『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい   作:べべべのすけ

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俺の子分なんだぜ、お前は

 

 

 

「リタちゃん、僕、リタちゃんと離れたくない」

 

 

 テオはびぃびぃ泣いていた。

 

 

「勇者になる訓練なんて、リタちゃんと一緒じゃないとがんばれない」

 

「何言ってんだよ、テオ!」

 

 

 俺はテオの背中をバシンと叩く。女児の手だからそんないい音は鳴らなかったが。

 

 

「俺の子分なんだぜ、お前は! 俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい!」

 

 

 ニカっと笑う。

 

 

「そんで、帰ってきたら——」

 

 

 あれ。こんなこと言ったか?

 帰ってきたら——何だっけ。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 連日昔の夢を見る。テオが帰ってきたからだろう。

 

 

 昨日、あの後は最悪だった。どこへ行くにもテオがついてくる、その上あいつはずっと無言だった。お前は何がしたいんだと胸ぐらを掴んでやりたかったが、身長差のせいで簡単には届かなさそうだったので諦めるしかなかったのである。

 

 

 実家にいると母さんと父さんからのもの言いたげな視線に晒されるので、気まずくて外に出た。テオに出くわすのもだるいので足は勝手に、子どもの頃の秘密基地に向かう。

 

 

 あの頃はツリーハウスを作るんだとかなんとか豪語していろいろやってたが、十年後の今目の前にあるのはただの草木がぼーぼーに生えまくった自然豊かな場所だった。

 くす、と笑って、あの頃も椅子がわりにしていた大きな石に腰掛ける。

 

 

 

 ぼーっと木々のざわめきを見つめて、自分のことを考える。

 今俺は十九歳。テオも同じ歳だ。

 こんな田舎の村の村娘が十九歳になったらば、当然求められることがある。——結婚である。

 特に俺は都会の街に出たがる性質でもないし、村の大人たちは自然と『俺はテオを待っていて、テオが帰ってきたら結婚する』と思っている。俺は自分の結婚なんて考えたくないから、そう勘違いされてるのをよしとして放置していた。テオが帰ってこなければ、俺はずっと独り身でも許されると思っていた。

 

 

「けど帰ってきちゃったからなあ……」

 

 

 テオが昔のまんまなら、結婚——してやってもよかった。けど……。

 

 

 このままでは外堀から埋められる。テオは勇者家業によって多少擦れちまったみたいだが、田舎の村の大人の狡猾さには慣れていないだろう。俺とテオがなんやかんやとやっているうちに結婚どころか孫まで生まれて同じ墓に入ることになってしまうのは想像に難くない。

 

 

 がさ、と草を踏む音が聞こえた。

 うさぎかなんかかな、と視線をゆるく動かす。

 

 

「……げ」

 

 

 俺の顔を見て、テオがまた嬉しそうに笑った。

 けどそのすぐ後、顔をしかめて言う。

 

 

「リタちゃん。ここ、魔物が出るから危ないよ」

 

「今まで一回も見たことないから、大丈夫」

 

「こんなところで何してたの」

 

「……こんなところ?」

 

 

 ちょっとカチンときた。お前にとっての俺ってそんなもんだったのか、的な気分になった。

 だってここは、あの日俺たちが秘密基地にしていた場所なのに。

 

 

「……テオ、変わったわね」

 

 

 そう言って立ち上がる。ちらりと見えたテオは何を考えてるかわからない仏頂面だった。

 

 すぅっと息を吸う。普段の俺ならこんなこと言わない。だって自意識過剰みたいだし。でも目の前のこいつが現実をわかってるかが不安だった。

 

 

「私、あなた以外と結婚するから」

 

 

 言った。言ってやった。

 あー、言っちゃったなー。これで村の中に俺と結婚してくれる奇特なやつがいなかったらどうしよう……。俺は一生実家の穀潰しとして子ども部屋おばさんとして生きていくしかなくなるのだろうか……。いや誰が子ども部屋おばさんじゃい。子ども部屋お姉さんと呼べ、殺すぞ。

 

 

 すぐに反応があると思ったのに、テオは無言だった。

 俺の想定する反応はこんな感じ。

 そのいち、「あっそ」。テオは俺が誰と結婚しようがどうでもいい。

 そのに、「結婚相手見つかるの?」。痛いところを突かれるバージョン。

 そのさん、「おめでとう」。気がはやい。

 この三パターンくらいを想定していた。

 が、テオの反応はそのどれでもなかった。

 

 

「……は?」

 

 

 周囲から音が消える。テオの足元から何かが渦巻くのが見える。多分魔力だ。俺みたいな才能なしにも見えるくらい、高濃度の魔力がテオから発されているんだ。

 

 

「何それ。リタちゃん、言ったじゃん、僕に」

 

「へ……」

 

 

 アホみたいな声しか出せなかった。

 

 

「僕が、ちゃんと勇者をやって、帰ってきたら、そしたら」

 

 

 俯いていた顔を上げたテオは、泣きそうな顔をしていた。

 

 何か言わなきゃと思ったが、俺の意識はそこでプツンと途切れた。

 

 

 

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