ノット・ローグライク、バット・ハック&スラッシュ 作:砂漠谷
念能力杯終了までに間に合うか……?
生まれ変わったのは、地獄だった。
いや、言い過ぎた。
布団は硬いが、土の地面ではない。タコ部屋の如くプライバシーはゼロだが、三食賄い付き。便所は汲み取り式で異様に臭いが、トイレットペーパーは付いている。
名前は与えられず、物心ついたころには番号で呼ばれていた。額には一文字の縫い傷があった。
「おい、AJ13! 何じろじろ見てんだ!」
「失礼しました、刑務官殿! 排便願います!」
「お、おう……さっさと行け!」
地獄というより生き地獄。刑務所以下の待遇だが、前世でいくつか犯した罪への罰だと考えれば、随分と軽かった。
少年にしては、体格に恵まれている。そういう属性は、この環境において有利に動いた。
看守らしき男には従順に振る舞い。年下の子供たちを取りまとめ、過酷な刑務作業を効率的に動かす。子供たちは傷だらけで、顔に縫い目のある子も、自分の他に何人かいた。
最初は少年衆を取りまとめていた。土木工事やら、炭鉱仕事やらだ。ここは前世での経験が生きた。
「エイジェイ! ここどうすればいいんだ、下手すりゃ崩れるぞ!」
「そこですか! もう少し背の低い子を連れてきます! 大きく掘らなければ危険は少ないはずです」
年上の収容者の作業をサポートする作業。危険は彼らに比べれば低かった。それでも死ぬ可能性はあるが、その確率をできるだけ下げるのが自分の仕事。そう心に言い聞かせる。
三年で五個。それが掘った墓の数だった。
受刑者として――というか、奴隷頭として信頼を得たようで、収容施設の部屋の管理を任された。部屋は男女区別せず詰め込まれていたため、女子らにも仕事を割り当てる。
女であれば調理やら、死体の処理やら、あるいは性接待やらが、施設内では仕事としてあった。
最後のはなるべく子供に割り振りたくない仕事だが、拒否していると看守どものストレス解消という体で、犠牲になる子供が出てくる。死人や後遺症が出ないようにお膳立てして、本当の意味で行為を理解できる、聡い女子に割り当てる。
シエル。番号はCL72。
もっとも聡い女子。二つ年下の、妹分。
大人相手の、性的な仕事を割り当てた相手だ。
「恨んでくれて構わない。――俺は、君を生け贄にした」
彼女の、ほの暗い瞳に対して、許しを請うことはない。
だが、俺がやっていることが、悪以外の何物でもない、ということは知っていてほしかった。
「いえ。必要だってわかってます。幾分か優遇も頂けましたし。――あなたも悪い。わたしも悪い。みんな、悪者ですね」
そういって、彼女は微笑む。
絶望ではない。失望だった。
だが、彼女の瞳には、光が宿った気がした。
――その光が何色かは、読み取れなかったが。
齢十五歳。
掘った墓穴の数は、両手の指の数よりは少なく済んだ。
喜びたくはなかった。
立場を得たことで余裕が出てきた。看守共が語る話題の中に出てくる情報に、気を配る余裕も。
外には出られない。しかし、この施設を運営する組織の名前。そして、この施設がある国の名前。それくらいは分かった。
エイ=イ一家。カキン帝国。
次に連想されるのは。HUNTER×HUNTER、王位継承戦編、という言葉だった。
ああ、ここはどうやら。
途方もなく魅力的で、同時に途方もなくろくでもない世界のようだ。
一部の子供の顔に、平行に縫われた二つの傷がある理由が分かった。
ともあれ。その事実を知ったならば、念能力の発現に時間を割きたい、そう考えた。
子供たちを看守から守るための力が欲しかった。
少なくとも、理不尽な暴力に晒されて、突然死ぬより、管理された搾取を甘受するほうが幾分かマシだ。
――
あまり大差はない気がした。
管理の負担が俺に偏っている。それを解決するための共犯者に、シエルを選んだ。
正直に言って、適任は彼女しかいなかった。
彼女に人材管理のやり方を教える。実際に現場で目を配る仕事だけ俺がやり、書類上の差配は副官として彼女に任せた。
労働時間そのものが大きく減っている訳ではないが、主観的な負荷はかなり減っていた。
脳内のリソースを、精神統一と体性感覚への集中に費やせることは大きかった。
念の発現。修行として、師匠はいない。当然手探りだ。
前世で手習い程度にやっていた気功法(内観やら軟酥やら)の他には『燃』を選んだ。『点・舌・錬・発』は『纏・絶・練・発』に至る、そう信じて。
「今から君を殺す! 今から君を殺す!」
シエルから醒めた目で見られる。流石に、ネズミ捕りで捕らえたドブネズミに何度も殺害宣言している男は、狂人扱いされても致し方がない。
とりまとめ役として、そしてシエルの
「何やってるんですか……?」
「いや、これはだな。『燃』と言って、超能力を得るための準備運動みたいなもので……」
「ふぅん。『
正直、ちびるかと思った。殺意抱かれて当たり前のことはしてきたが、それでも真正の殺意を感じた。
そんなこんなで、時折真似していた程度の彼女が、先に念能力を発現した。自信を喪失してしまいそうになる。
そうとなっては致し方がない。自力発現を諦め、彼女に『練』で軽く殴ってもらうことで念を発現させた。
『燃』をやっていたお陰か、『纏』『練』『絶』は無事に身に付いた。
副官の彼女と二人で、さっそく水見式を行う。葉っぱは収容所の中になかったため、トイレットペーパーで代用する。
俺は水の色が薄い青に変わった。放出系か。
そして彼女の場合ーー水が凍りついた。
明らかに、特質系だ。
彼女は言う。『人に念能力を教える能力が良い』と。
なんでも、この力は人の希望になるから、だと。
そう語る彼女の瞳は輝いていた。
――人を呑みこむ、暗黒星の光だ。
薄々気づいていた。
彼女が。今はシエルと呼ばれる少女が。
いずれエイ=イ一家の既存幹部を鏖殺し、乗っ取る女。モレナ・プルードという名前を得る前の少女だということに。
それでも初心は変わらない。
子供たちを守る念能力。それは、『希望の力』である必要はない。
念能力そのものの配布でなくて構わない。武器の隠し部屋。子供でも使える自衛力。チョッと過剰な報復くらいがちょうどいいと考えている部分は、無きにしも在らずだが。
能力の基点となるのは、念の応用技、『周』。道具の能力をより強く引き出す応用技だ。
例えば、拳銃とその銃弾に『周』を籠めれば、22口径にデザートイーグル以上の威力を持たせることもできる。RPG-7に『周』を籠めれば、それこそ小型ミサイルをも超える威力が出せる……はず。
バイクの内燃機関に『周』を籠めれば、その回転数が向上し。
あるいは、計算機に『周』を籠めればその計算能力が向上するのかもしれない。
実際に、フォークにオーラを纏わせ、『周』を使う。すると、フォークは鋭くなり、床に刺さるまでになった。スプーンでも同様に強度が上がる。一方で、それを用いて食べた飯が美味になる効果はなかった。『用途』ではなく『性質』を強化する、そういった印象を受けた。
武器の強化。それ自体は
複雑な機構を持つ内燃機関や銃器であっても、その武器をよく知り、自分の身体の一部として扱うことで可能となるはずだ。
――問題は、それをどうやって『高い強化率で』『権力による没収が不可能な形で』『適宜配布し』『持続させ』られるか。
高い強化率という点に関して。これは、俺が放出系であることが強みになると考えている。
シャッチモーノ=トチーノの【
原作知識を実証するには、実際にオーラを動かすのが一番だ。俺とトチーノの系統は近い。実際に、小さな念弾を放った後、操作しようとしたが、不可能だったが、念弾を放つ前にカーブを掛けるよう意識をしたら、可能となった。
シエルに『凝』をさせて、ジャイロボールやフォークなどの魔球念弾をキャッチしてもらう。
今は刑務作業の途中の、僅かな休憩時間だ。
「見よ、消える魔球!」
「ちょっと下がって上がってるだけじゃないですか。実際に消してみてくださいよ」
「いや~、それはだな。
「そのメモリとかいうの、そこまで気にしなくてもいんじゃね? って感じですね。頑張れば人間マルチタスク熟せますよ」
「ええ、お前凄いな」
「誰だと思ってるんです。特質系ですよ? 特質系の何がすごいのかなんて知りませんけど」
この実験から解ったこととして、放出系の念弾を後出し的に操作するのは非常に困難、ということが挙げられる。原作でやられていたから不可能ではなだろうが……。
何が言いたいのかというと、ゼノじいちゃんは凄い、ってことである。【
しかし、事前に仕込んだシンプルな命令であれば、放出系の念能力者にも分があるはず。
「つまり、武具を念能力に漬け込む、というやり口だ。秀逸な手法だな」
「凄い、エイジェイの妄想が限界突破してる……ゼノじいちゃんって誰だよ、前世の父親か? 年齢と性別的にむしろ私が言い出す側じゃね?」
「シエルさん……すいませんでした、でも事実なんですよ、信じて……」
「確度の高い情報を前世記憶として捏造してくれる特質系能力とかだったりします?」
「それはあるかも」
前世の罪は偽物であろうが、無かろうが。
今世で積み重ねた罪は、事実だった。
まあ、特質系は例外すぎるため、別として。
六性図におけるオーラ操作の適性に関しては、原作知識といくつかの実験を通して分かった事実から、以下のように結論付けたい。
第一に、操作系に近ければ、『複雑かつ任意の対象への命令』に適性がある。これはシャルナークやイルミの能力から解る。
第二に、具現化系に近ければ、『事前に規定された機能の実現というオーラへの命令』に適性がある。これも、ナックルやカイトの能力からほぼ自明だろう。
第三に、中間にある強化系は『任意でも事前規定でもなく、対象依存の性質引き出し命令』に適性がある。これは解釈が分かれるだろうが、『凝』は『眼や拳に対する"周"』である、と原作を解釈すれば、説得力があると思う。
「シャルナークイルミナックルカイト……エイジェイの前世の恋人リスト?」
「やめてくれ……俺はノンケだ……確かに全員男だけど」
「うーん、捏造記憶にイケメンリストをセッティングしているところを見るに、怪しいですね」
と、ともあれ。
この結論から帰納的に解釈すれば、操作系と強化系の中間にある放出系は『単純ゆえに強力な任意の命令をオーラを通じて命令』すること、具現化系と強化系の中間にある変化系は『柔軟だが事前規定した特性再現をオーラへ命令』することに適性を持つ。
結論とはいっても、全て推測だ。この収容施設の中で参照できる外部情報は、原作知識と水見式の結果くらいだ。
だから、そこから演繹していかなければならない。最も、原作にも信用できない語り手はいるだろうが(ヒソカの性格診断には、例外なんていくらでもあるアテにしてはいけない)。
俺が短期でおおざっぱな訳はない。ここまで精緻に論理を組んでいるのだから。
「エイジェイ、割と理屈の組み方が感情や目的に引きずられがちですよね。一途というか、ファクトベースではなくイシューベースというか」
「そうか……いや、そうか? ちゃんと事実を踏まえてるぞ」
「いえ、強化系と操作系の間っぽくていんじゃね? って感じですね」
はぁ……まあいいか。
――気を取り直して、構想を進める。
『自分の
第二の問題、『権力による没収が不可能な形で』。
この収容施設においても分かる通り、国家権力は強大だ。銃規制のある国では、十分な武装を確保し、維持するのは困難だろう。
この解決方法はシンプルだ。仲間がアクセスできる武器庫として、念空間を創出する。念空間に特殊なルールを設定しなければ、むしろ放出系の方が得意分野とも言える。念空間の広さをある程度犠牲にし、武具専用という制約を掛けることで、前述の『自分のポテンシャルを、所有者に従って発揮せよ』という命令と両立させることが可能だろうと考える。
第三の問題、『適宜配布し』。これは、念空間の出入り口を数多く設置できるようにすべきだろう。取り出し・取り入れ口の基点を、例えば俺の血液によるマーキング点とすれば、持ち運びも可能だ。念空間の開閉方法が複雑だと具現化系の領域になってしまうから、そこは要検討だ。
「マーキングとは別に、万能の出し入れ口を造った方がいいと思いますよ」
話を聞いていたシエルが、口を出す。その内容に、俺は少し疑問を覚える。容量を消費しそうな追加要件だ。
「なぜだ? 目的は自衛力の配布だぞ」
「だからイシューベースだって言ったんですよ。取り出しの基点はマーキングでも、能力の基点はエイジェイですから、あなたを狙われれば一たまりもありません。自分でも重武装できた方がいいです。あと、血液検査でボロがでないように、マーキングは『出し入れ者の血液』と『あなたのオーラ』にしといた方がいいですね。オーラが見えないならただ血を拭ったハンカチで済みますから」
助言は事実に基づいた的確なものだった。
俺は受け入れるほかなかった。
第四の問題、『持続して』。
ここまでの検討で、『念空間に武具を入れておき、強化する』ことまでは策定した。
であれば。『時間比例容量開発・武具内部オーラ消費』という仕組みを作ることが適切だと考える。
すなわちこうだ。
念空間に武具を安置している間、オーラを武具に吸収させ続ける。そして、取り出した時に、そのオーラを徐々に消費し続けて性質が強化され続ける。
つまり、潜在オーラと顕在オーラの概念が、人間ではなく道具に発生する。
まるで、野菜を長時間漬けて、美味しいキムチが出来上がるように、だ。
名づけるのであれば、【
「キムチだから塩漬け、ということですか。ダサすぎませんか」
「大事なところだから茶々を入れないでくれ」
これらは全て構想だ。
構想を実現するために、修行という過程を経る必要があった。
――まずは基礎修行から。
小さな念弾を坑道の天井に当てることで、落盤の危険性を把握したりする。
食事中、口を開ける時は精孔を全開にして『練』、噛んでいるときは精孔を開きつつオーラを凝縮させて『堅』、嚥下するときは口と同時に精孔を閉じて『絶』の状態にしてみる、などを試す。
同じく食事中、看守に隠れて、フォークをスプーンで鋭く研いでみたりもした。
収容施設では、『修行のための時間』など取らせてもらえるわけはない。だから、日常を修行にしなければならない。
工夫に工夫を重ね、念の実力を高めていく。イメージ修行は完全に独覚だが、なんとかなる予感がした。
――しばらくして、ようやく能力が発現したのと同時期。
とある女が、施設を訪れた。
念能力(放出系中心):【
概要:
縦横それぞれ10m,高さ2mの念空間を創出する。念空間には、作成した基点を出入り口として無生物実体の出し入れが可能である。
念空間に収納した実体は、念空間に投入したオーラを恒常的に吸収し続けて貯め込む。
貯め込み容量が上限に達したのちも、少しずつ容量は増え続ける。
貯め込んだオーラは、念空間から取り出した際に、実体に"周"をしたときのように、実体の性質を強化することに費やされる。
制約(収納物について):
・念空間に収納できる実体は、"絶"状態の自身の筋力で持ち上げ可能な無生物に限られる。
・念空間に収納できる非実体は、操作から離れた自身のオーラに限られる。
・初めて念空間に収納する実体は、自身の手で持ち上げる必要がある。
・念空間に収納された実体がオーラを貯め込む速度は、念空間内部のオーラ密度に依存する。
制約(基点について):
・基点には二種類が存在する。『能力者本人の両掌』をマスターホールとし、『出し入れ者の血液痕に能力者がオーラを込めたもの』をスレーブホールとする。
・スレーブホールと実体は一対一対応している。どの実体を出し入れ可能かは能力者がオーラを込めた時に決定する。
・スレーブホールから実体を出す場合、出し入れ者がスレーブホールを強く握りしめるか、オーラを込める必要がある。強く握りしめた場合も、オーラは自動徴収される。
・スレーブホールに実体を入れる際は、対応した実体を血痕に接触させる必要がある。
制約(その他について):
・念空間から非実体のみを取り出すことはできない。
誓約:
・マスターホールから実体を取り出す時、実体の質量に応じて痛みを伴う。