『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい 作:べべべのすけ
ぱちゃぱちゃ、川の側の石に腰掛けて足を水に浸す。
「り、リタちゃん……。川で遊んだらダメって言われてるよね? 怒られちゃうよ……」
弱気なテオが背後からそんなことを言ってくる。ふん、とか言いながら俺の白い足に視線が釘付けなのはわかってるんだからな。ガキが。
「うるせーな。だってあちーじゃん。テオも一緒に涼もうぜ」
この子分は、こう言えば逆らわない。というか、俺に強制されるという口実を待つところがある。小賢しいやつだぜ。
案の定テオは俺の隣に座って川に足を浸した。
前世だったら蝉の鳴き声が聞こえそうなワンシーンだ。
テオは隣の俺をチラチラ見てくる。
「何見てんだよ、マセガキ」
そう言ってどついておいた。
☆☆☆
という夢を見た。夢というか現実にあったことだ。
懐かしい思い出と言えばそうなんだが、テオが帰ってきたことを思うとなんとも複雑な気分だ。
『リタちゃんはそんなこと言わない』
昨日のテオの言葉がリフレインする。
「……お前が、何を知ってるって言うんだよ」
ぽつり。呟いて、頭を振った。
テオは十年、勇者としての務めを果たした。
それは魔物討伐だったり、国の力としての象徴だったりいろいろだ。だが帰ってきた。
俺はテオがなぜ帰ってきたのか知らない。田舎の村にそんな情報流れてこないからな。
俺が知っているのは、『テオが帰ってきた』という一点のみだ。
テオはあいつの実家に帰っていた。テオのお母さん曰く、泥のように眠って起きないらしい。
まあ十年ぶりの帰省ならそうなるのも頷けるか。おばさんも『勇者さま』になった息子を叩き起こすのは気が引けたんだろうし。
家の軒下に座り、空を見上げてたそがれる。
なんかなー。
テオが帰ってきたら、なんかもうちょっとこう……。なんかあるかと思ったんだが。
実際は若干不快になっただけだった。
手に持った手紙をゆっくり開く。
『リタちゃんはおげんきですか』
『リタちゃんを守るためにがんばるね』
テオからの最初の手紙だ。こんなことが書いてあるから、俺が——になっても、お前は喜んでくれると思ったのに——。
ふと影が差した。見上げるとそこには村の同年代の青年がいた。
「……リタ、テオになんか言われたのか」
「え、どうして?」
俺が首を傾げると、そいつは頬をかきながらそっぽを向く。
「あのさ。……リタが、あいつを待ってたのは知ってるけど……、あいつより、俺の方が……」
「リタちゃん」
そこにテオの声。実家でニート生活を満喫してたんじゃなかったのか。
立ち上がる。俺の目の前の青年は一歩後ずさった。
「テオ……お前」
「リタちゃんに何か用?」
テオが威嚇するみたいに目を細める。青年はもごもご言いながら去っていってしまった。
テオはそれを見て鼻を鳴らす。俺は呆れて言った。
「まだお話の途中だったのに。失礼なことしたらダメよ」
「……」
テオは返事をしない。俺のつむじを穴があくほどじっと見つめてくる。
つむじを見つめられる身長差が恨めしくなった。ムカついたのでゆっくりテオに近づき、向こう脛を軽く蹴る。
「リタちゃん……!」
テオはまた嬉しそうだった。
ガチでキモい。ドMかよ。
犬なら尻尾を振ってるのが見えるくらい、テオは顔を明るくして俺を見つめていた。
「リタちゃん、さっきの男誰?」
ニコニコしながらテオが言う。
「……同年代の子くらい覚えてないの?」
「うん。リタちゃん以外どうでもいいから」
「……」
今度は俺が沈黙する番だった。
昨日から薄々思ってたんだが、テオって——こんなやつだったっけ。
話題を変えるために口を開く。
「テオ、あなたってずっと村にいるの?」
「うん?」
テオが首を傾げる。
「私、あなたが帰ってくるとは聞いていたけど、勇者のお仕事がどうなったか知らないなって思って——」
俺がそう言うと、テオはにっこり笑った。あんまり見ていたい笑い方じゃなかった。
「リタちゃんには関係ないよ」
……ふーん。
あっそ。