『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい   作:べべべのすけ

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リタちゃんはそんなこと言わない

 

 

 

 転生した。それ自体はいい。

 気がつくと俺は田舎の村で村娘をやっていた。ステータスオープンと唱えてみても何も起こらず、魔法はあるらしいが俺がその才能に恵まれているということもなく。平々凡々な村娘そのいちになっていたのだ。

 

 

 最初は悩んだ。かつての俺は平均的な成人男性だったわけで、いきなり村娘になったからといってそれに順応できるのかというと……まあ、いろいろあるわな。

 とはいえ、ことなかれ主義の日本人として、角を立てないようにと振る舞ううちに、外見上は立派な女子になったとは思う。

 

 

 さて、そんな田舎の村の村娘そのいちである俺だが、ひとつだけ特筆すべきことがある。

 それは、幼馴染の少年が——勇者に選ばれたということだ。そう、俺は『勇者が故郷の村に残してきた幼馴染』のポジションをゲットしている。

 

 

 結婚の約束とか一切してないし、あいつのこと村の同世代の中では仲良かった方とは思ってるけど向こうがどう思ってるかは知らない。でもまあ、十年ぶりに帰ってくるとの知らせがあれば、迎えてやるのが義理だろう。

 

 

 

 

 いや、それにしても……十年か。

 泣き虫だったテオに勇者の印が現れて、国のお偉いさんが『予言の子』だなんだと言って迎えにきたあの日からそんなに経ったのか。

 出発の日の前日、あいつはびぃびぃ泣いてたっけ。泣き虫は治ったんだろうか。俺はあいつの十年を時々来る手紙でしか知らないからなあ。その手紙も、あいつの居場所を教えられないとかいう理由で返信不可だったし。

 

 

 実家の自室で、今までのテオからの手紙を眺めていた。すると外から母さんが俺を呼ぶ声がした。

 

 

「リタ! テオくん帰ってきたわよ!」

 

「はい。今行きます、お母さん」

 

 

 立ち上がってスカートの裾を直す。そんな振る舞いも慣れたもんだ。

 十年前テオと別れた時はまだまだそんなことにも気を遣えていなかったが、今の俺はどこに出しても恥ずかしくない乙女だぜ。いやー、テオも俺に惚れるかもな。勝ったな、ガハハ。

 

 

 と、気楽に構えられていたのもそこまでだった。

 今俺の目の前には、故郷への凱旋というには似つかわしくない、目のハイライトを完全に抹消させた男がいる。

 

 

「……えっ、と。お帰りなさい、テオ。()のこと、覚えてる?」

 

「……なにそれ」

 

「えっ」

 

「リタちゃんはそんなこと言わない。僕のリタちゃんはどこ」

 

 

 この村にリタちゃんは空前絶後の美少女村娘(諸説あり)のこの俺だけですけど。

 困ったので眉を下げて笑ってみた。

 十年ぶりに会ったテオは——背は伸びて、けど思ってたよりゴツくなってなかった。手紙には筋トレをがんばってるって書いてあったから、筋骨隆々を想像してたけど、あくまで細マッチョ系だ。

 うん、勇者さまと言われて想像するのはこっちの姿かもな。俺はさっきまで脳内にあったテオ(十年後筋骨隆々バージョン)の予想図を削除した。

 

 

 テオの尋常ではない落ち込みように村人たちは距離をとっている。テオに対面しているのは俺だけで、村人たちが「あそこって別れるの……?」とか言ってるのが聞こえる。いやそもそも付き合ってないから。ただの幼馴染だから。

 

 

「リタちゃん。来て」

 

 

 テオが俺の手を取る。その手は剣を握っていた人のそれで、ああ、あの日俺が手を引いていた泣き虫テオはもう居ないんだな、なんて思った。

 

 

 テオに連れてこられたのは十年前の俺たちが遊び場にしていた場所だった。近くに川があって、俺たちは勝手にそこに入っては大人に怒られていたっけ。

 あの時と変わらない、シンボルみたいな大木の陰で立ち止まったテオが俺に背を向けたまま、肩を震わせた。

 

 

「……テオ?」

 

 

 おずおずと声をかけると、テオは手をぎゅっと強く握りしめてきた。おい、痛いだろ。

 

 

「……リタちゃん。僕の出立の前の日、きみがなんて言ったか覚えてる?」

 

 

 えー。あの日はいろいろ話したからなあ。どれのことだ。

 

 

 俺が真剣に考え込むと、その沈黙を『覚えていない』という意思表示と取ったのか、テオが声を震わせた。

 

 

「『俺の子分なら世界くらい救ってこい』って言ったよね」

 

「あ、あー……」

 

 

 言ったか?言ったかも。

 やべ。なんかこいつキレてね?

 

 

「じゅ、十年前の子どもの言うことだわ。わ、忘れて?」

 

「なにそれ」

 

 

 俺が見上げたテオの瞳は、じっとりしていて、濁っていて、あの日使命を胸に旅立った少年のそれとは思えなかった。

 

 

「リタちゃんはそんなこと言わない」

 

 

 こいつ帰ってきてからそればっかだな。

 さすがにちょっとムカついてきた。十年お前が不在だった間に、こっちにも色々あったわけだし。

 こいつは俺がどんな思いで過ごしてたかとか、一切知らないんだ。だって手紙は返信不可だったんだから。

 

 

 握られた手を振り払う。

 

 

 テオは傷ついた顔をした。

 

 

「……お前、えらそーになったな」

 

 

 視線を逸らしながらも、つい本音が出た。

 ちらりと見上げたテオは——。

 

 

 なんか嬉しそうな顔をしていた。

 え? キモ。

 

 

 

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