レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
「……セシリア、かい……? 私は、一体……それに、そちらのシスターは……?」
目を覚ました教皇イレーネを見て、セシリアは弾かれたようにベッドへすがりつき、大声を上げて泣き崩れた。
「教皇様っ! ああ……よかった、本当によかった……っ!」
「泣かないでおくれ、私の可愛いセシリア。……体が、驚くほど軽い。私はたしか、アウレリアが淹れてくれた茶を飲んだ後にひどい目まいに襲われて……」
状況を飲み込めていない教皇に、私は事の顛末を手短に説明した。
第一の聖女アウレリアが魔族から仕入れた呪毒を盛ったこと。セシリアも毒殺しようとしつつ、更に冤罪を被せて信者や民からの求心率も下げようとしていたこと。毒殺されそうになったセシリアと教皇様を、私が『少し特殊な方法』で治療して毒を完全に消し去ったこと。
すべてを聞き終えた教皇は、深く、酷く悲しそうに目を伏せた。
「……そうか。あの子たちが、そこまで……」
「教皇様は、アウレリアたちがご自身を狙っていることに気付いていなかったのですか?」
私の問いに、教皇はゆっくりと首を横に振った。
「確たる証拠はなかったが……野心には気付いていた。だが、私はあえて彼女たちを野放しにしていたんだ」
「野放しに? どうしてですか」
「貴族のいないこの宗教国家では、聖女同士で派閥を作り、政務の実力を競い合うことは『国の発展のための必要事項』だと思っていたからだよ」
教皇は慈愛に満ちた瞳で、泣きはらしたセシリアの頭を優しく撫でた。
「セシリア。お前には、政治や実務の才能は皆無だ」
「うぅ……はい。書類仕事とか、計算とか、本当に苦手で……」
「だが、お前の人族の域を逸脱した魔力量と聖魔法の実力は、信者や民たちを安心させる絶対的な『奇跡の象徴』になる。……だから私は、セシリアを教皇に据え、実務能力に長けたあの子たち――第一から第三の聖女が脇を固めて国を回すという形が、この国にとっての最善だと思っていたんだ」
なるほど。単なるお花畑な善人ではなく、国家のトップとして冷徹に国の未来を計算した上での配置だったわけだ。
「……だが、あの子たちのプライドと権力欲を甘く見すぎていたようだね。自分たちで国を回しているのに、ただ魔力が高く民からの人気があるだけの新参の小娘がトップに立つことが……どうしても許せなかったのだろう」
「わたしの、せいで……。わたしが不甲斐ないから、教皇様がこんな目に……っ」
「セシリア、自分を責めるのはやめなさい」
項垂れる彼女の肩を、私はポンと軽く叩いた。
「実務能力が高いことと、人を毒殺してトップに立とうとすることはまったくの別問題です。悪いのは、実力主義を履き違えて逆ギレし、毒を盛ったクズどもですよ」
「リゼット様……」
「教皇様がご無事で、呪毒も消えたとなれば、あとはセシリアの冤罪を晴らすか、他の聖女たちの悪事の決定的な証拠を手に入れるだけですね」
私がそう言った時、部屋の入り口で見張りに立っていたミリアムが一歩前に出た。
「証拠の在り処についてなら……ご主人様、心当たりがございます」
「ほう、さすがは私の有能なスパイ。聞かせてもらいましょうか」
「第一の聖女アウレリア様の指示で教会の警備シフトを組んでいるのは私ですが……第二の聖女ルチア様と第三の聖女シャルロッテ様から、地下書庫の一角の警備について、奇妙な注文をつけられているのです」
ミリアムは感情の抜け落ちた能面のような顔で、淡々と報告を続ける。
「一見すると通常の巡回ルートなのですが……計算すると、深夜の特定の時間帯のみ、数分間だけ『すべての巡回兵の視界から外れる完璧な死角』が生まれるようになっています。おそらく、その死角の先に二人の秘密の部屋があるのかと」
「素晴らしい情報です。ちょうど今がその深夜ですね。教皇様の護衛はミリアムに任せます。……セシリア、行きますよ」
「はいっ!」
「……待っておくれ。そこの、リゼット殿と言ったね」
私たちが部屋を出ようと背を向けたその時、ベッドの上の教皇が静かに声をかけてきた。
「なんでしょうか?」
「……出来れば、あの三人の命までは奪わないでやってほしい」
「教皇様!? だ、ダメですよ! あの三人は、教皇様を殺そうとしたんですよ!?」
セシリアが慌てて抗議するが、教皇は静かに首を横に振った。
「勘違いしないでくれ、セシリア。これは単なる身内への情や優しさというわけではないんだ。聖女という身でありながら悪事に手を染めた事は、決して許されぬ事だろう」
教皇は重い溜息を吐き、痛む胸を押さえるように言った。
「……だが、第二の聖女ルチアは教会の要である枢機卿の娘。第三の聖女シャルロッテは国一番の大商人の娘だ。彼女たちが突然死んだり、行方不明になったりすれば、実務面の問題だけでなく教会の資金面まで完全にショートしてしまう」
「なるほど。国の財布とパイプを握ってる厄介なスポンサーでもあるわけですね」
「その通りだ。いきなり首をすげ替えるわけにはいかない。だから……彼女たちには決定的な証拠を突きつけて、生かしたまま罪を認めさせてほしいのだよ」
「……第一の聖女もですか?」
私の問いに、教皇はさらに表情を険しくした。
「……アウレリアに関しては、セシリアと私への二度の毒殺未遂に加えて、魔族との取引という越えてはならない一線を越えている。さすがに真実を公表し、聖女の地位を剥奪して地下牢で終身刑にするしかないだろう。だが、それでも彼女は他国の高位貴族の娘だ。暗殺という形になれば、国際問題になりかねない」
なるほど。権力と金と他国とのコネ。そういうしがらみがあるからこそ、教皇様も今まで彼女たちを強引に粛清できず、逆に隙を突かれて毒を盛られてしまったわけだ。
「……リゼット様。どうしましょう」
不安そうに見上げてくるセシリアの頭を、私は安心させるように優しく撫でた。
「要するに、殺さずに決定的な証拠を突きつけて、二度と逆らえないようにおとなしくさせればいいんですよね?」
「……面倒な制約をつけてすまないね」
「いいえ、お安い御用です。むしろ好都合ですよ。ただ殺すよりも、逃げ場のない事実を突きつけて、徹底的に絶望させて心をへし折る方が……私の性に合ってますから」
私がニッコリと、この世界に来て一番の『魔族らしい極上の笑顔』を浮かべると、背筋を凍らせるような威圧感が漏れ出たのか、教皇とミリアムがゾクッと肩を震わせた。傍らのセシリアだけは、なぜか頬を赤らめて熱い吐息を漏らしていたが。
「さぁ、セシリア。クズどもをわからせに行きましょうか」
「は、はいっ!」
私たちは教皇の寝所を後にし、音もなく大教会の地下書庫へと向かった。
◇ ◇ ◇
薄暗い松明の炎だけが揺れる、石造りの広大な地下空間。
ミリアムの情報通り、計算し尽くされた巡回兵の『死角』となる時間帯にそこへ到着すると――まさにその数分間を狙って、二人の豪奢なドレス姿の女が、周囲を警戒しながら歩いてくるのが見えた。
教会の権力者である枢機卿の娘、『第二の聖女』ルチア。大商人の娘である『第三の聖女』シャルロッテ。セシリアを陥れた、クズ女その2とその3である。
「……来ましたね。私の後ろにぴったりくっついていてください」
「はい」
私は『幻影』と『気配遮断』の魔法を展開し、自分とセシリアの姿を周囲の闇に完全に同化させた。ゲーム時代にモンスターから逃れるために多用した隠密スキルだが、現実世界では尾行に最適だ。
私たちは、コソコソと歩く二人の聖女のすぐ背後にピタリと張り付き、音もなく尾行を開始した。やがて二人は、書庫の最奥にある行き止まりの石壁の前で立ち止まる。
「ふふっ、誰もいませんわね」
「ええ。警備のシフトは完璧にコントロールしてありますから」
シャルロッテが自分の指にはめられた派手な宝石の指輪を石壁にかざす。すると、ズズズ……と、重厚な石壁が音もなく横にスライドし、隠し部屋への入り口が現れた。
中には眩い金貨の山や高価な宝石、さらには裏帳簿らしき書類の束がこれでもかと山積みになっているのが見える。孤児院への予算すら渋っていたくせに、ふざけた蓄財っぷりだ。二人は周囲に誰もいないことを確認すると、意気揚々と隠し部屋の中へと足を踏み入れた。――当然、私たちがすぐ背後にいることには気付かずに。
二人が中に入ると同時に、スライドした石壁が自動で閉まり始める。
「――今です」
「きゃっ!?」
私はセシリアの細い腰を抱き寄せると、完全に閉まりきる直前に影のように滑り込んだ。
スパンッ、と背後で石壁が完全に閉まり、密室が完成する。入り口付近の暗がりに着地した私たちは息を殺し、奥で密談を始めた二人の会話に耳を傾けた。
「……ねぇ、シャルロッテ。一つ不安なことがあるのだけれど」
ルチアが、山積みの裏帳簿をめくりながら少し声を潜めた。
「あの生意気なセシリアを排除して、教皇から実権を奪う計画まではよかったわ。でも……アウレリア様が、魔族から毒を仕入れたって話……あれは本当なの?」
「しっ! 声が大きいですわよ、ルチア!」
シャルロッテが慌てて周囲を見回す。もちろん、暗がりに隠れている私たちには気付いていない。
「……本当ですわ。アウレリア様は、確実に教皇を殺すために……魔族領の商人を通じて、上級魔族と密かに交渉していたんですの」
「そ、そんな……! いくらなんでも、それはライン越えじゃない!? もしそれが公になれば、連帯責任で私たちまで人類の反逆者として処刑されてしまうわ!」
「ええ、だからこそ! こうして貴女と二人で、これからどうすべきか急いで相談するために、この秘密の場を設けたんじゃないですの!」
シャルロッテは焦燥に顔を歪め、豪華な扇子をパチンと閉じた。
「教皇暗殺までは許容範囲ですけど、魔族との繋がりなんて絶対にごめんですわ! このままあの方の下についていたら、私たちまで破滅しますわよ!」
「どうするって……アウレリア様を排除する? ……でも、そんなこと出来るの? 出来たとしても、その後にどうやって私たちだけで教会の実権を握り続けるっていうの……?」
「ですから、それをこれから二人で――」
「――へぇ。大変そうですね。私もその相談、混ぜてくださいよ」
ヒィッ!? と、二人の聖女が同時に悲鳴を上げて振り返る。
完全に施錠されたはずの密室。その入り口の暗がりから、私はフードを深く被った清掃シスターの姿のまま、ゆっくりと足音を響かせて進み出た。
「な、ななな……何者ですの!? どうやってここに!?」
「魔族と繋がっている第一の聖女の暴走にドン引きして、保身のために裏切りを画策する第二、第三の聖女。……なるほど。お前たち、ギリギリで人間の心を残していたクズだったんですね」
私は唇の端を吊り上げ、逃げ場のない密室で恐怖に顔を引き攣らせる獲物たちを見据えた。
「ちょうどいいじゃないですか。悩みがあるなら、私が解決してあげますよ。……もちろん、相応の『対価』は払ってもらいますけどね」
私はゆっくりとシスター服のフードを外し、暗がりでも怪しく光る紅い瞳で二人をねめつけた。さぁ、お待ちかねの『絶対服従の契約』のお時間だ。