眷属化できるなんて、聞いたことがありません。教会の最深部にある古い文献に……かつて世界を脅かした伝説の『魔王』だけが、その力を持っていたという言い伝えが残っているくらいで……」
「え? そうなんですか?」
「……もしかして、リゼット様は。本当は……」
セシリアはそこまで呟くとハッとして口をつぐみ、何かとてつもない甘美な禁忌に触れてしまったかのように、頬を真っ赤に染めてゴクリと喉を鳴らした。そして、つい先ほどまで血を滲ませていた私の指先を、酷く熱っぽい視線で見つめてくる。
(もしかして、私が魔王かその親族だと勘違いされてます? ……いや、待ってください。血による『眷属化』は、私が元いたゲームのスキルのはず。この世界でそれが出来たのが過去の『魔王』だけだとしたら――もしかしてその魔王って、私と同じ『転生者』だったんじゃ……?)
「……ん、んん……」
この異世界の根幹に関わるかもしれない可能性に、私が内心で考え込んでいた――その時。ベッドの上で、教皇イレーネが微かな呻き声を上げ、ゆっくりとその重い瞼を開いた。
「教皇様っ!」
「……セシリア、かい……? 私は、一体……それに、そちらのシスターは……?」
目を覚ました教皇を見て、セシリアは先ほどの熱っぽい視線を弾かれたように逸らし、ベッドへすがりついて大声を上げて泣き崩れた。