『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい 作:べべべのすけ
リタちゃんは変な子だった。
自分のことを「俺」って言うし、スカートが捲れてても気にしないし、絶対僕より前を走る子だった。
村の他の子たちは、リタちゃんが変だから遠巻きにした。でも僕はそんなリタちゃんがかっこいいと思った。
だから子分になった。リタちゃん親分は子分に厳しく優しかった。
川で遊ぶときは隣に居させてくれるし、畑仕事の手伝いが終わらないときは一緒に手伝ってくれた。村の外れの茂みにつりーはうす?を作るんだって言って家からいろんなものを持ち寄ったりした。
「テオ、お前が泣いてたら俺が守ってやるよ」
リタちゃんは小さな女の子だった。けど誰よりも頼もしくて、誰よりも強くて、誰よりも凛々しかった。
僕はずっとリタちゃんの後ろにいたかった。
それが変わったのは九歳のあの日。僕に『予言の勇者』としての印が浮かんだからだった。
出立の前日、僕は泣きに泣いた。泣きまくった。目玉が溶けるんじゃないかというくらい泣いた。
だって、勇者になったらリタちゃんが僕の前を走ってくれなくなる。それがどうしても嫌だった。
リタちゃんが小さな手で僕の背中を叩く。
「俺の子分なんだぜ、お前は! 俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい!」
リタちゃんが僕に向かってニカっと笑う。僕の好きな笑い方。けどやっぱり悲しかったし、離れたくなかった。
「そんで、帰ってきたら——」
リタちゃんが言う。十年間、僕が大切に大切に宝物にしていた言葉を。
「一緒に旅に出よう! お前が平和にした世界を、俺も一緒に見回ってやる!」
なのに。
思い出の中のリタちゃんが、大人になる。十九歳のリタちゃんが言う。
「私、あなた以外と結婚するから」
あの日から見る影も無くなったつりーはうすの跡地で。リタちゃんが。僕との約束を忘れて。それで。
気がつくと目の前にリタちゃんが倒れていた。
すぐわかった。僕から魔力が漏れて、それにあてられたリタちゃんが耐えられずに気絶したんだって。
そんなつもりはなかった。感情につられて魔力の制御を失うなんて、そんな初歩的な失敗でリタちゃんを傷つけるつもりは。
けど思ってしまった。
リタちゃんって、
僕が憧れた強くてかっこいいリタちゃんが、僕の魔力にあてられたくらいで倒れちゃうんだから。
気を失ったリタちゃんをそっと抱き上げる。初めて抱き上げたリタちゃんは、小さくて、脆くて、僕が守らなければならない人間そのものだった。
☆☆☆
師匠が言う。
「良いかテオドール。貴様はこの世の誰より強くなければならん」
「……リタちゃんより?」
「誰だ、それは」
「村の女の子。強くてかっこいいんだ」
「そうか。ではそのリタちゃんより、だ」
「師匠、勝手にリタちゃんをリタちゃんって呼ばないで」
「貴様、面倒臭すぎるだろう」
師匠が木剣を構え直す。
「貴様の背後には守らねばならん有象無象がいる。それを常に忘れるな」
「はい……」
僕も師匠に合わせて構える。瞬間、木剣が弾き飛ばされた。
「武器を離すな! 何度言わせる!」
師匠の訓練は厳しい。僕がちゃんと予言の勇者になるために必要なことだと言われても、やっぱり嫌になるときもある。
けどそんなとき、リタちゃんとの約束を思い出す。
「平和になった世界を、リタちゃんと見て回るんだ」
ぎゅっと、胸の前で手を握る。
旅立ちの日の朝、リタちゃんがくれた、彼女がよく髪を結んでいたリボン。それを手首にしっかり巻く。
「……師匠! もう一回、お願いします!」
待っててね、リタちゃん。
僕、きみの子分として恥ずかしくないようにがんばるから。