『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい 作:べべべのすけ
目が覚めると自分の部屋だった。
混乱しながら居間に顔を出すと、ニヤニヤした母さんが
「ほどほどにしなさいよ」
とか言ってきた。最悪な勘違いをされていると思ったが、気力がなかったのでうなだれて自室に戻った。
自室に戻っても、居間の方からの声がかすかに聞こえてくる。
「リタは、……テオくん……」
「お父さん……見守ってあげましょう……」
イラっとしたので壁ドンをかましたかったが、俺の十九歳うら若き乙女としての自意識がそれを許さなかった。クソがよ。
両親への憤りもそこそこに、今日自分の身に起こったことを振り返ってみる。
テオが魔力を渦巻かせて、多分それにあてられて気絶したところをテオが家まで運んでくれたってところか。うん、多分そう的外れな推測ではないはず。
俺の着衣は乱れてないし、変なことはされてない。良し。
……いや良しではねえわ。あいつのせいで気絶するわ母さんに揶揄われるわで最悪の気分なんだから詫び状のひとつでもよこせや。
明日絶対文句言ってやる。そう思って眠りについた。
次の日、村は騒ぎになった。外からの訪問者が来たからだ。
この村は都会からのアクセスが悪い。秘境にあると言えば聞こえはいいがただのド田舎である。通常訪ねてくるのは馴染みの行商人くらいなものなのだ。外から予告もなく訪問者が来ればざわつきもする。
「あ、勇者! 探したんだけど!」
騒ぎを遠巻きに眺めていた俺の耳にそんな言葉が聞こえた。
背伸びしてその人物を探してみる。声の主は女の子で、プラチナブロンドの髪を靡かせた、とんでもない美少女だった。
美少女は自分の家の前にいたテオに駆け寄り、何か囁いたと思ったら二人で家の中に入っていった。
……ここで、「誰よあの女!」と思えたのなら、俺も立派なTSヒロインだったんだがな! 俺はテオとは結婚せんぞ! ガハハ!
……ちょっと気になるから、窓からちょっと覗くだけだから。いやね、テオがね、俺の子分が都会でできた彼女と実家でけしからんことをしないか監視しないといけないから。ねっ。
☆☆☆
「すぐ旅に出ちゃって、会えないかと思ってたんだけどね」
パーティーメンバーのティアがそう言ってウィンクした。僕の両親は畑仕事に出ていて、部屋には僕とティアの二人しかいない。
「……用件は?」
「まずは再会を喜びあおうよぉ、まあそんなに久しぶりじゃないけど?」
僕はティアが苦手だった。彼女は自分のペースでしか喋らないからだ。
「調子どう? 愛しの親分ちゃんとはどんな感じ?」
「帰ってくれる?」
お茶も出さずに席に着かせた時点で、僕がティアを歓迎していないのは伝わっているはずだ。ティアは慌てた様子で居住まいを正した。
「あ〜嘘嘘、ごめんね怒らないで!」
「……本題は」
「封印。あんまり余裕ないって」
「……」
「猶予、あんまりないよ。うだうだしてたら……」
「わかってるってば」
苛立って、つい刺々しい言い方になってしまった。
……そう、本当は誰より僕がわかってるんだ。
ティアが目を細めて僕を見つめる。ティアの、こちらのことなんて全てお見通しだ、みたいなこの視線が嫌いだった。
ふと窓の方に視線を動かしたティアが口元をひくつかせる。
「……何?」
僕の問いには答えず、ティアは
「あ、あー……。あは、お邪魔したね? 一旦お暇しますぅ……。また来るから、じゃ!」
と家を出て行った。
残された僕は呆然とするほかない。
☆☆☆
「封印。あんまり余裕ないって」
「……」
「猶予、あんまりないよ。うだうだしてたら……」
「わかってるってば」
なんだ。この会話。
テオは何を抱えている?
俺は何も知らない。知らされてない。
美少女が玄関から出てきた。窓の外でしゃがみ込んでいた俺と目が合う。
美少女は人差し指を唇に当てて、茶目っ気たっぷりにウィンクした。
「がんばって♡」
なんだそれ。
去っていく美少女の背中をぼうっと見送って、はっと我に帰る。
俺はテオに聞かなきゃいけないことがたくさんある。