レベルMAXの百合サキュバスに転生した元・女子高生の異世界蹂躙録 〜冤罪の聖女様と『共犯者』になって、彼女を嵌めた悪党どもを物理的に分からせます〜 作:百合サキュバス好き
「……それで、セシリア。聖都に戻って真実を突き止めたとして……貴女はその後、どうするつもりですか?」
私は彼女の肩からそっと身体を離し、真剣な声で問いかけました。
無実を証明できたとしても、自分を殺そうとした者たちがいる教会に戻るのか、それとも別の道を歩むのか。しかし、セシリアは少しだけ寂しそうに目を伏せ、ふるふるとかぶりを振りました。
「……まだ、わかりません。真実を知って……自分がどうしたいのかは、その時に考えたいと思います」
「そうですか。……まあ、焦る必要はありません。まずは聖都に向かってから考えましょうか」
「はい。……孤児院の子供たちや、わたしを慕ってくれたスラムの人たちの顔が浮かびます。無実を証明して彼らを安心させたい反面、あんな恐ろしい陰謀が渦巻く場所に、今のわたしが戻って何を信じればいいのか……まだ、心が追いつかなくて」
ぽつりと零されたその言葉には、彼女の深い悲しみと混乱が滲んでいました。裏切られたばかりの彼女に、今すぐ未来を決めろというのは酷な話です。
私は立ち上がり、空気を変えるようにふうっと息を吐きました。
「私は魔族ですし、つい先ほど『満腹』になったばかりなので、しばらく食事を摂らなくても平気です。ですが……セシリアは人族ですし、このままこんな廃屋にいたら、着る服も食べる物もありませんからね」
「ひゃうっ……」
私が何気なく『満腹』という単語を口にした瞬間、セシリアはビクンッと肩を震わせ、また少し顔を赤くしてしまいました。
(いけません、私としたことがまたデリカシーのない発言をしてしまいました! セシリアが私の『お食事』の光景を思い出して恥ずかしがっています!)
「こ、コホン! ……一応聞きますが、セシリアはお金や身分を証明する物などは持っていますか?」
「いえ……。自室で神官服のまま眠らされてしまったので、聖女の証も、お金も、何も……」
セシリアは悲しそうに、自分の胸元を隠すように幻影の神官服(中身の布地はゼロ)を見下ろしました。
当然、魔族である私に人族の通貨などあるはずもありませんし、人間の街に入るための身分証も持っていません。私たちは今、『一文無し』かつ『身元不明』、おまけに『片方は実質全裸』という、控えめに言ってゲーム開始直後以下の最悪な詰み状況にありました。
(ええと、たしか人族の街に入るには身分証が必要なはずですが……)
どうやって身分を偽装するか。考え込んだその時、私の脳裏にサキュバスの里にあった書物の内容がフラッシュバックしました。
サキュバスという種族は、人族を誑かし、篭絡して精気を吸い尽くすプロフェッショナルです。そのため、標的の人間を社会的に追い詰めたり、自分に依存させたりするために、人族の法律や身分制度、社会構造について『人間以上に』深く研究し、熟知しているのです。
(例えるなら『熱心な外国人オタクの方が、日本人よりも日本の歴史や法律に詳しい』みたいな現象でしょうか。里にあった『人間界攻略マニュアル』みたいな分厚い本には、貴族の財産分与から平民の戸籍管理まで、恐ろしいほど緻密に網羅されていました)
そのサキュバスの悪用知識によれば、この世界には『冒険者ギルド』が存在します。
中級以上の冒険者は血や魔力で厳重に個人管理されていますが、初級や見習いの冒険者は『死亡率が高すぎていちいち管理していられない』という理由から、魔力登録用の高価な水晶なども使われず、登録費用さえ払えば誰でも木製のギルドカード(最低限の身分証)がもらえる……という、非常にガバガバな仕様だったはずです。
……とはいえ。いくら登録がガバガバだと言っても、最初の手続きには最低限『平民の身分証』くらいの提示は求められます。
普通なら、村長や町長が発行した『仮の身分証(推薦状のようなもの)』を持参し、そこから領主の認可を経て正式な身分証が発行される……という流れになるのですが。
当然、森に捨てられた私たちにそんな仮の身分証すらあるはずもありません。
「うーん、やっぱり完全に詰みですね、これ」
「つ、詰み、ですか……?」
「ええ。冒険者ギルドで登録しようにも、そもそもの身分を証明するものが……あ」
そこで私はある事実を思い出しました。数日前に同族たちからこの『魔の森』に追放され、この廃屋に辿り着くまでの道中で————。
巨大な角の生えた熊のようなモンスターに薙ぎ払われ、無惨に全滅している駆け出しの冒険者パーティ(らしき人たち)の死体を見かけていたはず、と。
(私からすればその熊モンスターも雑魚だったので素通りしたのですが……あの死体を探せば、見習いのギルドカードとお金くらいは残っているはずです! 見習いの木製カードなら顔写真や魔力登録もないはずですし、身分証としてそのまま使えるはず……っ!)
「……セシリア。少しだけ、歩けますか?」
「え? は、はい。少しなら……」
「よし。じゃあ、まずはこの森の中で身分証を拾いに行きましょう!」
「……ひ、拾う? 身分証が、森に落ちているんですか?」
不思議そうに目を瞬かせる彼女に、私は意気揚々と答えます。
「ええ、落ちています。運が良ければ、ついでに小銭や旅の装備なんかも一緒に落ちているはずですよ!」
「そ、そうなのですか? ですが、落とし物なら教会か、街の衛兵さんに届け出ないと……」
どこまでも真っ直ぐで純粋な反応を見せるセシリア。私はそんな温室育ちの彼女に向けて、さわやかな笑顔で言い放ちました。
「大丈夫です。落とし主たちはもう『永遠の眠り』についていますから、事後承諾ということで!」
「えっ……!? ええっと……?」
予想外のパワーワードに、セシリアは完全に目を白黒させて固まってしまいました。死体から金品や身分証を剥ぎ取る。背に腹は代えられないとはいえ、なかなかに非道な行いです。
……ふと、そこで私の内心に強烈な違和感がよぎりました。
(あれ? なんで私、さっきから死体を漁ることを『道端にアイテムが落ちている』くらいの感覚で、微塵の抵抗もなく考えているのでしょうか……?)
元・日本の普通の女子高生だった私なら、人間の死体や血溜まりを見ただけで悲鳴を上げて気絶してもおかしくありません。それなのに、今の私は『人族の死体=都合のいい物資の供給源』くらいにしか感じていないのです。
前世でゲームをプレイしていた時、盗賊の死体から『すべて拾う』のボタンを連打していた、あの画面越しの感覚と全く同じように。
(こ、怖い! ゲームの感覚で麻痺しているのか、それとも魔族の身体に引っ張られて『倫理観』や『命の価値観』まで魔族寄りになってしまっているのでしょうか!? えっちな本能だけじゃなくて、精神まで人間から遠ざかっているのでは……っ!?)
私は内心で自分の恐ろしい変化に戦慄し、ブルブルと震えました。しかし、だからといって他に生き残る手段がないのも事実です。
(ご、ごめんなさい見知らぬ冒険者さん! 死体はちゃんと土に埋めて供養しますから、どうかお許しを!)
私は内心で必死に十字を切って(魔族なので手が少し『ジュッ』と焦げて痛みを覚えつつ)合掌し、セシリアに向き直りました。
「えっ? リゼット様、手から少し煙が……っ!?」
「き、気にしないでください! さあ、そうと決まれば出発です! 目的地は、私がこの廃屋に来る途中で通りがかった森の獣道です!」
「あ、お待ちくださいリゼット様! わたし、まだこの服(幻影)に慣れていなくて……ひゃんっ!?」
意気揚々と廃屋を出ようとした私の後ろで、セシリアが可愛らしい悲鳴を上げました。振り返ると、彼女は廃屋の崩れた入り口の木枠に肩をぶつけていました。もちろん、幻影の布地は木枠を『すり抜け』てしまうため、木枠のザラザラとした感触が、彼女の素肌の肩にダイレクトに伝わってしまったのです。
「ああっ……! き、木が、そのまま肌に……っ」
「あわわっ、大丈夫ですか!? すみません、本物の服を着ている感覚で動くと、色々とすり抜けて素肌に当たってしまうので気をつけてくださいね!」
「すり抜けて、素肌に……。そ、そうですよね、これ、ただの幻なんですよね……っ」
「ええ。なので、森を歩く時は木の枝や葉っぱ、あと『虫』なんかにも気をつけてくださいね。服に止まったと思っても、幻影の布地には阻まれませんから、実際は素肌にダイレクトに這い上がってくることになります」
「む、虫が、直に……っ!?」
私の警告を聞いて、セシリアの顔からサァッと血の気が引きました。
「足元から這い上がってきた冷たい芋虫や、カサカサ動く羽虫が、むき出しの太ももからお腹、そして胸の谷間へと……」
「ひぃっ……! 嫌ぁぁっ! 虫は嫌ですぅっ!」
想像してしまったのか、彼女は自分の胸元をギュッと抱きしめ、顔を真っ赤にして涙目になっています。
見た目は清楚な神官服。しかし中身はノーブラ・ノーパンの全裸。そんな超絶スリリングな状態のワケあり聖女様と、見た目が痴女みたいな装備のサキュバス。
はたから見ればどう考えても『ヤバい二人組』の、行き当たりばったりな証拠集めの旅が、今ここに幕を開けたのでした。