ノット・ローグライク、バット・ハック&スラッシュ 作:砂漠谷
全話に関して、念能力表記を分かりやすくしました。(8/29)
「……と、言いたいところだが。その前に少し、尋ねたいことがある」
ミザイストムは、シャルナークの方に向き直る。
「君は……ああ、そうだ。一応言っておく。これは純粋な、クライムハンターとしての使命感による質問だ。君には黙秘権があるし、黙秘したところで、試験に一切不利益はないことを約束しよう。――もっとも、犯罪者の自首を受け付けないほど野暮じゃないが」
シャルナークの拘束は解かれる。地面に膝をつき、見上げるのは牛柄の男。
「まるで弁護士だな」
「事実、弁護士だからな。ダブルのクライムハンターもやっているが、割いている時間だけでいうと、本業はそっちだ」
「……で、質問は?」
シャルナークは座ったまま、胡坐をかいた姿勢に移行する。ミザイストムを見上げる視線は、少ししらけているようだ。
「三つある。一つ目は、そこの彼が、君は幻影旅団の一員だと言っていたが――これは事実か?」
ミザイストムが親指でこちらを指さす。シャルナークの正体はバレていなかった。それを、俺がバラした、という形になる。
後悔はない、が、これが今後にどう影響するのかも未知数。
ゆっくりと動く。動きは強制的に停止させられない。【
「YES。俺は幻影旅団の一員だ。それ以外の何者でもない」
即答。ミザイストムの目を直視して、彼はそう答えた。
俺は懐のグンカのカードに触れる。緋の眼を持っている可能性が高い、幻影旅団の一員を追跡できるチャンスだ……が、トンパの例を思い出す。
「そうか。二つ目。手首を切断されて現在止血手当をされているそこの受験者――334番、バトブレを
それを聞いて、周囲がざわついている。
その状況で、俺の思考リソースはグンカの念能力を使うべきか、という検討に費やされていた。もう一度、幻影旅団第六肢の標的となった時、生き残れる保証はない。
だから、機を待つ。
「コントロールって……そんな、超能力みたいな」
「でも、334番の腕を斬ったアイツは、見えないところから刀を取り出してたぜ」
「ばっか、俺は見えてた、あれは単なる手品だよ」
最後の一人には一体何が見えていたのか、小一時間問い詰めたいところだ。
ミザイストムの問いに、シャルナークは肩をすくめる。
「黙秘させてもらう。自分の手の内を明かすバカはいない」
「そうか。では、三つ目。ルクソ地方の少数民族、クルタ族の虐殺に、君は加担したか?」
一瞬、水を打ったように周囲は静まり返った。
その静寂を破ったのは、シャルナークの肯い。
「ああ。解釈によっては否認することもできたし、黙秘することもできる。――でも、団長ならこういうだろう、『YESだ』ってね」
「そうか。……自首と受け取って構わないか?」
「それに関してはNO」
ミザイストムがカードを取り出すより早く、シャルナークは自身の腿にアンテナを突き刺し、右ポケットに手を突っ込む。
自動戦闘モードか、あるいは。
どちらにせよ、このタイミングがベストであった。
『自動離脱モード ON』
ポケットから電子音声。それと同時に、シャルナークの身体からはオーラが溢れ、その瞳から光が消える。操作系能力者の『練』とは思えない量を纏い、彼はエレベーターの方に跳躍する。
その直前。俺はグンカのカードを切った。
【
「顕在オーラ量最大の男」
念弾に威力はない。発見能力に全振りした念弾は、トイレ型エレベーターの扉を蹴りで破壊しようとするシャルナークに背後から近づいて。
老爺の顔の念弾は、そのうなじにキスをして消失した。
これで、陽の当たるところにいるならば、シャルナークの場所が分かる。
意識消失状態で、プログラミング通りの逃走をするシャルナーク。攻撃力のない念弾に気が付く素振りは、無かった。
念弾を目にした人間は三人。俺、ビーンズ、ミザイストム。
ミザイストムはそれに気が付かないふりをして、ビーンズ氏の小言に頭を下げていた。
「困りますよミザイさん、離脱者を出すような問答なんて」
「すまない、黙秘すればそのまま試験を続行しようと思っていたのだが――ああまで明言されると、こちらとしても狩りに行く他なかった――なあ、121番」
ミザイストムは、こちらに振り返る。
「一次試験、君はパスでいい。ビーンズ、彼を次の試験場へ。俺は一次試験を続ける」
肩を叩かれる。ミザイストムの手は、思った以上に分厚かった。
――
ビーンズについていき、別口のエレベーターで地上へ。
その後、黒塗りの車の後部座席に乗る。二次試験会場に向かうようだ。
ビーンズ氏は助手席。脚がペダルに届かないゆえか。
彼は前を向いたまま、こちらに質問する。
「……念能力者ですよね。121番さん」
「エイジェイ=サーティン、でお願いします」
「ではエイジェイさん。――どうして、ハンターになろうと?」
「社会的信用が欲しかったんです。戸籍がないので」
「この、ご時世にですか」
「ええ。国際人民データ機構がもうすぐ完成しますから、その前に、と」
十数年前から、全人類の戸籍を統合しようという国際的なプロジェクトが始まった。近代五大陸だけではなく、東ゴルトーやNGLなどの、事実上の独裁国家も、そのプロジェクトには参画している。――例外は流星街の住民や、カキンが隠蔽したい祭孤児など、ごく一部のみ。
1999年までには完成するのだろう、この巨大な構造。
システムが決めているのは戸籍の有無のみ。それは、おおむね善意で作り上げられたものなのだろう。『どんな人間も、無かったことにはしない』という。
ああ、そういえばそういう念能力もあったか。アレは、人間でないものでも人間として動かす能力だった。皮肉なことに、世界の仕組みはその逆だ。
世界の仕組みのような能力を持つシャルナークも、戸籍を目的にハンター試験を受けに来たのだろうか。
意識を別の方向にやっていると、ビーンズはいつの間にか通話を始めていた。声色は険しい。
「――はい、はい……しかし、え? いや、それは……はい。承知しました」
電話を切り、こちらを振り向くビーンズ氏。その眉間には、皺が寄っていた。
「エイジェイさん。とある人が、あなたとの面談を持ちかけています。その人との口頭試問次第では、特例的にハンター
「それは……」
このようなやり方を持ちかける人物。原作では、一人だけ思い当たる。
「――一応、話すだけ話してみます」
「そう、ですか。分かりました。行先を変更します。一時間と少し掛かるので、寝ていてもらっても構いません」
「いえ、そこまで疲れている訳ではないので」
嘘だ。トンパとシャルナークとの二連戦で、疲労自体は溜まっている。だが、しばらく『
精孔を閉じ、窓の外をぼんやりと眺める。
窓ガラスには、疲れた顔の少年が映っていた。
肉体年齢に比すれば、やや老け顔だった。
目的地にたどり着く。
そこは、コンクリート打ちっぱなしの外観をした事務所だった。
ガラス扉を開くと、その向こうには。
ストライプのスーツを着た、政治家然とした青年が立っていた。
「私は、ハンター協会副会長をやっているパリストンと申します。本日の特別試験官を担当しますが……そんなに緊張せずに、リラックスした状態で受けていただければ!」
胡散臭さは最大級。しかし、地位と笑顔がそれを覆い隠す。信頼に足る人物だ、と、予備知識が無ければ錯覚したかもしれない。
十二支んの"子"。パリストン=ヒル。その男が、目の前にはいた。
扉近くのテーブルに椅子が置かれていた。勧められて座る。ビーンズ氏はパリストンの側で立ったままだ。
パリストンはそのまま向かいの椅子に腰かけ、こちらに問いかけた。
「では、単刀直入に。何故、ハンターになろうと思ったんですか?」
「それは戸籍が欲しいから、です」
「本当にそうですか? 一人分の戸籍なら、ハッカーに依頼すれば難しくはないですよね。国際人民データ機構は『デリート』や『アップデート』には厳しくても『クリエイト』に対するセキュリティは緩い」
「それは……」
今、表向きの理由だけで済ませるべきなのか。
戸籍を手に入れる。それは手段だ。社会的な信用をもって、シエルや子供たちを解放する準備を進める。それがハンターになる理由では、ないのか。
相手はパリストン。だが、権力を持つ副会長でもある。
秘密を秘密で押し通すより、正直に語ることが価値になる、そう感じた。
「――いえ。戸籍だけでなくて。人権を与えたい人が。助けたい人が、いるんです」
「へぇ、それは。その人は、どうしてもハンターにならなければ助けられないんですか?」
パリストンは微笑を崩さない。
シエルは、収容所の子供たちは、ハンター
必ずしも、YESではない。だが、あの時思いついた中では、最善の手法だった。
「いえ。ですが、それが最善だと」
「そうですか……その人の名前は?」
シエル――と言えば簡単だったろう。
それでも。敢えてこの名で。
「CL72。 それが彼女の名前でした――今でも、正式には」
パリストンの微笑は崩れた。いや、敢えて崩したのだろう。
真剣な――少なくとも一見そう見える――顔で。
「その番号の振り方。カキンの祭孤児、ですか。あなたの名前も、
「はい。彼女と、俺と。そして、その他数多くの祭孤児」
「そうですか。彼らを助けたいと。なるほどなるほど。ですが、それはあなた自身がやるべき仕事ですか?」
尋常の子供であれば、ここでハンター協会に通報し、泣きつくこともできただろう。
だが、彼らはもはや『恐るべき子供たち』だ。
カードで念能力を購入し、ハンカチを握れば数年オーラに漬けられて変形した武器を呼び出せる。
救出しただけでは、どこぞの有力者に囲われ、殺し屋だのをやらされるのがオチだ。
だからこそ、同胞である俺が、助けなければならない。
パリストンに飼い殺しにさせる訳にはいかない。だが、名も知れぬ権力者の犬にさせる訳にもいかない。
だからこそ、ここでこれを開示する必要がある。
「同じ収容施設にいた、私より年下の祭孤児四十名余――全員が、念能力者です」
ビーンズは驚愕する。すぐさま電話を取り出そうとして、パリストンに腕を掴まれ、制止される。
「!?」
パリストンは、再度こちらに微笑む。だが、心底からの笑みだったのだろう。
悪意が、仄かに香った。
「……」
「彼らは収容施設にいます。国にはまだバレていませんが、いずれ独裁国家で育てられた念能力者の少年兵となるでしょう。そうなる前に、彼らに人権と義務教育を。それが俺の目的です」
「そう……でしたか。もしよければ」
次の言葉を予測するのは容易かった。
だが、この男に主導権を握らせるのは不味い。
「あなたが救出を代行する、というお話であれば、お断りします。ただ、ご支援いただきたい」
「なんでしょう」
短期的に必要なのは、情報だ。
市場に流れる直前の緋の眼を入手し、モレナから信頼を勝ち取り、エイ=イ内での地位を確固たるものにする。
中期的に必要なのは、武器だ。
シエルと共に、水面下からエイ=イを静かに乗っ取るだけでは、収容所の子供たちはその間に少しずつ磨り潰されていく。
ある程度人間をカードの念人形にすり替えたら、念空間に漬けておいた武器を念人形に持たせ、幹部・上部構成員を一掃する。
その二つが、パリストンに求めるものだった。
「緋の眼の情報、そして武器……ですか。緋の眼はもうすぐ闇市場に出るでしょう。おそらく、幻影旅団はもう現物を持ってませんね。武器に関しては――あなたにそこまでの価値が、あるんですかね?」
「それは――」
価値。
所詮は独学で念能力を身に着けただけの男。パリストンの元には、より優秀な念能力者が多く集まっているだろう。俺から拷問でも何でもして収容所の場所を聞き出し、念能力を持つ子供たちを拉致してくればいい。
俺を支援する価値――それは。
ふと、ポケットに手を載せると。
カードの感触があった。
いくつかの選択肢。
幻影旅団の一員の場所を吐ける、という情報価値。だがそれは、一度吐いてしまえば用済み。
シエルの『カード』について。非念能力者でも念能力を『購入させる』ことができる能力。だが、シエルの秘密をその弱点ごと売ることと等価。
自身の能力について。念空間を造れる能力者は利便性が高い。負うリスクは俺個人の弱点が露見することのみ。
俺は、自分の能力について吐くことを選んだ。
「価値は、あります。俺の念空間は300立方メートル。収納条件は、俺が念の強化無しで持ち上げられる道具であること。――一定の手順を踏めば、他者による取り出しも可能です」
「それは――」
「
ビーンズ氏は、俺の急所の開示とも言える言葉に驚き。
パリストンは、俺の能力の内容を冷静に分析する。
「そして、念空間に置いておけばおくほど、"周"が通りやすくなります」
正確には、道具に溜め込んだオーラが自動で『周』を行う。通りやすくなるという表現は不正確だ。
「なるほど。そのための持ち上げ制約。あなたの念空間で武器を塩漬けにしておくだけで――味方の念能力者が持つ近代兵器が強化される。確かにパラダイムシフトだ」
パリストンは大仰に頷く。ぱちぱちと手を叩き、言葉を続けた。
「ところで。現代的な迷信の一種として、『水は、綺麗な言葉を掛ければ綺麗なままで、罵倒すれば汚れる』という性質がまことしやかにささやかれているのはご存じかな」
いきなりパリストンの話が飛ぶ。何の話だ。
「……? 何の関係が」
「僕は思ったんだ。念においては、『心が大事』。僕の大切な人がそう言っていた。そういった迷信を信じる心も、突き詰めれば……」
ようやく気付いた。パリストンは、自身の念能力を開示している。
「――発へと至る」
「そう。汚い言葉――侮辱を汚いと思うか、親愛の表現だと思うかは人に依るだろう。だけど、虚偽が美しいと感じる人はいまい。僕のオーラは吐かれた嘘を知覚し、その相手に対しては重く、鈍く、強くなる。――【
パリストンのオーラは強まっていく。"練"の出力は高まる。先ほどのシャルナークを上回っているのではないか、そういう密度。
「君の念能力を教えてもらったから、こちらとしても開示しないとね。だけど最後の一つ――少しだけ、僕のオーラが重くなった」
先ほどの些細な過少申告。バレていたか。
「どのくらい事実かどうか、そしてどの程度の価値があるかどうかは――実戦で明かしてもらいましょう」
パリストンは、テーブルの端に置いていた万年筆を持ち、おもむろにこちらに投げつけてくる。
俺はガラス扉を叩き割って、事務所外に退避した。
トリプルハンター、パリストン=ヒルの念が。
俺に、牙を向いた。
――
| オーラ操作技術および話術:【 |
| 概要:強化系・変化系の念能力――ではない。 相手の発言に『嘘っぽい』という印象をパリストンが抱いた場合、パリストンは意図的にオーラ出力を高め、"流"の速度を意図的に下げる。 同時に、この技術を”発”として、虚偽の開示を行う。 これにより、パリストンは自身を『発言に応じてオーラを重くする能力者』に見せかけることができる。 エイジェイは、この事実にいまだ気づいていない。 |
インターンが挟まるので二週間は確実に更新できないです~
許してクレメンス。