名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜   作:暁 蒼空

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第3話:学園の迷宮、交差する過去と未来 の後日談です。


第3.5話:深淵の悪夢、姉妹の面影

アジトの冷たい廊下を抜け、るるかとマシュタンはこころの眠る部屋へと帰還した。

 

「ただいま、こころ」

 

いつものように返事はない。

るるかはお湯を張った桶と清潔なタオルを用意し、ベッドに横たわるこころの身体を優しく丁寧に拭いていく。

 

「今日はね、素敵なものを見つけたの」

 

るるかは、タオルを動かしながら、穏やかな声で語りかけた。

 

「学校に咲いてる桜の木なんだけどね。凄く大きな木で、風に吹かれて花びらが舞ってて……本当に綺麗だったよ。いつか、こころにも見せてあげたいなって思った」

 

こころの細い腕を拭きながら、るるかの瞳が少しだけ遠くを見る。

 

「ねぇ、こころは……学校に行ってみたいって思ったことある?」

「…………」

 

虚空を見つめるこころからは、当然、何の反応も返ってこない。

 

「私ね……今日、あの子達……新しい名探偵さん達を見て、もしかしたら……こころにも、こんな未来があったのかなって思っちゃった」

 

るるかの声が、僅かに震えを帯びる。

 

「私と一緒に名探偵なんてやってたせいで、貴女の普通の女の子としての未来を……私が奪ったんじゃないかって、思っちゃった」

 

マシュタンは、るるかの足元で、その独白をただ静かに黙って聞いていた。

 

「きっと、こころなら『そんな事ない!』って笑うんだろうね。自分から選んだことだって。私は、もちろんこころと一緒に入れて嬉しかったけど……でも、もしかしたらって、どうしても思っちゃったの」

「……」

「ごめんね、こんな事言われても迷惑だよね。安心して、こころ。お姉ちゃんが、必ず貴女を助けてみせるから」

 

るるかは、こころの顔を覗き込み、自分に言い聞かせるように力強く誓った。

 

「だって……私は、こころのお姉ちゃんだから。世界で一番、貴女のことを愛してるから」

「待っててね。必ず……必ず助けるから」

 

こころの綺麗な髪をそっと撫でる。

 

「ほら、綺麗になったよ」

 

身体を拭き終わり、新しい患者用の服を着せ替えた二人は、そっと息をついた。

 

***

 

そして、夜が訪れる。

部屋の明かりは消え、るるか、こころ、マシュタンの三人は眠りについていた。

しかし――るるかは、またしてもひどく魘されていた。

 

 

『うわあぁぁぁぁぁっ!!』

 

夢の中で、彼女はまた、あの日の凄惨な敗北の記憶を追体験していた。

ウソノワールの攻撃を受け、変身を解除されて地面に倒れ伏す自分。

そして、目の前で悲鳴を上げて倒れるこころ。

 

『キャァァァァァァァァッ!!』

『こころぉぉぉ!』

 

泥と血にまみれた身体を引きずり、駆け寄ろうとするるるか。

しかし――足を進めているはずなのに、どんなに腕を伸ばしても、こころとの距離が全く縮まらない。

空間が間延びしたように、永遠に届かない。

 

『どうして……どうして近づけないの! こころぉぉぉ!』

 

ガラスの向こう側のような遠い距離から、ボロボロになったこころがるるかに向かって、血に染まった手を伸ばしている。

 

『お姉ちゃん。お姉ちゃん。助けて。助けてよ』

『痛いよ。苦しいよ。死にたくないよ……っ』

『こころ! 助けるから! 絶対に助けるから!』

 

るるかの目から、大粒の涙が流れている。

 

『私は、どんな事をしてでも貴女を……っ!』

 

走りながら必死に手を伸ばするるか。

しかし、距離は一向に縮まらない。

すると、こころの懇願する顔が、スゥッと冷たい無表情に変わった。

 

『やっぱり、そうなんだ』

『えっ……』

『助けてくれないんだね。お姉ちゃんは、やっぱり私を見捨てるんだ』

『そんな事ない! そんな事……っ!』

『また、私の手を掴んでくれないんだね。自分が助かればそれで良かったんだ』

 

残酷な言葉が、るるかの胸をメッタ刺しにする。

 

『違う! そんな事ない! 私は、貴女がいないと……っ!』

『私はこんなにお姉ちゃんの事が大好きで……命を張ってでも助けたいくらい大好きなのに。お姉ちゃんは、いつも私に合わせてくれてただけなんだね……』

『違う! 私は、こころを愛してる。世界で一番、貴女が大切で大好きよ! 貴女が私の生きる意味なの!』

 

悲痛な叫びも虚しく、こころは冷ややかな声で告げた。

 

『どうしてなの。どうして……私を助けてくれないの』

『私のことが大切なら……この手をとってよ』

 

るるかは必死にこころの手を掴もうと、喉が裂けるほど叫びながら腕を伸ばすが、一生距離が縮まることはない。

 

『こころ! こころっ!!』

『ほら、やっぱり。お姉ちゃんは、私のことを助けてくれない』

 

冷ややかな非難の言葉。

 

『お姉ちゃんのせいだ。お姉ちゃんのせいで私は、こんなにつらい思いをしなくちゃいけない』

『そ、そんな。私……そんなつもりじゃ……っ』

 

ショックで、るるかの足が止まる。

 

こころ『お姉ちゃんがいなければ、私は今も平和に過ごせてたのに』

 

そして、遥か遠くにいたはずのこころが――突然、るるかの真後ろに現れ、耳元で呪うようにささやいた。

 

こころ『お姉ちゃんなんて、大っきらい』

 

るるか『あっ、あっ、あっ……イヤァァァァァァァァッ!!』

 

るるかは頭を抱え、膝をついて絶叫した。

 

***

 

「イヤァァァァァッ!!」

 

るるかは悲鳴と共に目を覚ました。

汗だくで、パジャマが肌に張り付いている。

頬は涙で濡れそぼっていた。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

荒い息を吐きながら、るるかは隣を見る。

こころは静かに目を瞑って眠っていた。

もちろん、るるかを恨むような気配は微塵もない。

 

るるかは震える足でベッドから出ると、部屋の隅っこに移動し、膝を抱えて座りこんだ。

 

(夢。あれが夢なのは分かってる。こころはあんな事言う子じゃない。分かってる。でも……っ)

 

るるかは、静かに寝ているこころの顔を暗闇の中で見つめた。

愛しくてたまらない妹。

自分が壊してしまった、大切な宝物。

 

「うっ……うっ……、ヒグッ、ヒグッ……」

 

るるかの口から、押し殺した嗚咽が漏れ始める。

膝に顔を埋め、るるかは小さく丸まって泣き出した。

 

「グスッ、グスッ……」

 

その泣き声で、マシュタンが目を覚ました。

隣にるるかがいない事に気付き、部屋を見回す。

そして、部屋の隅で膝を抱えて泣いているるるかの姿を見つけた。

 

「るるか。また、見たの?」

 

心配そうに声をかけるマシュタン。

 

「グスッ、グスッ……うん……」

 

マシュタンがるるかの目の前まで飛んできて、そっと降り立つ。

るるかは、しゃくり上げながら、先ほど見た恐ろしい夢の事をマシュタンに話した。

届かない手。

見捨てられたという恨み言。

そして、「大嫌い」という拒絶。

 

「そう……怖かったわね」

 

マシュタンは、るるかの言葉を優しく受け止めた。

 

「前にも言ったけど、こころちゃんは絶対にそんな事言わないわ」

 

「分かってる……分かってるの。でも……やっぱり夢で見ると怖いの。本当に、本当はこころに恨まれてるんじゃないかって……っ」

 

るるかは、顔を上げてマシュタンを見た。その瞳は恐怖と絶望に揺れている。

 

「今日は特に、色んな事を思い出したから、余計に悪夢を見てるんだろうけど……やっぱり怖いよ。私が、こころの手を掴めなかったのは、紛れもない『事実』だから……っ」

 

るるかは手で涙を拭っているが、涙は泉のように溢れて止まらなかった。

 

「私……私……寝るのが怖い」

「るるか……」

「また、こころに責められるのが怖い。グスッ……こころに恨まれるのが……こころに嫌われるのが怖い……っ」

 

るるかは、子供のように泣きじゃくった。

 

「嫌だ。こころに嫌われたら私……どうしたらいいの……。嫌だ。辛いよ。苦しいよ……っ」

「こころ……こころ……、ごめんね……ごめんなさい……っ」

「うぇぇぇんっ!!」

 

天才探偵として誰よりも冷静だったるるかからは、絶対に考えられない光景だった。

トラウマが恐怖を増幅させ、己の罪悪感が最も恐れる形の悪夢を見せて、彼女の心を容赦なく削り取っていく。

 

「るるか。そのまま溜め込まないで、泣きなさい」

 

マシュタンは、静かで力強い声で言った。

 

「今は、とにかく自分の気持ちに素直になって。ほら、私のこと抱きしめてもいいから」

 

るるかは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

そして、小さなマシュタンを両手でぎゅっと抱きしめ、声を上げて泣いた。

 

「うぇぇぇんっ! マシュタン、ごめんね……っ! ありがとう……っ」

(るるか……。こんなに、追い詰められているのね)

 

マシュタンは、るるかの震える背中に小さな手を回し、優しく撫でた。

 

「大丈夫よ。おとも妖精の私が保証する。絶対に、こころちゃんは貴女を恨んだりなんてしない。だから、今はその辛さを全部吐き出して」

「こころぉ……ごめんね。お姉ちゃんが、弱かったから……っ」

 

るるかは、マシュタンの胸に顔を埋め、懺悔するように泣き続ける。

 

「お姉ちゃんのせいで、貴女が無茶することになって……っ。貴女の手を……掴んであげられなくて、ごめんね。ごめんなさい……っ!」

 

泣いて、泣いて、謝り続けるるるか。

 

どれくらい泣き続けただろうか。

やがて、泣き疲れたるるかは、マシュタンを抱きしめたまま、壁に寄りかかって眠りに落ちていた。

 

「スー……、スー……、スー……」

 

目元は真っ赤に腫れ上がり、閉じた目尻からはまだ涙の痕が残っている。

 

「ようやく眠ったわね」

 

マシュタンは、そっとるるかの目元の涙を拭ってあげた。

 

「るるか……。きっと私なんかには想像もできないほど、辛くて怖いんでしょうね……。それでも私は、貴女を支え続けるわ」

 

マシュタンは、るるかの腕の中から抜け出し、ベッドで眠るこころの方へ目を向けた。

 

「こころちゃん。そんな事ないだろうけど、どうかるるかを恨まないであげてね。るるかは本当に、貴女のことだけを、誰よりも大切に思ってるから」

 

マシュタンは、どこからか毛布を引っ張ってくると、冷たい床で眠るるるかの身体にそっとかけた。

そして、自分もるるかの膝の上に丸くなり、一緒に毛布に包まった。

 

「お休み、るるか。私は……ずっと側にいるわ」

 

暗い冷たいアジトの片隅で、少女と妖精は、互いの温もりだけを頼りに眠りについた。

 

***

 

数日後。

怪盗団ファントムのアジト。

VIP席のウソノワールをはじめ、ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモン、そしてるるかとマシュタンがいつものように集まっていた。

 

「まだ、『未來自由の書』に予言はでんか……」

 

ウソノワールが、手元にある古びた書物を閉じて低く呟いた。

 

「ふむ。貴様ら、今日は休暇とする。好きに過ごすといい」

 

ボスの予期せぬ宣言に、幹部達はざわめいた。

特にアゲセーヌは、待ってましたと言わんばかりに両手を上げてはしゃぎ出した。

 

「マジ! じゃあ、町に出て久しぶりにショッピングに行くしかないし~!」

 

各々が気の抜けた態度で散っていく中、るるかだけは幹部席の椅子に無言で座ったままだった。

 

「休暇ねぇ。悪の組織なのに、そんなホワイト企業みたいな事をするのね」

 

マシュタンが呆れたように呟く。

 

「るるか、どうする?」

 

尋ねてみるが、るるかからの返答はない。

視線は虚空を彷徨い、ぼんやりとしている。

 

「るるか?」

「えっ……あ、ごめん。聞いてなかった」

 

るるかはビクッと肩を揺らし、慌ててマシュタンを見た。

 

「あら珍しい。るるかが会話を聞いてないなんて」

「……」

「今日は休暇らしいわ。未來自由の書に予言が出てないそうよ」

「そうなんだ。……じゃあ、部屋に行きましょう」

 

るるかは立ち上がり、ふらりとした足取りで歩き出した。

 

「??」

(……なんだか、様子がおかしい?)

 

マシュタンは小首を傾げたが、気のせいかと思い直し、るるかの背中を追って飛び立った。

 

***

 

冷たい廊下。

マシュタンは、るるかの少し前を飛んでいた。

 

「取り敢えず、部屋に行ってこころちゃんの様子を確認ね」

「……うん」

「でも……それからどうしましょうか? 折角の休みだし、外に美味しいアイスでも買いに行く?」

「……うん」

 

覇気のない生返事。

マシュタンは、やっぱりるるかの様子が絶対におかしいと確信した。

 

「ねぇ、るるか。やっぱり貴女、少し変よ」

 

マシュタンが振り返る。

すると、るるかとマシュタンの距離が不自然に大きく開いていた。

るるかの足取りはひどく重く、左右にフラフラと揺れながら歩いている。

 

「!?」

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

るるかは壁に手をつき、荒い息を吐いていた。

その顔は異常なほどに真っ赤だった。

 

「ちょっと、るるか! 貴女!」

「はぁっ……はぁっ……、だ、大丈夫……」

 

るるかは強がって答えるが、彼女の視界はすでにぐにゃぐにゃと霞み、焦点が合っていなかった。

 

「そんなわけないでしょ!」

 

マシュタンが叫んだ瞬間。

 

「はぁっ……はぁっ……、あっ……」

 

るるかの身体からプツンと糸が切れたように力が抜け、崩れ落ちた。

 

『ドサッ!』

 

「るるか!!」

 

床に倒れ伏するるかの元へ、マシュタンは弾かれたように飛び降りた。

るるかの呼吸は浅く荒く、真っ赤になった額からは玉のような汗が流れ落ちている。

マシュタンが小さな手でるるかの額に触れると、火のように熱かった。

 

「ちょっと! すごい熱じゃない!」

「だ、大丈夫。少しふらついただけ……」

 

るるかは意地を張って起き上がろうとするが、力が入らず、床に手をついたまま上手く身体を持ち上げられない。

壁に縋りつくようにして、何とか上体を起こす。

 

「全然大丈夫じゃないわよ!」

「こんなの……少し休めば……」

「ああもう! 先ずは部屋に入ってからね!」

 

るるかは、マシュタンに急かされながら、壁伝いにフラフラと歩き、どうにか自分たちの部屋へと辿り着いた。

そして、部屋の真ん中まで来たところで力尽き、ベッドの目の前で再び崩れ落ちた。

 

「るるか!」

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「もう! 意地張らないで休んで!」

 

マシュタンは急いで飛んでいき、解熱剤と水を用意した。

 

「ほら、るるか。薬を飲んで」

 

マシュタンに促され、るるかは震える手で錠剤を飲み込んだ。

マシュタンはさらに桶に水を汲み、清潔なタオルを濡らして絞る。

 

「るるか。汗拭くから、服を脱がせるわね」

 

マシュタンは器用にるるかの服のボタンを外し、汗だくの身体を冷たいタオルで丁寧に拭いていく。

そして、クローゼットから清潔な寝間着を引っ張り出してきた。

 

「るるか、着替えましょう。辛いかもしれないけど、少しだけ身体を動かしてね」

「ん……ごめんね……」

 

マシュタンに手伝ってもらいながら、るるかはどうにか寝間着に着替えた。

 

「はい。ベッドに寝てね」

 

言われるがまま、るるかは自分のベッドに潜り込んだ。

ひんやりとしたシーツが、火照った身体に心地よい。

 

「はぁっ……はぁっ……」

「どうして我慢してたの! 隠そうとするから、最初わからなかったじゃない!」

 

マシュタンが腰に手を当ててぷんぷんと怒る。

 

「はぁっ……ごめん……」

「全く。今日は私が世話をするから、そのまま寝てなさい」

「でも、それだとマシュタンが……」

「病人は黙って寝てる! いいわね!」

「……うん」

 

少しだけのつもりで目を瞑ったるるかだったが、極度の疲労と高熱のせいか、瞬く間に深い眠りへと落ちていった。

 

「もう、この子は。無理ばっかりして……」

 

マシュタンは、るるかの真っ赤な頬を見つめながら、困ったように小さくため息をついた。

 

***

 

数時間が経過した。

 

「ん……」

 

るるかが、小さく呻いて目を覚ます。

 

「あら、起きたのね」

「マシュタン……?」

 

るるかの瞳は熱が出ているせいか、とろんと潤んでいた。

 

「起き上がれる? お粥作ったから、少しでも食べて」

 

るるかが重い身体をゆっくりと起こすと、マシュタンが湯気を立てるお粥の入ったお椀を持ってやって来た。

マシュタンは、今のるるかの体調を考え、小さなスプーンでお粥をすくった。

 

「フーフー。はい、あ~ん」

 

マシュタンが息を吹きかけて冷ましたお粥を、るるかの口元へと運ぶ。

 

「マシュタン。……恥ずかしい」

 

るるかは、少しだけ頬を染めて顔を背けようとする。

 

「病人が何言ってるの。はい、あ~ん」

 

いつも大人びているるるかの珍しい反応に、マシュタンは心配しながらも、実はお世話を少し楽しんでいた。

 

「……あ~ん」

 

るるかは大人しく口を開け、お粥をパクリと食べた。

 

「どう? 美味しい?」

「うん。……美味しい」

「それは良かったわ。ちゃんと食べて早く元気にならないと。はい、あ~ん」

「あ~ん」

 

『もきゅもきゅ』と効果音が聞こえてきそうなほど、小動物のように可愛らしくお粥を咀嚼するるるか。

その姿を見て、マシュタンは心の中でクスリと笑った。

 

(こころちゃんがこんな所を見たら、大騒ぎでしょうね)

 

――こころ『あー! マシュタンだけズルい! 私も弱々しいお姉ちゃんに「あ~ん」ってしたい! 絶対可愛いもん!』

 

(駄々捏ねるのが目に見えるわね。心配しながらも、絶対にそんな事しそう)

 

元気だった頃のこころの姿を想像し、マシュタンの胸に温かさと切なさが入り混じる。

 

やがて、るるかはお粥を平らげた。

食後の薬と水を飲ませ、マシュタンはるるかを再びベッドに横たわらせた。

 

「さぁ、もう一眠りして。ゆっくり休んで、治さないとね」

 

マシュタンが布団をかけ直し、看病の片付けをしようとベッドから離れようとした、その時だった。

 

『ギュッ』

「……??」

 

マシュタンの小さな手が、るるかの手にしっかりと掴まれた。

 

「どうしたの、るるか?」

 

振り返ると、るるかのとろんとした目が、熱で潤んだままこちらを見つめていた。

 

「さみしい。……1人にしないで」

 

その声は、普段のクールなるるかからは想像もつかないほど、か弱く、甘えるような響きだった。

高熱と精神的な限界のせいで、彼女は幼児の頃に戻ってしまったかのようだった。

 

「マシュタン。一緒にいてよぉ……」

「もう、しょうがないわね」

 

マシュタンは優しく微笑み、そのままるるかの腕の中に潜り込むようにして、一緒にベッドの中に入った。

 

「ん……マシュタンは、気持ちいいね」

 

るるかは、マシュタンのふわふわとした温もりに顔をすり寄せ、ふにゃりと笑った。

 

「おやすみ、マシュタン……」

 

安心したのか、るるかはすぐに目を閉じ、深い寝息を立て始めた。

 

「スー、スー、スー……」

 

るるかの寝顔を見上げ、マシュタンはそっと彼女の腕から抜け出した。

 

「全く。あんな姿を見ると……やっぱりこころちゃんと姉妹だなって、改めて思うわね」

 

いつもはこころが甘えん坊で、るるかがしっかり者のお姉ちゃん。

でも、根本的な素直さや脆さは、二人ともそっくりなのだ。

マシュタンは、るるかの熱い頬を小さな手で優しく撫でた。

 

「きっと、トラウマが呼び起こされ始めたのと、無理を重ねたストレスでこんな事になったんでしょうね。この間も、あんな恐ろしい悪夢に魘されたばっかりだし」

 

正義から悪へと堕ちた罪悪感。

妹を救えなかった後悔。

るるかが一人で背負っている重圧は、計り知れない。

 

「るるか。辛いわよね。安心して、私は貴女の味方よ。早く良くなってね」

 

マシュタンは、すやすやと眠るるるかの額に、おまじないのようにキスを落とした。

そして、洗い物や洗濯物などの家事をこなすため、静かにベッドサイドを離れた。

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