名探偵プリキュア! 〜迷宮のアルカナと偽りの真実〜 作:暁 蒼空
アジトの冷たい廊下を抜け、るるかとマシュタンはこころの眠る部屋へと帰還した。
「ただいま、こころ」
いつものように返事はない。
るるかはお湯を張った桶と清潔なタオルを用意し、ベッドに横たわるこころの身体を優しく丁寧に拭いていく。
「今日はね、素敵なものを見つけたの」
るるかは、タオルを動かしながら、穏やかな声で語りかけた。
「学校に咲いてる桜の木なんだけどね。凄く大きな木で、風に吹かれて花びらが舞ってて……本当に綺麗だったよ。いつか、こころにも見せてあげたいなって思った」
こころの細い腕を拭きながら、るるかの瞳が少しだけ遠くを見る。
「ねぇ、こころは……学校に行ってみたいって思ったことある?」
「…………」
虚空を見つめるこころからは、当然、何の反応も返ってこない。
「私ね……今日、あの子達……新しい名探偵さん達を見て、もしかしたら……こころにも、こんな未来があったのかなって思っちゃった」
るるかの声が、僅かに震えを帯びる。
「私と一緒に名探偵なんてやってたせいで、貴女の普通の女の子としての未来を……私が奪ったんじゃないかって、思っちゃった」
マシュタンは、るるかの足元で、その独白をただ静かに黙って聞いていた。
「きっと、こころなら『そんな事ない!』って笑うんだろうね。自分から選んだことだって。私は、もちろんこころと一緒に入れて嬉しかったけど……でも、もしかしたらって、どうしても思っちゃったの」
「……」
「ごめんね、こんな事言われても迷惑だよね。安心して、こころ。お姉ちゃんが、必ず貴女を助けてみせるから」
るるかは、こころの顔を覗き込み、自分に言い聞かせるように力強く誓った。
「だって……私は、こころのお姉ちゃんだから。世界で一番、貴女のことを愛してるから」
「待っててね。必ず……必ず助けるから」
こころの綺麗な髪をそっと撫でる。
「ほら、綺麗になったよ」
身体を拭き終わり、新しい患者用の服を着せ替えた二人は、そっと息をついた。
***
そして、夜が訪れる。
部屋の明かりは消え、るるか、こころ、マシュタンの三人は眠りについていた。
しかし――るるかは、またしてもひどく魘されていた。
『うわあぁぁぁぁぁっ!!』
夢の中で、彼女はまた、あの日の凄惨な敗北の記憶を追体験していた。
ウソノワールの攻撃を受け、変身を解除されて地面に倒れ伏す自分。
そして、目の前で悲鳴を上げて倒れるこころ。
『キャァァァァァァァァッ!!』
『こころぉぉぉ!』
泥と血にまみれた身体を引きずり、駆け寄ろうとするるるか。
しかし――足を進めているはずなのに、どんなに腕を伸ばしても、こころとの距離が全く縮まらない。
空間が間延びしたように、永遠に届かない。
『どうして……どうして近づけないの! こころぉぉぉ!』
ガラスの向こう側のような遠い距離から、ボロボロになったこころがるるかに向かって、血に染まった手を伸ばしている。
『お姉ちゃん。お姉ちゃん。助けて。助けてよ』
『痛いよ。苦しいよ。死にたくないよ……っ』
『こころ! 助けるから! 絶対に助けるから!』
るるかの目から、大粒の涙が流れている。
『私は、どんな事をしてでも貴女を……っ!』
走りながら必死に手を伸ばするるか。
しかし、距離は一向に縮まらない。
すると、こころの懇願する顔が、スゥッと冷たい無表情に変わった。
『やっぱり、そうなんだ』
『えっ……』
『助けてくれないんだね。お姉ちゃんは、やっぱり私を見捨てるんだ』
『そんな事ない! そんな事……っ!』
『また、私の手を掴んでくれないんだね。自分が助かればそれで良かったんだ』
残酷な言葉が、るるかの胸をメッタ刺しにする。
『違う! そんな事ない! 私は、貴女がいないと……っ!』
『私はこんなにお姉ちゃんの事が大好きで……命を張ってでも助けたいくらい大好きなのに。お姉ちゃんは、いつも私に合わせてくれてただけなんだね……』
『違う! 私は、こころを愛してる。世界で一番、貴女が大切で大好きよ! 貴女が私の生きる意味なの!』
悲痛な叫びも虚しく、こころは冷ややかな声で告げた。
『どうしてなの。どうして……私を助けてくれないの』
『私のことが大切なら……この手をとってよ』
るるかは必死にこころの手を掴もうと、喉が裂けるほど叫びながら腕を伸ばすが、一生距離が縮まることはない。
『こころ! こころっ!!』
『ほら、やっぱり。お姉ちゃんは、私のことを助けてくれない』
冷ややかな非難の言葉。
『お姉ちゃんのせいだ。お姉ちゃんのせいで私は、こんなにつらい思いをしなくちゃいけない』
『そ、そんな。私……そんなつもりじゃ……っ』
ショックで、るるかの足が止まる。
こころ『お姉ちゃんがいなければ、私は今も平和に過ごせてたのに』
そして、遥か遠くにいたはずのこころが――突然、るるかの真後ろに現れ、耳元で呪うようにささやいた。
こころ『お姉ちゃんなんて、大っきらい』
るるか『あっ、あっ、あっ……イヤァァァァァァァァッ!!』
るるかは頭を抱え、膝をついて絶叫した。
***
「イヤァァァァァッ!!」
るるかは悲鳴と共に目を覚ました。
汗だくで、パジャマが肌に張り付いている。
頬は涙で濡れそぼっていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
荒い息を吐きながら、るるかは隣を見る。
こころは静かに目を瞑って眠っていた。
もちろん、るるかを恨むような気配は微塵もない。
るるかは震える足でベッドから出ると、部屋の隅っこに移動し、膝を抱えて座りこんだ。
(夢。あれが夢なのは分かってる。こころはあんな事言う子じゃない。分かってる。でも……っ)
るるかは、静かに寝ているこころの顔を暗闇の中で見つめた。
愛しくてたまらない妹。
自分が壊してしまった、大切な宝物。
「うっ……うっ……、ヒグッ、ヒグッ……」
るるかの口から、押し殺した嗚咽が漏れ始める。
膝に顔を埋め、るるかは小さく丸まって泣き出した。
「グスッ、グスッ……」
その泣き声で、マシュタンが目を覚ました。
隣にるるかがいない事に気付き、部屋を見回す。
そして、部屋の隅で膝を抱えて泣いているるるかの姿を見つけた。
「るるか。また、見たの?」
心配そうに声をかけるマシュタン。
「グスッ、グスッ……うん……」
マシュタンがるるかの目の前まで飛んできて、そっと降り立つ。
るるかは、しゃくり上げながら、先ほど見た恐ろしい夢の事をマシュタンに話した。
届かない手。
見捨てられたという恨み言。
そして、「大嫌い」という拒絶。
「そう……怖かったわね」
マシュタンは、るるかの言葉を優しく受け止めた。
「前にも言ったけど、こころちゃんは絶対にそんな事言わないわ」
「分かってる……分かってるの。でも……やっぱり夢で見ると怖いの。本当に、本当はこころに恨まれてるんじゃないかって……っ」
るるかは、顔を上げてマシュタンを見た。その瞳は恐怖と絶望に揺れている。
「今日は特に、色んな事を思い出したから、余計に悪夢を見てるんだろうけど……やっぱり怖いよ。私が、こころの手を掴めなかったのは、紛れもない『事実』だから……っ」
るるかは手で涙を拭っているが、涙は泉のように溢れて止まらなかった。
「私……私……寝るのが怖い」
「るるか……」
「また、こころに責められるのが怖い。グスッ……こころに恨まれるのが……こころに嫌われるのが怖い……っ」
るるかは、子供のように泣きじゃくった。
「嫌だ。こころに嫌われたら私……どうしたらいいの……。嫌だ。辛いよ。苦しいよ……っ」
「こころ……こころ……、ごめんね……ごめんなさい……っ」
「うぇぇぇんっ!!」
天才探偵として誰よりも冷静だったるるかからは、絶対に考えられない光景だった。
トラウマが恐怖を増幅させ、己の罪悪感が最も恐れる形の悪夢を見せて、彼女の心を容赦なく削り取っていく。
「るるか。そのまま溜め込まないで、泣きなさい」
マシュタンは、静かで力強い声で言った。
「今は、とにかく自分の気持ちに素直になって。ほら、私のこと抱きしめてもいいから」
るるかは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
そして、小さなマシュタンを両手でぎゅっと抱きしめ、声を上げて泣いた。
「うぇぇぇんっ! マシュタン、ごめんね……っ! ありがとう……っ」
(るるか……。こんなに、追い詰められているのね)
マシュタンは、るるかの震える背中に小さな手を回し、優しく撫でた。
「大丈夫よ。おとも妖精の私が保証する。絶対に、こころちゃんは貴女を恨んだりなんてしない。だから、今はその辛さを全部吐き出して」
「こころぉ……ごめんね。お姉ちゃんが、弱かったから……っ」
るるかは、マシュタンの胸に顔を埋め、懺悔するように泣き続ける。
「お姉ちゃんのせいで、貴女が無茶することになって……っ。貴女の手を……掴んであげられなくて、ごめんね。ごめんなさい……っ!」
泣いて、泣いて、謝り続けるるるか。
どれくらい泣き続けただろうか。
やがて、泣き疲れたるるかは、マシュタンを抱きしめたまま、壁に寄りかかって眠りに落ちていた。
「スー……、スー……、スー……」
目元は真っ赤に腫れ上がり、閉じた目尻からはまだ涙の痕が残っている。
「ようやく眠ったわね」
マシュタンは、そっとるるかの目元の涙を拭ってあげた。
「るるか……。きっと私なんかには想像もできないほど、辛くて怖いんでしょうね……。それでも私は、貴女を支え続けるわ」
マシュタンは、るるかの腕の中から抜け出し、ベッドで眠るこころの方へ目を向けた。
「こころちゃん。そんな事ないだろうけど、どうかるるかを恨まないであげてね。るるかは本当に、貴女のことだけを、誰よりも大切に思ってるから」
マシュタンは、どこからか毛布を引っ張ってくると、冷たい床で眠るるるかの身体にそっとかけた。
そして、自分もるるかの膝の上に丸くなり、一緒に毛布に包まった。
「お休み、るるか。私は……ずっと側にいるわ」
暗い冷たいアジトの片隅で、少女と妖精は、互いの温もりだけを頼りに眠りについた。
***
数日後。
怪盗団ファントムのアジト。
VIP席のウソノワールをはじめ、ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモン、そしてるるかとマシュタンがいつものように集まっていた。
「まだ、『未來自由の書』に予言はでんか……」
ウソノワールが、手元にある古びた書物を閉じて低く呟いた。
「ふむ。貴様ら、今日は休暇とする。好きに過ごすといい」
ボスの予期せぬ宣言に、幹部達はざわめいた。
特にアゲセーヌは、待ってましたと言わんばかりに両手を上げてはしゃぎ出した。
「マジ! じゃあ、町に出て久しぶりにショッピングに行くしかないし~!」
各々が気の抜けた態度で散っていく中、るるかだけは幹部席の椅子に無言で座ったままだった。
「休暇ねぇ。悪の組織なのに、そんなホワイト企業みたいな事をするのね」
マシュタンが呆れたように呟く。
「るるか、どうする?」
尋ねてみるが、るるかからの返答はない。
視線は虚空を彷徨い、ぼんやりとしている。
「るるか?」
「えっ……あ、ごめん。聞いてなかった」
るるかはビクッと肩を揺らし、慌ててマシュタンを見た。
「あら珍しい。るるかが会話を聞いてないなんて」
「……」
「今日は休暇らしいわ。未來自由の書に予言が出てないそうよ」
「そうなんだ。……じゃあ、部屋に行きましょう」
るるかは立ち上がり、ふらりとした足取りで歩き出した。
「??」
(……なんだか、様子がおかしい?)
マシュタンは小首を傾げたが、気のせいかと思い直し、るるかの背中を追って飛び立った。
***
冷たい廊下。
マシュタンは、るるかの少し前を飛んでいた。
「取り敢えず、部屋に行ってこころちゃんの様子を確認ね」
「……うん」
「でも……それからどうしましょうか? 折角の休みだし、外に美味しいアイスでも買いに行く?」
「……うん」
覇気のない生返事。
マシュタンは、やっぱりるるかの様子が絶対におかしいと確信した。
「ねぇ、るるか。やっぱり貴女、少し変よ」
マシュタンが振り返る。
すると、るるかとマシュタンの距離が不自然に大きく開いていた。
るるかの足取りはひどく重く、左右にフラフラと揺れながら歩いている。
「!?」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
るるかは壁に手をつき、荒い息を吐いていた。
その顔は異常なほどに真っ赤だった。
「ちょっと、るるか! 貴女!」
「はぁっ……はぁっ……、だ、大丈夫……」
るるかは強がって答えるが、彼女の視界はすでにぐにゃぐにゃと霞み、焦点が合っていなかった。
「そんなわけないでしょ!」
マシュタンが叫んだ瞬間。
「はぁっ……はぁっ……、あっ……」
るるかの身体からプツンと糸が切れたように力が抜け、崩れ落ちた。
『ドサッ!』
「るるか!!」
床に倒れ伏するるかの元へ、マシュタンは弾かれたように飛び降りた。
るるかの呼吸は浅く荒く、真っ赤になった額からは玉のような汗が流れ落ちている。
マシュタンが小さな手でるるかの額に触れると、火のように熱かった。
「ちょっと! すごい熱じゃない!」
「だ、大丈夫。少しふらついただけ……」
るるかは意地を張って起き上がろうとするが、力が入らず、床に手をついたまま上手く身体を持ち上げられない。
壁に縋りつくようにして、何とか上体を起こす。
「全然大丈夫じゃないわよ!」
「こんなの……少し休めば……」
「ああもう! 先ずは部屋に入ってからね!」
るるかは、マシュタンに急かされながら、壁伝いにフラフラと歩き、どうにか自分たちの部屋へと辿り着いた。
そして、部屋の真ん中まで来たところで力尽き、ベッドの目の前で再び崩れ落ちた。
「るるか!」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「もう! 意地張らないで休んで!」
マシュタンは急いで飛んでいき、解熱剤と水を用意した。
「ほら、るるか。薬を飲んで」
マシュタンに促され、るるかは震える手で錠剤を飲み込んだ。
マシュタンはさらに桶に水を汲み、清潔なタオルを濡らして絞る。
「るるか。汗拭くから、服を脱がせるわね」
マシュタンは器用にるるかの服のボタンを外し、汗だくの身体を冷たいタオルで丁寧に拭いていく。
そして、クローゼットから清潔な寝間着を引っ張り出してきた。
「るるか、着替えましょう。辛いかもしれないけど、少しだけ身体を動かしてね」
「ん……ごめんね……」
マシュタンに手伝ってもらいながら、るるかはどうにか寝間着に着替えた。
「はい。ベッドに寝てね」
言われるがまま、るるかは自分のベッドに潜り込んだ。
ひんやりとしたシーツが、火照った身体に心地よい。
「はぁっ……はぁっ……」
「どうして我慢してたの! 隠そうとするから、最初わからなかったじゃない!」
マシュタンが腰に手を当ててぷんぷんと怒る。
「はぁっ……ごめん……」
「全く。今日は私が世話をするから、そのまま寝てなさい」
「でも、それだとマシュタンが……」
「病人は黙って寝てる! いいわね!」
「……うん」
少しだけのつもりで目を瞑ったるるかだったが、極度の疲労と高熱のせいか、瞬く間に深い眠りへと落ちていった。
「もう、この子は。無理ばっかりして……」
マシュタンは、るるかの真っ赤な頬を見つめながら、困ったように小さくため息をついた。
***
数時間が経過した。
「ん……」
るるかが、小さく呻いて目を覚ます。
「あら、起きたのね」
「マシュタン……?」
るるかの瞳は熱が出ているせいか、とろんと潤んでいた。
「起き上がれる? お粥作ったから、少しでも食べて」
るるかが重い身体をゆっくりと起こすと、マシュタンが湯気を立てるお粥の入ったお椀を持ってやって来た。
マシュタンは、今のるるかの体調を考え、小さなスプーンでお粥をすくった。
「フーフー。はい、あ~ん」
マシュタンが息を吹きかけて冷ましたお粥を、るるかの口元へと運ぶ。
「マシュタン。……恥ずかしい」
るるかは、少しだけ頬を染めて顔を背けようとする。
「病人が何言ってるの。はい、あ~ん」
いつも大人びているるるかの珍しい反応に、マシュタンは心配しながらも、実はお世話を少し楽しんでいた。
「……あ~ん」
るるかは大人しく口を開け、お粥をパクリと食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん。……美味しい」
「それは良かったわ。ちゃんと食べて早く元気にならないと。はい、あ~ん」
「あ~ん」
『もきゅもきゅ』と効果音が聞こえてきそうなほど、小動物のように可愛らしくお粥を咀嚼するるるか。
その姿を見て、マシュタンは心の中でクスリと笑った。
(こころちゃんがこんな所を見たら、大騒ぎでしょうね)
――こころ『あー! マシュタンだけズルい! 私も弱々しいお姉ちゃんに「あ~ん」ってしたい! 絶対可愛いもん!』
(駄々捏ねるのが目に見えるわね。心配しながらも、絶対にそんな事しそう)
元気だった頃のこころの姿を想像し、マシュタンの胸に温かさと切なさが入り混じる。
やがて、るるかはお粥を平らげた。
食後の薬と水を飲ませ、マシュタンはるるかを再びベッドに横たわらせた。
「さぁ、もう一眠りして。ゆっくり休んで、治さないとね」
マシュタンが布団をかけ直し、看病の片付けをしようとベッドから離れようとした、その時だった。
『ギュッ』
「……??」
マシュタンの小さな手が、るるかの手にしっかりと掴まれた。
「どうしたの、るるか?」
振り返ると、るるかのとろんとした目が、熱で潤んだままこちらを見つめていた。
「さみしい。……1人にしないで」
その声は、普段のクールなるるかからは想像もつかないほど、か弱く、甘えるような響きだった。
高熱と精神的な限界のせいで、彼女は幼児の頃に戻ってしまったかのようだった。
「マシュタン。一緒にいてよぉ……」
「もう、しょうがないわね」
マシュタンは優しく微笑み、そのままるるかの腕の中に潜り込むようにして、一緒にベッドの中に入った。
「ん……マシュタンは、気持ちいいね」
るるかは、マシュタンのふわふわとした温もりに顔をすり寄せ、ふにゃりと笑った。
「おやすみ、マシュタン……」
安心したのか、るるかはすぐに目を閉じ、深い寝息を立て始めた。
「スー、スー、スー……」
るるかの寝顔を見上げ、マシュタンはそっと彼女の腕から抜け出した。
「全く。あんな姿を見ると……やっぱりこころちゃんと姉妹だなって、改めて思うわね」
いつもはこころが甘えん坊で、るるかがしっかり者のお姉ちゃん。
でも、根本的な素直さや脆さは、二人ともそっくりなのだ。
マシュタンは、るるかの熱い頬を小さな手で優しく撫でた。
「きっと、トラウマが呼び起こされ始めたのと、無理を重ねたストレスでこんな事になったんでしょうね。この間も、あんな恐ろしい悪夢に魘されたばっかりだし」
正義から悪へと堕ちた罪悪感。
妹を救えなかった後悔。
るるかが一人で背負っている重圧は、計り知れない。
「るるか。辛いわよね。安心して、私は貴女の味方よ。早く良くなってね」
マシュタンは、すやすやと眠るるるかの額に、おまじないのようにキスを落とした。
そして、洗い物や洗濯物などの家事をこなすため、静かにベッドサイドを離れた。