『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい 作:べべべのすけ
ティアは帰った。
「まあ人の恋路をアレするものはなんとやらに蹴られると言いますし……」
とかもごもご言いながら帰った。
残された俺は考える。
テオが十年抱えていた約束について。
多分俺が、何の気なしに言ってしまった言葉について。
『俺の子分なんだぜ、お前は! 俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい! そんで、帰ってきたら——』
思い出せ。思い出せ、俺。
ここにきっと大切なことがある。俺とテオが拗れた原因がある。
☆☆☆
リタちゃんにバレてしまった。リタちゃんが約束を忘れていることを、責めてしまった。
自己矛盾だ。リタちゃんには独立独歩で唯我独尊で傲岸不遜でいてほしいと願いながら、僕との約束を忘れたことをみみっちく指摘する。
そんな自分が大嫌いだ。
父さんと母さんが帰ってきた。二人も、僕が封印の人柱になる話は知らない。二人どころか、この村ではリタちゃん以外には知られていない。
「テオ、リタちゃんと喧嘩したの?」
母さんが僕を心配そうに覗き込む。そんなにひどい顔をしていただろうか。
「テオ、男には自分から謝る勇気も必要だぞ」
父さんがそう言って僕の頭に手を置いた。
小さい頃から変わらない二人。僕が守るべき人々。
「……うん」
リタちゃんだけ。僕には、リタちゃんだけなのに。
☆☆☆
「リタ、そういえばいつ頃行くの?」
夕食の席で母さんが言った。父さんは腕を組んでいる。
「は? 何の話?」
俺はついそう聞き返した。母さんは呆れ返ったような顔をする。
「あんた、忘れたの? テオくんが帰ってきたら、一緒に旅に出るんじゃなかったの。母さんも父さんもそのつもりで色々用意してるけど?」
……旅。旅?
『一緒に旅に出よう! お前が平和にした世界を、俺も一緒に見回ってやる!』
……………………あ。
あああああああああああっ!
俺はテーブルと椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。
「あっちょっと、リタ!?」
「お母さんごめんなさい、ちょっと行ってくる!」
走った。テオの家まで。
テオの家に着いたら、おじさんとおばさんが出てきた。
「て、テオはっ?」
そう聞く俺に二人は顔を見合わせている。どこかに出かけてしまったらしい。
おじさんたちにお礼を言って、俺は駆け出す。
テオがどこにいるか、何となくわかる気がした。
俺の足がたどり着いたのは、村の近くの丘の上。見晴らしが良くて、よくテオと二人で星を眺めにきていた場所。それから、
人影が見えた。テオだ。
「……テオっ!」
テオは振り返らない。俺は大きく息を吸って叫んだ。
「バカやろうっ! お前、人柱になる前に俺と旅したって、約束を果たしたことにはならねえからな!」
テオが緩慢な動きで振り返る。俺は続けた。
「俺が言ったのは、『お前が平和にした世界を旅する』だっ! お前の方こそ、約束間違えてんじゃねえっ!」
「り、リタ……ちゃん……」
目の前の勇者野郎は、その目に涙をいっぱい溜めていた。それから俺の目の前で膝を折る。
俺はそんな子分の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやる。
「思い出してくれたんだ……」
「……ああ。忘れて、悪かったな」
えぐえぐ泣いているテオの姿は、なんだか懐かしいものだった。
そんな感傷を振り切って、俺はテオの胸ぐらを掴む。わざわざしゃがみ込んだくれたからやりやすかった。
「えっ、……リタちゃん?」
「お前はバカやろうだ。俺もバカやろうだ」
細マッチョの勇者野郎は重かった。胸ぐらを掴み続けるのは現実的ではない。俺は言ってやった。
「俺が何とかしてやる。お前を死なせない」
「む、無理だよ。王都の研究者たちも必死に文献を探してるのに、見つからないんだよ。倒せないなら封印するしか……」
「子分は親分に頼ればいいんだよ!」
テオは涙に濡れた目を伏せた。
……ん? なんかこいつまつ毛長くね? 俺より長くね? は? 腹立つ……。
俺がテオの顔面——主にまつ毛——をガン見していると、テオが顔を赤くして言った。
「……り、リタちゃん……。近い、かも……」
指摘されてハッと気がつく。
手をパッと離してテオを解放する。テオは若干名残惜しそうな顔をしていた。
「き、キスされちゃうかと思った……」
「何言ってんだお前」
ジト目で突っ込む。突っ込み待ち発言以外の何物でもないからな。
テオは何かをごまかすように咳払いをした。
「とりあえず、テオ。お前、この十年のこと洗いざらい吐け」
「えっ……」
「いいから吐け」
「はい……♡」
やっぱこいつドMだわ。キモ。